はじめての調香 · 57
天然原料はどれだけ振れるのか——「今手元にあるロットがどこに落ちるか分からない」を測る
· 11 分
r/DIYfragrance の今月最大のスレッド(97 件)は天然と合成のどちらが安全かという話だった。その中に毒性学の研究を本業にしている人の投稿があり、他の人と違うことを言っていた。天然物の問題は毒性ではなく、そのロットの活性成分の濃度が分からないことだ、と。この主張は測れる。データベースで含有率が入っている 1,800 件を分解して、「ある分子がある植物の異なる産地でどれだけ振れるか」の組み合わせを 806 組取り出した。倍率の中央値は 7.1 倍、四割以上が 10 倍を超え、最大は 1,985 倍。ラベンダー油の酢酸リナリルは 0.1% から 34.69%。そしてローリエのオイゲノールは 0.1% から 68.93%、これは IFRA が個別に制限している成分になる。
所要 8 分。
r/DIYfragrance の今月最大のスレッド、97 件。主題は天然と合成のどちらが安全かで、投稿者の苛立ちの発端はソーシャルメディアの「ノントキシック」な香りの動画だった。
スレッドの大半は互いに同意している。ただ一件だけ、他の人とは別のことを言っていた。
「本業は毒性学の研究だが、「天然」の製品はたいていより**危険になる。活性成分の濃度が分からないからだ。**弱いロットで効果を出すのに必要な量が、強いロットでは中毒量になりうる。そして今手元にあるロットがそのスペクトルのどこに落ちるかは、決して分からない」(Benevolentwanderer)
同じことの別の面を言っている投稿が二つある。
「精油には大量の異なる香料分子が入っていて、しかもその用量がまるで予測できない」(TryinaD)
「合成の成分は一般に安定していて、効果は予測でき再現もできる」(Academic-Ad2201)
ここで言われているのは毒性ではなく振れ幅になる。そして振れ幅は測れる。
(毒性の方は別の記事で扱った。あちらはパッチテストの陽性率を使っている。ここで測るのは別のものになる。)
測り方
データベースの「天然での存在」の欄は、ある分子がある天然素材にどれだけ含まれるかを記録している。書式はこうなっている。
geranium leaf oil india @ 0.74%; geranium oil bourbon @ 0.31%; geranium rose-scented oil cuba @ 5.50%
この欄に百分率が入っている材料が全庫に 1,800 件ある。それぞれを分解し、素材名の最初の二語を植物キーにして(geranium oil、lavender oil、thyme oil)、同じ植物キーの下に産地が 3 つ以上ある組み合わせだけを残し、最大値を最小値で割った。
806 組が得られた。
結果
| 倍率 | |
|---|---|
| 中央値 | 7.1 倍 |
| 75 パーセンタイル | 24.7 倍 |
| 90 パーセンタイル | 72.5 倍 |
| 最大 | 1,985 倍 |
| 閾値 | 超える割合 |
|---|---|
| 2 倍 | 84.1% |
| 5 倍 | 58.9% |
| 10 倍 | 41.8% |
| 50 倍 | 14.4% |
| 100 倍 | 7.4% |
四割以上の組み合わせで、同じ分子が同じ植物の産地違いのあいだで十倍を超えて振れている。
あの毒性学者が言った「今手元にあるロットがどこに落ちるか分からない」の、その範囲の広さがこれになる。
具体例
供給元が多い、つまり実際に買うことになるものから選ぶ。
| 分子 | どこに | 産地数 | 範囲 | 倍率 |
|---|---|---|---|---|
| 酢酸リナリル | ラベンダー油 | 6 | 0.1% – 34.69% | 347 倍 |
| チモール | タイム油 | 9 | 0.2% – 71.84% | 359 倍 |
| ゲラニオール | タイム油 | 6 | 0.04% – 11.8% | 295 倍 |
| α-テルピネオール | クラリセージ | 4 | 0.2% – 47.4% | 237 倍 |
| 1,8-シネオール | マジョラム油 | 4 | 0.21% – 42.6% | 203 倍 |
| β-カリオフィレン | バジル油 | 5 | 0.17% – 48.7% | 287 倍 |
ラベンダーの行で一度止まる価値がある。**酢酸リナリルはラベンダーの主要成分の一つで、それが産地違いのラベンダー油のあいだで 0.1% から 34.69% まで振れている。**ラベンダー油は供給元 117 社で、初心者が最初に買う天然原料としていちばん多い。
これが安全の問題になるとき
上に挙げたのは香りの問題になる。次の二行は別のものだ。
| 分子 | どこに | 範囲 | 倍率 |
|---|---|---|---|
| オイゲノール | ローリエ | 0.1% – 68.93% | 689 倍 |
| エストラゴール | ローリエ | 0.03% – 32.8% | 1,093 倍 |
この二つはどちらも個別に規制されている成分になる。
前回イランイランについて書いたときに触れた。IFRA が天然の複合物に制限をかける理由は、その中の制限成分の推定含有量にあることが多い、と。それを裏返すと——処方にローリエ油を一定量入れたとき、実際に入るオイゲノールの量は買ったロットによって 689 倍振れうる。
そしてそれは瓶を見ても分からない。
純度欄に出ると思っていたが、出なかった
この解析をする前に予想があった。合成単体の純度規格は狭く(「98.00 から 100.00」のように)、天然のものは広いはずだ、と。
調べたところ、その予想は外れた。
| 件数 | 純度区間の幅の中央値 | |
|---|---|---|
| 単体(CAS があり、名称に oil/absolute/extract を含まない) | 21,929 | 5.00 ポイント |
| 天然類(名称に oil/absolute/extract/oleoresin を含む) | 1,078 | 5.00 ポイント |
同じだった。この欄では両者を区別できない。
区別できるのは別のことになる。その欄があるかどうかだ。
| 総件数 | 純度欄あり | |
|---|---|---|
| 単体 | 28,667 | 22,114(77%) |
| 名称に oil を含むもの | 2,538 | 474(19%) |
精油のレコードの五分の四には、そもそも純度規格がない。
これは元々探していたものより興味深い。合成単体の多くは照合できる規格を持ち、精油の多くは持たない。規格が緩いのではなく、規格がない。
なぜこれほど広いのか
Thompson らが 2003 年に J Chem Ecol でタイム(Thymus vulgaris)を調べた結果が、上の 359 倍を説明してくれる。
**タイムには六つの化学型(ケモタイプ)があり、野外で明確な空間的分離を示す。**単一の化学型が多数を占める個体群もあるが、二つか三つの化学型が同居する個体群も多い。
彼らの定量的な結果は二層になっている。第一に、フェノール系の化学型(チモール、カルバクロール、生合成鎖の末端に位置する)の油では、主要モノテルペンが占める割合が非フェノール系(ゲラニオール、α-テルピネオール、リナロール)より有意に低い。フェノール系の油には前駆体(γ-テルピネンとパラシメン)が大量に含まれるからだ。
第二の層がより重要になる。ある化学型が多数型でない地点では、その化学型の主要モノテルペンの百分率が有意に低下する。
つまり手に入るタイム油の組成は、それがどの化学型かだけでなく、採取地点の個体群構成にも左右される。
それは品質管理の量ではなく植物学の量になる。
商業側で測るといくつか
Thompson が測ったのは野外の個体群で、買い手が向き合うのは棚の上になる。
Abouelela らは 2026 年に Scientific Reports で、エジプト市場の商用ラベンダー精油四本を GC-MS とケモメトリクスにかけた。結果はこうなっている。
- 8 つの化学クラスに属する 54 種の揮発性代謝物を同定
- エステル類が総揮発物の 11.4% から 46.1%(四本のあいだで約 4 倍)
- アルコール類が 24.7% から 42.6%
- 品質指標であるリナロールと酢酸リナリルは、上位二本がそれぞれ 33.61%/24.72% と 46.09%/32.65%
- 一部の試料に非特徴的な脂肪酸エステルと合成グリコールが異常に高く検出され、キャリアオイルや配合添加物による希釈または混ぜ物の可能性が示された
同じ市場、同じ名前、四本の瓶で、エステル含量が四倍違い、しかもいくつかは混ぜ物が疑われる。
私の 347 倍は産地違いのあいだのもので、彼らの 4 倍は小売の四本のあいだのものになる。二つは同じものを測っていない。それでも向きは揃っている。
この記事が立証していないこと
- **これは毒性についての結論ではない。**測ったのは組成の振れ幅で、「よく振れる」と「危険」のあいだには用量、曝露経路、個人差といった層がいくつもある。そのどれにも触れていない。
- **同じく、合成の方が安全だという証明にもならない。**あのスレッドには、合成香料に実際の不良反応があると書いている人が何人かいた。振れ幅のデータはその経験と矛盾しないし、それを否定する材料にもならない。
- **806 という数字は私の分類規則に依存する。**素材名の最初の二語を植物キーにしたので、
geranium oil bourbonとgeranium leaf oil indiaは別の群(geranium oilとgeranium leaf)になる。規則を変えれば数字は変わる。 - **この欄が記録しているのは文献の報告値であって、同一ロットの反復測定ではない。**産地も年も分析法も論文も混ざっている。**測っているのは「文献上に見える範囲」であって、「三本続けて買ったときに出会う範囲」ではない。**後者は必ず狭くなる。
- **報告バイアスは上向きになる。**極端に高い、あるいは低い試料の方が論文に載りやすい。
- **「産地 3 つ以上」は私が設けた閾値。**産地が 1 つか 2 つの組み合わせは除外されていて、それらは報告の少ない分子が多い。
- **合成単体側の実測のロット差は調べていない。**77% に純度欄があるというのは規格が存在するという意味であって、どのロットも規格内だという意味ではない。
- **純度欄の中央値がどちらも 5 ポイントである点は掘り下げていない。**これほど揃っているのは記録上の既定値である可能性が高いが、区別する手段がない。
- Thompson 2003 は南フランスの野生個体群で、商業栽培のタイムではない。
- **Abouelela 2026 は試料が四本、しかもエジプト市場に限られる。**四本では母集団を語れない。
- **GC/MS は一切行っていない。**全編がデータベースの項目と論文二本による。