安全 · 5
「合成は頭痛がするから天然しか使わない」——その線引きはリスクを予測しない
· 13 分
化学物質で頭痛と吐き気がするので天然の香料だけを使う、という投稿があった。データはそうは言わない。ヨーロッパの18,832名のパッチテストで、香料系のマーカーとして最も陽性率が高いのはペルーバルサムの6.5%であり、これは天然の樹脂になる。ドイツの10,930名の研究では、12本の精油のうちイランイラン油が3.9%で首位だった。そしてIFRAの規制対象では、天然物のほうが制限より禁止に振れやすい。当サイトのデータベースはこの問いに答えられない。それも書いておく価値がある。
r/DIYfragrance に処方の批評を求める投稿があり、冒頭で自分の方針が説明されていた。初心者だが意図的に天然の香料だけを使っている、化学物質の多くで頭痛と吐き気がするからだ、と。返信は89件。
同じコミュニティの別のスレッドでは、フランスの山中の小道で大量のオークモスを見つけた人が、アブソリュートの抽出方法を尋ねていた。しかもキャンドルを作るつもりだと断っている。その用途にはIFRAの制限がないからだ。
この二つを並べると示唆的になる。後者は制限を確認することを知っていた。前者はもっと手軽な規則を使っていた。天然なら安全だ、という規則を。
その規則はリスクを予測しない。以下がデータになる。
まず要点
- 2021〜2022年のヨーロッパ 18,832名のパッチテストで、香料系マーカーとして最も陽性率が高いのは**ペルーバルサムの6.5%**になる。天然の樹脂であり、フレグランスミックスIの6.39%をわずかに上回る。
- ドイツの 10,930名の研究は12本の精油を検査し、8.3%が少なくとも1本に陽性、イランイラン油が3.9%で最も高かった。
- IFRA第51次改訂の索引263項目のうち、名前から天然物と分かるのは26項目で、そのうち11項目は全面禁止(42%)。残る237項目の禁止率は30%になる。
- 当サイトのデータベースはこの問いに答えられない。 天然/合成のタグを持つ17,002件のうち、GHSの危険有害性データがあるのは367件だけで、synthetic とタグ付けされた637件では一件もない。
読了の目安は9分ほど。
最も陽性率が高いマーカーが天然物
まず最大のデータセットから。
Uter らの2026年の合同報告は、2021年と2022年にヨーロッパ14か国59部門で行われたパッチテストを対象とし、18,832名を集計している。香料関連の二つのマーカーはほぼ横並びになる。
| アレルゲン | 陽性率(95%信頼区間) |
|---|---|
| ニッケル | 18.85%(18.29–19.43) |
| ペルーバルサム(Myroxylon pereirae) | 6.5%(6.15–6.87) |
| フレグランスミックスI | 6.39%(6.04–6.76) |
| MCI/MI 防腐剤 | 5.52%(5.11–5.96) |
| プロポリス | 5.47%(5.12–5.84) |
ペルーバルサムは中米の樹木から採れる樹脂になる。天然物であり、ベースラインシリーズ全体でニッケルに次ぐ二位に立つ。
五位のプロポリスも天然物であることを付け加えておく。
この表は公平に読みたい。ペルーバルサムはパッチテストで香料とバルサム類のマーカーとして機能するので、その陽性率の一部は交差反応に由来し、この一つの材料がそれだけの人を害したという意味ではない。それでも、この順位そのものが要点を語る。天然が安全の同義語なら、二位には来ない。
1万人に12本の精油
より直接的な証拠は、Geier らが2022年に Contact Dermatitis で報告したもので、ドイツのIVDK皮膚科ネットワークの 2010年から2019年のデータによる。
皮膚炎患者10,930名が12本の精油について目的をもってパッチテストを受け、908名(8.3%)が少なくとも1本に陽性を示した。
1%を超えたのは6本になる。
| 精油 | 陽性率 |
|---|---|
| イランイラン油(I + II) | 3.9% |
| レモングラス油 | 2.6% |
| ジャスミンアブソリュート | 1.8% |
| サンダルウッド油 | 1.8% |
| クローブ油 | 1.6% |
| ネロリ油 | 1.1% |
精油どうし、また精油と香料のあいだの同時反応は頻繁だった。精油陽性の患者では、女性、下肢の皮膚炎の患者、40歳以上、そしてマッサージ師と美容従事者の比率が高かったと著者らは記している。
著者ら自身の結論は抑制が効いている。精油への感作は起こる、ただし多くの場合は頻繁ではない。リスクが高いのはマッサージ師や美容従事者のような職業曝露のある層になる。
この抑制は真似したい。この研究は精油が危険だとは言っていない。精油だからといって免除はされない、と言っている。そして8.3%は、すでに症状があって紹介されてきた皮膚科の受診集団の数字になる。
IFRAリストの天然物は制限より禁止に振れる
第三の角度は規制リストそのものから来る。
前回の記事のために取り寄せたIFRA第51次改訂の索引は、263の材料項目を持つ。名前のキーワード(oil、absolute、extract、resinoid、balsam、moss など)で分けると、26項目が天然物、リストの10%になる。
違いはどの種類の標準が当たるかにある。
| 項目数 | 全面禁止 | 制限または規格 | |
|---|---|---|---|
| 名前から天然物と分かるもの | 26 | 11(42%) | 15 |
| 残り(大半は単品) | 237 | 72(30%) | 165 |
禁止された11項目には、アラントルート油、樺木の乾留物、ボルド油、カデ油、アカザ油、コスタスルート油・アブソリュート・コンクリート、イチジク葉アブソリュート、マッソイア樹皮油、サントリナ油、サビン油、タジェット油・アブソリュートが含まれる。
過剰に読まないよう注意したい。この263項目はIFRAが管理を要すると判断した材料であって、全材料の無作為標本ではない。天然物の判定も名前の照合なので、外すことも見落とすこともある。したがってこの数字は「天然物のほうが危険だ」を支えない。
支えられるのはもっと狭く、そのぶん確かなことになる。規制された材料の中では、天然物は「使うな」の側に、単品は「減らせ」の側に寄る。 おそらく理由はこうなる。単品は上限で制御できるが、天然物は数百の分子の混合物であり、責任を負う単一成分を特定できないとき、残る手段は全面禁止になる。
ついでに書いておくと、オークモスを拾ったあの人は下調べが正しかった。オークモスはリストにあり、禁止ではなく制限になっている。
当サイトのデータベースでは答えが出ない
この記事を書くとき、もっと見栄えのする分析を考えていた。データベースの各原料のGHS危険有害性分類を取り、天然と合成の二群で比率を比べる、というものだ。
返ってきたのはこうだった。
| タグ | 原料数 | GHS記載あり |
|---|---|---|
| natural | 11,845 | 31(0.3%) |
| natural/synthetic | 4,520 | 336(7.4%) |
| synthetic | 637 | 0 |
synthetic とタグ付けされた637件のうち、危険有害性の欄が埋まっているものは一件もない。 この記載率で二群の危険性の比率を比べても、測れるのは誰の記録が完成しているかであって、誰が安全かではない。
この結果は書き残す価値がある。原料カタログに共通する不具合だからだ。危険有害性の欄は選択的に埋められ、その欠落は無作為ではない。 それにこの三つのタグは「この瓶の中身が抽出品か合成品か」ではなく、「この分子が自然界に見つかるか」を意味する。ユーカリの記事は同じ混同の別の面を扱っている。
次に誰かがカタログの欄で天然と合成を比べているのを見たら、まずこう尋ねたい。二つの群で記載率は同じか、と。
頭痛のほうはどうか
投稿者が述べたのは頭痛と吐き気であって、発疹ではない。これは別のものになる。
ここまでのデータがすべて測っているのは接触アレルギーで、パッチテストが測るのは皮膚接触に対する免疫反応になる。頭痛と吐き気は機構の異なる別の種類の反応であり、今回の探索では「合成香料は天然香料より頭痛を起こしやすいか」に答えられる研究を見つけられなかった。
だから正直な答えはこうなる。分からない。そして決着をつけられるデータを見つけられなかった。
より実際的なのは問いを変えることになる。天然か合成かではなく、どの材料が、どの濃度で、どんな状況で不調を招いたのかを記録する。その記録は行動につながるが、分類のラベルはつながらない。買った天然精油そのものが数百の分子の混合物なので、「天然で頭痛がする」は「合成で頭痛がする」とまったく同じくらい何も特定していない。
その規則の代わりに使うもの
分類ではなく材料を見る。 どの材料にもそれ自身の記録がある。IFRAの上限、GHS分類、パッチテストの陽性率。その材料は今日まだ使えるかに確認の手順がある。
濃度を見る。 両側で有効な唯一の変数になる。柑橘の光毒性は天然物、ヒドロキシシトロネラールは合成単品だが、扱いは同じだ。その製品カテゴリーの上限を調べ、その内側にとどまる。
酸化を見る。 これは天然物でより重い。リナロール、ゲラニオール、シトラールは、純品では穏やかで酸化すると感作するという共通点を持つ。天然精油はこれらの成分を最初から含むので、置いた瓶は感作の可能性が上へ動いていく。小分けし、日付を書き、対照を残す。
天然と合成の線が確実に予測する唯一のものはロットの一貫性であり、その方向は天然物に不利になる。植物名を保ったまま産地、部位、年を変えれば、比率もそれに従って動く。
この記事が立証していないこと
パッチテストの集団は一般人口ではない。 どちらの研究も、すでに症状があって紹介された患者を対象とする。6.5%も8.3%も有病率ではない。
IFRAの比較はリスト内部の比較になる。 263項目は規制対象として選ばれた材料であって、材料一般の標本ではない。天然/合成の分割はキーワード照合なので、一部の単品を誤分類し、該当語を含まない天然物を見落とす。
ペルーバルサムの高い値には交差反応が含まれる。 ベースラインシリーズでの役割はマーカーなので、その数字をこの一材料に全額請求することはできない。
この記事は頭痛に答えていない。 データを見つけられなかったのであり、推測で埋めても記事は良くならない。
参考文献
J. Geier ほか, Contact sensitization to essential oils: IVDK data of the years 2010-2019, Contact Dermatitis, 87(1), 71–80 (2022). PMID 35417610. doi:10.1111/cod.14126
W. Uter ほか, Patch Test Results With the European Baseline Series, 2021/2022 — Joint European Results of the ESSCA and the EBS Working Groups of the ESCD, and the GEIDAC, Contact Dermatitis, 95(1), 17–32 (2026). PMID 41819607. doi:10.1111/cod.70134
IFRA, Index of IFRA Standards – 51st Amendment(2023-06-30 通知)。2026-08-27 確認。
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