はじめての調香 · 2
違いが分からないのは鼻のせいではない:希釈という最初の技術
· 5 分
原液のまま嗅いで「どれも強くて違いが分からない」と感じるのは、濃度が間違っているからです。なぜ希釈するのか、何%にするのか、最小限の道具で再現できる手順をまとめました。
前回は10本の香料を選びました。今回は、何かを混ぜる前にまず身につけてほしい技術、希釈の話です。
初学者がまずつまずくのは「違いが分からない」という感覚です。3本開けて嗅ぐと、どれも強く、刺さり、4本目には鼻が利かなくなる。そして「自分には向いていないのかもしれない」と結論を出してしまう。
才能を疑う前に、濃度を疑ってください。間違った濃度で嗅いでいるだけです。
原液は、処方の中での姿ではない
香料が処方の中で原液のまま使われることは、まずありません。一般的な香水の賦香率は 15〜25%、そのなかで単一の香料が占める割合は 0.5% ということも珍しくない。瓶の口で嗅いだそれと、完成品の中でその素材が果たしている仕事は、別のものです。
前回触れたジャスミンのインドールがまさにそうです。原液では糞便様、希釈してはじめて花になる。この種の変化は、香料ではごく普通に起きます。
- ムスクは原液ではほとんど無臭なのに、1% で全体の持続と丸みがはっきり変わります
- アルデヒド類は原液ではむせるほど刺激的です。私も最初に瓶の口で嗅いで咳き込みました。0.1% でようやくあの輝くような石鹸感が出ます
- パチュリはかび臭い土のような原液が、希釈すると清潔なウッディの土台に変わります
原液で嗅ぐと、その素材の最も素材らしくない状態を知ることになります。
濃度が100倍違えば、別の匂いになる
文字どおりの意味です。1988年、Gross-Isseroff と Lancet は Chemical Senses 誌でこれを直接測定しました。被験者に試料を2つずつ比較させ、質的に「似ている」か「違う」かだけを判断させます。試料には同一の匂い物質を異なる希釈度にしたものが含まれていました。
同一の匂い物質を同じ濃度で対にした場合、すべての被験者で 90% を超えて「似ている」と判断された。しかし同一の匂い物質を 100倍の濃度差で提示した場合、「似ている」との判断は場合によって 10%以下まで低下した。
**同じ瓶の中身を100倍に薄めると、知覚はそれを別の匂いとして扱います。**著者らは、これが視覚や聴覚ですでに知られている現象と類似していると述べています。
初心者に最も多い2つの戸惑いは、これで説明がつきます。
- 「この原料は知っているのに、処方の中で見つけられない」。嗅いだのは原液で、処方の中では 0.5% だからです。
- 「みんなフローラルと言うのに、自分には糞便臭に感じる」。同じ分子を、違う濃度で嗅いでいるだけです。
したがって「何%で嗅ぐか」は操作上の細部ではありません。どの匂いを嗅ぐことになるかを決めています。
何%にするか
唯一の正解はありませんが、実用的な出発点はあります。
| 濃度 | 用途 |
|---|---|
| 10% | 日常評価の既定値。多くの素材はここで処方中の役割に最も近くなる |
| 1% | 強い素材:インドール、アルデヒド類、一部のスパイス、アニマリック |
| 0.1% | 極端に強いもの:硫黄化合物やピラジン類など、一滴で全部が台無しになる |
| 30% | 弱く揮発の遅いもの:一部の樹脂やウッディ |
実務としては、全部を 10% で作り、強いものだけ 1% も作る。最初から4段すべてを用意する必要はありません。それは特定の素材を深く理解する段階になってからで十分です。
道具:思っているより少ない
必要なのはこれだけです。
- 電子天秤(0.01g)。ここだけは省けません
- ガラス小瓶 10ml。多いほどよい
- ムエット(試香紙)。コピー用紙で代用しないこと。紙そのものに匂いがあります
- 使い捨てスポイト
- ラベル
メスシリンダーは要りません。重量で測ってください。素材ごとに比重が違うため、体積で記録すると再現できなくなります。
再現できる手順
10% 溶液を 10g 作る場合:
1g 香料
9g エタノール
瓶を天秤に載せてゼロ点を取り、香料を 1.00g、そこにエタノールを足して 10.00g。振って、ラベルに素材名・濃度・日付を書く。
日付が重要です。柑橘系は酸化し、熟成で変わるものもある。3か月後に「これはいつ作ったものか」を知りたくなります。
嗅ぎ方にも技術がある
ムエットは浸さず、先を軽く触れる程度に。付けすぎると最初の数分が溶剤の匂いだけになります。
書き留めてください。それも具体的に。何に似ているか、何を思い出すか、乾いているか、甘いか、金属的か。語彙が貧しくても構いません。私の初期のノートも相当ひどいものでした。語彙は書くことでしか増えません。
疲れたらやめる。連続で嗅げるのは5〜6本が限度です。疲れた状態では何を嗅いでも同じに感じられ、素材を無駄にするうえに誤った記憶を作ってしまいます。自分の腕やコーヒー豆でリセットする人もいますが、効果には個人差があります。休憩だけは確実に効きます。
同じ素材を、時間を変えて嗅いでください。直後、10分後、1時間後、翌日。香料の全体像は、時間の中に広がる一本の曲線です。
よくある誤解
「希釈は節約のため」。よく聞く言い方ですが、目的は別にあります。希釈はその素材の本当の姿を嗅ぐためのもので、節約は結果としてついてくるだけです。
もし一つだけ実行するなら、これを。前回の10本をそれぞれ 10% で作り、一週間嗅ぎ、書き留める。この一週間が終わるころ、あなたの理解は「読むだけの人」を確実に超えています。
参考文献
R. Gross-Isseroff & D. Lancet, Concentration-dependent changes of perceived odor quality, Chemical Senses, 13(2), 191–204 (1988). doi:10.1093/chemse/13.2.191