はじめての調香 · 112
はじめての調香 #112:アルデヒドのC番号は、C-12までしか炭素数ではない
· 13 分
954件の処方コーパスには、旧式のアルデヒドC番号で書かれたレコードが501件あり、28通りの表記に分かれている。それらを1つずつデータベースに戻して対照表を作った。C-6からC-12までは正直だ。数字は炭素数であり、中身も本当にアルデヒドである。C-14からはそうではない。Aldehyde C-14 はガンマウンデカラクトンで炭素11、ラクトンでありアルデヒドではない。C-16 はエチルメチルフェニルグリシデートで炭素12、エポキシエステル。C-18 はガンマノナラクトンで炭素9。しかもデータベース自身がこの3件の名称欄に so-called と書き添えている。もう1つ検証した。この8組の名称で、2つの表記を同時に使っている処方は1件もなく、重複はすべて0だったので統合は安全だ。統合するとガンマウンデカラクトンはコーパスの29位から15位に、デカナールは44位から25位に上がる。
読了目安 5 分。
要点だけ
- コーパスにはアルデヒドのC番号で書かれたレコードが 501件あり、28通りの表記に分かれる
- **C-6からC-12までは正直だ。**数字は炭素数で、中身も本当にアルデヒドである
- C-14、C-16、C-18 はどれもアルデヒドではなく、数字も炭素数ではない
| 番号 | 実体 | 分子式 | 炭素数 |
|---|---|---|---|
| C-14 | ガンマウンデカラクトン | C11H20O2 | 11 |
| C-16 | エチルメチルフェニルグリシデート | C12H14O3 | 12 |
| C-18 | ガンマノナラクトン | C9H16O2 | 9 |
- データベース自身がこの3件の名称欄に
(so-called)と書いている - 8組の名称を突き合わせたところ、2つの表記を同時に使う処方は1件もなく、重複はすべて0
- 統合するとガンマウンデカラクトンは 29位から 15位へ上がる
前回が残した最大の塊
前回は名称正規化のどの段階が効くかを測り、 解析率を60.32%から72.81%へ押し上げた。残った4,753件の未一致レコードのうち、 最大の単一の型がアルデヒドのC番号であり、そのとき「どんな文字列正規化でも救えない」と書いた。未一致のレコードにはもう一つ潜んでいた。分子量欄の14件が、炭素だけを数えた質量になっている。
aldehyde c-14 と gamma-undecalactone の間には、共通する文字が1つもないからだ。
これは何の番号か
20世紀初頭の香料商習慣だ。脂肪族アルデヒドを炭素数で番号を付けて売った。 C-8はオクタナール、C-10はデカナール、C-12はドデカナール。単純で覚えやすく、化学名を読めなくてもよい。
コーパスでは今も使われており、501件、表記は28通りある。
aldehyde c-10、aldehyde c 10、aldehyde c-10 10% dpg、aldehyde c 10 decylic……
対照表
各番号をデータベースに戻し、分子式と炭素数を取り出した。
| 番号 | データベースの材料 | 分子式 | 炭素数 | 一致 | サプライヤー |
|---|---|---|---|---|---|
| C-6 | hexanal(ヘキサナール) | C6H12O | 6 | ✓ | 70 |
| C-7 | heptanal(ヘプタナール) | C7H14O | 7 | ✓ | 41 |
| C-8 | octanal(オクタナール) | C8H16O | 8 | ✓ | 73 |
| C-9 | nonanal(ノナナール) | C9H18O | 9 | ✓ | 63 |
| C-10 | decanal(デカナール) | C10H20O | 10 | ✓ | 92 |
| C-11 undecylenic | 10-undecenal | C11H20O | 11 | ✓ | 41 |
| C-11 undecylic | undecanal | C11H22O | 11 | ✓ | 35 |
| C-11 MOA | 2-methyl decanal | C11H22O | 11 | ✓ | 18 |
| C-11 intreleven | intreleven aldehyde | C11H20O | 11 | ✓ | 21 |
| C-12 lauric | dodecanal | C12H24O | 12 | ✓ | 53 |
| C-12 MNA | 2-methyl undecanal | C12H24O | 12 | ✓ | 40 |
| C-14 | gamma-undecalactone | C11H20O2 | 11 | ✗ ラクトン | 119 |
| C-16 | strawberry glycidate | C12H14O3 | 12 | ✗ エポキシエステル | 63 |
| C-18 | gamma-nonalactone | C9H16O2 | 9 | ✗ ラクトン | 96 |
C-6からC-12までの11行は、数字がすべて炭素数で、中身がすべてアルデヒドだ。 この範囲では体系として完全に機能している。
そこで途切れる。
データベース自身が知っている
自分で判断するしかないと思っていたが、レコードを開くと name 欄はこうなっていた。
gamma-undecalactone (aldehyde C-14 (so-called))
strawberry glycidate 1 (aldehyde C-16 (so-called))
gamma-nonalactone (aldehyde C-18 (so-called))
**(so-called)。**データベースが名称欄の中でその名前を否認している。
他の11件にはこの注記がない。decanal (aldehyde C-10)、octanal (aldehyde C-8)、
dodecanal (aldehyde C-12 lauric) はどれもそのまま書かれている。
**編者はどの3つが嘘かを知っていて、印を付けた。**このデータベースで見た中で最も正直な自己注記だ。
サプライヤーが最も多いのは、最も正直でないものだ
C-14(ガンマウンデカラクトン)はサプライヤー 119社で、この表のどの本物のアルデヒドより多い。 C-18は96社、C-16は63社。
「アルデヒドC系列」で最も人気のある3本のうち、2本はラクトン、1本はエポキシエステルである。
C-12には別の材料が2つある
正直な範囲の中でさえ、番号だけでは足りない。
| C-12 lauric | C-12 MNA | |
|---|---|---|
| 材料 | dodecanal(直鎖) | 2-methyl undecanal(分岐) |
| 分子式 | C12H24O | C12H24O |
| 蒸気圧 @25 °C | 0.034 | 1.428 |
| サプライヤー | 53 | 40 |
**同じ分子式、違う分子。**蒸気圧は42倍違う。
処方に aldehyde c-12 としか書かれていなければ(コーパスに実際そう書いた処方が1件ある)、どちらか判別できない。
ついでに:残香欄はC-8とC-9の間で39倍跳ぶ
この表を作るとき残香も一緒に取り出した。
| 番号 | 蒸気圧 | 残香 |
|---|---|---|
| C-6 | 10.888 | 4 h |
| C-7 | 3.854 | 12 h |
| C-8 | 2.068 | 7 h |
| C-9 | 0.532 | 276 h |
| C-10 | 0.207 | 224 h |
**炭素1つで、7時間が276時間になる。**蒸気圧の差は3.9倍しかない。 蒸気圧が1桁下がると残香は約5.85倍と算出したので、 3.9倍の差は約2.6倍、つまり18時間程度に対応するはずだ。
そしてC-12 MNAの蒸気圧は1.428で、オクタナール(2.068)とさほど変わらないのに、残香は388時間と書かれている。
この欄は順位として使うべきだと前回書いた。ここはその追加の傍証だ。
2つの表記を同時に使う処方は1件もない
統合の前に1つ検証した。aldehyde c-14 と gamma-undecalactone が本当に同じ材料なら、
両方を同時に列挙する処方はないはずだ(同じ材料を二度書くことになる)。
8組すべてを調べた。
| C番号の表記 | 件数 | 化学名の表記 | 件数 | 同時出現 |
|---|---|---|---|---|
| aldehyde c-14 | 64 | gamma-undecalactone | 85 | 0 |
| aldehyde c-10 | 64 | decanal | 21 | 0 |
| aldehyde c-12 lauric | 51 | dodecanal | 20 | 0 |
| aldehyde c-18 | 25 | gamma-nonalactone | 17 | 0 |
| aldehyde c-9 | 25 | nonanal | 9 | 0 |
| aldehyde c-8 | 27 | octanal | 7 | 0 |
**すべて0だ。**各処方の書き手は1つの流儀を選び、最後までそれで通している。 これは「両者が同一である」ことを支持すると同時に、統合しても二重計上にならないことを意味する。
統合すると順位がすべて上がる
| 材料 | 統合前の件数/順位 | 統合後の件数/順位 |
|---|---|---|
| gamma-undecalactone | 85/29位 | 149/15位 |
| decanal | 64/44位 | 103/25位 |
| dodecanal | 51/65位 | 83/32位 |
| 10-undecenal | 59/51位 | 77/37位 |
| 2-methyl undecanal | 60/49位 | 67/42位 |
| gamma-nonalactone | 25/135位 | 42/78位 |
| nonanal | 25/134位 | 42/78位 |
| octanal | 27/119位 | 38/85位 |
ガンマウンデカラクトンは954件の処方で 15位に入る。このコーパスで最もよく使われる材料の1つでありながら、 これまでは2つに割れていて、中位の材料が2本あるように見えていた。
そのまま使える規則
プログラムを書くなら、この対照表はそのまま辞書になる。
c-6 → hexanal c-11 undecylenic → 10-undecenal
c-7 → heptanal c-11 undecylic → undecanal
c-8 → octanal c-11 moa → 2-methyl decanal
c-9 → nonanal c-12 lauric → dodecanal
c-10 → decanal c-12 mna → 2-methyl undecanal
c-14 → gamma-undecalactone
c-16 → ethyl methylphenylglycidate
c-18 → gamma-nonalactone
まず re.sub(r'ald(ehyde)?\s*c[-\s]*', 'c-', name) で28通りの表記を1つに収束させ、それから引く。
この記事が示していないこと
- **C-14/C-16/C-18 がなぜその数字なのかは分からない。**匂いが「何炭素のアルデヒドに相当するか」で 分類されたという説明をよく見るが、引用できる一次資料が見つからなかったので書かない。
- **この表はコーパスに現れた番号しか覆っていない。**C-13、C-15、C-17、C-20 は調べていない。 このコーパスには存在しないからだ。
- 「同時に使う処方が1件もない」は必要条件であって十分条件ではない。 「両者が同一である」ことと矛盾しないが、それだけでは証明にならない。本当の証拠は データベースの名称欄が2つの名前を並べて書いていることのほうだ。
- 統合後の順位はこの954件のコーパスの順位であって、市場シェアではない。
aldehyde c-11 intrelevenとundecenal mixtureは扱っていない。 コーパスには現れないがデータベースにはあり、前者は10-undecenalと蒸気圧も残香も完全に同じ (0.039/380時間)なので同一材料の2レコードかもしれないが、確認していない。- 1978年の Mason らの毒性研究は、タイトルに「strawberry aldehyde」と書いている(PMID 711053)。 **毒性の文献でさえこの誤った名前を使っている。**問題はこのデータベースにあるのではない。