原料図鑑 · 95
原料図鑑:レボローズオキサイド —— ラセミ版と FEMA 番号を共有し、FLAVIS だけが二つに分ける
· 9 分
CAS 3033-23-6、(2S,4R) 配置、供給元 8 社。ラセミ版は 77 社ある。物性の欄はラセミ版とほぼ同じで、分子量も logP 2.90 も比重も屈折率も蒸気圧もすべて一致する。違うのは三か所。香調欄に「金属的」と「パウダリー」が加わること、残香欄が 388 時間であること(ラセミ版は「8 時間より大きい」で、測定条件がまったく違う)、そして FLAVIS が 13.170 という独立した番号を与えていること。FEMA 3236 と欧州評議会 2269 はラセミ版と共有している。公開処方 954 件の中では 4 回しか現れない。
**要点:**ラセミのローズオキサイドと同じ分子の単一配置版で、物性はほぼ完全に一致する。単独で書く価値があるのは、ラセミ版との三つの違いのうち二つが材料の差ではなくデータの問題だからだ。
項目
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| CAS | 3033-23-6 |
| 同義語先頭 | L-rose oxide |
| 立体配置 | (2S,4R)、すなわち (−)-cis |
| 分子式 | C10H18O、分子量 154.253 |
| 外観 | 無色澄明の液体(推定) |
| 純度 | 99.00 〜 100.00 |
| 沸点 | 71〜73 °C @ 12 mmHg;182 °C @ 760 mmHg |
| 引火点 | 67.78 °C |
| logP | 2.90(推定) |
| 蒸気圧 | 0.551 mmHg @ 25 °C(推定) |
| 比重 | 0.865〜0.873 @ 25 °C |
| 屈折率 | 1.450〜1.457 @ 20 °C |
| 水溶解度 | 63.97 mg/L @ 25 °C(推定) |
| 香調タイプ | フローラル |
| 香調 | ローズ、樹皮、グリーン、フローラル、ゼラニウム、パウダリー、メタリック |
| 強度 | 高。1% 以下の溶液での評価を推奨(ランク 3) |
| 残香 | 388 時間(ジプロピレングリコール 10%) |
| 天然での存在 | ダマスクローズ;ケンティフォリアローズ;ローズ油;シクラメン;ヒイラギメギ |
| 供給元 | 8 社 |
| 規制 | FEMA 3236、CoE 2269、FLAVIS 13.170 |
| 備考 | ダマスコン類と相性が良い。アルデヒド系の香調を強く活性化する。シトラス領域に深みを与える |
ラセミ版と並べる
ラセミのシス体(#35233、CAS 16409-43-1)は供給元 77 社で、実務で出会うのはこちらになる。並べる。
| (Z)-rose oxide ラセミ | この材料 | |
|---|---|---|
| CAS | 16409-43-1 | 3033-23-6 |
| 分子式 | C10H18O | C10H18O |
| 分子量 | 154.253 | 154.253 |
| logP | 2.90(推定) | 2.90(推定) |
| 蒸気圧 | 0.551 mmHg(推定) | 0.551 mmHg(推定) |
| 比重 | 0.865〜0.873 | 0.865〜0.873 |
| 屈折率 | 1.450〜1.457 | 1.450〜1.457 |
| 強度ランク | 3 | 3 |
| FEMA | 3236 | 3236 |
| CoE | 2269 | 2269 |
| FLAVIS | 13.037 | 13.170 |
| 供給元 | 77 社 | 8 社 |
物性は八行が完全に一致していて、推定値の小数位まで同じになる。FEMA と欧州評議会は同じ番号を与え、FLAVIS は二つに分けている。
(同じ分岐のしかたはアンバー系エーテルの組でも出てきた。あちらは CAS が二つに分かれ、FEMA と CoE が一つにまとめていた。無関係な二つの材料で同じ構造が出るのは、書き留めておく価値がある。)
三つの違い、うち二つはデータの問題
一つ目:純度欄の書き方。
ラセミ版は「99.00 〜 100.00 sum of isomers」、この材料は「99.00 〜 100.00」で、あの四語がない。
この四語の有無が、「この番号は総和を管理している」と「この番号はこの配置を指している」の違いになる。手元の規格書が何を言っているかを判断するには、商品名よりこの欄の方が当てになる。
二つ目:残香欄。
| 残香欄の原文 | substantivity_hr | |
|---|---|---|
| ラセミ版 | > 8 時間(100% 原液) | 8.0 |
| この材料 | 388 時間(ジプロピレングリコール 10%) | 388.0 |
同じ分子で 8 対 388、48.5 倍になる。
差は分子にない。片方は原液での測定で、しかも「より大きい」という下限値。もう片方は 10% 希釈での点の値。この二つの測り方の間に換算関係はない。
substantivity_hr の欄が両方を同じ位置に入れているので、この欄でソートするとローズオキサイドは最も長持ちする側にも最も短い側にも現れる。
これは項目の問題であって、材料の性質ではない。
三つ目:香調欄。
| 香調 | |
|---|---|
| ラセミ版 | グリーン、ローズ、レッドローズ、スパイシー、フレッシュ、ゼラニウム、ベジタブル、フローラル、ハーバル、カンファー |
| この材料 | ローズ、樹皮、グリーン、フローラル、ゼラニウム、パウダリー、メタリック |
共通するのはローズ、グリーン、フローラル、ゼラニウム。ラセミ版だけにあるのはスパイシー、フレッシュ、ベジタブル、ハーバル、カンファー。この材料だけにあるのは樹皮、パウダリー、メタリック。
ここは本当の違いに見えるが、慎重に扱いたい。Laska と Teubner が 1999 年に Chemical Senses で 10 対の鏡像異性体のヒト識別能力を測ったとき、ローズオキサイドは識別できなかった七対の中にあった。二つの記述は評価者が異なり、年も違い(1995 対 1989)、しかも何を嗅いでいるか分かっている状態で書かれている。
この二つのリストを「嗅ぎ分けられる」証拠には使わない。
効いているのは cis の方
Wang らは 2026 年に Food Chemistry で、ブドウの「ライチ様」の香りをメタボロミクスと分子感覚科学で調べ、鍵となる揮発性成分として cis-ローズオキサイドとシトロネロールを同定した。論文は cis-rose oxide と書いていて、総称の rose oxide ではない。
この材料は (2S,4R)、つまり (−)-cis で、cis の側に入る。
供給元が「laevo」と書くのはマーケティングの語ではなく、実在する配置の区分を指している。買う価値があるかどうかは別の話になる。
天然での存在の欄
ダマスクローズ、ケンティフォリアローズ、ローズ油、シクラメン、ヒイラギメギ。
ラセミ版の同じ欄と比べる。シスタス油、セイヨウニワトコ花油、ゼラニウムの各部位の油(インド産葉油 0.74%、キューバ産ローズゼラニウム 5.50%)、ショウガ、レモンバーム、ライチの缶詰。
**ラセミ版の欄には百分率が入っていて、この材料の欄には入っていない。**記録の深さが違う。同じデータベースの中でよくある落差になる。
コーパス
公開処方 954 件のうちローズオキサイド類は 76 件、8.0% に出てくる。そのうち laevo-rose oxide と書かれているのは 4 回だけで、cis-rose oxide の 1 回を足しても、配置を指定しているのは合計 5 回になる。
用例の 94% は配置を指定しない rose oxide と書かれている。
全体の使用量の中央値は 0.500%、用例の 74% が 1% 以下。
4 件は少なすぎるので、この材料だけの使用量は算出しない。
この記事が立証していないこと
- 私はこれを嗅いでいないし、ラセミ版と比べてもいない。
- **香調欄の二つのリストは条件を揃えた比較ではない。**評価者も年も違い、ブラインドでもない。
- **残香 388 時間がどう得られたかは評価できない。**条件がジプロピレングリコール 10% であること、ラセミ版の方が原液であることまでしか分からない。
- **8 対 388 のどちらが実用に近いかは判断できない。**比較できないということしか言えない。
- 物性の八行が一致することは「同じ分子」を推す根拠の一つにしたが、その多くは推定値で、推定器の一致は実測の一致ではない。
- Wang 2026 が扱ったのはブドウで、cis が鍵となる揮発性成分であることを示しているが、単一の対掌体とラセミ混合物の感覚的な差は比べていない。
- Laska 1999 が測ったのは (+) 対 (−) で、この材料対ラセミ混合物ではない。
- **cis と trans、また (+)-cis と (−)-cis の匂い閾値がどれだけ違うか、引用できる数字は見つけられなかった。**この記事の最大の穴になる。
- **コーパスは 4 件しかない。**使用量について何かを言うには足りない。