はじめての調香 · 10
処方を滴数で書けない理由 — 秤量、百分率、そして毎回同じになる1%溶液
· 10 分
192本の薬用点眼瓶・32種の設計で、1滴の体積は0.024 mLから0.221 mLまで分布しました。同じ5 mL表示の瓶が111滴から209滴まで出ます。当社データの液体原料3,863件では比重が0.706から1.560——同じ体積で重量が2倍違います。処方を重量百分率で書く理由、天秤に必要な桁数、微量原料の扱い方を説明します。
ネット上の処方はこう書かれています。
ベルガモット5滴、ラベンダー3滴、パチュリ1滴
この処方は再現できません。他人はもちろん、あなた自身が来月同じ瓶で作っても、違うものができあがります。
1滴は単位ではない
2017年、Moore、Beck、Kryscio は BMC Ophthalmology 誌で徹底した測定を行いました。緑内障治療薬の点眼瓶を192本、32種類の瓶設計とメーカーにわたって試験し、自動計滴器で滴数を数え、精度0.0001 gの分析天秤による秤量から1滴の体積を求めています。
結果はこうです。
試験した製剤の推定滴サイズには有意なばらつきがあり、その範囲は 0.024 mLから0.221 mL であった。
24マイクロリットルから221マイクロリットル、9倍です。
より直感的な数字もあります。同じ5 mL表示の瓶から出た総滴数は111滴から209滴。同じ容量で、滴数が2倍近く違います。
これらが薬用の点眼瓶であることに注意してください。定量投与のために設計され、法規制を受け、専門メーカーが製造した容器です。実験器具店で買ったガラススポイトがそれより優れているはずがありません。
条件をすべて制御しても3.3%残る
では慎重にやればどうか。同じスポイト、同じ姿勢、ゆっくり落とす。
2005年、Sklubalová と Zatloukal は Pharmazie 誌で影響因子を系統的に測定しました。ゴム製とプラスチック製の滴下口を比較し、滴下口の設計、傾ける角度、滴下速度がいずれも滴体積に有意に影響すること、プラスチック製のほうが一貫性が高いことを見いだしています。
そして条件が明確に定義された最良の場合でも、結果はこうでした。
滴体積のばらつきは変動係数3.3%として表すことができた。
3.3%はあなたの精度の上限です。スポイトを垂直から45度傾けるだけで、気泡の発生によって滴体積は減少し、ばらつきは増大しました。
すべてを正しく行っても、1滴には3.3%の不確かさが残ります。そしてスポイトを替えるか、原料を替えるか、持つ角度が今日だけ少し違うか。それだけで誤差は十数%の領域へ戻ります。
しかも体積が同じでも重量は同じではない
ここまではすべて「同じ液体の、出てくる体積が動く」という話でした。より深い問題は、異なる原料は同じ体積でも重量が違うことです。それを記録している項目が比重で、データシート上には、読み方を知っておく価値のある数字があと四つ並んでいます。
当社データベースから、供給情報があり、比重の記録があり、外観が固体でないものを取り出すと、液体3,863件になります。
| 比重 | |
|---|---|
| 最小 | 0.706 |
| 第5百分位 | 0.823 |
| 中央値 | 0.941 |
| 第95百分位 | 1.134 |
| 最大 | 1.560 |
中央の90%で1.38倍、全範囲で2.21倍の幅があります。
比重0.82のアルデヒド1滴と比重1.18のエステル1滴では、重量が44%違います。仮に2滴の体積が完全に同じだとしても(前の節のとおり、同じにはなりませんが)です。
処方は比率で動きます。嗅覚閾値の回で述べたように、0.1%のものが30%のものを覆い隠すことがあります。1滴が処方全体の1%になりうる系で、40%の秤量誤差は小数点以下の問題ではありません。
データ整理の手順をひとつ申告します。 比重の生データ4,011件のうち、31件(0.8%)は明らかに出典側の数字の転記誤りです。例えば
0.88600 to 8.90000(正しくは0.890)、0.99200 to 0.09970(正しくは0.997)のように小数点が移動しています。除外しなければ最大値は9.0となり、全範囲は見かけ上7.8倍になります。上表は妥当な範囲である0.70〜1.60に限定して算出しました。また測定温度が統一されていません(多くは25 °C、872件が20 °C)。有機液体の密度は1度あたり約0.1%変化するため、上記の38%・121%という差に対しては無視できますが、記しておきます。
ついでに:比重そのものも範囲である
この3,863件の生の値は、すべて範囲で記録されています。例えば 0.85100 to 0.87000 @ 15.00 °C.。単一の数値である項目は1件もありません。
規格帯の幅は中央値0.0080、値の約0.85%にあたります。第90百分位は0.0400です。
ロット差を扱った前回の結論がここでも現れます。供給業者が渡すのは帯です。密度のような基本的な物理量ですら。
したがって、重量で、百分率で
結論は単純ですが、正しく行うにはいくつか要点があります。
処方は重量百分率(% w/w)で、合計100として書きます。体積百分率、滴数、「何部」は使いません。
ベルガモット油 35.0 %
ラベンダー油 20.0 %
リナロール 15.0 %
ジヒドロミルセノール 12.0 %
パチュリ油 8.0 %
Iso E Super 9.0 %
クマリン10%溶液 1.0 %
------
100.0 %
この書き方の利点はバッチサイズに依存しないことです。5 gでも500 gでも比率は変わらず、受け取った誰もが再現できます。
あわせて、実際に量れた重量を記録します。3.500 gを狙って3.512 gになったなら、3.512と書き、実測値から真の百分率を計算し直す。ここが最も飛ばされやすく、最も重要な手順です。処方の記録は、やろうとしたことではなく、やったことを残すものです。
天秤は何桁必要か
宣伝の数字ではなく、必要から導いてください。
まず2つを区別します。可読性(表示される最小単位)と精度は別物です。天秤の繰り返し性はふつう最終桁の±1〜±2です。したがって0.001 gの天秤は、1回の読みにおよそ±0.002 gの不確かさを伴います。
ここから最小秤量が直接出ます。誤差を1%以内に収めたいなら、こうなります。
最小秤量 = 0.002 g ÷ 1% = 0.2 g
0.2 g未満は直接量らず、希釈します。
実務上は次のとおりです。
| 天秤 | 信頼できる最小秤量(誤差1%以内) | 用途 |
|---|---|---|
| 0.01 g(小数2桁) | 約2 g | 不足。 10 gの処方で1%の成分は0.1 gであり、これでは量れません |
| 0.001 g(小数3桁) | 約0.2 g | 最初に選ぶべきもの。 希釈と組み合わせればほぼ全用途を覆えます |
| 0.0001 g(小数4桁) | 約0.02 g | 必要になってから。Moore らの研究が使ったのはこの等級です |
小数3桁の天秤と規律ある希釈の組み合わせは、小数4桁の天秤で微量を直接量るやり方に勝ります。はるかに安く、間違えにくいからです。
毎回同じになる1%溶液の作り方
規則はひとつ。原料も溶剤も重量で量る。体積は使いません。
DPGまたは95%エタノールでリナロールの10%溶液を作る場合:
- 空瓶を天秤に載せ、風袋引き(ゼロ)。
- リナロールを量り入れ、実測値を記録する。例えば1.024 g。
- 溶剤を総重量10.240 g(原料重量の10倍)まで量り入れ、実測値を記録する。
- ラベル:
リナロール 10.0% w/w in DPG|1.024 g + 9.216 g|2026-10-10|ロットABC
手順4の各項目には役割があります。濃度は処方計算に使う。実測重量は、後で誤りを追うときの手がかりです。日付は作り直しの判断のため。ロット番号は前回のロット差の話につながります。
w/w にこだわる理由は、処方が重量で書かれているからです。体積基準の溶液を重量基準の処方に入れると途中で密度換算が必要になり、そこがまさに前述の2.21倍が牙をむく場所です。最初から最後まで質量で通せば、換算は発生しません。
微量原料の扱い
0.01%以下で使う原料があります。嗅覚閾値の回で扱ったものです。10 gの処方で0.01%は1ミリグラム。小数3桁の天秤では「0.001 g」、最終桁が揺れているだけの表示です。正確であるはずがありません。
答えは連続希釈で、天秤が得意な範囲で働かせ続けることです。
原液 → 10%溶液 → 1%溶液 → 0.1%溶液
10 gの処方に原液0.01%(1 mg)を入れたいなら、代わりに0.1%溶液を1.0 g加えます。その中に1 mgが含まれています。1.0 gは小数3桁の天秤にとって余裕のある領域で、誤差は0.2%です。
注意が3つ。
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溶剤は処方の枠を食う。その1.0 gの溶液のうち0.999 gはDPGです。10 gの処方では10%を占めるので、総量に数え入れます。ここは初心者に典型的な失敗で、私も一度やりました。希釈液を次々入れていったら、処方の3割が溶剤になっていたのです。
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希釈液は劣化する。だから日付を書く。エタノールのものはDPGのものより寿命が短く、アルデヒド入りはさらに短い。
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希釈の目的は精度で、節約は副産物にすぎない。希釈液はあなたの測定器だと考えてください。
滴数は台所の単位、百分率は処方の単位です。 切り替えた日が、あなたの処方が初めて再現可能・修正可能・スケール可能になる日です。それまでは一回限りの実験をしているだけです。
参考文献
D. B. Moore, J. Beck & R. J. Kryscio, An objective assessment of the variability in number of drops per bottle of glaucoma medication, BMC Ophthalmology, 17, 78 (2017). PMID 28532424
Z. Sklubalová & Z. Zatloukal, Systematic study of factors affecting eye drop size and dosing variability, Pharmazie, 60(12), 917–921 (2005). PMID 16398268
次回は溶剤について。DPG、エタノール、IPM、TECがそれぞれ何に向くのか、なぜ溶剤は「無臭の背景」ではないのか、そしてそれが嗅ぎ取る揮発曲線をどう変えるのかを扱います。