原料図鑑 · 94
原料図鑑:IPM(ミリスチン酸イソプロピル)—— 蒸気圧が DPG より 97 倍低い一本
· 8 分
CAS 110-27-0、供給元 54 社。データベースの分類は「香料のキャリア溶媒・希釈剤」で、香りの強さの欄は「なし」。単独で書く価値があるのは三つの項目が組み合わさるからで、蒸気圧 0.000329 mmHg(DPG より 97 倍低い)、logP 7.20(この用途の溶媒では最も親油的)、融点 2〜3 °C。前の二つがノズル残留物の中での挙動を決め、三つ目が冬に固まるかどうかを決める。経口 LD50 はラット 16000 mg/kg 超、マウス 49700。それでいて公開処方 954 件の中には 4 回しか現れない。
**要点:**それ自体は匂いを持たない溶媒で、使いどころは三つの物性の欄で決まる。いちばん役に立つのはエタノールが蒸発したあと、まだ残っているからだ。
項目
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| CAS | 110-27-0 |
| 分子式 | C17H34O2、分子量 270.456 |
| データベース分類 | 香料のキャリア溶媒・希釈剤 |
| 融点 | 2〜3 °C |
| 沸点 | 192〜193 °C @ 20 mmHg |
| 引火点 | > 110 °C |
| logP | 7.20(推定) |
| 蒸気圧 | 0.000329 mmHg @ 25 °C(推定) |
| 比重 | 0.840〜0.860 @ 25 °C |
| 屈折率 | 1.428〜1.443 @ 20 °C |
| 水溶解度 | 0.01354 mg/L @ 25 °C(推定) |
| 溶解性 | アミリスウッド油;安息香酸ベンジル;サリチル酸ベンジル;クローブリーフ油;乳酸エチル;パラフィン油;キャンドル香料の希釈剤 |
| 香りの強さ | なし |
| 残香 | 400 時間 |
| 保存期間 | 24 か月 |
| 天然での存在 | ブランデー;コリアンダーシード;キンカン果皮油;ウィッチヘーゼル葉油 @ 0.07% |
| 供給元 | 54 社 |
| 規制 | JECFA、FEMA GRAS、CoE、FLAVIS |
| 経口毒性 | ラット LD50 > 16000 mg/kg;マウス 49700 mg/kg |
| 備考 | マイクロエマルションに使用。フレーバー成分 |
三つの項目
**蒸気圧 0.000329 mmHg。**よく使われる溶媒の中では低い側に入る。同類と並べる。
| 蒸気圧 @ 25 °C | |
|---|---|
| エタノール | 44.6(@ 20 °C) |
| DPG | 0.0319 |
| IPM | 0.000329(推定) |
| 安息香酸ベンジル | 0.000250 |
| TEC | 0.000175(推定) |
IPM は DPG より 97 倍低い。
この差はボトルの中では見えない。エタノールが蒸発したあと、ノズルの上、肌の上、ムエットの上で現れる。DPG はそこで一部が一緒に去るが、IPM はほとんど動かない。
**logP 7.20。**この四本の溶媒の中で最も高い。DPG は −0.60、TEC は 0.10、安息香酸ベンジルは 4.00 になる。
7.20 はかなり親油的であることを示す。脂溶性の固体香料を溶かすには有利で、水や高濃度のエタノールと混ぜるには不利になる。データベースの溶解性の欄に並んでいるのは油とエステル類で、水は入っていない。
**融点 2〜3 °C。**見落とされやすい欄で、共溶媒が冬に自分で固まるかどうかを決める。安息香酸ベンジルの 18〜21 °C と比べると、あちらは室温の範囲に入っている。
三つが揃う。残る、脂溶性の材料を溶かせる、低温で固まらない。
いつ使うか
Reid らが 2009 年に Int J Pharm で述べた機構は、あらゆるスプレー剤形に当てはまる。揮発性溶媒が蒸発することでその場に過飽和が作られる。彼らはエアゾール中のエタノールを 10% から 20% に上げ、過飽和が起きるタイミングを塗布 30 分後から噴射の瞬間に前倒しした。
香水のスプレーも同じことになる。エタノールが去り、残ったものは液体でいるか結晶になるかのどちらかだ。
IPM の役割は、残留物を液体のまま残すことにある。
限界も立てておく。Leichtnam らが 2007 年に J Pharm Sci で扱ったテストステロンのスプレーでは、抗核形成ポリマーで過飽和状態を保とうとして、熱量測定では有望に見えたのに、皮膚に噴霧したあとの送達量は改善しなかった。結論は、スプレーが霧化するときの蒸発過程にはより良い特徴づけが必要だ、というものだった。共溶媒と抗核形成剤は別の手だが、あの論文が示しているのは同じことになる。ノズルの先で何が起きるかは予測しにくい。
何を持っていくか
揮発しないことには裏がある。IPM が肌の上に残れば、それが溶かしている香料も中に残ることになり、空気の方には出ていかない。拡散は落ちる。
フォーラムで問題を正しく切り分けた人も、そのことを書いている。IPM は香水の立ちを弱めるので、そこは天秤にかける必要がある、と。
残香の欄は 400 時間で、このデータベースの上限値であり DPG と同じになる。溶媒についてこの数字が持つ意味は限られていて、この材料自体が飛ばないということを言っているにすぎない。
コーパス
公開処方 954 件のうち、IPM が現れるのは 4 件、0.4% で、使用量の中央値は 13.5%。
同じコーパスで安息香酸ベンジルは 43 件(4.5%)、DPG は 34 件(3.6%)、TEC は 5 件(0.5%)になる。
IPM はプロの処方にはほとんど現れない。
この落差には書き留めておきたい説明がある。この 954 件は香料濃縮液の処方で、扱っているのは溶解と希釈になる。ノズルの残留は仕上がり段階の問題で、仕上がりの溶媒系は濃縮液の処方には書かれない。濃縮液に IPM が見えないことは、仕上がりに入っていないことを意味しない。
毒性の欄
ラット経口 LD50 が 16000 mg/kg 超、マウスが 49700 mg/kg。かなり高い数字で、この用途の材料の中では低毒性の側に入る。
同じデータベースで比べると、DPG はラット 14850、TEC はラット 5900、安息香酸ベンジルはラット 1700 から 2800 になる。
IPM が化粧品で議論されるのは毒性ではなくコメドを作りやすさの方だが、それはこのデータベースの欄にはなく、私は調べていない。
この記事が立証していないこと
- **私はこれを使っていない。**全編がデータベースの項目と論文二本による。
- **蒸気圧も logP も推定値。**DPG との 97 倍差は実測値対推定値になっている。
- **蒸気圧は蒸発速度ではない。**薄膜、気流、表面積が実際の挙動に効く。順位づけには使うが速度の予測はしない。
- ambroxan にせよ他の香料にせよ、IPM 中の実際の溶解度の数字は持っていない。「logP 7.20 だから脂溶性の材料を溶かせる」は経験則になる。
- 「IPM 25% で ambroxan が保持できる」はフォーラムの報告で、追試していないし、二件の書き込みが独立した測定かどうかも分からない。
- Leichtnam 2007 が扱ったのはテストステロンと抗核形成ポリマーで、共溶媒でも香料でもない。
- 拡散が落ちるというのは定性的な推論で、測定は一つもない。
- **コメド形成性は調べていない。**このデータベースにその欄がない。
- **コーパスの 4 件は標本として小さすぎる。**13.5% という中央値を推奨量として扱うべきではない。