原料図鑑 · 96
原料図鑑:パラクレゾール —— フォーラムがイランイランを「うんちっぽい」と言うとき、指しているのはたぶんこれ
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CAS 106-44-5、供給元 25 社。データベースの推奨評価濃度は 0.10% 以下で、この庫で最も低い段になる。香調欄は「フェノリック、水仙、アニマリック、ミモザ」。イランイランと同属のカナンガ油(中国産 @ 0.27%)に記録されていて、コーヒー、バター、カシスの芽、烏龍茶にも出てくる。注目すべきは毒性欄で、ラット経口 LD50 207 mg/kg、ウサギ皮膚 301 mg/kg。一方でイランイラン精油そのものはどちらも「5000 超」になっている。同じ植物で、成分と精油全体が 24 倍以上離れている。残香 400 時間、融点 32〜35 °C で室温付近を行き来する。
**要点:**0.10% 以下での評価を推奨されるフェノール系の材料で、希釈すれば水仙とミモザ、原液ではアニマリックになる。取り上げる理由は、植物精油の毒性の数字と、その中の一成分の毒性の数字が二桁離れうることを示しているからだ。
項目
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| CAS | 106-44-5 |
| 同義語先頭 | 4-ヒドロキシトルエン |
| 分子式 | C7H8O、分子量 108.140 |
| データベース分類 | 化粧品・フレーバー・フレグランス成分 |
| 外観 | 白色結晶(推定) |
| 純度 | 98.00 〜 100.00 |
| 融点 | 32〜35 °C |
| 沸点 | 201.8〜202.0 °C @ 760 mmHg |
| 引火点 | 89.44 °C |
| logP | 1.90(推定) |
| 蒸気圧 | 0.110 mmHg @ 25 °C |
| 水溶解度 | 21,500 mg/L @ 25 °C(実測) |
| 香調タイプ | フェノリック |
| 香調 | フェノリック、水仙、アニマリック、ミモザ |
| 強度 | 高。0.10% 以下の溶液での評価を推奨(ランク 3) |
| 残香 | 400 時間(ジプロピレングリコール 10%) |
| 天然での存在 | カナンガ油(中国)@ 0.27%;コーヒー豆;バター;カシスの芽;アスパラガス;アニス;ブルーベリー;サワーチェリー;海藻 |
| 供給元 | 25 社 |
| 規制 | JECFA 693、FEMA 2337、CoE 619、FLAVIS 04.028 |
| 化粧品用途 | 抗菌剤;賦香剤 |
| 経口毒性 | ラット LD50 207 mg/kg;マウス 344 |
| 皮膚毒性 | ウサギ LD50 301 mg/kg;ラット 750 |
| GHS | H301 飲み込むと有毒;H311 皮膚に接触すると有毒;H314 重篤な皮膚の薬傷・眼の損傷;H411 長期継続的影響により水生生物に有毒 |
二桁の差
フォーラムにイランイランをこう書いた人がいる。
「イランイランはひどく臭う。強いうんちのニュアンスがある」(Tiny-Education3316)
この記述はフェノール類を指している。そしてデータベースの天然での存在の欄に、パラクレゾールはカナンガ油(中国産)@ 0.27% として並んでいる。カナンガとイランイランは同じ属になる。
成分と精油全体の毒性欄を並べる。
| ラット経口 LD50 | 皮膚 LD50 | |
|---|---|---|
| イランイラン花油 | > 5000 mg/kg | ウサギ > 5000 mg/kg |
| パラクレゾール | 207 mg/kg | ウサギ 301 mg/kg |
経口で 24 倍以上、皮膚で 16 倍以上の開きになる。
GHS 欄はもっと直接的だ。イランイラン花油は H315(皮膚刺激)と H317(アレルギー性皮膚反応のおそれ)。パラクレゾールは H301(飲み込むと有毒)、H311(皮膚に接触すると有毒)、H314(重篤な皮膚の薬傷)。
矛盾ではなく濃度の話になる。0.27% の成分が 99.73% の他のもので薄められている。
覚えておく方向は二つある。**精油を丸ごと買う人が手にしているのは希釈された版で、単体を買う人が手にしているのは原液になる。**そして逆向きに、天然というラベルは中身のすべてが穏やかであることを保証しない。
(イランイランが制限を受けている理由については、検索中に見た説明はイソオイゲノールのような成分を指していて、パラクレゾールではない。ここで書いているのは一般則であって、あの制限の成因ではない。)
0.10% という欄
推奨評価濃度が 0.10% 以下。
これは私が書いてきた九十数本の材料の中で最も低い段になる。比較すると ambroxan が 1%、ローズオキサイドが 1%、エチルマルトールが 5%、アンバーナフトフランが 10%。
そして香調欄には「アニマリック」と「水仙」「ミモザ」が同居している。この二組の語が噛み合わないように見えるのは濃度の差による。データベースの香りの記述欄が記録しているのは ジプロピレングリコール 0.10% での状態で、フェノリック、水仙、アニマリック、ミモザとなっている。
原液がどうなのかは、その欄に記録がない。
融点 32〜35 °C
白色結晶で、融点が 32 から 35 °C の間に入る。
体温の近く、そして夏の室内が達しうる温度でもある。**この材料は棚の上で固体と液体を行き来する。**それ自体は無害だが、多くの人が希釈液を買う理由の説明にはなる。コーパスの 13 回のうち 8 回に 10% か 1% の表記がついている。
(前の数篇で、共溶媒は自分の融点が室温の範囲に入るかを見る必要があると書いた。ここでは同じことが活性材料の側に出ている。)
抗菌剤という欄
化粧品用途の欄は「抗菌剤;賦香剤」になっている。
フェノール類に抗菌活性があるのは古くからの知識で、この欄が思い出させるのは、この材料が処方の中で香りの貢献者だけではないということだ。どの濃度で抗菌作用が出るのか、それが香料としての濃度とどれだけ離れているかは調べていない。
コーパス
公開処方 954 件のうち、パラクレゾールは 13 件、1.4% に現れる。
表記は para-cresol が 5 回、para-cresol 10% が 5 回、para-cresol 1% が 3 回。八割以上の用例が希釈液になっている。
使用量の中央値は 0.700%、90 パーセンタイルが 5.000%、最大 5.31%。
それらの数字の多くは希釈液の使用量であって純物質の量ではない。10% と表記された 5 件では、実際の純物質は表示値の十分の一になる。
同じコーパスでイランイランは 159 件(16.7%)、ジャスミン類は 101 件(10.6%)に現れる。
なぜイランイランのスレッドに出てくるのか
フォーラムにカナダの話を書いた人がいる。
「パラクレゾール禁止のせいで商業処方にイランイランを使えなくなったカナダの調香師に合掌」(Hoshi_Gato)
カナダの規制の現状は検証できない。このデータベースにその情報はない。検証できるのはこの手がかりの前半で、パラクレゾールは確かに同属の油に記録されていて、GHS の急性毒性表示を持つ分子になっている。
天然の複合物が制限を受けるとき、原因が中の一成分にあってその油自体にはない、ということはよくある。de Groot と Schmidt が 2017 年に Dermatitis に出した〈サンダルウッド油、イランイラン油、ジャスミンアブソリュート〉が扱っているのがまさにこの構造で、接触アレルギーとその原因となる成分を並べている。
Geier らが 2022 年に Contact Dermatitis で示した IVDK のデータでは、イランイラン(I + II)油のパッチテスト陽性率が 12 種類の精油で最も高い 3.9% だった。あの論文が測ったのは油であって成分ではない。
この記事が立証していないこと
- **私はこれを嗅いでいない。**全編がデータベースの項目と論文二本による。
- **0.27% はカナンガ油(中国産)の一つの数字にすぎない。**データベースはイランイランの各分留のパラクレゾール含量を与えておらず、分留は組成を変える。
- **カナダの規制の現状は検証していない。**あのフォーラムの書き込みについて確認できたのは「パラクレゾールがこの属の油に存在する」ところまでになる。
- **イランイランが IFRA の制限を受ける成因は検証していない。**検索中に見た説明はイソオイゲノールを指していたが、検証しておらず、パラクレゾールとは別の話になる。
- 毒性の数字は出典が古く(BIOFAX 1969)、動物の急性毒性であって、人の皮膚接触にそのまま外挿できない。
- 「24 倍」は二つの LD50 の比で、イランイラン側は「5000 超」の下限なので、実際の開きはこれより小さくなることはない。この方向を明示しておく。
- 抗菌作用が出る濃度は調べていない。
- **コーパスの 13 件は少なすぎる。**使用量の統計は参考程度で、しかも希釈液と純品が混ざっている。
- **原液の香りは記述していない。**データベースの香りの記述欄がジプロピレングリコール 0.10% までしか記録していないためになる。