はじめての調香 · 45
桃に何が入っているかと、桃を作るのに何が要るかは、別々のリストだ
· 17 分
r/DIYfragranceで初心者が桃の作り方を尋ねた。最上位の回答はリストと機構を一緒に出している。C14が最も重要で、フルーツの和音にはたいていグリーンの材料が要る、と。どちらも確かめられる。データベースには天然での存在欄に「桃果実」と書かれた材料が160本あり、供給元数で並べると上位25本のうち7本がラクトンだった。資料の果実系処方122件では61%がグリーンの材料を含み、全体の基準は37%。ただし同じ数字が反転も一つ出した。リナロールは天然の出典が558件あり全データベースで3番目に普遍的な分子なのに、果実系処方での出現率は基準の0.81倍で平均を下回る。もう一つ、2020年の論文は桃の特徴的な香りに最も寄与するのはγ-デカラクトンだと書いている。香水が使うのはγ-ウンデカラクトンのほうだ。
r/DIYfragranceに、定義のはっきりした質問が投稿された。
「初心者で、調香における桃について何も知りません。買える和音はありますが、どうすれば桃を強められるのか、桃の風味をどう扱えばいいのか。」
「たとえばフレッシュな桃の香水を作りたいとき、知っておくべき典型的で最も重要な材料は何でしょうか。フレッシュな桃は甘い桃とは少し違うので」
最上位(10ポイント)の回答はリストと機構を両方出している。
「**C14が桃には最も重要。**Gamma undecalactoneが、見かけるもう一つの名前。Gamma decalactoneとveloutoneも似ていて重要」
「**フルーツは全般に写実的にするのが難しい。たいていの場合グリーンの材料が要る。cis-3-hexenol、triplal、hexyl acetateなど。そしてC6は効きどころの大きいアルデヒドで、脂っぽい匂いがするが、ほぼすべての果物に入っている。**リナロールも多くの果物に入っている」(AdministrativePool2)
この回答には確かめられる主張が四つあり、データベースと資料の両方がちょうど答えられる。前回のレザーの回では処方が9件しかなくて白紙を出したが、今回は果実系が122件あるので、本当にやれる。
結論から
- 「フルーツの和音にはグリーンの材料が要る」は成立。果実系処方122件のうち74件(61%)がグリーンの材料を含む。全体の基準は37%。1.65倍。
- 「C14が桃には最も重要」は処方の水準で成立。γ-ウンデカラクトンは果実系処方の34.4%に登場、基準は11.7%で2.93倍。ラクトン全体では45.9%対20.0%、2.29倍。
- 「リナロールは多くの果物に」は自然界では成立し、処方では逆になる。リナロールの天然の出典は558件、全データベースで3番目に普遍的な分子だ。ところが果実系処方での出現率は28.7%、全体の基準は35.4%。0.81倍で平均を下回る。
- **「C6はほぼすべての果物に」は半分正しい。ヘキサナールの天然の出典は107件、うち22件が果物。ただし果実系処方での登場は1.6%、基準1.4%で1.20倍、富化はほぼない。**自然界では普遍的で、処方にはほとんど書かれない。
- データベースには天然での存在欄に「桃果実」と書かれた材料が160本あり、供給元数で並べると上位25本に7本のラクトンが入る。
- そして2020年の論文は、桃の特徴的な香りに最も寄与するのはγ-デカラクトンであって、香水が使うγ-ウンデカラクトンではないと書いている。どちらも正しく、領域が違うだけだ。
桃に入っているもの:160本
データベースで天然での存在欄に「peach fruit」を含む材料を全部引くと160本ある。うち41本は供給元が50社以上(買える)、12本は0社(買えない)。
供給元数の上位15本。
| 材料 | 供給元 | 天然の出典数 | 香調欄 |
|---|---|---|---|
| リナロール | 135 | 558 | シトラス、フローラル、甘い、ローズウッド、ウッディ |
| ベンジルアルコール | 125 | 82 | フローラル、ローズ、フェノリック、バルサミック、甘い |
| γ-ウンデカラクトン(いわゆるアルデヒドC-14) | 119 | 10 | フルーティ、ピーチ、クリーミー、ファッティ、ラクトニック、アプリコット |
| 酢酸リナリル | 117 | 143 | 甘い、グリーン、シトラス、ベルガモット、ラベンダー |
| γ-デカラクトン | 111 | 21 | フレッシュ、オイリー、ワクシー、ピーチ、ココナッツ、バタリー |
| フェネチルアルコール | 110 | 90 | フローラル、ローズ、甘い |
| ベンズアルデヒド | 108 | 126 | シャープ、甘い、苦い、アーモンド、チェリー |
| 酢酸エチル | 105 | 35 | エーテル的、フルーティ、甘い、グリーン、グレープ |
| δ-デカラクトン | 104 | 25 | フレッシュ、甘い、オイリー、ココナッツ、フルーティ、ピーチ |
| 酢酸cis-3-ヘキセニル | 103 | 32 | フレッシュ、グリーン、甘い、フルーティ、バナナ、アップル |
| α-テルピネオール | 103 | 490 | パイン、テルペン的、ライラック、シトラス、ウッディ |
| 酢酸ベンジル | 100 | 37 | 甘い、フローラル、フルーティ、ジャスミン |
| オイゲノール | 97 | 199 | 甘い、スパイシー、クローブ、ウッディ、フェノリック |
| γ-ノナラクトン(アルデヒドC-18) | 96 | 23 | ココナッツ、クリーミー、ワクシー、甘い |
| δ-ドデカラクトン | 92 | 16 | フレッシュ、甘い、金属的、ピーチ、オイリー、ココナッツ |
**この表で最も注目すべきは順位だ。**桃の中で供給元が最も多い分子はリナロールとベンジルアルコールで、どちらも桃の匂いはしない。実際に桃の匂いがする最初の一本は3位に来る。
**そして上位25本のうち7本がラクトンだ。**γ-ウンデカラクトン、γ-デカラクトン、δ-デカラクトン、γ-ノナラクトン、δ-ドデカラクトン、γ-オクタラクトン、γ-ドデカラクトン。
**桃は一つの分子ではなく、ラクトンの一族だ。**これがあの掲示板のリストの背後にある構造で、回答者はそのうち二本しか挙げていない。
ついでに:C-14はアルデヒドではない
データベースがγ-ウンデカラクトンに与えている正式な名称はこうだ。
gamma-undecalactone(aldehyde C-14 (so-called))
この**「so-called(いわゆる)」はデータベース自身が付けている。**
C-14という名前は歴史的な遺物だ。炭素14個のアルデヒドではなく、炭素11個のラクトンである。回答者は「Gamma undecalactoneが、見かけるもう一つの名前」と書いたが、方向は合っていて関係が逆になっている。γ-ウンデカラクトンが名前で、C-14が誤称のほうだ。
これは初心者に実害がある。「アルデヒドC-14」として理解すると、アルデヒドC-10(デカナール)やC-12(ラウリンアルデヒド)と同類だと思ってしまう。あちらは本物のアルデヒドだ。化学も揮発性も使い方も違う。
検証一:グリーンの材料
これがあの回答で最も面白い主張だ。リストではなく機構だからだ。
資料でタイトルにfruit/apple/peach/pear/berry/melon/apricot/plum/cherry/banana/pineapple/mangoを含む処方を抜くと122件。グリーンの材料の照合には、cis-3-hexenolと各種ヘキセノール、triplal、hexyl acetate、ヘキセニルエステル類、ガルバナム、バイオレットリーフ、stemone、liffaromeを使った。
| グリーンの材料を含む割合 | |
|---|---|
| 果実系処方(122件) | 74件 = 61% |
| 全資料(954件) | 357件 = 37% |
| 1.65倍 |
**成立。**しかもこれは9件ではなく122件の上に立っている。
比の値そのものより実務的に有用なのは、この結果の読み方のほうだ。**果実系処方の6割にグリーンの材料があり、4割にはない。**グリーンの材料は果実の必要条件ではなく、非常によくある選択肢だ。回答者の「たいていの場合は要る」という言い方は、ちょうどよく置かれている。
検証二:ラクトン
| 材料 | 果実系処方 | 全体の基準 | 比 |
|---|---|---|---|
| γ-ウンデカラクトン | 34.4% | 11.7% | 2.93× |
| ラクトン全体 | 45.9% | 20.0% | 2.29× |
| 酢酸ヘキシル | 16.4% | 5.7% | 2.90× |
| γ-デカラクトン | 12.3% | 4.9% | 2.50× |
| cis-3-ヘキセノール | 17.2% | 10.5% | 1.64× |
| β-イオノン | 12.3% | 11.8% | 1.04× |
**γ-ウンデカラクトンが2.93倍、ラクトン一族全体で2.29倍。**回答者の「C14が最も重要」は処方の水準で持ちこたえる。
酢酸ヘキシルの2.90倍にも注目したい。これもあの回答のグリーン材料リストに入っていて、富化の度合いはγ-ウンデカラクトンと並ぶ。あの回答が挙げた二種類の材料に、資料はどちらも同意している。
一方でβ-イオノンは1.04倍で、富化がない。あのリストで資料に支持されなかった唯一の一本だ。これを根拠に役に立たないと言うつもりはない(特定の果実方向で使われていて、十数種の果実が混ざった122件では薄まった可能性がある)。ただ他の数本との差は明確だ。
反転:リナロール
今回いちばん書く価値のある欄がこれになる。
回答者は「リナロールも多くの果物に入っている」と書いた。これが驚くほど正しい。
データベースで天然の出典数が最も多い10本。
| 材料 | 天然の出典数 | 供給元 |
|---|---|---|
| α-ピネン | 619 | 57 |
| リモネン(dipentene) | 595 | 37 |
| リナロール | 558 | 135 |
| ミルセン | 525 | 56 |
| β-ピネン | 519 | 44 |
| β-カリオフィレン | 508 | 61 |
| p-シメン | 503 | 57 |
| α-テルピネオール | 490 | 103 |
| 4-カルボメンテノール | 423 | 49 |
| γ-テルピネン | 413 | 61 |
**リナロールは全データベースで3番目に普遍的な分子で、天然の出典は558件。**回答者の直感は完全に正しい。
ところが果実系処方での出現率は28.7%、全体の基準は35.4%。0.81倍で平均を下回る。
言い換えると、桃にはリナロールが入っているが、桃を作る人は一般的な処方より少なくリナロールを使う。
矛盾ではなく、別の二つの話だ。そして「最も普遍的な分子」の表を見れば理由が分かる。上位10本のうち9本がテルペン類だ。α-ピネン、リモネン、ミルセン、β-ピネン、p-シメン。**自然界に遍在していて、そのどれ一つとして特定の果物の匂いがしない。**植物の背景値なのだ。
自然界で普遍的であることと、何かを代表できることは、別の軸になる。
C6も同じ話
回答者はC6が「ほぼすべての果物に入っている」と書いた。
ヘキサナール(アルデヒドC-6、CAS 66-25-1)の天然での存在欄には107件の出典があり、うち22件が果物類(21%)。備考欄には「多くの食品の成分。植物成分が好気的な酵素変換を受けた産物」とある。
**だから「ほぼすべての果物」はやや誇張だが、方向は合っている。**確かに広く存在し、しかもその存在には機構がある。
ところが処方では、**果実系1.6%、基準1.4%、1.20倍。**富化はほぼない。
**果物には普遍的にあり、果物のための処方にはほとんど入れられない。**リナロールと同じパターンで、もっと極端になっているだけだ。今回の原料図鑑はヘキサナールを扱い、なぜ飛ばされるのかを見る。
論文が言っているのは別のラクトン
ここまでの処方水準の結論は「γ-ウンデカラクトンが最も重要」だ。ただし本物の桃について聞いているなら、答えは違う。
**2020年、Pengらが『Plant Physiology』**に発表した研究は冒頭でこう書いている。
「桃(Prunus persica)果実の多くの揮発物のうち、γ-デカラクトンが桃の特徴的な香りに最も大きく寄与する。」
彼らが研究したのはもっと具体的なことだ。桃の品種のなかには、γ-デカラクトンの含量が検出できないほど低いものがある。
高香気品種「豊花玉露」と低香気品種「阿虫桃」のトランスクリプトームとメタボロームを比較し、アルコールアシルトランスフェラーゼ(PpAAT1)のアミノ酸置換が後者でγ-デカラクトンが検出されない原因だと示した。モデリングと分子ドッキング解析、大腸菌で異種発現・精製したPpAAT1のin vitro酵素アッセイ、そしてベンサミアナタバコと油脂酵母 Yarrowia lipolytica を用いたin vivoアッセイの結果、高香気品種のPpAAT1のほうが、4-ヒドロキシデカノイル補酵素Aをγ-デカラクトンに変換する反応で効率が高かった。
つまり「桃の匂い」は一つの酵素に依存していて、本当にそれを持たない桃がある。
これは質問者の問いに直接効く。彼は「フレッシュな桃は甘い桃とは少し違う」と書いていた。その差の一部は品種と熟度の差であり、品種の差は一つの遺伝子まで辿れる。
そして2022年のLiuらの論文は二種類の材料を結びつける。冷蔵下の桃に対する気調貯蔵の影響を調べ、こう測定している。
「消費者の受容性と正の相関を示した揮発物は計14種で、主に3つのC6化合物、3つのエステル、4つのラクトンであり、いずれも脂肪酸のリポキシゲナーゼ(LOX)経路に由来する。」
C6が3つ、エステルが3つ、ラクトンが4つ、しかも同じ代謝経路の産物だ。
この論文はあの掲示板の回答の両方を支持している。ラクトンが重要で、C6も重要。**そしてあの回答が言わなかったものを一つ足している。両者は無関係な二種類ではなく、同じLOX経路の産物だ。**グリーンの材料と果実のラクトンは、植物の中では親戚になる。
二本の論文の限界を明記する。測っているのは本物の桃であり、果物に対する消費者の受容性であって、香水ではない。「この14種の揮発物が桃を食べる受容性と正の相関を持つ」から「あなたの処方にこれらを入れるべきだ」までには、私が渡れない距離がある。立てているのは「桃においてどの分子が重要か」であって「桃の香水においてどの分子が重要か」ではない。そしてこの記事全体の主題が、まさにその二つが違うということだ。
今回気づいたこと
書くつもりだったのは検証記事だった。四つの主張をデータに当てて、どれが成立するかを見る。最初の二つはきれいに成立し、三つ目(リナロール)で反転した。
最初それを「回答者が間違えた」と受け取った。**読み直して、間違えていないと分かった。彼が書いたのは「リナロールは多くの果物に入っている」であって、果物についての陳述であり、処方についての陳述ではない。**処方の助言として読んだのは私のほうだった。
そして修正したあと、その欄が記事で最も有用な部分になった。掲示板での材料の議論は「この分子は自然界で」と「この分子は処方で」のあいだを行き来していて、その二つの答えは逆になりうる。
前回は「質問者がついでに書いた一文に答えがある」を学んだ。今回学んだのは別のことだ。主張を検証する前に、それがどちらの領域の話なのかを先に確かめる。
実際にどうするか
- **桃はラクトン一族から入る。単一の分子ではない。**γ-ウンデカラクトン、γ-デカラクトン、δ-デカラクトン、γ-ノナラクトンの一組は、どれも供給元96社以上で入手は難しくない。
- **「フレッシュ」と「甘い」の差は、グリーンの材料の側で探す。**果実系処方の6割にグリーンの材料があり、グリーンこそが「フレッシュ」の端だ。
- **グリーンの材料と果実のラクトンは同じLOX経路から来る。**処方の技法というだけでなく、植物がそうしている。
- **ある分子が果物に入っているからという理由で入れない。**リナロールは天然の出典が558件あるのに、果実系処方では基準を下回る。普遍的であることは代表性ではない。
- **C-14はアルデヒドではない。**γ-ウンデカラクトンであり、データベース自身が名前のあとに「いわゆる」と付けている。
- **買えないものは追わない。**桃の材料160本のうち12本は供給元0社だ。
この記事が示していないこと
- 果実系処方122件は十数種の果物を混ぜている(りんご、梨、ベリー、メロン、あんず、すもも、さくらんぼ、バナナ、パイナップル、マンゴー)。すべての比は「果実系全体」対「全資料」であって、「桃」対「全資料」ではない。桃だけの処方は数が少なすぎて、単独では分析していない。
- **グリーンの材料の照合リストは私が決めたものだ。**cis-3-hexenol類、triplal、hexyl acetate、ヘキセニルエステル、ガルバナム、バイオレットリーフ、stemone、liffaromeを挙げた。リストを変えれば61%は変わる。
- **「天然での存在欄」は定量的ではない。**160本に「桃果実」があることは、桃の中での含量が比較可能であることを意味しない。濃度が併記されているものは少数だ。
- **供給元数は重要性ではない。**並べ替えに使ったのは「買えるかどうか」を表すからで、桃の中での役割を表すからではない。
- **β-イオノンの1.04倍は追っていない。**特定の果実方向(ベリー、桃)で働いていて、122件の混合で薄まった可能性がある。この欄に結論はない。
- **二本の論文はどちらも本物の桃を測っており、香水ではない。**果実の中でどの分子が重要か、そしてその遺伝的・代謝的機構を立てている。処方への推論はすべて私がしたもので、論文がしたのではない。
- **Peng 2020が比較したのは中国の二栽培品種だ。**PpAAT1のアミノ酸置換を、低香気の桃すべての原因に一般化することはできない。