原料図鑑 · 90
原料図鑑:DPG(ジプロピレングリコール)——資料に445回出てくる一本、そして香料ではない
· 11 分
CAS 25265-71-8。供給元37社。このシリーズは第84篇でTECを書いた。これはその相手方になる。公開処方954件で、DPGは独立項目として445回、TECは5回しか出てこない。公開処方の既定の希釈剤はこちらだ。logPは−0.60(TECは0.10)、水と完全に混和するので、TECとの分担は極性で決まる。親水的なものはDPG、親油的な樹脂やコンクリートはTEC。強度欄は「なし」だが、香りの記述欄は「わずかにアルコール的」と書く。残香欄は400時間を与えていて、これは希釈剤だ。備考欄は一文だけ。非常に良い香料の希釈剤かつクエンチャー、ただし合成品である。
**短く言うと:**手元の「10%希釈液」の九割はこれだ。TECとの分担は優劣ではなく、極性になる。
欄(TECとの対照)
| 欄 | DPG | TEC |
|---|---|---|
| CAS | 25265-71-8 | 77-93-0 |
| 分子式 | C6H14O3、分子量134.18 | C12H20O7、分子量276.29 |
| データベース上の分類 | 香料・フレーバーの溶剤/希釈剤 | 同じ |
| logP | −0.60(推定) | 0.10(推定) |
| 比重 | 1.019–1.021 @ 25 °C | 1.135–1.139 @ 25 °C |
| 沸点 | 230–231 °C @ 760 mmHg | 127 °C @ 1 mmHg |
| 引火点 | 118.33 °C | 118.33 °C |
| 水溶解度 | 1.00E+06 mg/L @ 25 °C(実測)=混和 | 65,000 mg/L |
| 蒸気圧 | 0.0319 mmHg @ 25 °C | 0.000175 mmHg @ 25 °C |
| 香りの強度 | なし | なし |
| 香りの記述 | 100%で:わずかにアルコール的 | 100%で:無臭から穏やかなフルーティ、ワイン様 |
| 残香 | 400時間 | 216時間 |
| 保存期間 | 24か月 | 24か月 |
| 供給元 | 37社 | 54社 |
| 天然での存在 | 自然界では見つかっていない | キャベツ、白ワイン |
| GHS | H302 飲み込むと有害(これ一行のみ) | H332 吸入すると有害 |
| 経口毒性 | ラットLD50 14,850 mg/kg | ラットLD50 5,900 mg/kg |
| 経皮毒性 | ウサギLD50 > 20 mL/kg | ウサギLD50 > 5,000 mg/kg |
資料はこれを既定値だと言っている
公開処方954件で、独立項目として書かれた溶剤。
| 溶剤 | 登場回数 |
|---|---|
| DPG | 445 |
| 安息香酸ベンジル | 44 |
| TEC | 5 |
| IPM(ミリスチン酸イソプロピル) | 4 |
| DPG(別表記) | 2 |
| プロピレングリコール | 1 |
| エタノール | 1 |
| フタル酸ジエチル | 1 |
DPGはTECの89倍になる。
TECの使用が少ないという意味ではなく、公開処方の書き手がDPGを既定にしているという意味だ。このシリーズは第84篇でTECを書いたときに同じことを言っている。TECが出てくるのは、その材料がTECでなければならないときになる。
ついでに、資料の17481の材料項目のうち2179項(12.5%)は名前に百分率が入っている。つまり希釈液として書き込まれている。**8項目に1項目が希釈液で、その溶剤が何かは大半が記録されていない。**処方に「indole 10%」とあるとき、その10%の残り九割が何かを、処方はたいてい書かない。
TECとの分担は極性で決まる
logP −0.60 対 0.10。
この0.7の差は大きく聞こえないが、対数尺度であり、しかも両方とも「油にも水にもほとんど偏らない」狭い帯に入っている。違いは、DPGがわずかに水寄り、TECがわずかに油寄りという点になる。
実務上の分担。
| 溶かしたいもの | どちらか | 理由 |
|---|---|---|
| 一般的な単体香料 | DPG | 安く、既定で、みんなの処方がそう書いている |
| 樹脂、コンクリート、アブソリュート(オリスバター、安息香、オリバナムレジノイド) | TECか安息香酸ベンジル | 親油的な大きい分子で、DPGでは動かない |
| 含水系に入れるもの | DPG | 水と混和する(TECは100mLあたり6.5g) |
**水溶解度の欄が最も明快な証拠になる。DPGの実測値は1.00E+06 mg/L、1リットルあたり100万ミリグラムで、これは「混和」の別の書き方だ。**TECは65,000 mg/Lで、高いが上限がある。
このシリーズは第39篇で関連する誤解を扱った。「TECに10%」のオリスバターを受け取った人が、粘度が高すぎるのでTECが粘いのかと思った件だ。粘いのはオリスバター(融点40–46 °C)で、それがDPGではなくTECを使う理由こそ、親油的なコンクリートだからになる。
「強度:なし」でも香りの記述は無ではない
TECと同じく、この欄は慎重に読む。
強度欄は none と書き、香りの記述欄(Luebke, tgsc, 1981)はこう書く。
100%で:わずかにアルコール的(slight alcoholic)
**「わずかに」は「無」ではない。**10%の希釈液で嗅いでいるものの九割はこれなので、そのわずかなアルコール感は評価のたびに背景にいる。溶剤だけのブランクのムエットを一枚用意するのには理由がある。
そして残香欄は 400時間 を与えている。溶剤に分類されたものに、データベースは16日の残香値を与えていることになる。TECは216時間だ。この二つの数字がどう測られたのかは、どちらも分からない(強度が「なし」のものの残香をどう測るのか)。このシリーズは第84篇で同じ問題をすでに記録している。数字はあるが、方法がない。
ただし蒸気圧の欄には一貫した信号がある。DPGの0.0319 mmHgはTECの0.000175 mmHgより約180倍高く、つまりDPGのほうが速く飛ぶはずなのに、残香値はより高い。この二つは噛み合わない。記録して、説明はしない。
備考欄のあの一文
データベースの備考欄は一文だけになっている。
「非常に良い香料の希釈剤かつクエンチャー。ただし合成品である。」(Very good fragrance diluent and quencher. But it is synthetic.)
**「クエンチャー」(quencher)**という語は立ち止まる価値がある。鋭すぎたり刺激的すぎたりする香調を抑える働きを指していて、単に濃度を下げるのではなく、修飾の効果があるという意味になる。この欄にデータベースは数量化を与えておらず、出所も見つからないので、そう書かれていることを記録するにとどめる。
そして「ただし合成品である」という転換が、この記録の立場を漏らしている。自然界では見つかっていない工業製品であり、天然香水の文脈ではそれが問題になる。植物油やホホバ油のような天然の希釈剤が一部の界隈で好まれるのもこのためだ。溶解が優れているからではなく(むしろ劣る)、そのラベルのためになる。
安全性
DPGのGHSは一行だけ。H302 飲み込むと有害。
そして経口毒性はラットLD50 14,850 mg/kg、別の記録では15,000 mg/kg。文脈に置くと、TECは5,900、グアイアコールは621、イソブチルキノリンは1,020になる。DPGはこのシリーズが扱った材料のなかで最も毒性が低い一本だ。
経皮毒性はウサギLD50 > 20 mL/kg、つまり1kgあたり20ミリリットルまで測っても致死に至らなかった。
化粧品用途の欄は四項を挙げている。香料、調香剤、溶剤、粘度調整剤。CosIngに記録があり、化粧品では通常の成分になる。
**実務上の注意は換気と、飲まないことだけで、後者の閾値は非常に高い。**これはTECのH332(吸入すると有害)とは違う。あちらは「狭い部屋で大量に希釈しスプレーで試す」状況に向けて書かれていて、DPGにはその一行がない。
あの「合成」のラベル
天然での存在欄は not found in nature と書いている。
この欄はTECと対照する価値がある。TECの天然での存在欄には「キャベツ;白ワイン」とある。どちらも工業的に合成される希釈剤だが、TECには天然での存在の記録があり、DPGにはない。
希釈剤としての性能には影響しないが、表示には影響する。「天然」を謳うものを作るなら、この欄が聞かれる場所になる。
使うかどうか
- **これが既定値だ。**資料は445対5で、公開処方の共通語はDPGになる。他人の処方と接続したいならこれを使う。
- **樹脂、コンクリート、アブソリュートにはTECか安息香酸ベンジル。**DPGは親油的な大きい分子に力が及ばない。
- **含水系に入れるならDPG。**水と混和する。
- **完全に無臭ではない。**評価時は溶剤だけのブランクを一枚残す。
- 毒性は極めて低い(経口ラットLD50 14,850 mg/kg)が、自然界では見つかっておらず、天然訴求の製品ではこの欄が聞かれる。
- **技術級で構わない。**記録には「グレード:技術級」しか挙がっていない。
この記事が示していないこと
- **残香400時間がどこから来たのか分からない。**強度が「なし」の材料の残香をどう測るのか、記録に説明がない。しかも蒸気圧はTECより180倍高いのに残香値はより高く、この二つは噛み合わない。
- **「クエンチャー」に数量化は一つもない。**備考欄がそう書いているだけで、出所は見つからず、実測もしていない。
- 資料のDPG 445回対TEC 5回が数えているのは「独立項目として書かれた」回数であって、実際の使用量ではない。希釈液の大半は「材料名+10%」の形で書かれ、溶剤は記録されていない。
- **引用した二本の論文はどちらもDPGについてのものではない。**共溶媒の枠組み(溶質の疎水性が可溶化の幅を決める)を立てるもので、同じ回のはじめての調香と共有している。DPG自体のPubMed文献は主に毒性学と労働衛生にあり、調香とは関係がない。
- **logPは推定値だ。**この記事のlogPはすべてデータベースの
(est)になる。 - **DPGとTECの実際の溶解性能を比較していない。**全体がデータベースの欄と資料の統計の上に立っている。