原料図鑑 · 87
原料図鑑:ベラトルアルデヒド——データベースの定義は「ヘリオトロピンの代替品」、そして954件に1回しか出てこない
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CAS 120-14-9。供給元52社。黄色い結晶の針状で、融点42〜45 °C。だから固体で届く。残香400時間、強度は中、10%以下での評価が推奨されている。データベースの備考欄にはひとことしか書かれていない。ヘリオトロピンの代替品。天然での存在は5件だけで、そのうち一つがブルボンバニラだ。面白いのは公開処方にほぼ存在しないことで、954件のうち1件。ところが投稿されたばかりのクレームブリュレの処方では、85部で第4位の行を占めていて、同じ処方にはヘリオトロピンも入っている。
**短く言うと:**安く、入手しやすく、残香400時間のバニラ—ヘリオトロープ方向の材料で、公開処方ではほぼ誰も使っていない。データベースがこれに与えた定義は一言だけ。ヘリオトロピンの代替品。
欄
| 欄 | 内容 |
|---|---|
| CAS | 120-14-9 |
| 系統名 | 3,4-ジメトキシベンズアルデヒド |
| 分子式 | C9H10O3、分子量166.18 |
| 外観 | 黄色い結晶の針状(推定) |
| 融点 | 42–45 °C |
| 沸点 | 281 °C @ 760 mmHg |
| 引火点 | > 110 °C |
| logP | 1.50(推定) |
| 水溶解度 | 6320 mg/L @ 25 °C(実測) |
| 香調型 | クリーミー |
| 香調 | 甘い、ウッディ、バニラ、クリーミー、パウダリー、ハーバル、フェノリック |
| 強度 | 中。10%以下の溶液での評価を推奨(ランク2) |
| 残香 | 400時間(100%で) |
| 天然での存在 | 5件 |
| 供給元 | 52社 |
| 規制 | JECFA 877、FEMA GRAS 3109、CoE 106、FLAVIS 05.017 |
| 経口毒性 | ラットLD50 2000–2040 mg/kg |
| 経皮毒性 | ウサギLD50 > 5000 mg/kg |
備考欄は一文だけ
データベースの備考欄はこう書いている。
**「ヘリオトロピンの代替品。**ペパーミント、ラズベリー、ショウガ、ブルボンバニラから分離。バニラのフレーバーに用いられる」
**「ヘリオトロピンの代替品」(Heliotropin replacer)。**これがデータベースの与えた定義のすべてになる。
ヘリオトロピン(ピペロナール)はこのシリーズで扱った材料で、140件の処方に中央値3.17%で入る、古典的なパウダリー—バニラ—アーモンドの一本だ。ベラトルアルデヒドはその隣に置かれ、置き換えられる側として扱われている。
構造上の違いははっきりしている。ヘリオトロピンはメチレンジオキシベンズアルデヒド(あの五員環がある)で、ベラトルアルデヒドは3,4-ジメトキシベンズアルデヒド(独立したメトキシ基が二つ)。同じ位置で、片方は環になり、片方はならない。
使用面での違いは、データベースが収録した匂いの記述がもっと細かく語っている。
- Mosciano(『Perfumer & Flavorist』1993、DPG中10%):「甘い、クリーミー、バニリン様、パウダリー、ハーバルで、わずかにフェノリックなニュアンス」
- Arctander:「甘いバニラ、クリーミー、ヘリオトロピン、ウッディ、クマリン」
- 別の供給元の記録:「カラメル、チェリー、クリーミー、ウッディ、シトラス、ミンティ」
**Arctanderの記述は「ヘリオトロピン」を香調の語としてそのまま使っている。**この材料は、置き換える相手そのものの匂いがする。
あの融点
42–45 °C、黄色い結晶の針状。
このシリーズは第41篇で測っている。最も使われる120本のうち、データベースの二欄が一致して固体と言えるのは10本だけだった。ベラトルアルデヒドはその120本には入らない(珍しすぎる)が、同じ種類のものになる。
42–45 °Cの意味は、どの室温でも固体であり、しかもグアイアコール(28–32 °C)やジフェニルオキサイド(27 °C)のように夏に自分で融けたりはしないということだ。薬さじと秤量ボートと忍耐が要る。
良い知らせは水溶解度が6320 mg/L(実測)で、溶解度欄に「エタノール;50%アルコール1部;油類;熱水」とあることだ。**結晶の固体としては、よく溶ける部類になる。**Tonalide(水溶解度0.29 mg/L)とは別世界だ。
資料にはほぼ存在しない
公開処方954件のうち、ベラトルアルデヒドが出てくるのは1件。
その1件では40%を占めている。
**この二つの数字のどちらも説明するつもりはない。**標本1件では何も言えないし、40%という比率は強度が中の材料としては異常に高く、その処方自体の性質(何かのベースか単一材料のデモ)である可能性が高い。
言えるのは、供給元52社と食品側の規制番号四つがあって、公開処方には見えない、ということだけだ。
市場がどこにあるかは備考欄が方向を出している。**「バニラのフレーバーに用いられる。」**FEMA 3109、JECFA 877、CoE 106、FLAVIS 05.017。食品側の番号が四つに対し、化粧品用途は一項(perfuming agents)。このシリーズは第86篇のヘキサナールで同じ比率に出会い、結論も同じだった。主戦場は食品にある。
あのクレームブリュレの処方
それでも調香で使っている人はいる。同じ回のはじめての調香が、投稿されたばかりのクレームブリュレの処方を分析した。36行、合計1000。ベラトルアルデヒドはその中で85部、第4位の行になる(TEC 280、エチレンブラシレート115に次ぎ、エチルバニリンと並ぶ)。
さらに面白いのは、同じ処方にヘリオトロピンも入っていることだ(50% DPGの希釈液35部、純物質に換算して17.5部)。
代替品が85部、置き換えられる側が17.5部。
なぜそう配合したのかを外から知る手段はない。考えられる読みはいくつかある。ベラトルアルデヒドのほうが安い、そのウッディ—クマリンの面はヘリオトロピンにない、あるいは二本を重ねた効果はどちらか単独では作れない。この欄は観察を記録するだけにして、理由は推測しない。
ただし「代替品」という語の実際の使われ方を示している。処方の中では、代替品と原品はしばしば一緒に現れる。二択ではない。
天然での存在は5件だけ
天然での存在欄はこうなっている。
シャンパカアブソリュート(Michelia alba)@ 0.04%;ショウガ;ペパーミントの葉;赤ラズベリーの果実;バニラ
**5件。**前回扱ったリナロール(558件)やヘキサナール(107件)と比べると、非常に狭い。
なかでも面白いのがバニラだ。ベラトルアルデヒドはバニラビーンズの中に、ごく微量、存在している。しかも匂いはバニリンによく似ている。**バニラの微量成分であって、バニラの代替品ではない。**この二つは文献でもしばしば混ぜて語られる。
備考欄の原文は「ペパーミント、ラズベリー、ショウガ、ブルボンバニラから分離」だ。動詞に注意したい。記録は isolated from(分離された)であって、constituent of(の成分)ではない。この言い回しはデータベースでは通常「かつてここから得られたことがある」を意味し、「これが商業的な由来だ」ではない。52社が売っているのは合成品だ。
クレームブリュレの化学
同じ回のはじめての調香が二本の論文を引いている。ここでは関係だけ簡単に書く。
2013年のKimらはSPME-GCOとAEDAで加熱牛肉の強力な匂い物質を測り、メイラード反応揮発物として4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン(カラメル様)と3-ヒドロキシ-4,5-ジメチル-2(5H)-フラノン(スパイシー)を挙げている。2020年のFanらはチベットの青稞酒(官能上カラメル様の香りを持つ)を測り、匂い活性値に基づいてソトロンとフラネオールを重要でありうる化合物に含めた。
まったく無関係な二つの食品で、同じ二分子が挙がっている。
ベラトルアルデヒドはこの二つのリストにない。**メイラード反応の産物ではなく、バニラの側のものだ。**クレームブリュレの香水には両側が要る。焼けた砂糖の側(マルトール類、Sulfurol、グアイアコール)と、卵と乳とバニラの側(バニリン、エチルバニリン、ベラトルアルデヒド、ヘリオトロピン)。あの処方には両方が入っている。
買うかどうか
- バニラ、ヘリオトロープ、パウダリー方向を作りたくて、しかも長く残したいなら、残香400時間と供給元52社は割のいい一本になる。
- **固体なので薬さじを用意する。**融点42–45 °Cで、自分では融けない。
- **ただしよく溶ける。**水溶解度6320 mg/Lでエタノールにも溶け、大半の結晶材料より扱いやすい。
- **公開処方にはほぼ参考例がない。**他人がどう使ったかの実例が見つからないので、この一本は自分で試すことになる。
- **ヘリオトロピンと併用できる。二択ではない。**あのクレームブリュレの処方がそうしている。
- **10%の希釈液から評価する。**データベースの推奨は10%以下で、このシリーズでは中程度の要求になる。
この記事が示していないこと
- **資料は1件、比率40%で、そこから何も推論しない。**標本1件では分布の話にもならない。
- **「ヘリオトロピンの代替品」はデータベースの定義であって、私が嗅いで判断したものではない。**この二本の実際の匂いを比べていない。
- **あのクレームブリュレの処方で、なぜ代替品のほうが原品より多いのかは分からない。**この節は観察の記録にとどめている。
- 天然での存在5件には含量が併記されていない(シャンパカアブソリュートの0.04%を除く)。バニラビーンズの中にどれだけあるかを、この記録は書いていない。
- **引用した二本の論文はベラトルアルデヒドを測っていない。**メイラード反応の側の分子を立てるために使っており、ベラトルアルデヒドがその側にないことを示すためのものだ。
- **融点も残香400時間もデータベースの値だ。**このシリーズはすでに、データベースがこれらの欄の測り方を説明していないことを測っている。