はじめての調香 · 113
はじめての調香 #113:名前を統合したあとの、本当の使用材料ランキング
· 13 分
4回かけて3つの統合規則を積み上げた。メーカー括弧の剥ぎ取り、アルデヒドC番号の対照表、そして手書きの別名12行だ。解析率は当初の54.9%から81.98%まで上がった。その手書き12行は955件のレコードを救い、データベース自身が持つ95,214件の別名は14件しか救わなかった。統合するとランキングの姿が変わる。データベースの正式名で dipropylene glycol を探すと32件だが、実際は470件で14.7倍。styralyl acetate は正式名で26件、実際は135件。Verdox の正式名 green acetate は16件、実際は75件。さらに極端なのは、正式名がコーパスに一度も現れない材料がある。Iso E Super はこのデータベースでは patchouli ethanone と呼ばれており、その名前でコーパスを検索すると0件になる。残る3,150件は2つの型に分かれ、そのうち795件は天然物の等級の問題で、これは名称の問題ではない。
読了目安 5 分。
要点だけ
- 4回にわたる解析率の積み上げ。
| 方法 | コーパスの成分レコードのカバー率 |
|---|---|
name のみ |
54.9% |
+head_synonym |
60.3% |
| +メーカー括弧の剥ぎ取り | 72.8% |
| +アルデヒドC番号の対照表 | 76.5% |
| +手書きの別名12行 | 81.98% |
- 手書き12行が955件を救い、データベースの95,214件の別名は14件しか救わない
- 統合後、dipropylene glycol の実使用は正式名の 14.7倍(470件対32件)
- 正式名がコーパスに一度も現れない材料がある。Iso E Super はここでは
patchouli ethanoneだ - 残る3,150件のうち 795件は天然物の等級の問題で、名称の問題ではない
積み上げた3つの規則
前の3回は1つずつ問題を処理してきた。
- 別名欄の87.9%は欠けた断片で、救えない
- メーカー括弧の剥ぎ取りが2,003件。正規化の中で唯一効く
- アルデヒドC番号は対照表を引く。
aldehyde c-14はガンマウンデカラクトン
今回は3つを重ねて走らせ、76.52%になった。そこから未一致の名称を眺めて、12行を手で書いた。
dipg → dipropylene glycol
phenylethyl alcohol → phenethyl alcohol
cinnamic alcohol → cinnamyl alcohol
rose oxide → laevo-rose oxide
damascenone → beta-damascenone
cis-3-hexenol → (Z)-3-hexen-1-ol
cis-3-hexenyl acetate → (Z)-3-hexen-1-yl acetate
cis-3-hexenyl salicylate → (Z)-3-hexen-1-yl salicylate
linalol → linalool
styrallyl acetate → styralyl acetate
methyl ionone gamma supreme → N-methyl ionone
12行で+955件、解析率は81.98%になった。
対照として、データベースの synonyms 欄には95,214件の別名があり、追加すると14件増える。
手で書いた12行の価値は、あの欄の68倍である。
統合後の上位25
| 順位 | 件数 | 使用量の中央値 | 材料 |
|---|---|---|---|
| 1 | 470 | 10.00% | dipropylene glycol(溶剤) |
| 2 | 380 | 6.00% | linalool |
| 3 | 323 | 10.00% | phenethyl alcohol |
| 4 | 317 | 5.00% | benzyl acetate |
| 5 | 227 | 2.22% | coumarin |
| 6 | 220 | 5.94% | citronellol |
| 7 | 207 | 5.56% | linalyl acetate |
| 8 | 198 | 5.60% | geraniol |
| 9 | 178 | 7.00% | methyl dihydrojasmonate(Hedione) |
| 10 | 164 | 1.58% | eugenol |
| 11 | 161 | 8.00% | hydroxycitronellal |
| 12 | 161 | 9.47% | benzyl salicylate |
| 13 | 157 | 8.00% | alpha-hexyl cinnamaldehyde |
| 14 | 156 | 6.00% | dihydromyrcenol |
| 15 | 154 | 5.97% | lilyall(Lilial) |
| 16 | 149 | 1.48% | gamma-undecalactone(aldehyde C-14) |
| 17 | 140 | 3.00% | heliotropin |
| 18 | 137 | 1.00% | vanillin |
| 19 | 135 | 1.00% | styralyl acetate |
| 20 | 132 | 3.45% | patchouli oil |
| 21 | 130 | 3.88% | alpha-terpineol |
| 22 | 110 | 1.55% | geranyl acetate |
| 23 | 110 | 6.00% | patchouli ethanone(Iso E Super) |
| 24 | 107 | 1.94% | beta-ionone |
| 25 | 100 | 0.50% | (Z)-3-hexen-1-ol |
**1位は954件のうち470件に現れる。処方2件に1件はDPGを入れているということだ。**それは溶剤であって香料ではない。 本当の香料の背骨は2位から始まる。
正式名で探すとどれだけ取りこぼすか
| 統合後 | 正式名のみ | 倍数 | 材料(コーパスの実際の表記) |
|---|---|---|---|
| 470 | 32 | 14.7× | dipropylene glycol(dipg 442) |
| 135 | 26 | 5.2× | styralyl acetate(styrallyl acetate 78、gardenol 31) |
| 75 | 16 | 4.7× | green acetate(verdox 49) |
| 90 | 22 | 4.1× | 2,4-ivy carbaldehyde(triplal 63) |
| 79 | 26 | 3.0× | methyl cedryl ketone(vertofix 50) |
| 178 | 84 | 2.1× | methyl dihydrojasmonate(hedione 165) |
この表の使い方。データベースで材料を調べて「26件の処方にしか出ていない」と書いてあったら、その数字は過小評価の可能性が高い。
正式名の出現が0の材料がある
さらに極端な型。データベースの name 欄の文字列が、954件の処方に一度も現れない。
| 統合後の件数 | データベースの name |
コーパスの実際の表記 |
|---|---|---|
| 154 | lilyall |
lilial |
| 149 | gamma-undecalactone (aldehyde C-14 (so-called)) |
gamma-undecalactone、aldehyde c-14 |
| 130 | (-)-alpha-terpineol |
alpha-terpineol |
| 110 | patchouli ethanone |
iso e super |
| 100 | (Z)-3-hexen-1-ol |
cis-3-hexenol |
| 98 | cinnamyl alcohol |
cinnamic alcohol |
| 82 | musk gx 50% in IPM |
galaxolide 50 ipm |
Iso E Super はこのデータベースでは patchouli ethanone という名前だ。
現代の香水で最もよく使われるウッディ材の1つでありながら、通行している名前で name 欄を検索すると0件になる。
(救いは head_synonym 欄に iso e super (IFF) と書かれていることだ。
これは2回前の結論をもう一度裏づけている。
使えるのは head_synonym であって synonyms ではない。)
#107で重複を1つ見落としていた
187材料の使用量分布を測ったとき、
表に phenylethyl alcohol(49件、中央値15.00%)と phenethyl alcohol(274件、10.00%)を並べていた。
**同じ材料である。**CAS 60-12-8、データベースの名前は phenethyl alcohol。
あのとき dipg と dipropylene glycol の重複は捕まえて記事に書いたのに、この組は捕まえられなかった。
綴りが似すぎていて、読み流してしまったのだ。
統合後の正しい数字は 323件、中央値10.00% で、3位に入る。
残る3,150件は2つの型
| 型 | 名称数 | 件数 |
|---|---|---|
天然物(oil/absolute/extract を含む) |
168 | 795(25%) |
| その他(商品名のロングテール) | 834 | 2,355 |
**天然物のほうは名称の問題ではない。**コーパスは ylang ylang oil(113件)と書き、
データベースには ylang ylang flower oil、同 I、II、III の4件がある。
これは表記ゆれではなく、コーパスの粒度がデータベースより粗いということだ。
統合は選択であって修正ではない。4つの等級を1つにまとめれば、等級という情報を捨てることになる。
orange oil(52件)はもっと悪い。データベースに単純な orange oil は存在せず、
orange oil terpenes、blood orange oil italy、orange oil replacer などしかない。
もう一方は商品名のロングテールだ。iralia total、fixolide、cetalox、isoraldeine 70、melonal。
こちらは1行ずつ手書きの別名表に足していけるもので、時間がかかるだけである。
この記事が示していないこと
- **手書きの12行は残余リストを読みながら打ったものだ。**どれもCASか名称の一致を確認したが、 第三者の検証はなく、確実に不完全である。
- 81.98%はこの954件のコーパスの数字だ。
- このランキングは「何件の処方に出るか」であって、使用量のランキングではない。 使用量の中央値は別の列であり、両者は違う。DPGは最も多く現れるが、クマリンの中央値は2.22%しかない。
- **統合後に各材料の使用量中央値を再検査してはいない。**同じ処方内で1つの材料が2つの名前で現れる場合 (C番号の8組についてはそれがないことを前回確認した)、 量を合計する方針をとった。妥当だと考えているが、1,145材料すべてで検証したわけではない。
- **「正式名の出現が0」の表は
name欄しか見ていない。**それらの材料のhead_synonymはたいてい正しい。 挙げたのは「1つの欄だけを検索してはいけない」と言うためだ。 - 化学名称の照合には専門の文献がある。ここでやったのは4つの規則と1枚の手書き表だ。 Krallinger らのCHEMDNERコーパス(PMID 25810773)や Akhondi らの識別子一貫性の研究 (PMID 23237381)はその分野のものであって、これではない。