はじめての調香 · 40
苗圃をやっている。自分で育てた植物で香水は作れるか——ボトルネックは花ではなく、あの95%
· 15 分
苗圃を経営している人がr/DIYfragranceに、自分で育てた植物で香水が作れるかと聞いた。最上位の回答は、ラベンダーの花100kgから精油は0.5〜1.5kgしか取れないというもの。この数字には裏付けがある。2022年の研究はラベンダーの水蒸気蒸留100分で収率1.2%を実測し、2021年の研究はラバンジンで2.0〜3.8%を報告している。ただし50mLの香水一本に換算すると、必要な花材は35g。ラベンダー一株で足りる。本当のボトルネックは別のところにある。公開処方954件では、中央値の処方の重量の95.1%が単体の化学品で、蒸留できる精油は3.5%しかない。しかも312件は精油を一滴も含まない。
r/DIYfragranceに、他の人が持っていないものを手にした人の投稿があった。
「植物の苗圃を経営しています。植物の知識と調香への興味を組み合わせてみたいのですが、この板に、自分で育てた植物から精油を取って天然香水を作っている方はいますか」
最上位(12ポイント)の回答は数字で答えた。
「植物から精油、そして調香へと直接つなげるのはあまり良い考えではない。**ラベンダーの花100kgから取れる精油は0.5〜1.5kg。**品種によるが、重量収率は0.5〜3%だ。どんな問題が起きるか想像がつくと思う。香調をきちんとした比率で組もうとすると、手持ちの空間が全部ハーブになる」(mallowgirl)
投稿者の返しが気持ちいい。「まさに求めていた答えです。厳しい事実ですが、自尊心を撫でてもらうために投稿したわけではないので」
この0.5〜3%は確かめられる。確かめた結果、私が確認できると思っていたほうは確認できなかった。
結論から
- 収率の数字は正しい。 2022年の研究がコモンラベンダーの水蒸気・水蒸留を実測し、100分で1.2%。2021年の別の研究は雲貴高原のラバンジンで、四季を通じて2.0〜3.8%。mallowgirlの区間は両方の実測値を含んでいる。
- ただし香水一本に換算すると、花材の量はボトルネックに見えない。50mL・濃度20%のEDPなら香料は約8.7g。資料でのラベンダー油の中央値6.06%で計算すると、その中のラベンダー油は0.53g。収率1.5%で逆算して、必要な花材は35g。ラベンダー一株の花はそれより多い。
- 本当のボトルネックは誰も計算していない比率のほうだ。公開処方954件で、中央値の処方は重量の95.1%が単体の化学品、蒸留できる精油は**3.5%**しかない。
- 312件(32.7%)は最初から最後まで精油を一滴も含まない。
- しかも育てるのは一種類ではない。**資料には290種の異なる精油が登場する。**上位はパチュリ、ベルガモット、イランイラン、サンダルウッド。世界地図であって、一つの苗圃ではない。
- 別の回答者(beraelen)は「自家製の抽出物は、毎ロットGC-MSにかけない限り安全使用量を算出できない」と書いている。これには裏付けがある。2021年の研究では、同じラバンジンでもユーカリプトールが季節によって38.7〜49.8%の間で動き、リナロールは4.6〜12.5%しかなかった。
収率の数字は持ちこたえる
まず掲示板の数字を照合する。
2022年のEl-Kharrafらの研究は二つの蒸留法を比較していて、一方が通常の同時水蒸留・水蒸気蒸留だ。
| 植物 | 通常の蒸留 | 二酸化炭素補助 |
|---|---|---|
| ローズマリー | 2.0%(120分) | 2.8%(30分) |
| コモンラベンダー | 1.2%(100分) | 1.5%(28分) |
| オレガノ | 1.6%(60分) | 1.7%(20分) |
2021年のLiaoらの研究は雲貴高原のラバンジンを測り、四季の収率は2.0〜3.8%、夏が最高だった。
つまりmallowgirlの0.5〜3%は信頼できる区間で、上限がもう少し高いだけだ。掲示板のこの数字に訂正すべき点はない。
ところがこの数字は、換算すると怖くない
私が立ち止まったのは換算のほうだ。
50mLのEDP、香料濃度を20%、香水の比重を0.87とすると、中の香料は約8.7g。資料でラベンダー油は55件の処方に登場し、中央値の比率は6.06%。だからこの一本に入るラベンダー油は0.53g。
| 収率 | 必要な花材 |
|---|---|
| 0.5%(低い) | 105g |
| 1.5%(中、実測に近い) | 35g |
| 3%(高い) | 18g |
35グラム。成株のラベンダーが一季に咲かせる花はこれをはるかに超える。
mallowgirlの「手持ちの空間が全部ハーブになる」は商業規模では正しい。ただし投稿者が聞いていたのは「やっている人はいますか」であって「これで儲かりますか」ではない。自分用の一本を作る規模なら、花はボトルネックではない。
ではボトルネックは何か。
ボトルネックはあの95.1%
954件の処方に出てくる2381本の材料を、名前だけで三つに分けた。分類は粗いが、規則を書いておくので自分で判断してほしい。
- 名前に
oil、essence、terpenesが入る → 蒸留できる精油(290本) - 名前に
absolute、concrete、resinoid、extract、tincture、resin、balsam、gumが入る → 溶剤抽出物(103本) - それ以外 → 単体の化学品(1988本)
各処方の重量分布はこうなる。
| 分類 | 中央値の比率 | 四分位 | 平均 |
|---|---|---|---|
| 蒸留できる精油 | 3.5% | 0.0%–16.7% | 11.9% |
| 溶剤抽出物 | 0.0% | 0.0%–0.7% | 2.1% |
| 単体の化学品 | 95.1% | 80.0%–100.0% | 86.0% |
- 精油を一切含まない処方:312件(32.7%)
- 精油が半分以上を占める処方:47件(4.9%)
苗圃を経営する人が自分で生産できる列は、中央値の処方で3.5%だ。残りの95.1%は「作るのが難しい」のではなく、育たない。酢酸ベンジル、ジヒドロミルセノール、ヘディオン、クマリン、エチレンブラシレート。これらに対応する植物は存在しない。
beraelenが「一般に調香師は自分で蒸留しない」と書いた理由三つ(収率がひどい、蒸留できず溶剤抽出が要る材料が多い、安全使用量が算出できない)はどれも成立する。ただし資料が指しているのはもっと手前のことだ。蒸留が全部うまくいったとしても、届くのは処方の3.5%でしかない。
しかも育てるのは世界地図
その3.5%を攻めると決めたとする。資料には290種の異なる精油が登場する。精油を使っている642件では、一件あたりの異なる精油は中央値2種(四分位1〜4種、最多で13種)。
上位12種はこうなっている。
| 精油 | 件数 | 中央値の比率 | 主な産地 |
|---|---|---|---|
| パチュリ油 | 132 | 3.50% | インドネシア |
| ベルガモット油(フロクマリン除去) | 132 | 10.85% | イタリア・カラブリア |
| イランイラン油 | 113 | 2.33% | コモロ、マダガスカル |
| レモン油 | 66 | 4.86% | 地中海、アルゼンチン |
| サンダルウッド油 | 60 | 3.00% | インド、オーストラリア |
| ラベンダー油 | 55 | 6.06% | フランス、ブルガリア |
| ガルバナム油 | 53 | 1.11% | イラン |
| オレンジ油 | 52 | 2.99% | ブラジル |
| ゼラニウム油(ブルボン) | 48 | 1.94% | レユニオン、エジプト |
| クローブバッド油 | 40 | 1.91% | インドネシア、マダガスカル |
| ラバンジン油 | 39 | 5.56% | フランス |
| マンダリン油 | 33 | 2.30% | イタリア |
この表がルイジアナ州の苗圃に対して持つ意味は容赦がない。**上位に並んでいるもののほとんどは育てられない。**ラベンダーは可能、ゼラニウムも可能、クローブは十分暑い土地なら可能。パチュリ、ベルガモット、イランイラン、サンダルウッド、ガルバナムは無理だ。
そして別の回答者(Wise_Falcon20)が挙げたリストのほうが実務的だった。**ラバンジン、ローズマリー、キャラウェイ、コリアンダー、ディル、クローブバッド。**収率が高く、育てやすく、蒸留の難度も高くない。彼の提案する使い方は「市販の抽出物や合成品と併用して、自家製のひと匙として使う」というもので、これは資料の形と一致している。自分で生産できる部分は、もともと処方では一桁パーセントなのだ。
「安全使用量が算出できない」は成立する
beraelenの「毎ロットGC-MSにかけない限り、自家製抽出物の安全使用量は算出できない」は、過剰に慎重に聞こえる。2021年の研究がこれを具体的にする。
Liaoらは雲貴高原の同じラバンジン畑から四季それぞれに刈り取って蒸留し、GC-MSで分析した。
| 成分 | 季節による変動幅 |
|---|---|
| 含酸素モノテルペン合計 | 55.4% – 81.4% |
| ユーカリプトール | 38.7% – 49.8% |
| カンファー | 8.41% – 14.26% |
| α-ビサボロール | 6.6% – 25.5% |
| リナロール | 4.6% – 12.5% |
**ユーカリプトールが4〜5割、リナロールが1割未満の「ラベンダー油」は、誰の頭の中のラベンダーとも一致しない。**ユーカリのような匂いになる。しかもこれは偽和でも粗悪品でもなく、同じ畑を違う季節に刈っただけのものだ。
だから「自分でラベンダー油を蒸留した」という文は、その瓶に何が入っているかを誰にも伝えていない。市販の油にはISO規格と供給元のロット分析があるが、自家製にはない。自家製が危険という話ではなく、「ラベンダー油」を単位として書かれた使用量の助言を、どれ一つ引用できないという話だ。あの助言はどれも規格に合ったものを前提にしている。
2022年の論文はもう一つの角度をくれる。同じ植物でも、**蒸留法を変えると出てくる油の組成が変わる。**二酸化炭素補助のラベンダー油は、通常の蒸留のものより酢酸リナリルが多かった。方法が製品に入り込む。
回答のなかで良かった三つ
このスレッドは質が高い。3.5%という制約に正面からぶつかるのではなく、迂回している提案を三つ挙げておきたい。
**一、ハイドロゾル(mallowgirl)。**蒸気を冷却して集める方式。家庭のコンロで始められ、精油よりずっと少ない植物量で済み、ボディミスト、ルームスプレー、ローションの成分になる。ここで大事なのは、ハイドロゾルが「失敗した精油」ではないことだ。別の品目であり、その植物需要量は苗圃の生産能力に収まる。
**二、アンフルラージュ(BeastofBurden、mallowgirl)。**薄く伸ばした油脂の上に花びらを並べ、しおれたら新しいものに換える。加熱しないので、繊細な揮発性成分が熱で壊れない。beraelenは最も労働集約的な抽出法で、材料が毎日新鮮であることを数週間要求すると指摘した。一般人には非現実的だが、毎日花がある苗圃にとっては話が逆で、それこそ唯一手に入りやすい資源だ。
BeastofBurdenが挙げた規模は、香りの強い花300g、油脂100g、20〜30日で約0.5gの産物。この数字は裏が取れなかった(アンフルラージュの収率の文献は少なく、花種への依存が大きい)ので、掲示板の発言として記録し、事実としては引用しない。
**三、浸剤をベースにする(mallowgirl)。**浸剤を香水として使うのではなく、調香用アルコールの代わりに使う。処方にはもともと大量のアルコールが入っているので、そこを自家製に置き換えれば、95%に手を触れずに製品へ自分の植物を入れられる。私はこれがスレッド全体で一番賢い提案だと思う。
実践者(MikeofPDX)の経験が正直な補足をくれている。溶剤抽出は蒸留より収率が良いが、色、ワックス、脂肪といった好ましくない成分も引いてくる。処理するか、受け入れるかだ。
今回、私の予想は外れた
計算を始めたとき、私は「掲示板は楽観的すぎて、実際には農場が要る」という記事を書くつもりだった。100kgという数字はその方向に見えた。
35gが出た時点で全部書き直した。**自分用の香水を一本作る規模なら花材は問題ではなく、私は商業規模の数字を個人規模に当てはめていた。**mallowgirlはその間違いをしていない。彼女が言ったのは「香調をきちんとした比率で組もうとすると」であって、処方の話であって生産量の話ではない。読み違えたのは私だ。
本当に計算すべきだったのは、二周目でようやく思いついたほうの比率だ。**あの95.1%。**この数字に論文は要らない。資料が自分で語っているし、収率より投稿者の問いによく答える。
苗圃の人への実際の答え
- **「自分で育てた植物で香水を一本まるごと作る」を目標にしない。**中央値の処方の重量の95.1%は育たないもので、これは技術の問題ではない。
- **やるなら、花はボトルネックではない。**50mL規模なら数十グラムで足りる。ボトルネックは蒸留器と時間と、自分が何を作ったのか分からないことだ。
- 収率の面で一番良い方向はWise_Falcon20のリスト——ラバンジン、ローズマリー、コリアンダー、ディル、クローブバッド。ラベンダーは「育てやすい」と「処方の常用上位12種に入る」を同時に満たす唯一のものだ。
- **手元で本当に希少な資源は、毎日ある生花のほうだ。**それがアンフルラージュの唯一の関門でもある。これは他の人にはできず、あなたにはできる。
- **自家製の油に市販品の推奨使用量を当てはめない。**同じ畑の違う季節で、ユーカリプトールは11ポイント、リナロールは3倍の差がつく。
- 浸剤で調香用アルコールを置き換えるのが投入対効果の一番良い一手だ。95%と衝突しないから。
この記事が示していないこと
- **天然と合成の分類は名前で貼っている。**名前に
oilの入らない天然物(商品名で記録されているものなど)は単体の化学品に数えてしまうので、95.1%は上限であり、実際の値はもう少し低い。逆に資料中のoilが合成再構成品である場合もある。 - **この資料は処方の母集団ではない。**公開処方954件は公開されうるものに偏っている。天然香水のコミュニティはそもそも処方を公開しにくいので、精油の比率はここで過小評価されている可能性がある。
- **二つの論文はこの問いに答えるために行われたものではない。**El-Kharrafらは蒸留技術の比較、Liaoらは雲貴高原の種質資源の研究だ。引用したのは、そこで副次的に測られた収率と組成の範囲である。
- **Liaoらが測ったのは雲貴高原のラバンジンで、プロヴァンスのコモンラベンダーではない。**ユーカリプトール38.7〜49.8%という幅を他の産地にそのまま当てはめることはできない。示しているのは「同じ種の油でも大きく違いうる」であって「すべてのラベンダー油がこうだ」ではない。
- アンフルラージュの収率は掲示板の発言で、裏を取っていない。
- **コスト、規制、販売はこの記事に一切入っていない。**売るのが目標なら、それはまったく別の問題群だ。