はじめての調香 · 4
最初の処方は3種類だけで — これは初心者の制約ではありません
· 7 分
10種類の原料から作れる3種の組み合わせは120通り。しかし、そのどれも嗅ぎ分けることはできません。1989年と1996年の研究によれば、人が混合物の中で識別できる成分は3〜4種類が限界で、訓練によってその上限は上がりません。プロの調香師も同じです。
匂い閾値の回のあと、いちばん多くいただく質問はいつも同じです。「原料を10種類そろえました。最初の処方には何種類入れればいいですか」
3種類です。理由は「初心者はまず簡単なものから」ではありません。それ以上は嗅ぎ分けられないからです。プロの調香師でも同じです。
研究が示していること
1989年、Laing と Francis は123名の被験者に、1〜5種類の匂い物質からなる混合物を嗅がせ、その成分を答えてもらいました。結果は、単一の匂いのときに識別率が最も高く、混合すると成分を正しく言い当てられた人はほとんどいませんでした。
解釈は二通りあります。ひとつは、同時に複数の匂いを処理する能力に限界があるということ。もうひとつは、混ざった匂いがそもそも「新しい匂い」になってしまい、元の成分の特徴をほとんど残さないということ。調香の実務にとっては、どちらでも意味は同じです。
答え合わせは7年後に来ます。1996年、Livermore と Laing は「この限界は単に課題に不慣れなだけではないのか」を確かめるため、2つのパネルを比較しました。
- 訓練を受けた官能評価パネル(女性10名、23〜43歳)
- もう一方は現役の職業調香師とフレーバリスト(男性8名、25〜55歳)
空気希釈式オルファクトメーターで最大5成分の混合物を提示した結果は次のとおりです。
どちらのパネルも、複雑な混合物のうち識別・弁別できたのは 3〜4成分にとどまり、この能力は訓練によって高めることができなかった。
著者らは、この上限は生理学的な、あるいは情報処理上の制約によるものだろうと結論づけています。
この壁に当たるのはごく普通のことです。人間の嗅覚の天井であって、練習量とは関係がありません。誰がやっても同じところで止まります。
最初の処方にとっての意味
組み合わせの数を並べてみます。
| 2種の組み合わせ | 3種の組み合わせ | |
|---|---|---|
| 原料10種類 | 45通り | 120通り |
| 原料3種類 | 3通り | 1通り |
最初から10種類すべてを入れると、手元に残るのは「分析できない一本」です。いい香りかもしれません。でも再現できる知識は何も得られません。どれが効いているのか分からないからです。
3種類なら総当たりができます。A+B、A+C、B+C、A+B+C の4通りをすべて作り、それぞれ3日かけて嗅ぐ。4本終えたとき、その3種類の相互作用が本当に理解できていて、その理解は次の組にも持ち越せます。
「3種類のほうが10種類より学べる」とはそういう意味です。3種類なら変化を原料まで遡れます。10種類では、効いている3種類がどれなのかさえ闇の中です。
その3種類をどう選ぶか
ここはデータで考えられます。当社が整理した原料データには推奨される組み合わせの情報があり、そのうち主香調分類に対応づけられた398,300組を見ると——
| 割合 | |
|---|---|
| 同じ香調ファミリー内 | 29.1% |
| ファミリーをまたぐ | 70.9% |
7割がファミリーをまたぐ組み合わせです。柑橘を3つ選んで合わせても、できるのはオレンジジュースです。異なるファミリーから選んで初めて、「アコード」がどう成立するのかが見えてきます。
頻度の高いファミリー間の組み合わせは次のとおりです。
| 組み合わせ | 件数 |
|---|---|
| フルーティ × フローラル | 10,587 |
| ハーバル × フローラル | 9,882 |
| グリーン × フローラル | 8,919 |
| フローラル × シトラス | 7,565 |
| フローラル × バルサム | 6,596 |
| ウッディ × バルサム | 6,423 |
上位6組のうち5組にフローラルが入っています。これには理由があって、フローラルの原料は処方の中で「接続点」として働くことが多いからです。揮発の速いシトラスやグリーンと、長く残るウッディやバルサムをつなぐ位置に立ちます。
そこで実用的な出発点はこうなります。中心にフローラルを1つ、それより軽いものを1つ、重いものを1つ。 第1回で挙げた10種類なら、たとえば——
- ローズを中心に据える(フローラル)
- その上にベルガモット(シトラス、より軽い)
- 下を支えるのはシダーウッド(ウッディ、より重い)
この組み合わせは上の表の「フローラル × シトラス」と「ウッディ × フローラル」に対応します。どちらも高頻度の組み合わせです。
具体的な手順
前回作った10%の希釈液を使います。
- 等量:各1 mL。これが基準になるので、まずこの一本を嗅いでください。
- 1つずつ倍に:3本作り、それぞれ1種類だけ2 mLへ。どれかの声が大きくなったとき全体がどう動くか、ここでいちばんよく見えます。
- 1つずつ半分に:さらに3本、それぞれ1種類だけ0.5 mLに落とします。
計7本。それぞれムエットに付けて、直後・10分後・翌日に嗅ぎ、記録します。私はムエットの端に時刻を書き込むことにしています。翌日になると、どれがどれだか本当に分からなくなるからです。
この7本を終えるころには、どれが主導しているか、どれが特定の比率でしか顔を出さないか、どれを抜くと全体が崩れるかが見えています。複雑な一本を作るより、はるかに多くのことが手元に残ります。
よくある反論
「でも市販の香水は数十から数百種類の原料でできています。あれも嗅ぎ分けられないのでは?」
そのとおりで、それが要点です。商業処方に入っている原料の大半は、全体を成立させるための裏方です。角を丸め、揮発曲線の隙間を埋め、安価な合成原料が痩せて聞こえないようにする。嗅ぎ分けてもらうことを想定していない、構造の仕事です。
ただし、丸める対象があるためには、まず表現できていなければなりません。だから3種類から始めます。
参考文献
いずれも PubMed で確認できます。
D. G. Laing & G. W. Francis, The capacity of humans to identify odors in mixtures, Physiology & Behavior, 46(5), 809–814 (1989). PMID 2628992
A. Livermore & D. G. Laing, Influence of training and experience on the perception of multicomponent odor mixtures, Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 22(2), 267–277 (1996). PMID 8934843
次回は揮発曲線について。「トップ・ミドル・ベース」が3つの段階ではない理由と、残香時間の数値を使って途中で途切れない曲線を組む方法を扱います。