安全 · 4
自分で調香するのは健康にどれだけ危険か——最多票の答えは調べれば誤りで、最少票の一件が正しい
· 14 分
フォーラムで、この趣味は体に悪いのかという問いが立った。返信は25件。52点の最多票は「危ないのは財布だけ」、23点の次点は「IFRA第12類の制限がある材料はほとんどない」と述べた。第51次改訂の全文を取り寄せて数えたところ、第12類の欄を持つ標準は177件、うち40件に数値の上限があり、そのうち7件は0.25%を下回る。ただし、より重要なのは、第12類がそもそも見るべき欄ではないという点になる。
2か月前、r/DIYfragrance にこんな問いが立った。しばらく調香をしてきたが、健康への影響を考えたことがなかった。IFRA が制限している原料は、100%の濃度で吸ってもいけないのではないか。肌に付けるべきでないものなら、肺に入れるべきでもないはずだ。調香する人が浴びる香料の量は、香水を使うだけの人の千倍くらいになる。考えすぎだろうか。
返信は25件。52点の最多票はこうだった。常識さえあれば、DIY調香が脅かすのは財布だけになる。
23点の次点はもう少し具体的だった。危険ではない、明らかに愚かなことをしなければよい。IFRA の第12類は肌に触れない製品の限度なので、空気中のものが気になるならそこの制限を見ればよい。ネタバレしておくと、第12類の制限がある材料はほとんどない、せいぜい20件ちょっとだろう、と。
そして管轄の関係を正しく整理した唯一の返信は、1点しか付いていない。
まず要点
- 「第12類の制限がある材料はほとんどない」は調べられる主張であり、誤りになる。第51次改訂で第12類の欄を持つ標準は177件、そのうち40件に数値の上限がある。7件は0.25%を下回る。
- より重要なのは、第12類がそもそも見るべき欄ではないという点になる。IFRA の12カテゴリーが記述するのは消費者の手にある完成品であって、あなたの手にある原液の瓶ではない。
- 実データのある長期リスクは接触アレルギーであって、肺ではない。2021〜2022年のヨーロッパで18,832名にパッチテストを行った結果、フレグランスミックスI の陽性率は 6.39% になる。
読了の目安は9分ほど。
調べられる主張を数えた
IFRA 公式 CDN から第51次改訂の全文(約12 MB)を取り寄せ、各標準の第12類の欄を解析した。
| 第12類の欄 | 標準数 |
|---|---|
| 数値の上限 | 40 |
| no restriction | 132 |
| see notebox | 5 |
| 合計 | 177 |
参考までに、索引ファイルが記録する第51次改訂の内訳は原料名263、標準項目277(制限173、禁止85、規格19)になる。
40件の上限は幅が広い。多くは数十パーセントの水準で、実務上ぶつかることは少ない。ケイ皮アルコール51%、クマリン33%、サリチル酸ヘキシル64%、α-アミルケイ皮アルコール79%。以下はそうではない。
| 材料 | 第12類の上限 |
|---|---|
| 2,4-ジメチルシクロヘキサンメタノール | 0.0013% |
| カルボメントン | 0.0019% |
| フルフラール | 0.050% |
| メチルオイゲノール | 0.066% |
| 7-メトキシ-3,7-ジメチルオクタ-1-エン | 0.1% |
| エストラゴール | 0.11% |
| メトキシシクロドデカン | 0.18% |
| ジベンジルエーテル | 0.24% |
「ほとんどない」は言い過ぎになる。40件は20件ちょっとではないし、そのうち7件は肌に触れるカテゴリーの多くより厳しく抑えられている。
クマリンとシクラメンアルデヒドがどちらもその40件に入っていることは書き留めておきたい。どちらも初心者が早い段階で出会う材料になる。
それでも第12類は答えではない
数字を訂正しても、その下にある推論の向きが合っていない。
IFRA の12カテゴリーが分類しているのは完成品の使用状況になる。第4類は香水、第6類は口に入るもの、第12類はキャンドルやディフューザーのように肌に触れない製品。どの欄も「その完成品に何%まで入れられるか」に答えている。
どの欄も「原液の瓶を開けて10分間鼻先に置いていた」には答えない。それは別の曝露になる。濃度100%、距離は数センチ、しかも希釈してくれる完成品が存在しない。
1点しか付いていないあの返信は、そこを整理していた。認定を受けた安全専門職を名乗るその人は、IFRA が扱うのは消費者が完成品を手にしてからの問題であり、原料を扱う作業者には労働安全の枠組みが当たると書いていた(許容曝露濃度の考え方と、その根拠を導く NIOSH と ACGIH の名前を挙げている)。結論はこうなる。DIY で調香する人は、完成品を使う消費者ではなく、原料を扱う作業者の側に立っている。
この枠組みは正しい。趣味の調香が労働安全法規の適用を受けることはふつうないが、曝露の形はそちら側に似ている。間違った表を引けば「問題なし」と返ってくるが、その「問題なし」は他人の問いに答えたものになる。
SDS 論争:どちらも半分正しい
このスレッドのやり取りで一つ、開いておきたいものがある。
一方は、買った材料の SDS を読め、と言う。もう一方は、SDS が与えるのは倉庫と輸送に関わる情報であって通常使用の情報ではない、と返す。一方はさらに、毒性学、内分泌かく乱、発がん性、生殖毒性、LD50、応急措置、生態情報が載っていると返す。
どちらも半分正しい。SDS には実際の危険有害性分類と毒性データが載っており、それらの欄は飾りではない。ただし SDS が設計されているのは化学品一般の危険有害性の伝達であって、「作業台で瓶を開けて10分嗅いで安全か」には答えないし、調香の配合量の指針も与えない。別の返信がこの限界をうまく言っていた。SDS が挙げる危険の多くは、55ガロンのドラム缶が破損したときの清掃と環境リスクという枠組みで書かれている。
実務上の使い方はこうなる。SDS からは危険有害性分類(Hから始まる番号)と応急措置を取り、使用マニュアルとしては扱わない。 当サイトの原料図鑑がGHSの危険有害性情報を毎回載せているのは、この理由による。
データのあるリスク
年単位で何が起きるかを問うなら、大規模な証拠があるのは接触アレルギーになる。
Uter らが2026年に Contact Dermatitis で発表した合同報告は、2021年と2022年にヨーロッパ14か国59部門でヨーロッパ基準シリーズを用いたパッチテストを集計し、対象は 18,832名になる。
フレグランスミックスI の陽性率は 6.39%(95%信頼区間 6.04–6.76)、ペルーバルサムが 6.5%。最も多いのは依然としてニッケルの 18.85%。前回の報告期間と比べて監視結果はおおむね安定していると著者らは述べている。
対比として小規模な症例集積も見ておきたい。Lin と Chao は2025年、Journal of Clinical Medicine で台湾南部の医療センターにおける 2019年4月から2023年5月のパッチテストを振り返り、接触皮膚炎の 57名を対象とした。塩化コバルトが 24.6% で最多、フレグランスミックスI が 19.3% で2位、ペルーバルサム 17.5%。手が最も多い発症部位で、美容師と化粧品関連の職業が手湿疹と関連していた。
この二つの数字は直接比べられない。 19.3% は 6.39% の3倍に見えるが、57名という規模であり、しかも三次医療機関の紹介患者、つまりパッチテストまで辿り着く時点で全員に症状がある集団になる。この割合が答えているのは「パッチテストを受けた人のうち何割が香料に反応したか」であって、「何割の人が香料に反応するか」ではない。ヨーロッパの数字も同じ選択を受けているが、標本が大きく国もまたがっており、傾向を見るには耐える。
二つを合わせて支えられるのは控えめな言い方になる。皮膚科の受診集団の中で、香料は上位のアレルゲンに位置しており、その位置は長年安定している。 日常的に素手で原液に触れる人にとって、実数の付いているリスクはこれになる。
吸入についてはどうか
正直に書くと、趣味で調香する人の吸入曝露を扱った研究は見つけられなかった。
関連する手がかりが一つある。RIFM の2026年の基準更新文書は、この10年で評価プロセスに取り込んだ変更として呼吸器経路の曝露と統合曝露評価の手法を挙げている。業界の安全性評価は吸入を扱っている。ただしその評価が向いている先は完成品を使う消費者であって、作業台で瓶を開ける人ではない。
この空白自体が、この記事の結論の一つになる。研究がないことは、リスクがないことでも、あることでもない。 その問いには今のところ、あなたを対象にした答えが存在しない。だから IFRA の表から安心を読み取るのではなく、化学品一般の取り扱い原則で管理することになる。
実際にやること
証拠のあるリスクの順に並べる。
まず手袋。 接触アレルギーは大規模な疫学のある唯一のリスクであり、感作は蓄積する。今日なんともないことは、5年後について何も語らない。原液に触れるなら手袋を着ける。
希釈してから評価する。 これは二つの問題を同時に解く。原液では鼻が誤るし(当サイトの各篇が「10%以下で評価」と書くのはこのため)、吸い込む量も桁で下がる。
換気はする、ただし恐慌はいらない。 通常の気流のある部屋で足り、ドラフトチャンバーは要らない。使ったら蓋を戻し、開けた瓶を一列に並べたまま一日置かない。
保護眼鏡。 スレッドでも触れられていたが、多くの材料のGHS分類に「重篤な眼刺激」が入っている。飛散は現実の事故であり、目に二度目はない。
作業台では飲食しない。 すべての化学品に共通する基本であって、香料に固有の話ではない。
終わったら手を洗う。 台湾の症例集積で最も多かった発症部位は手になる。
この記事が立証していないこと
第12類の集計は第51次改訂によるもの。 第52次は手続きの途中にあり(詳細はこちら)、数字は動く。解析は多段組のPDFで「Category 12」に続く値を文字列照合したもので、行の取りこぼしや誤読はありうる。40は下限として扱いたい。
職業曝露の実測値は持っていない。 1点の返信が挙げた許容曝露濃度の考え方は妥当だが、香料材料の多くに物質固有の限度値はなく、「どれだけの時間で超えるか」の数字は出せない。その投稿者自身も、研究が行われているとは思わないと断っていた。
パッチテストの集団は一般人口ではない。 どちらの研究も、すでに症状のある人からなる医療機関のデータになる。二つの百分率は有病率ではない。
天然物の農薬残留は扱っていない。 スレッドで指摘があったが、別のデータ群を要する別の主題になる。
参考文献
W. Uter ほか, Patch Test Results With the European Baseline Series, 2021/2022 — Joint European Results of the ESSCA and the EBS Working Groups of the ESCD, and the GEIDAC, Contact Dermatitis, 95(1), 17–32 (2026). PMID 41819607. doi:10.1111/cod.70134
S. H. Lin, Y. C. Chao, Clinical Characteristics and Patch Test Results in 57 Patients with Contact Dermatitis in Southern Taiwan, Journal of Clinical Medicine, 14(7), 2291 (2025). PMID 40217742. doi:10.3390/jcm14072291
A. M. Api ほか, Updates to the RIFM Criteria Document for fragrance ingredient evaluation, Food and Chemical Toxicology, 217, 116329 (2026). PMID 42567301. doi:10.1016/j.fct.2026.116329
IFRA, The complete IFRA Standards up to and including the 51st Amendment(2024年1月)および Index of IFRA Standards – 51st Amendment(2023-06-30 通知)。2026-08-27 確認。
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