原料図鑑 · 92
原料図鑑:エチルマルトール——溶解度欄が珍しく四つの百分率をそのまま出している
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CAS 4940-11-8。供給元75社。データベースの分類は「風味増強剤、着香剤」で、香料ではない。この一本を書く価値があるのは、溶解度欄が全データベースでは珍しいことをしているからだ。数字をそのまま出している。アルコール12%、ベンジルアルコール10%、フェネチルアルコール5%、プロピレングリコール5.5%。近縁のマルトールでは同じ欄がプロピレングリコール2.8%、グリセリン1.2%で、アルコールの欄には数字がない。差は融点から来る。89から93 °C対159から162 °C。強度ランク3、5%以下での評価が推奨、残香360時間(ベンジルアルコール中20%)、そして自然界では見つかっていない。
**短く言うと:**自然界に存在せず、甘味の効力がマルトールの4〜6倍という分子。そして最も有用な点は、データベースが溶解度の実数を入れてくれていることになる。全データベースでは少数派だ。
欄
| 欄 | 内容 |
|---|---|
| CAS | 4940-11-8 |
| 同義語の先頭欄 | 3-ヒドロキシ-2-エチル-4H-ピラン-4-オン |
| 分子式 | C7H8O3、分子量140.14 |
| データベース上の分類 | 風味増強剤、着香剤 |
| 外観 | 白色結晶粉末(推定) |
| 融点 | 89–93 °C |
| 沸点 | 289–290 °C @ 760 mmHg |
| 引火点 | > 93.33 °C |
| logP | 0.80(推定) |
| 溶解度 | アルコール12%;ベンジルアルコール10%;フェネチルアルコール5%;プロピレングリコール5.5%;水24,230 mg/L(推定) |
| 香調型 | カラメル |
| 香調 | 甘い、カラメル、ジャム、ストロベリー、綿菓子、ベリー、砂糖 |
| 強度 | 強い。5%以下の溶液での評価を推奨(ランク3) |
| 残香 | 360時間(ベンジルアルコール中20%) |
| 保存期間 | 24か月 |
| 天然での存在 | 自然界では見つかっていない |
| 供給元 | 75社 |
| 規制 | JECFA 1481、FEMA GRAS 3487、CoE 692、FLAVIS 07.047 |
| GHS | H302 飲み込むと有害 |
| 経口毒性 | ラットLD50 1,150 mg/kg、マウス780 mg/kg |
| 経皮毒性 | ウサギLD50 > 5,000 mg/kg |
溶解度欄に数字がある
この欄がこの材料の最も有用な点で、しかも全データベースでは少数派になる。
このシリーズは測っている。全42,225件のうち溶解度欄に値があるのは23,941件(56.7%)だが、大半は溶媒の名前を挙げるだけで量を出さない。エチルマルトールは四つ出している。
alcohol, 12%; benzyl alcohol, 10%; phenethyl alcohol 5%; propylene glycol, 5.5%
**アルコール12%。**この一つの数字が、掲示板の一連の議論に答えている。同じ回のはじめての調香が返信39件のスレッドを分析していて、そこに「99.5%のアルコールに10%の希釈液があり、何か月も結晶化せず安定している」と書いた人がいる。10%は12%の上限の下にあるので、安定する。
そして同じスレッドで、マルトールの10%、5%、2.5%を試して1%だけが成功した人がいる。それは別の分子になる。
マルトールとの差は融点にある
| エチルマルトール | マルトール | |
|---|---|---|
| CAS | 4940-11-8 | 118-71-8 |
| 融点 | 89–93 °C | 159–162 °C |
| logP | 0.80 | 0.40 |
| アルコール溶解度 | 12% | 挙げてあるが数字なし |
| プロピレングリコール | 5.5% | 2.8% |
| グリセリン | — | 1.2% |
| 水 | 2.42%(推定) | 1.09%(実測 @15 °C) |
| 天然での存在 | 自然界では見つかっていない | カカオ、コーヒー、焙煎モルト、ラズベリー…… |
| 供給元 | 75社 | 107社 |
融点が70度違う。
同じ回のはじめての調香が、Yalkowskyの一般溶解度式(log S = 0.5 − 0.01(融点 − 25) − logP)でこれを計算している。予測される水溶解度の比は2.19倍、データベース自身の数字は2.22倍になる。
分解すると、その2.19倍のうち融点だけで4.95倍、logPは逆方向に0.40倍引いている(エチルマルトールのほうが親油的で、この項は不利に働く)。極性だけを見れば向きを間違える。
2009年のChuとYalkowskyの論文の要旨は、これを一文にしている。「log Pだけでは解答の半分にすぎず、結晶性の溶質を扱うときには融点を含める必要がある。」
「4〜6倍」
備考欄にはこうある。
「風味増強剤および着香剤、甘味料、3-ヒドロキシ-2-メチル-4H-ピラン-4-オンの4〜6倍の効力。」
その化学名がマルトールになる。つまりデータベースは、エチルマルトールの効力をマルトールの4〜6倍としている。
この一文の文脈に注意したい。これは風味の記述(甘味増強)のなかに現れるもので、香りの強度ではない。二本とも香りの強度欄は「強い、5%以下での評価を推奨」でランクは3だ。だから「4〜6倍」は味覚の側の話であって、嗅覚の換算率として直接使うことはできない。
ただし香調欄は確かに違う。
| 香調 | |
|---|---|
| エチルマルトール | 甘い、カラメル、ジャム、ストロベリー、綿菓子、ベリー、砂糖 |
| マルトール | 甘い、カラメル、綿菓子、ジャム、フルーティ、焼いたパン、焦げ |
**エチルマルトールにはストロベリーがあり、マルトールには焼いたパンと焦げがある。**Moscianoの『Perfumer & Flavorist』1991年の記述は「甘い砂糖感、カラメル、ジャム、ストロベリー様」で、別の供給元の記録は「綿菓子/わたあめ」と書いている。
同じものの強弱の版ではなく、香調の重心が違う二つの分子になる。
自然界では見つかっていない
天然での存在欄は not found in nature。
この欄はマルトールと並べる価値がある。マルトールの天然での存在欄には、モミ、チコリ、カカオ、コーヒー、そば蜂蜜、焙煎モルト、ピーマン、カラマツ樹皮、ラズベリー、野イチゴと十数の出典が並ぶ。
マルトールは焙煎の産物で、エチルマルトールは人工物になる。
これは「天然」訴求に直接影響する。エチルマルトールのほうが甘く、ストロベリー寄りで、好かれやすく、しかもずっとよく溶ける。実用的なあらゆる次元で便利で、その代償が自然界に存在しないことになる。
(データベースは両者の natural_synthetic 欄をどちらも natural/synthetic としていて、これはエチルマルトールの天然での存在欄が「自然界では見つかっていない」と書いていることと矛盾する。このシリーズの規則は事実として記すことなので、こう書いておく。この欄は天然での存在欄のほうを採る。より具体的だからだ。)
残香360時間
残香欄は 360時間(ベンジルアルコール中20%) と書いている。
この欄には注意すべきことが二つある。
- 20%のベンジルアルコール溶液で測られている、純品ではない。このシリーズは同じ形の注記に出会っている(ソトロンは「プロピレングリコール中3%」だった)。測定条件が違うものは互いに比較できない。
- **360時間は15日になる。**甘味系の材料としてはとても長い。マルトールは372時間(同じくベンジルアルコール中20%)で、二本は近い。
**早退はしない。**グルマンでは利点になり、入れすぎたときには問題になる。
資料では
公開処方954件のうち、マルトール類(二本の合計、各表記)は 43件(4.5%) に登場する。内訳はエチルマルトール22件、マルトール22件(両方使う処方がある)で、中央値の比率はどちらも1%付近になる。
このシリーズは第46篇でクレームブリュレの処方を分析したときにグルマン香調の富化を計算したが、その香調は12件しかなかったので比は削除した。ここでも同じく香調の統計はしない。
言えるのは絶対数だけで、第46篇のあのフランス語のクレームブリュレの処方はエチルマルトールを30部(合計1000)使っている。
買うかどうか
- **カラメル、綿菓子、ストロベリーの方向なら、マルトールよりずっと使いやすい。**溶解度12%(アルコール)対マルトールの一桁の低いほうで、差は大きい。
- **5%の希釈液から評価する。**データベースの推奨は5%以下、強度ランク3。
- **固体(白色結晶粉末、融点89–93 °C)になる。**薬さじと秤量ボートを用意する。夏でも自分では融けない。
- **12%は上限であって推奨値ではない。**上限に近い希釈液は冷却時に析出する危険があり、このシリーズは第49篇と第51篇でそれを扱っている。余裕を残す。
- **天然訴求の製品には使えない。**自然界では見つかっておらず、マルトールなら使える。
- **経口毒性はマルトールより高い。**ラットLD50 1,150 mg/kg。塗布使用には影響しないが、食品規制で両者が別々に評価される理由の一つになる。
この記事が示していないこと
- **溶解度欄の四つの百分率に温度が記されていない。**溶解度は温度で変わるのに、この欄は何度で測ったかを書いていない。「12%が冬に析出するか」にとって鍵になる情報が、そこにない。
- **「4〜6倍の効力」は風味の記述であって香りのものではない。**二本の香りの強度ランクは同じで、その倍率を使用量の換算に使うことはできない。
- 残香360時間はベンジルアルコール中20%で測られているので、他の材料の「100%で」の値と直接比較できない。
- **
natural_synthetic欄と天然での存在欄が矛盾している。**後者を採ったが、前者を解決してはいない。 - GSEの計算は同じ回のはじめての調香にあり、予測しているのは水溶解度であってアルコール溶解度ではない。二本の相対的な難度はエタノールでも同じ向きになるはずだが、倍率は同じにならない。
- **二本の論文が測っているのは薬物であって香料ではない。**引用しているのはモデルと融点の項の係数になる。
- **私はこれを嗅いでおらず、溶解度試験も行っていない。**全体がデータベースの欄と掲示板の報告の上に立っている。