原料図鑑 · 80
原料図鑑:サリチル酸ヘキシル——強度欄は「弱」、それでも処方での中央値は7%
· 10 分
CAS 6259-76-3。供給元42社。データベースの香りの強度は「弱」、香調欄はフレッシュ、ハーバル、オーキッド、グリーン——あってもなくてもいい材料に読める。ところが公開処方954件のうち57件に登場し、中央値の比率は7.05%、うち40件は5%を超え、最高は84.3%。単体では気づかれないのに、処方の重量を支えている側の材料だ。もう一つ注意点がある。この名前にはデータベース上で三つの近縁があり、そのうち一つは日焼け止めの成分だ。
**短く言うと:**安くて、単体ではさして個性がなく、それでも処方では大量に使われる種類の材料。嗅ぐために買うのではなく、他のものが収まる場所を作るために買う。「嗅いで面白いかどうか」だけで材料を選んでいると、この手のものは一生買わないことになる。
欄
| 欄 | 内容 |
|---|---|
| CAS | 6259-76-3 |
| 分子式 | C13H18O3、分子量222.28 |
| 香調型 | ハーバル |
| 香調 | フレッシュ、ハーバル、オーキッド、グリーン |
| 香りの強度 | 弱(強度ランク1、最下位) |
| 残香 | 100%で40時間 |
| 天然での存在 | 金木犀アブソリュート @ 0.007% |
| 沸点 | 290 °C @ 760 mmHg |
| logP | 5.70(推定) |
| 水溶解度 | 9 mg/L @ 20 °C(実測) |
| 供給元 | 42社 |
| 規制 | CoE 10695、FLAVIS 09.581 |
「強度が弱い」と「残香40時間」を並べて見ると、使いどころが見えてくる。**静かだが、居座る。**このシリーズで扱った高強度の材料(インドール、硫化ジメチル)はその逆で、わずかな量で騒がしい。
まず間違えやすいところ
データベースには名前のよく似た記録が三つあり、それぞれ別の分子だ。
| 名称 | CAS | 何なのか |
|---|---|---|
| サリチル酸ヘキシル hexyl salicylate | 6259-76-3 | 本稿の主役。香料。残香40時間 |
| サリチル酸シクロヘキシル cyclohexyl salicylate | 25485-88-5 | 香料。ただし残香400時間、強度は中 |
| 2-エチルヘキシルサリチル酸 2-ethyl hexyl salicylate | 118-60-5 | 日焼け止め成分。化粧品用途欄は「紫外線吸収剤、紫外線フィルター」 |
三つ目が厄介だ。別名はオクチルサリチル酸で、UVB吸収剤としてCosIngに記録がある。香調欄は「オーキッド、甘い、バルサミック」、残香48時間——香調欄だけ見ても主役と区別がつかない。
そしてRIFMは2007年、同じ増刊号の4ページ違いで、この二つの安全性レビューを別々に発表している。サリチル酸ヘキシルがS410–417、エチルヘキシルサリチル酸がS393–396。著者陣もほぼ同じだ。
**別々に審査されているのは、別のものだからだ。**このシリーズは同じ落とし穴を踏んだことがある(アミルシンナムアルデヒドのときは三つの分子だった)ので、規則はもう決まっている。名前ではなくCASを見る。
この二本のRIFMレビューについては明記しておく。PubMed上には一文の抄録しかない(「香料として使用される場合の毒性学的・皮膚科学的レビューを提示する」)。データは載っていない。だからここで引用するのは、この二本が存在すること、そして二つの分子を別々に扱っていることだけで、結論は一切引用しない。数値が要るなら原典に当たる必要がある。
資料のなかで何をしているか
公開処方954件のうち**57件(6.0%)**に登場する。
比率:
| 値 | |
|---|---|
| 中央値 | 7.05% |
| 四分位 | 3.75%–15.00% |
| 最高 | 84.3% |
| 1%未満 | 5件 |
| 5%超 | 40件 |
中央値7%という使用量は、このシリーズが扱ってきた80本のなかでも上位に入る。対照として、cis-3-ヘキセノールは100件の処方に登場するが中央値は0.54%。出現回数は倍近く多いのに、使用量は14分の1に満たない。
「どの材料が一番よく出てくるか」と「どの材料が処方を支えているか」が別のリストになるのは、これが理由だ。
よく同席する材料:
| 一緒に出てくる材料 | 件数 | 57件に占める割合 |
|---|---|---|
| 酢酸ベンジル | 28 | 49% |
| シトロネロール | 22 | 39% |
| ジヒドロミルセノール | 22 | 39% |
| ヘディオン | 20 | 35% |
| リナロール | 19 | 33% |
| リリアール | 19 | 33% |
| α-ヘキシルシンナムアルデヒド | 17 | 30% |
| γ-ウンデカラクトン | 13 | 23% |
白い花/洗剤系の骨格として標準的な顔ぶれだ。酢酸ベンジル+シトロネロール+リリアール+ヘキシルシンナムアルデヒドはジャスミン—ミュゲ方向の基本構成で、サリチル酸ヘキシルはそこで嵩を担う。
香調の分布:フルーティが基準の2.3倍
954件のうち752件はタイトルから香調のラベルが貼れる。それを基準にすると。
| 香調 | 57件のうち | 全体の基準 | 比 |
|---|---|---|---|
| フローラル | 52.6% | 35.6% | 1.5× |
| フルーティ | 29.8% | 12.8% | 2.3× |
| グリーン | 12.3% | 10.4% | 1.2× |
| シトラス | 12.3% | 14.4% | 0.9× |
| パウダリー | 8.8% | 4.2% | 2.1× |
フローラルが基準より高いのは驚かない。**この表で本当に情報があるのはフルーティの2.3倍のほうだ。**データベースの香調欄——フレッシュ、ハーバル、オーキッド、グリーン——には果物の語が一つも入っていない。
同じ記録をさらに下まで読むと、答えは細かい文字のほうにある。供給元から寄せられた匂いの記述にこういうものがある。
- 「乾いた干し草のようなワクシーなフローラル」
- 「心地よく自然な、フローラル—スパイシー(アザレア、クローブ、かすかにイランイラン)、爽やかでグリーン」
- 「**フローラル、グリーン、フルーティ。**穏やかで甘いハーバルの傾き。特にサリチル酸アミルと組み合わせるとフローラルの修飾に有用」
さらにこの材料は食品香料でもあり(FLAVIS 09.581)、味の欄はこうなっている。ハーバル、グリーン、金属的、フローラル、藻、トマトの葉、アスパラガス。
つまり「フルーティ」はこの記録のなかに確かにある。ただし一番上の欄にはない。要約の欄と細部の欄が食い違うとき、処方の資料は細部の側についた。
これはデータの誤りではなく、欄の解像度の問題だ。「香調」欄には語が四つしか入らず、濃度によって表情の変わる材料は収まりきらない。このシリーズは酢酸オクチルの回で同じことに出会っている。
あの84.3%は何なのか
最高値の処方では84.3%を占めている。この数字は一度立ち止まる価値がある。香水の処方らしくないからだ。
単一材料で84%は、香水というより「何かのベース」か、実演用に単純化した処方だろう。資料のなかでこの種の極端値はたいてい二種類から来る。一つは教材用の骨格デモ(材料が三、四本しかないもの)、もう一つは機能性製品(洗剤の賦香など)の簡略表だ。資料から遡ってどちらか確認する手段はない。**この84.3%を挙げているのは分布を正直に示すためで、真似するためではない。**代表的な範囲は四分位の3.75%–15.00%のほうだ。
金木犀の0.007%
天然での存在欄に書かれている出典は一つだけ。金木犀アブソリュート、0.007%。
一万分の0.7。この数字が意味するのは、金木犀アブソリュートから使用量に足るサリチル酸ヘキシルは取れないし、この合成品を「金木犀の匂い」として扱うべきでもないということだ。自然界にはほぼ存在しない(近縁二つの記録が「自然界では見つかっていない」となっているのと並べると分かりやすい)。工業製品である。
このシリーズはこの種の欄に繰り返し出会う。ある天然物に微量存在するというだけで、記録は「天然」に分類する。0.007%の存在と「天然由来」は別の話だ。
買うかどうか
最初の一揃えを組んでいるなら、これは検討に値する。理由は匂いが良いからではない。
- **供給元42社。**汎用品なので価格が障害になりにくい。
- **中央値の使用量7%。**同じ一瓶を買ったとき、一滴で足りる材料より支えられる処方の数が多い。
- 相方(酢酸ベンジル、シトロネロール、ジヒドロミルセノール、リナロール)が全部が初心者向けリストの常連なので、孤立しない。
薦めない理由も書いておく。
- **単体で嗅ぐとがっかりする。**強度ランク1、「何もない」と感じるはずだ。
- **処方を良い匂いにはしてくれない。**重さを与えるだけだ。この二つを初心者が感じ分けるのは難しく、たいていは「香りは面白いのに薄い」ものを何回か作ってから分かる。
この記事が示していないこと
- **二本のRIFMレビューはPubMed上に抄録の中身がない。**引用しているのは存在と、二つの分子を別々に審査しているという事実だけだ。安全性の結論はすべて原典を要する。
- **57件は小さい標本だ。**フルーティ2.3倍という比は17件の処方に基づいており、区間は広くなる。信頼区間は計算していない。
- 香調のラベルはタイトルの語から貼ったもので、嗅いで判定したものではない。タイトルに書かれていない香調は数えられない。
- **比率は処方内の重量比であって、最終製品の濃度ではない。**規制の上限と比べる前に賦香率を掛ける必要がある。
- **「強度が弱い」はデータベースの分類で、私が測ったものではない。**分類の方法は記録に説明がない。