はじめての調香 · 56
ピラジンとピリジンの違い——「Google は構造の違いしか教えてくれず、それが匂いとどう関係するかは教えてくれない」
· 15 分
r/DIYfragrance に、メイラード反応系の香料を買いたいがアセチルピリジンとアセチルピラジンの違いが分からない、ピロリンやピリミジンやピリダジンも含めて、という質問が立った。本人の書き方が的確だった。Google は構造の違いしか教えてくれず、それが香りとどう関係するかは教えてくれない、と。7 件の返信はすべて「両方買って嗅げ」で、しかもスレッドにピリジンを使ったことがある人はいなかった。この問いにはデータベースが答えられる。裸の環の段階ですでに分かれている。ピラジン環そのものがナッティ、ロースト、ヘーゼルナッツ。ピリジン環そのものがサワー、魚臭、アンモニア。そして 2001 年の論文がニューラルネットで、構造だけから 98 本のピラジンを三つの香りクラスに 93.7% の精度で分類している。彼が欲しかった関係は存在していて、しかも定量されている。
所要 7 分。
この質問は多くの人より明確に書かれていた。
「メイラード反応系の香料をいくつか買おうとしているのだが、アセチルピリジンとアセチルピラジンの違いで混乱している。ピロリン、ピリミジン、ピリダジンといった関連化合物もある。**Google は分子構造の違いしか教えてくれず、それが香りとどう関係するかは教えてくれない。**どちらかがより安定、あるいはより実用的なのか。化学を調香に結びつけた経験のある方はいるだろうか」
7 件の返信がついた。最も充実していたのがこれになる。
「私もこの道を通った。正直なところ、両方を自分の鼻で確かめるのがいちばん役に立つ。一方はよりナッティで、プラリネ、ピーナッツバター、コーヒー、チョコレートに向く。もう一方はバター、ポップコーン、脂っぽさに向く。ピーナッツとマカダミアの違いを説明しようとするようなもので、同じ科でも別物で、別のレシピに使う」(oldtobes)
質問者は二度「違いは香りだけなのか」「ピラジンの方がピリジンより良いのか」と聞き返し、返ってきたのはこれだった。
「ピリジンは自分で試したことがないので分からない」(Hoshi_Gato)
7 件の返信のうち、ピリジンを使ったことがある人は一人もいなかった。
この問いにはデータベースが答えられる。しかも「両方買って嗅げ」より精確に答えられる。
まず裸の環を見る
これらはどれも窒素を含む環になる。ピリジンは窒素が一つ、ピラジンは二つが対の位置、ピリミジンは二つが間の位置、ピリダジンは二つが隣り合う。
いちばん直接的なやり方は置換基を全部外して、環そのものがどう匂うかを見ることだ。四つの裸の環はデータベースにある。
| 裸の環 | CAS | 供給元 | 香調タイプ | 香調欄 |
|---|---|---|---|---|
| ピラジン | 290-37-9 | 17 社 | ナッティ | 刺激的、甘い、コーン、ロースト、ヘーゼルナッツ、ローストした大麦 |
| ピリジン | 110-86-1 | 23 社 | 魚臭 | サワー、魚臭、アンモニア |
| ピロール | 109-97-7 | 13 社 | ナッティ | 甘い、温かい、ナッティ、エーテル的 |
| チアゾール | 288-47-1 | 16 社 | 魚臭 | 魚臭、ナッティ、ミーティ |
違いは何も付ける前から存在している。
ピラジンの裸の環はすでにナッティ、ロースト、ヘーゼルナッツ、ローストした大麦になっている。ピリジンの裸の環はサワー、魚臭、アンモニア。
データベースがピリジンの香りの記述欄に書いていることはもっと強い。**プロピレングリコール 0.01% で「吐き気を催す、サワー、腐敗臭、魚臭、アミン」。**同じ欄が Arctander の説明を引いていて、ピリジンの主な用途はコーヒーとチョコレートに関係する、両者の香りの重要な一部を成すからだ、とある。
その二つは同時に成り立つ。コーヒーの中では鍵で、単体では腐敗臭になる。
庫全体の分布
データベース全体を走査すると、これらの環系は規模がかなり違う。
| 環系 | 全庫件数 | 供給元あり | 最も多い香調タイプ |
|---|---|---|---|
| ピラジン | 236 | 149 | ナッティ 37、グリーン 11、アーシー 7、チョコレート 6 |
| ピリジン | 114 | 85 | グリーン 9、ナッティ 3 |
| チアゾール | 161 | 91 | ナッティ 13、グリーン 9、ミーティ 6 |
| ピロール | 151 | 48 | 分散していて主導的なものがない |
| ピリミジン | 29 | 5 | 分散 |
| ピリダジン | 1 | 0 | — |
質問者は五つの family を挙げた。そのうちピリダジンは 42,225 件の中に一件しかなく、供給元はゼロ。ピリミジンは 29 件のうち買えるのが 5 件だけ。
彼がこれから調べようとしていたもののうち二つには、そもそも市場がない。
ピラジンは 149 件が買えて、ピリダジンは 0 件になる。この問いはここで終わる。
そしてピラジンとピリジンの香調タイプの分布も違う。ピラジンの上位四つはすべてメイラード方向(ナッティ、グリーン、アーシー、チョコレート)で、ピリジンの一位はグリーン、ナッティは 3 件しかない。
この二つの family は、同じものの二つの味ではない。
ただし彼が聞いた組は例外になる
質問者が聞いたのはアセチルピリジン対アセチルピラジンで、この組はちょうど二つの family が交わるところに当たる。
| 2-アセチルピラジン #445 | 2-アセチルピリジン #441 | |
|---|---|---|
| CAS | 22047-25-2 | 1122-62-9 |
| 分子式 | C6H6N2O | C7H7NO |
| 香調タイプ | ポップコーン | ポップコーン |
| 供給元 | 80 社 | 45 社 |
| 外観 | 白色から淡黄色の結晶粉末 | 淡黄色から褐色の液体 |
| 融点 | 76〜78 °C | データベースになし |
| logP | 0.20 | 0.90 |
| 推奨評価濃度 | 0.10% 以下(強度欄は「非常に高い」) | 1.00% 以下(「高い」) |
| 香調 | ポップコーン、ナッティ、コーンチップ、パンの耳、チョコレート、ヘーゼルナッツ、コーヒー、マスティ、ロースト、ポテト | ポップコーン、コーンチップ、脂っぽさ、タバコ、コーン、マスティ、ナッティ |
**どちらもポップコーンタイプになる。**アセチル基が付くと、裸の環の違いが覆い隠される。
それでも香調欄の分岐は、フォーラムのあの一文とそのまま対応している。共通するのはポップコーン、コーンチップ、ナッティ。ピラジン側だけにあるのはパンの耳、チョコレート、ヘーゼルナッツ。ピリジン側だけにあるのは脂っぽさとタバコ。
oldtobes は「一方はよりナッティでプラリネ、ピーナッツバター、コーヒー、チョコレートに向く。もう一方はバター、ポップコーン、脂っぽさに向く」と書いた。
データベースのピリジン側の欄には fatty と書かれている。彼の鼻は正しかった。出典を示せなかっただけになる。
彼が触れなかった、そして買う前に知っておくべき違いがもう一つある。**ピラジン側は結晶粉末で融点 76 から 78 °C、ピリジン側は液体。**片方は先に溶かす必要があり、もう片方は要らない。
「Google は構造しか教えてくれない」は逆になる
質問者の前提は、構造と香りの関係は調べられないというものだった。その関係は調べられるし、定量もされている。
Wailzer らは 2001 年に J Med Chem で、ニューラルネットワークで二つのことをやった。分類では 98 本のピラジンを、グリーン 32 本、ベルペッパー 43 本、ナッティ 23 本に分け、多層パーセプトロンで構造記述子だけから 93.7% の精度で分類している。
回帰では閾値を予測し、ベルペッパー群のテストセットで Pearson R が 0.926、グリーン群で 0.948 だった。
同じグループが 2000 年に J Agric Food Chem で前段の仕事をしている。ベルペッパー香気化合物 46 本の QSAR と CoMFA で、使ったのは log(1/c)、c は水中での検知閾値になる。除外しておいたピラジンのヒトの嗅覚閾値を予測することに成功している。
**つまりピラジン family の内部では、構造から香りのクラスも閾値も予測できる。**質問者が欲しかった線は存在していて、ただそれが医薬化学の雑誌にあって Google の一ページ目にないだけになる。
限界を一つ立てておく。この二本はどちらもピラジン family の内部を扱っている。ピラジン対ピリジンは扱っていない。family をまたぐ問いについて、上で使ったのはデータベースの記述統計であってモデルではない。
サンプリングのずれ
Wailzer の 98 本の分類はベルペッパー 43、グリーン 32、ナッティ 23 になっている。ナッティは少数派で 23% にすぎない。
一方、このデータベースの 236 件のピラジンのうち香調タイプが入っているものでは、ナッティが 37 件で最多、グリーンが 11 件で二番目になる。
両者が食い違うのは、データが間違っているからではなく、二つのサンプルが別の目的で組まれているからだ。Wailzer の一群はベルペッパー香気の QSAR のために選ばれていて、だからベルペッパーの比率が高い。このデータベースが収めているのは、誰かが記録した、そして多くは誰かが売っている材料になる。
**「ピラジンはたいてい何の匂いか」を問うと、この二つのサンプルは違う答えを返し、どちらも間違っていない。**手元のリストが何のために組まれたものかを先に確かめる必要がある。
その窒素はどこから来るのか
質問者のメイラード反応への関心にも触れておく。
Li らは 2025 年に Food Research International で、18 種のタンパク質構成アミノ酸を 160 °C で一時間、低水分条件で加熱し、揮発性化合物の生成を調べた。結果の一つが直感と違う。還元糖がなくても、側鎖に脂肪族水酸基を持つもの(セリン、スレオニン)とアミド基を持つもの(グルタミン、アスパラギン)はピラジンを生成した。
そして茶葉の組成を模したスクロース主体の糖混合物を加えると、揮発性化合物の分布はフラン、アルデヒド、酸の方へ移り、ピラジンの生成が調節された。
「糖+アミノ酸=ピラジン」という覚え方は粗すぎるということになる。どのアミノ酸か、糖があるか、どの糖かで結果が変わる。
(あの論文の糖と EGCG のモデル基質は茶葉の組成に基づいていて、著者自身が主に焙じ茶の焙煎に適用できると書いている。)
「アセチルピラジンが悪くなった気がする」
同じ板の別のスレッドで、アセチルピラジンを受け取ったばかりの人がいた。
「アセチルピラジンの匂いがとても強いのだが、正常なのか分からない。足のような匂いがする。子どもが遊ぶタール舗装の遊び場のような。そしてとても強くて、グルマンな要素がまったくない。希釈しても同じ」
返信は三つの異なる濃度を出した。0.01%(Parsnip888)、0.1%(frioke)、「1% ならたぶん少しは」(CapnLazerz)。
質問者はあとで正直に書いている。
「正直、百分率は計算していない。今日届いたばかりで、とりあえず試したかった」
データベースのその欄はこうなっている。強度は非常に高い、0.10% 以下の溶液での評価を推奨。
frioke の 0.1% がデータベースと一致する。
そして質問者が嗅いだのは原液で、推奨濃度の千倍になる。香調欄にはもともと musty(カビ臭)と roasted が入っていて、その倍率では他のすべてを覆い隠す。
悪くなっていない。
コーパス
公開処方 954 件のうち、これらの出現率はどれも低い。
| 環系 | 件数 | 割合 | 希釈表記のある割合 |
|---|---|---|---|
| ピラジン類 | 6 | 0.6% | 73% |
| チアゾール類 | 7 | 0.7% | 100% |
| ピリジン類 | 1 | 0.1% | 100% |
| ピロール類 | 1 | 0.1% | 0% |
標本が小さすぎるので使用量については結論を出さない。言えるのはその 73% から 100% の方で、**これらの材料は処方の中でほぼ希釈液の形で現れる。**フォーラムのあのスレッドの教訓と同じことになる。
実際にどうするか
- **ピリダジンとピリミジンは後回しでよい。**ピリダジンは全庫一件で供給元ゼロ、ピリミジンは 29 件のうち買えるのが 5 件。
- **メイラード方向ならピラジンから。**149 件が買えて、香調タイプの上位四つがその方向にある。
- **ピリジン family の重心はグルマンにない。**一位の香調タイプはグリーンで、裸の環は魚臭になる。良いものもあるが(アセチルピリジン、タバコ的な 3-エチルピリジン)、それはこの family の主流ではない。
- **買う前に外観の欄を見る。**アセチルピラジンは結晶粉末(融点 76〜78 °C)、アセチルピリジンは液体になる。
- **届いたらまず希釈する。原液から嗅がない。**データベースの推奨はアセチルピラジンで 0.10% 以下、トリメチルピラジンで 0.01% 以下。
- **この区画の材料に評価濃度の通則はない。**同じピラジンでもアセチルが 0.10%、トリメチルが 0.01% で十倍違う。一本ずつ見る。
この記事が立証していないこと
- **どれも嗅いでいない。**全編がデータベースの項目、コーパス、論文三本による。
- **裸の環の香調欄はその四件の記述であって、実験による比較ではない。**記録者も年代も違い、ブラインドでもない。
- **「ピラジン 236 件、ピリジン 114 件」は名称の文字列照合による。**名前に環系の語が入っていない材料は拾えないので、これらは過小評価になる。
- **香調タイプの分布はその欄が埋まっているレコードだけを含む。**236 件のピラジンのうち香調タイプが入っているのは一部なので、「ナッティ 37」は件数であって割合ではない。
- Wailzer 2001 と Buchbauer 2000 はどちらもピラジン family の内部を扱っていて、ピラジンとピリジンの違いには使えない。family をまたぐ節は記述統計になる。
- Wailzer の 93.7% は分類精度で、データセットは彼ら自身が選んだ 98 本になる。材料を替えて維持される保証はない。
- Li 2025 のモデル基質は茶葉に基づいていて、著者自身が主に焙じ茶に適用できると書いている。
- **残香欄は今回使っていない。**アセチルピラジンは 400 時間(ジプロピレングリコール 10%)、アセチルピリジンは 9 時間(100% 原液)で、条件が違って比較できない。理由はローズオキサイドの回と同じになる。
- コーパスはどの類も 8 件未満で、使用量を語るには足りない。