はじめての調香 · 39
香料30本で何ができるのか——公開処方954件で計算してみた
· 13 分
日本の学生がr/DIYfragranceに、この趣味を一番安く始める方法を聞いていた。海外から取り寄せると送料だけで50ドルかかるという。返信のなかで一番具体的だったのは「まず30本、何が要るかよく考えて買え」というもの。これは数字で検証できる。公開処方954件で計算すると、最も使用頻度の高い30本を持っていても、中央値の処方の重量の35.2%しかカバーできない。16本入りの処方なら手元にあるのは5本。ただし同じ資料はもう一つ別のことも言っている。2381本の材料のうち1065本は一つの処方にしか出てこず、そうした「ほとんど誰も使わない」材料を全部足しても、処方の重量の3.3%にしかならない。裾野は長いが、軽い。
r/DIYfragranceに、条件をきちんと書いた質問が投稿されていた。
「ずっと自分の香りを作ってみたかったが、住んでいる国(日本)には香料を売っているところが見つからない。**海外から注文すると送料が50ドルにもなる。**香料自体すでに安くないのに、送料まで乗せると払える額を超えてしまう。安い趣味ではないと分かってはいるが、学生として、一番負担の少ない始め方を知りたい」
返信は7件。具体的だったのはこの二つ。
「**まず30本くらいにしておいて、何が欲しいか、今はまだ要らないものは何かをよく考えるといい。**大量に買いたくなる誘惑がある——実際、買いすぎる——どれも面白そうに見えるからだ」(kriebelrui)
「50〜100g・0.001g精度の宝石用秤を1台。1〜4mLのガラス瓶を100本。プラスチックスポイト200本。95%以上のエタノール1リットル。ムエット250枚。**材料は50本未満。**ラベル、ノート、掃除用のイソプロピルアルコール」(_nate69)
30本。50本未満。この二つの数字は資料で確かめられる。30本持っているとき、実際に何ができるのか。
結論から
- 重複を除いた公開処方954件で計算すると、**出現頻度の高い順に30本持っている場合、中央値の処方の重量のカバー率は35.2%。**典型的な処方は16本構成で、手元にあるのはそのうち5本になる。
- 半分以上カバーできる処方は292件(30.6%)。8割まで届くのは40件(4.2%)。完全に作れる処方は一つもない。
- 100本まで買って、ようやく中央値のカバー率が60.4%。200本買っても、完全に作れる処方は14件(1.5%)にしかならない。
- ただし同じ資料はこうも言っている。2381本の材料のうち1065本は一つの処方にしか登場しない(45%)。そして「2件以下にしか出てこない」希少材料を全部足しても、一つの処方に占める重量は中央値で3.3%。
- 何本買うかより、どの30本を買うかのほうが効く。「出現頻度」で30本選ぶとカバー率35.2%、「重量の寄与」で30本選ぶと同じ30本で39.8%。二つのリストが重なるのは21本だけ。
- 知覚の側には天井がある。1998年の研究で41人に混合物の成分を当てさせたところ、どの匂いの組み合わせを使っても、識別できる成分数は4つあたりで止まった。
30本のカバー曲線
| 手元の材料数 | 中央値処方の重量カバー率 | 50%以上カバーできる処方 | 80%以上 | 完全に作れる |
|---|---|---|---|---|
| 10 | 15.5% | 87件(9.1%) | 10件 | 0 |
| 20 | 28.8% | 214件(22.4%) | 21件 | 0 |
| 30 | 35.2% | 292件(30.6%) | 40件 | 0 |
| 50 | 40.5% | 374件(39.2%) | 75件 | 0 |
| 100 | 60.4% | 615件(64.5%) | 191件 | 3件 |
| 200 | 72.6% | 758件(79.5%) | 340件 | 14件 |
この表で一番見るべきなのは右端の列だ。**200本買って、ようやく1.5%の処方が作れるようになる。**公開されている処方は、小さなパレットで再現されることを想定して書かれていない。どれにも一つ二つ、手元にないものが入っている。
「公開処方をそのまま作る」が目標なら、30本では足りないし、200本でも足りない。その目標自体が、30本で届く場所にない。
ただ「何かを作る」が目標なら、この表は逆から読むことになる。
裾野は長いが、軽い
2381本のうち1065本は一度しか出てこない。ネットで見ると魅力的に見える名前ばかりだ——kriebelruiの言う「どれも面白そうに見える」のはこの層のこと。
計算するとこうなる。一つの処方のなかで、「2件以下にしか出てこない」希少材料を全部合わせた重量は、中央値で3.3%。
買いたくなる材料名の半分は、処方の重量では合計3.3%にしかならない。
ここは正直に書いておく。重量と知覚は別物だ。0.3%の何かが香水全体の印象を支配することは普通にある——このシリーズで扱ったβ-ダマセノンや硫化ジメチルはまさにそういう役だ。だから「軽い」は「重要でない」ではない。この数字が言えるのは一つだけ。重量を基準に買うなら、裾野は最後でいい。
どの30本かのほうが効く
最初にこれを計算したとき、私は「一番多くの処方に出てくる順」で30本を選んだ。一番直感的なやり方で、そして間違っていた。
出現頻度は一つのことを区別しない。頻繁に出てくるのに、毎回0.5%しか使われない材料がたくさんある。
「全処方での重量の合計」で並べ直して同じく30本選ぶと、中央値のカバー率は35.2%から**39.8%**に上がる。同じ本数で4.6ポイント。追加のコストはゼロで、並べ方を変えただけだ。
二つのリストの差が面白い。
頻度では上位30入り、重量では入らないもの(買うと「一滴で足りる」ものばかり集まる):
| 材料 | 出現件数 | 中央値の比率 |
|---|---|---|
| cis-3-ヘキセノール | 100 | 0.54% |
| インドール | 88 | 0.77% |
| バニリン | 137 | 1.02% |
| γ-ウンデカラクトン | 85 | 1.56% |
重量では上位30入り、頻度では入らないもの(買うと「処方の骨格」が集まる):
| 材料 | 出現件数 | 中央値の比率 |
|---|---|---|
| フェニルエチルアルコール(この表記で記録された分) | 49 | 15.38% |
| ヘキシルシンナミックアルデヒド | 33 | 16.16% |
| ベンジルアルコール | 43 | 10.00% |
| エチレンブラシレート | 59 | 9.57% |
| サリチル酸ヘキシル | 57 | 7.05% |
| ラベンダー油 | 55 | 6.06% |
掲示板で初心者に薦められる材料は、ほぼ全部が一つ目の表のタイプだ。香りが強く、分かりやすく、一滴で効く。それは当然で、単体で嗅いで一番面白いのがその層だから。ただし一つ目の表だけ買うと、個性の強いものが揃って、それを収める容れ物がない状態になる。
二つ目の表のサリチル酸ヘキシルが典型例だ。データベースの強度欄は「弱」、香調欄は「フレッシュ、ハーバル、オーキッド、グリーン」——役に立たなそうに読める。それが57件の処方で中央値7.05%、40件では5%を超え、最高は84.3%。**嗅がれるために買うものではなく、他を収めるために買うものだ。**今回の原料図鑑はこれを扱う。
知覚側の天井
お金が問題でないとして200本買ったとする。嗅ぎ分けられるのか。
1998年、LivermoreとLaingがそれを直接測った実験がある。被験者41人、匂いは2セット。一方は専門家パネルが「混合物のなかでよく溶け合う」と選んだもの、もう一方は「溶け合いにくい」もの。コンピュータ制御の空気希釈オルファクトメーターで単体または最大8本の混合物を提示し、中に何が入っているかを答えさせた。
結果はこうだ。溶け合いにくい組のほうが確かに識別しやすかったが、その優位は狭い範囲にとどまり、どちらの組でも成分を識別できる数は4つあたりで止まった。
論文の結論は率直に書かれている。匂いの種類は「どの成分が知覚されるか」を変えるが、混合物の成分を識別する能力の上限は匂いの種類に依存しない。
4という数字は嗅覚研究に何度も出てくる。2002年にLaingらが味と味嗅の混合物で測ったときも3〜4で止まっている。訓練不足の問題というより、作業記憶の容量の問題に近い。
つまり200本あっても200層が聞き分けられるようにはならない。200通りの選択肢で、その4つの席を埋めることになる。
一番安い入力は何か
Salt-Stoneの返信は7件のうち唯一お金のかからないものだった。
「プロの調香師や教育者のYouTubeを見る。調香の本を読む。**大衆向け香水のサンプルを手に入れて鼻を訓練する。**この板に居座る」
「鼻を訓練する」は、聞こえはいいが中身のない助言に見える。ところがこれは測られている。
2023年、Li・Anne・Hummelが『Chemical Senses』に発表した研究がある。健康な被験者100人を4群に分け、対照群(26人)以外は1日4回の嗅覚訓練を3か月続けた。前後にSniffin' Sticks(閾値・弁別・同定)を測定。
訓練に使う匂いは、単一分子と複雑な混合物が無作為に割り振られた。
3か月後の結果のうち、この話に効くのは二点。
- 改善が見られたのは「video」群と「counter」群だった。前者は訓練中に対応する映像を見る(多感覚統合)、後者は週に一日、嗅いだ匂いの数を数える作業が追加される(注意の強制)。訓練だけで追加の措置がない群は、対照群と比べて同じような改善を示さなかった。
- **匂いの複雑さの影響は限定的だった。**単一分子での訓練と複雑な混合物での訓練で、差はつかなかった。
二点目は、材料を50本買えない学生には重要だ。**単一分子で練習しても、複雑なもので練習しても、測定結果はさほど変わらない。**鼻を鍛えるのに高価な天然物は要らない。
一点目のほうがもっと重要で、そしてこれは安くない。要求されるのはお金ではなく注意だ。同じ3か月嗅いでも、「今いくつ嗅いだか数える」が加わった群は改善し、鼻の前に置いただけの群はそうならなかった。
この論文には制限を付けておく。測っているのは嗅覚機能(閾値・弁別・同定)であって、調香の腕ではない。「3か月訓練したら処方が良くなった」というランダム化比較試験は存在しないし、今後も出ないと思う。この論文が支えるのは前半だけだ。注意を伴う反復曝露で鼻の感度は変わる。そしてそれはお金がかからない。
今回、私が間違えたこと
最初、出現頻度で上位30本を並べた。カバー率35.2%が出て、妥当な数字だと思い、書き始めた。
途中で並べ方の妥当性を確かめようと思い、重量で並べ直したら35.2%が39.8%になった。この4.6ポイントは新しいデータで得たものではなく、最初の並べ方が取りこぼしていた分だ。「よく出てくる」を「重要」として扱っていて、処方に最も頻繁に出てくる層の大半は、毎回0.5ポイントしか使われない材料だった。
この間違いは書く価値がある。掲示板で初心者向け材料が薦められるときの論理と、同じ間違いだからだ。人が薦めるのは印象の強い材料で、印象が強いのはたいてい、強くて少量で効くから。処方の重量を支えている層は誰の推薦リストにも入らない。単体で嗅ぐと退屈だからだ。
質問した学生への実際の答え
送料の問題は私には解けない。日本国内に安定した香料の入手先がどれだけあるか把握していないし、このシリーズは裏の取れていない推薦をしない。そこは答えられない。
使える部分はこれだけある。
- **30本では公開処方は再現できない。**それは200本でも同じ(1.5%)。それを期待しているなら、材料を買うより先に期待のほうを調整したほうがいい。
- **買うときは香りの強さではなく重量で考える。**フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、サリチル酸ヘキシル、ラベンダー油のような「収める側」が要る。「一滴で足りる側」を一式揃えるのではなく。同じ30本で、この順序はカバー率4.6ポイント分の価値がある。
- **希少材料は最後でいい。**リストの45%を占めて、重量の3.3%。(ただし0.3%のものが香水を支配することはある。この順序は入門の話であって、永遠の話ではない。)
- **識別できる成分は4つあたりが上限。**200本が与えるのは選択肢であって、層ではない。
- **お金のかからない項目には実測の裏付けがある。**注意を伴う反復曝露は嗅覚機能を改善する。しかも単一分子での訓練と複雑な混合物での訓練に大きな差はない。
「まず30本」と言った人の方向は合っている。ただ数字が制限のように聞こえるだけだ。資料から見ると、30本は妥協ではない——**もともと200本でも届かない線の、同じ側にある。**違いは、その30本の選び方だけだ。
この記事が示していないこと
- **この資料は処方の母集団ではない。**公開処方954件は、公開されうるものに偏っている。古典の再現、教材、スレッドの課題など。実際の商業処方の材料分布がこうだとは限らない。
- **重量は知覚ではない。**この記事のカバー率はすべて重量のカバー率だ。重量の35%を持っていることは、35%似た匂いがすることを意味しない。もっと似ているかもしれないし、全然違うかもしれない。
- 貪欲法は最適解ではない。「重量の合計」で並べたのは近似であって、厳密な最適の30本の組み合わせではない。本当の最適解には組合せ最適化が要る。やっていない。
- **価格は計算に入っていない。**資料に価格はない。重量寄与の大きい材料が安いとは限らない。ただしこの顔ぶれ(フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、サリチル酸ヘキシル)はおおむね汎用の工業品ではある。
- **1998年の研究が測ったのは識別であって、好みや創作ではない。**成分を当てられないことは、混合物に効果がないことも、材料を増やす意味がないことも意味しない。
- **2023年の研究の被験者は嗅覚正常の一般人で、調香の修業者ではない。**支えているのは「感度は変わる」であって「調香師になれる」ではない。