原料図鑑 · 81
原料図鑑:ラベンダー油——フゼアが基準の7.3倍、そしてラバンジンとはほぼ同席しない
· 11 分
CAS 8000-28-0。供給元99社は、このシリーズが扱った天然物のなかで最も多い部類。公開処方954件のうち55件に登場し、中央値の比率は6.06%。この材料の身元を一番よく語る数字は香調のほうだ。これを含む処方の29%がフゼア調で、全体の基準は4%——7.3倍は、このシリーズが測ったなかで最も強い香調の集中になる。最も同席する材料はクマリンで55%。近縁のラバンジンとは、954件のうち1件しか同時に使われていない。なおデータベースはこの二つの残香を12時間と216時間としており、この18倍の差は説明がつかない。
**短く言うと:**フゼア調の半分がこれで、もう半分がクマリン。買うときは、どのラベンダーを買っているのかを知っておく必要がある。市場には少なくとも三種類がこの名前で流通していて、処方のうえでは互換ではない。
欄
| 欄 | ラベンダー油 | ラバンジン油 |
|---|---|---|
| CAS | 8000-28-0 | 8022-18-2 |
| 植物 | Lavandula angustifolia | Lavandula hybrida(コモンラベンダー × スパイクラベンダーの交雑) |
| 香調型 | フローラル | フローラル |
| 香調 | ハーバル、フローラル、スパイシー、アロマティック、カンファー、バルサミック、ユーカリ、ウッディ | フローラル、ハーバル、ラベンダー、カンファー、ソーピー |
| 強度 | 中 | 中 |
| 残香 | 12時間 | 216時間 |
| 保存期間 | 24か月 | 12か月 |
| 沸点 | 204 °C | 211 °C |
| 比重 | 0.875–0.888 | 0.889–0.910 |
| 旋光度 | −3〜−10 | −2〜−5 |
| 供給元 | 99社 | 51社 |
| 規制 | FEMA GRAS 2622 | FEMA GRAS 2618 |
| GHS | 可燃性液体 H227 | 記載なし |
供給元99社は、このシリーズが扱った天然物では最多の部類だ。希少でも高価でもない。
あの12時間と216時間
先にこの欄を片付けておく。見た目からしておかしいからだ。
同じデータベースで、ラベンダー油の残香が12時間、ラバンジン油が216時間。18倍。
この差は説明できない。ラバンジンはカンファーとボルネオールを多く含み、比重も沸点もわずかに高いので「少し長い」なら筋が通る。18倍は通らない。このシリーズは三種類のデータベースの問題に出会ってきた。間違っているもの(オークモスの天然存在欄)、不完全なもの(ジヒドロ-β-イオノンが金木犀を落としている)、互いに矛盾するが全部正しいかもしれないもの(酢酸オクチル)。この欄は一つ目である可能性が最も高いと思うが、証拠がないので事実だけ書く。この二つの数字を比べてはいけない。少なくとも一方は、もう一方と違う測定条件で得られている。
実務上、どちらも持続する材料ではない。処方での居場所はトップからミドルで、ラストではない。
資料のなかで何をしているか
公開処方954件のうち**55件(5.8%)**に登場する。
| ラベンダー油 | ラバンジン油 | |
|---|---|---|
| 登場件数 | 55 | 39 |
| 中央値の比率 | 6.06% | 5.56% |
| 四分位 | 3.00%–15.00% | 2.04%–14.00% |
| 最高 | 86.0% | 61.9% |
どちらも使用量は小さくなく、中央値は5〜6%。これは「嵩を担う」側の水準で、このシリーズの前回のサリチル酸ヘキシル(7.05%)と同じ帯にある。
そして注目すべきは、954件のうちラベンダー油とラバンジン油を同時に使っている処方が1件しかないことだ。
それぞれ55件と39件に登場するので、独立に分布していれば確率だけで2件ほど同席してよい。実際は1件。この二つは代替品であって相棒ではない。調香師は片方を選んだら、もう片方を入れない。
香調:フゼアが7.3倍
954件のうち752件はタイトルから香調のラベルが貼れる。それを基準にすると。
| 香調 | ラベンダー油を含む55件 | 全体の基準 | 比 |
|---|---|---|---|
| フゼア | 29% | 4% | 7.3× |
| シトラス | 24% | 14% | 1.7× |
| グリーン | 15% | 10% | 1.5× |
| オリエンタル・アンバー | 11% | 4% | 2.8× |
| スパイシー | 11% | 3% | 3.7× |
**7.3倍は、このシリーズが測ったなかで最も強い香調の集中だ。**81本目まで書いてきて、ラベンダー油ほど一つの香調に自分を縛りつけている材料はない。
同席する材料の並びが理由を語り切っている。
| 一緒に出てくる材料 | 件数 | 55件に占める割合 |
|---|---|---|
| クマリン | 30 | 55% |
| ベルガモット油(フロクマリン除去) | 19 | 35% |
| リナロール | 18 | 33% |
| 酢酸リナリル | 16 | 29% |
| パチュリ油 | 16 | 29% |
| ゼラニウム油(ブルボン) | 15 | 27% |
| 酢酸ベンジル | 14 | 25% |
| オイゲノール | 14 | 25% |
ラベンダーとクマリンとオークモスは、フゼア調の定義そのものだ。**ラベンダーを含む処方の半分以上にクマリンが入っている。**このシリーズが測ってきた組み合わせのなかでも高い共起率になる。
リナロールと酢酸リナリルが3位と4位に来ているのも面白い。この二つはラベンダー油自身の主成分だ。調香師はラベンダー油を入れたうえで、この二つを単独で足している。単体で天然物の比率を補正しているわけだ。
ラバンジンの香調分布は違う。シトラス28%、グリーン23%、フゼア21%で、**フローラルは18%と基準の36%を下回る。**さわやかでソーピーな方向に寄り、花には向かわない。
この名前の下に三つの別物がある
初心者がラベンダー油を買うときに最も踏みやすいのがこれだ。棚に並ぶ「ラベンダー」は一種類の植物ではない。
| 名称 | 学名 | データベースの記録 |
|---|---|---|
| ラベンダー油(真正ラベンダー、コモンラベンダー) | L. angustifolia | #21975、供給元99社 |
| フランス産ラベンダー油 | L. angustifolia、フランス産 | #21974、供給元55社 |
| ラバンジン油 | L. hybrida | #21881、供給元51社 |
ラバンジンはコモンラベンダーとスパイクラベンダーの交雑種だ。データベースの備考が明快に書いている。「ラバンジン油の物語は途方もない成功譚である。1920年代後半まで知られていなかったこの精油は、今日では世界の天然香精油の十指に入る」
安く、収量が多く、カンファー感が強い。粗悪なラベンダーではなく別のものだ。資料の「同時使用は1件だけ」という数字が、実務上の証明になっている。
しかも同じ種の油が大きく違いうる
2021年、Liaoらは雲貴高原の同じラバンジン畑から四季それぞれに刈り取って蒸留し、GC-MSで分析した。収率は2.0〜3.8%で夏が最高。組成の変動幅はこうだ。
| 成分 | 範囲 |
|---|---|
| 含酸素モノテルペン合計 | 55.4% – 81.4% |
| ユーカリプトール | 38.7% – 49.8% |
| カンファー | 8.41% – 14.26% |
| α-ビサボロール | 6.6% – 25.5% |
| リナロール | 4.6% – 12.5% |
ユーカリプトールが4〜5割、リナロールが1割未満。その油はプロヴァンスではなくユーカリの方向に寄る。
この欄は慎重に読む必要がある。雲貴高原という産地と品種の話であって、すべてのラベンダー油に一般化はできない。示しているのは、「ラベンダー油」という語がその中身を規定しないこと、同じ畑の季節差だけで香調の帰属が変わりうることだ。
データベースの香調欄は実はこれを織り込んでいる。ラベンダー油の香調にはカンファーとユーカリが入っている。香水のラベンダーを語るときに誰も使わない二語だが、この油には確かに入っている。
酸化したあとの問題
2016年、HagvallとChristenssonが『Acta Dermato-Venereologica』にパッチテストの研究を発表した。
ラベンダー油の二大成分であるリナロールと酢酸リナリルは、空気中の酸素に触れて自動酸化し、感作性のあるヒドロペルオキシドを生じる。この研究は接触皮膚炎が疑われる患者に連続してパッチテストを行い、三つを試験した。酸化ラベンダー油6%、酸化酢酸リナリル6%、酸化リナロール6%。
結果は二層になっている。
- **酸化ラベンダー油に陽性を示した患者は2.8%。**論文は「調べた精油のなかで、酸化ラベンダー油は接触アレルギーの頻度が最も高い部類だった」と書いている。
- その陽性者のうち、**酸化リナロールまたは酸化酢酸リナリルに反応したのは56%**にとどまり、52%がベースラインシリーズの香料マーカーに反応した。
二点目がこの論文の要点であり、タイトルが言っていることだ。**主要な感作物質だけを試験しても、酸化ラベンダー油によるアレルギーを全部は拾えない。**言い換えると、この油が酸化して生じる感作物質は、二大成分の酸化物だけではない。
一般の使い手にとっての含意は単純で、データベースの欄がすでに書いている。保存期間24か月、**冷暗所で密閉し、熱と光を避けて保管する。**これは丁寧に扱えという話ではなく、酸化が感作性を変えるからだ。何度も開けた古い瓶と新しい瓶は同じものではない。
買うかどうか
- **供給元99社。**価格も入手も問題にならない。ちなみにあの不安尺度で勝ったのはカプセルにした版で、嗅ぐほうではない。
- **フゼア調を作るなら省けない。**7.3倍は偶然ではなく、クマリンと組めばこの香調の骨格そのものになる。
- **買うときは学名を見る。**L. angustifolia か L. hybrida かがカンファー感の強さを決め、資料によれば調香師はこれらを混ぜない。
- **小さい瓶で買い、開封日を書く。**酸化するし、酸化後の感作性は主成分のデータから推定できない。
この記事が示していないこと
- **12時間と216時間の差は説明できていない。**どちらの測定条件も記録に書かれておらず、比較不能という指摘までしかできない。
- Liaoらの研究は雲貴高原のラバンジンであり、フランスのコモンラベンダーではない。組成の幅を市販のプロヴァンス産ラベンダー油にそのまま当てはめることはできない。
- Hagvallらが調べたのは接触皮膚炎が疑われる外来患者であって一般人口ではない。2.8%はその集団での比率であり、一般のアレルギー率ではない。
- **55件も39件も小さい標本だ。**フゼア7.3倍は16件の処方に基づいており、区間は広くなる。信頼区間は計算していない。
- **「同時使用は1件だけ」は観察であって実験ではない。**公開処方の出所の偏り(同じ書き手による複数の処方は習慣が揃う)とも関係しうる。
- **比率は処方内の重量比であって、最終製品の濃度ではない。**IFRAの規定と比べる前に賦香率を掛ける必要がある。