はじめての調香 · 41
「この材料が溶けない」——固体で届くかどうかを、なぜ調べられないのか
· 14 分
r/DIYfragranceに、Tonalideの大きな塊を砕いて腕が痛くなるまで撹拌したという愚痴が投稿された。ついでに「今まで扱った中で一番厄介だった材料は」と聞いている。返信31件が十数本を挙げた。このスレッドの本当に面白いところは、彼らが交換しているのがデータベースでは引けない情報だという点にある。資料で最も使われている120本のうち、当サイトのデータベースに外観欄がないものが41本、融点がないものが91本。全42225件のうち融点があるのは3080件(7.3%)だけで、外観欄がある10270件のうち10248件(99.8%)は推定値と記されている。引けなかった41本は、きれいに商品名のリストになっていた。
r/DIYfragranceに、書きぶりの生きた愚痴が投稿されていた。
「何百という材料を扱ってきて何も問題はなかった。Tonalideに出会うまでは……**大きな塊は粉に砕かなければならず、それからアーノルドより太い二頭筋になるまで撹拌することになる。**みなさんが扱った中で一番厄介だった材料は何ですか」
返信31件がリストを作った。名前が挙がったものをまとめる。
| 挙がった材料 | 苦情の内容 |
|---|---|
| Tonalide | 塊の固体。10%エタノールで完全に溶けるまで2日 |
| ウールアブソリュート | スプーンで削り取り、破片を慎重に瓶へ落とす |
| マテアブソリュート | 「地球上で一番べたつくタール」。30分かけて0.01g |
| オリバナムレジノイド | 「怪力自慢の滑り止めより粘る」。溶けるまで2日 |
| 安息香(スマトラ) | 秤量は簡単、溶けるのに2日 |
| パインアブソリュート | 「貼りついたチューインガムを、定量的に削れと言われるようなもの」 |
| Corps Oranger | エタノールへの溶解度が約1%。底に黄色い粒が残り続ける |
| Ambrocenide結晶 | DPGでの溶解が異常に遅い |
| Oceanol、IBCH | 粘度が高く、瓶から出せない |
このスレッドの価値はリストではなく、彼らがなぜ互いに聞き合っているかのほうにある。
結論から
- 資料で最も使われている120本について、当サイトのデータベースでは:41本に外観欄がなく、91本に融点欄がなく、両方あるのは29本だけ。
- 全42225件のうち、融点データがあるのは3080件(7.3%)。
- 外観欄がある10270件のうち、10248件(99.8%)は末尾に
(est)と付いている。推定値であって、測定値ではない。 - そして引けなかった41本は、きれいに揃ったリストだった。**hedione、lilial、iso e super、galaxolide、triplal、aldehyde c-10、aldehyde c-14——全部が商品名。**データベースは化学名で登録し、調香する人は商品名で買う。
- 両方ある29本のうち、**1本が自己矛盾している。**α-アミルシンナムアルデヒドは融点80 °C、外観は「淡黄色の澄明な液体」。
- そしてTonalideの難しさは溶解度不足ではない。logPは5.30で、エタノールにはよく溶ける。**遅いのは溶解速度であって、溶解度の上限ではない。**この区別が方法を決める。
データベースはこの件について沈黙している
簡単だと思っていた工程から書く。
やろうとしたことは単純だ。資料で最も使われている120本をデータベースの外観欄と融点欄に当てて、「どれが固体で届くか」という表を作る。この表は初心者に効く。荷物が届く日に湯せんの準備が要るかどうかが決まるからだ。
結果はこうなった。
| 本数 | |
|---|---|
| 外観欄あり | 79 |
| 融点欄あり | 29 |
| 両方あり | 29 |
| 両方なし | 41 |
120本のうち41本について、データベースは物理状態を一言も言っていない。
そしてその41本は無作為ではない。上位20本は、hedione、lilial、ベルガモット油(フロクマリン除去)、イランイラン油、iso e super、cis-3-ヘキセノール、シンナミックアルコール、γ-ウンデカラクトン、galaxolide 50 ipm、酢酸cis-3-ヘキセニル、酢酸スチラリル、サリチル酸cis-3-ヘキセニル、ローズオキサイド、aldehyde c-10、aldehyde c-14、triplal、aldehyde c-12 mna、aldehyde c-11 undecylenic、オレンジ油、aldehyde c-12 lauric。
**商品名のリストだ。**Hedioneはジヒドロジャスモン酸メチル、Iso E Superはヘプタメチルオクタヒドロナフタレノン、Triplalはヘキセナール系の一本。データベースは化学名で登録し、処方と供給元は商品名を使う。このシリーズは数回前に同じことに突き当たっている(総覧地図を更新しようとして同じ壁にぶつかった)。今回は別の形で現れた。Iso E Superが固体かどうかを調べられないのは、その名前の項目がデータベースに存在しないからだ。
精油やアブソリュート(イランイラン油、オレンジ油)に単一の融点がないのは当然で、混合物だからだ。ただそれも、データベースが助けにならないことを意味する。マテアブソリュートがタールのようだと教えてくれるのは掲示板の人だけになる。
外観欄の99.8%は推定
もう一段掘ると、事態はもっと知る価値が出てくる。
外観欄を持つ10270件のうち、**10248件の値には (est) が付いている。**99.8%だ。
つまり「白色結晶粉末」「無色澄明液体」といった記述の大半は、構造から推定されたものであって、誰かが瓶を手に取って見て書いたものではない。
これがあの矛盾を説明する。両方の欄がある29本のうち、1本が噛み合わない。
α-アミルシンナムアルデヒド(処方70件、中央値7.23%) 融点欄:80.0 °C 外観欄:淡黄色から黄色の澄明な液体(推定)
融点80 °Cのものが室温で澄明な液体になることはない。この材料は実務では液体なので、80 °Cという値はほぼ確実に誤りだ。減圧下の沸点が別の欄に入ったのかもしれないし、引火点かもしれない。このシリーズがデータベースの誤りを扱う規則は、事実として記し、原因を推測しないことだ。この欄は使わない。
29本中1本なら多くはない。ただ要点はこうだ。29本のうち1本が噛み合わず、残り91本はそもそも突き合わせるものがない。手元の表で引けることは、かなり限られている。
信頼できる固体のリスト
「融点欄と外観欄が一致して固体と言っている」まで基準を締めると、最も使われている120本のうち10本が残る。
| 材料 | 処方件数 | 中央値の比率 | 融点 |
|---|---|---|---|
| クマリン | 225 | 2.44% | 68 °C |
| ヘリオトロピン | 140 | 3.17% | 37 °C |
| バニリン | 137 | 1.02% | 81 °C |
| インドール | 88 | 0.77% | 51 °C |
| ムスクケトン | 84 | 4.00% | 135 °C |
| エチルバニリン | 80 | 0.56% | 76 °C |
| ジメチルベンジルカルビニルアセテート | 57 | 2.64% | 30 °C |
| ラズベリーケトン | 45 | 0.79% | 82 °C |
| Ambroxan | 31 | 0.20% | 74 °C |
| ジフェニルオキサイド | 29 | 1.13% | 27 °C |
ほかに、外観が「半固体」で融点のないものが2本。オークモスアブソリュート(37件)とシャム安息香レジノイド(27件)。安息香はまさに掲示板で名前が挙がったものだ。
**首位はクマリンで、クマリンは資料全体で最も登場回数の多い材料だ。**225件、954件の23.6%にあたる。
初心者にとっての意味は直接的だ。最初に買う一揃えにはほぼ確実にクマリンが入り、それは結晶の形で届く。入門リストにこれを書いている人はいない。
もう二つ注意点がある。**ジメチルベンジルカルビニルアセテートの融点は30 °C、ジフェニルオキサイドは27 °C。**この二本は冬の部屋では固体、夏には液体かもしれず、手のひらの上では融ける。この手の材料は「不良品を掴まされた」と勘違いされやすい。
溶けないのか、溶けるのが遅いのか
掲示板の方法は二派に分かれていて、その背後には別々の仮定がある。
砕いて撹拌する派(投稿者が最初にやったこと)の仮定は、接触面積が足りない。 加熱して待つ派(kdoughboy12、CapnLazerz、RingerArnos187、Ok-Wheel9962)の仮定は、時間と温度が足りない。
四人が独立に同じことを言った。
「なぜ砕いて撹拌する? 小さい塊をそのまま石ころみたいに秤って、エタノールの瓶に放り込んで待てばいい」(kdoughboy12)
「Tonalideは砕かない。必要なぶんだけ塊を割る。濃縮液のバイアルをポケットに一、二時間入れて、ときどき回してやれば、それで溶ける。米の器に埋める方法でも湯せんでもいい。必要なのは穏やかな熱と時間だけだ」(CapnLazerz)
投稿者自身の結論もこうだった。「最終的にそうした。ぬるま湯を張った器に入れて少し待つほうが、撹拌より効いた」
この二派の違いは、詰まっているのが「溶解度」なのか「溶解速度」なのかで決まる。
- 溶解度は上限だ。この溶媒が最大どれだけ抱えられるか。上限に当たっているなら、砕いても加熱しても解決しない(加熱は上限を上げるが、冷えると析出する)。
- 溶解速度は速さだ。その上限に到達するまでどれくらいかかるか。温度、接触面積、撹拌が効く。
Tonalideのデータは明快だ。logP 5.30、水溶解度は0.2879 mg/L。高度に親油性の分子で、エタノールへの溶解度は問題にならない。10%の濃度で2日待った人がいるのは、10%が上限を超えているからではなく、速度が遅いからだ。
掲示板の別の書き込みも同じ線を引いている。「10%を超えたときだけ厄介になる」(AdministrativePool2)——より高い濃度でようやく上限に近づく、という話だ。
Corps Orangerは逆の事例になる。
「エタノールへの溶解度そのものが低い(1%くらい)。だから1%と仮定した飽和エタノール溶液を持っていて、上澄みの部分だけを使い、底には鮮やかな黄色い粒状のかすが残っている」(Feral_Expedition)
**こちらは上限に当たっている。**加熱しても、砕いても、待っても、底の層は残る。上澄みだけを使うという対処は正しく、しかも彼は「仮定した1%」と正直に書いている。上澄みの実際の濃度は分からないからだ。
判定はこうなる。もう一日待って良くなるなら速度の問題で、熱と時間を使う。一週間待っても底にかすが残るなら溶解度の問題で、濃度を下げるか溶媒を変える。
クマリンですら溶解度データが噛み合わない
「溶解度を調べればいいのでは」という発想は、私も試した。
2022年にCysewski、Jeliński、Przybyłekが『Molecules』に発表した論文が、冒頭でこの件に触れている。彼らが扱っているのはまさにクマリン——あの首位の固体——の純アルコール中での溶解度だ。
動いた理由は要旨に書いてある。「クマリンは広く使われているにもかかわらず、有機溶媒中での溶解度を記録した報告はごく少数しかなく、報告されているデータの一部は互いに整合しない」
そこで彼らは二つのことをした。まずCOSMO-RS-DAREという熱力学モデルで一致性検定を作り、疑わしいデータセットを外れ値として同定する。次に、クマリンの溶解度を7種の純アルコール(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-オクタノール)で温度を変えて実測した。前の4種は再現性の確認のため、後の3種は同族列の情報を広げるためだ。
公開処方225件で使われ、二世紀以上の歴史を持つ材料について、そのエタノール中の溶解度データは、どれが信用できるかを判定するために専用の論文を要した。
掲示板の人々がなぜ互いに聞き合うのか。答えはここにある。調べるのが面倒なのではなく、調べられないのだ。
この論文はもう一つ、返信31件のどこにも出てこない実務上の注意をくれる。**溶解度は温度で変わる。**湯せんで溶かしたあと、溶液が室温に戻るとき、濃度が室温での溶解度を超えていることがある。数日置くと析出してくる。
だから熱を使ったなら、室温に戻ってから瓶の底をもう一度見る。掲示板の誰も言っていないが、これが加熱法の代償だ。
今回、私が間違えたこと
最初に作ろうとしたのは「どれが固体か」の完全な表で、入門リストの付録にするつもりだった。途中で、埋められるのが10マスだけで、残り110本はデータがないか名前がないかのどちらかだと分かった。
一度、推定した融点で穴を埋めようとした。構造から出すやり方だ。途中でやめた。データベースの外観欄がすでにそれをやっていて、99.8%が推定値で、しかもα-アミルシンナムアルデヒドのような誤りが出ているからだ。その上にもう一層推定を重ねても、完全に見えるのに一マスも信用できない表ができるだけだ。
だからこの記事の結論は「これがその表だ」から「その表は作れず、そのこと自体が知る価値のあることだ」に変わった。10マスは本物で、残る110マスは埋めない。
実際に使える部分
- **クマリンは結晶で届き、しかも最もよく使われる材料だ。**先に知っておくほうが、届いてから慌てるよりいい。
- 融点27〜40 °Cの数本(ジフェニルオキサイド、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、ヘリオトロピン)は室温で状態が変わる。不良品ではない。
- **溶けないのか、溶けるのが遅いのかを先に分ける。**もう一日で進展があるなら速度の問題で湯せんと時間。一週間経っても底にかすがあるなら上限の問題で濃度を下げる。
- **熱を使ったら、室温に戻してからもう一度底を見る。**溶解度は温度とともに落ちる。
- **商品名のものは物性が引けない。**Iso E Super、Hedione、Triplalの類は、人に聞くか供給元に規格書を求めるしかない。調べ方が下手なのではない。
- **掲示板の合意は正しい。**穏やかな熱と時間は、砕いて撹拌するより効く。ただし詰まっているのが速度である場合に限る。
この記事が示していないこと
- 「最も使われる120本」は公開処方954件から数えたものであって、販売量からではない。実際に最も買われている材料がこの120本とは限らない。
- **データベースにデータがないことは、データが存在しないことを意味しない。**供給元の規格書には融点が載っているのが普通で、この庫に入っていないだけだ。この記事が測ったのは「この庫が答えられるか」であって「世界のどこにもないか」ではない。
- **
(est)の定義は調べていない。**データベースは推定方法も誤差範囲も書いていない。私が報告できるのはこの記号が出る割合だけだ。 - **α-アミルシンナムアルデヒドの欄は誤りと判定したが、正しい値は調べていない。**根拠は「融点80 °Cと室温で澄明な液体であることは両立しない」で、この推論は成立するが、正しい融点がいくつかは追っていない。
- **溶解度と溶解速度の区別は一般則であって、これらの特定の材料についての測定ではない。**クマリン以外に、エタノール中の溶解度の実測値は一つも持っていない。
- Cysewskiらが測ったのは純アルコール中のクマリンの溶解度であって、含水エタノールやDPG中でも、他の香料が共存する混合物中でもない。実務の溶媒はほぼ純粋ではない。