はじめての調香 · 38
「私のフランキンセンスはセージの匂いがする」——その理論は正しく、そしてこの件の原因ではない
· 15 分
低品質の精油はテルペン的でシトラス的なのかと聞いた人がいた。理由は「手を抜いた蒸留は揮発性の高い分子しか取り出さないから」。この機構は本物だ。2019年の研究は水蒸気蒸留の時間を変えて測り、長くするとモノテルペンの比率が下がりセスキテルペンの比率が上がることを示した。ただし彼のフランキンセンスの原因ではまずない。2022年の研究は市販のフランキンセンス精油21本を分析し、6本が合成リモネン、3本が合成酢酸オクチル、3本がヒマシ油で不正混和され、複数が別のBoswellia種で汚染されていることを見つけた。そして酢酸オクチルの香調欄は、グリーン、アーシー、マッシュルーム、ハーバルと書いてある。
r/DIYfragranceに、理論と観察と具体的な問いを備えた投稿があった。
「数年前にブラックペッパー精油を買ったが、本当にただレモンの匂いがして、持続もレモン並みだった。手を抜いた蒸留は揮発性の高い分子(テルペン、ピネン、きつくてシトラス的なもの)しか取り出さないからだと読んだ」
「新しく2本手に入れた。パチョリ(ライト)とフランキンセンスだ。パチョリにはあのきつい清涼感がまったくない。……一方フランキンセンスはセージの匂いがする。グリーンで、きつくて、汚れたシトラス感、ミント感さえある。」
「これはパチョリが高品質で、フランキンセンスが低品質だということでしょうか」
彼の理論は確かめられる。答えは、機構は本物で、そしてこの件の原因ではまずない、になる。
先に結論
- 彼の言う機構は本物だ。 2019年の研究はレモンタイム精油を異なる水蒸気蒸留時間で測り、蒸留時間を延ばすとモノテルペンの割合が下がり、セスキテルペンの割合が上がることを示した。短い蒸留は確かに軽い分子に偏る。
- 同じ論文はその効果が飽和することも述べている。 レモンタイムの水蒸気蒸留は「60分を超えると無意味である」。
- 市販フランキンセンスの本当の問題は測定されていて、もっと見苦しい。 2022年の研究は市販21本と自家蒸留2本のフランキンセンス(Boswellia carteri)精油を、GC-MSとキラルGC-MSで比較した。
- 21本のうち、6本が合成リモネン、3本が合成酢酸オクチル、3本がヒマシ油で不正混和され、2本にフランキンセンス樹脂、2本に Boswellia occulta、1本に Boswellia serrata が混入し、1本からフタル酸エステルが検出された。
- そして酢酸オクチルの香調欄はこうだ。グリーン、アーシー、マッシュルーム、ハーバル、ワクシー、フルーティ、アップル。 彼の描写そのものになる。
- データベースには「フランキンセンス」の記録が14件あり、4つの異なるCAS番号にまたがる。 主要記録(サプライヤー93社)の最初の香調記述語は terpenic だ。
- つまりテルペン感は欠陥ではなく、この素材がそう記録されている姿になる。 彼のグリーンさは、手抜き蒸留よりも種か不正混和から来ている可能性が高い。
読了9分ほど。
彼の理論は正しい
まず正当な評価から。あの機構は測定されている。
Jurevičiūtėらは2019年に Natural Product Research で、**レモンタイム(Thymus × citriodorus)**精油の組成を異なる水蒸気蒸留時間で調べた。
見つけたこと:
水蒸気蒸留時間の延長は、精油中のモノテルペンの割合を減少させ、セスキテルペンの割合を増加させた。
モノテルペンは軽く(沸点が低く先に出る)、セスキテルペンは重い(後から出る)。 だから短い蒸留で集まるものは、確かに軽い側に偏る。
まさに彼が読んだとおりだ。
そして同じ論文には、彼が読まなかった一文がある。
結果は、レモンタイム精油の水蒸気蒸留は60分を超えると無意味であることを示した。
効果は飽和する。 深みを買うために回し続けられるつまみではない。
(はっきりさせておくと、あの研究はレモンタイムで、フランキンセンスでもブラックペッパーでもない。 油腺の構造も成分の沸点分布も植物で違うので、あの60分は移せない。 引いたのは「蒸留時間がモノテルペンとセスキテルペンの比を動かす」という機構の存在を確かめるためになる。)
しかし市販フランキンセンスの問題はそこにない
ここがこの記事の中身になる。
Ojhaらは2022年に Plants で直接的なことをした。市販21本のフランキンセンス(Boswellia carteri)精油を、自分たちで蒸留した2本と、GC-MSとキラルGC-MSで比較したのだ。
目的は真正性の確認で、結果はこうなる。
| 市販21本のなかで見つかったもの | 本数 |
|---|---|
| 合成リモネンによる不正混和 | 6 |
| 合成酢酸オクチルの混入 | 3 |
| ヒマシ油による不正混和 | 3 |
| フランキンセンス樹脂の混入 | 2 |
| Boswellia occulta 種の混入 | 2 |
| Boswellia serrata 種の混入 | 1 |
| フタル酸エステル、および組成の似た安価な精油 | 1 |
| コパイバ樹脂+フランキンセンス樹脂+合成酢酸オクチル | 1 |
| B. serrata の混入に加えヒマシ油とフランキンセンス樹脂 | 1 |
(これらの項目は重なり合う。最後の2行はすでに上に数えられた複合事例になる。だから要旨から「21本のうち何本が問題なしか」は導けない。論文の記載どおりに列挙している。)
3つの項目に注目したい。 合成リモネン、合成酢酸オクチル、Boswellia occulta。
3つとも、1本のフランキンセンスをよりグリーンに、より鋭く、想像したものから遠くする。
酢酸オクチルがその「セージ感」になる
この記事でいちばん直接的な対応になる。
彼はフランキンセンスを**「グリーンで、きつくて、汚れたシトラス感、ミント感さえある」「セージの匂いがする」**と描写した。
そしてデータベースの酢酸オクチルの香調欄はこうだ。
グリーン、アーシー、マッシュルーム、ハーバル、ワクシー、フルーティ、アップル
グリーン、アーシー、ハーバル。
そして酢酸オクチルがフランキンセンスの瓶に入る経路は2つある。
- 合成品を意図的に加えられる。 論文は3本で検出し、複合的な不正混和の一部としてさらに1本で検出した。
- 天然に、それが B. carteri ではないから。 Boswellia occulta はもともと酢酸オクチルに富む。論文はこの種の混入を2本で検出している。
スレッドですでにここを指していた人がいる。
「抽出法もしばしば差を生む。たとえば Boswellia Occulta——比較的まれなフランキンセンスだ。その精油はずっと鋭いトップノートを持つが、CO2抽出物はもっと丸く、厚みがあって深い。同じ木、同じ樹脂で、違う香りの輪郭になる」
種のことも抽出法のことも当てている。
論文が足すのは、その人が触れなかった半分だ。その鋭いトップは、合成の酢酸オクチルとして入れられたものでもありうる。
データベースには「フランキンセンス」が14件ある
問いをさらに複雑にすることがもう1つある。この名前が1つのものを指していない。
名前にfrankincense、olibanum、boswelliaを含む記録を引くと14件あり、4つの異なるCAS番号にまたがる。
| CAS | 記録 |
|---|---|
| 8016-36-2 | frankincense oil(93社)、frankincense absolute |
| 8050-07-5 | frankincense resinoid(63社)、frankincense gum、frankincense resin |
| 97952-72-2 | Boswellia serrata の油・ガム・CO₂抽出物 |
| 89957-98-2 | Boswellia carteri 樹脂抽出物 |
4つのCAS、1つの通称。 ジャスミンの回と同じ種類の問題で、名前ではなくCASを照合するという規則と同じことになる。
そして主要記録の香調欄は読む価値がある。
frankincense oil(サプライヤー93社):terpenic、incense、peppery、spicy、woody old wood……
最初の記述語が terpenic だ。
だから「高品質の精油はテルペン感が少ないのか」という問いに対して、データベースの答えは「フランキンセンス油はテルペン感が最初に来るものとして記録されている」になる。 テルペン感は欠陥の合図ではない。
(ついでに、frankincense gum の記録の香調欄には fresh が入っている。1つの通称の下で、ある記録は「フレッシュ」なのだ。)
では彼はどうすればいいのか
スレッドの4件の返信を合わせると悪くない答えになる。実行できる形にする。
1. 買ったものがどの種かを確かめる。
売り手が学名なしに「frankincense oil」とだけ書いているなら、4つのCASのどれを買ったのか分からない。 B. carteri、B. serrata、B. papyrifera、B. frereana、B. occulta の香りの差は、同一種内の「品質差」よりはるかに大きい。
2. テルペン感を品質の指標に使わない。
スレッド最初の返信が率直に書いている。
「香りの輪郭は品質と固く結びついてはいない」
そしてデータベースも同意する。主要記録の最初の記述語は terpenic だ。
3. 「グレード」ではなく抽出法を変える。
彼が欲しいのは「グリーンな清涼感のない、深く豊かなフランキンセンス」になる。それは品質の問題ではなく抽出の問題だ。 同じ木のCO2抽出物が水蒸気蒸留油より丸いというコメントは正しい。そして樹脂系(resinoid、resin、gum)はデータベースでは別の記録になる。
4. 異なる希釈で嗅ぐ。
2件目の返信が良い問いを立てている。「違う希釈で嗅ぎましたか」
希釈の算数は前回計算した。 同じ素材でも1%と10%では見える側面が違い、鋭いトップは高濃度ですべてを覆い隠す。
5. 不正混和を疑うなら、それは別の問題で、嗅ぎ分けられない。
あの論文はGC-MSとキラルGC-MSを使った。 キラル分析は鏡像異性体の分布を見るためで、天然と合成を分ける最も強力な道具の1つになる。
鼻にはできない。 GCが守ってくれないものについては書いたが、これはその裏面になる。GCにしかできないこともある。
できるのは、評判の良い売り手から買い、学名を求めることになる。
まとめると
- 「手抜きの蒸留は軽い分子しか取らない」は本物の機構で、測定されている。
- ただし効果は飽和するし、あの研究は別の植物だった。
- 市販フランキンセンスで実際に測定されている問題は、不正混和と種の取り違えになる。 21本のなかに合成リモネン、合成酢酸オクチル、ヒマシ油、フタル酸エステル、3種の異なる Boswellia が出ている。
- 彼の「グリーンでセージ的」という描写は酢酸オクチルの香調欄と一致するし、酢酸オクチルが瓶に入る経路は天然と合成の2つある。
- 「フランキンセンス」は14件の記録、4つのCASになる。 買う前に学名を聞く。
- テルペン感は低品質の合図ではない。 それはこの素材の最初の記述語だ。
この記事が示していないこと
彼の瓶も、どのフランキンセンスも嗅いでいない。 すべては彼の文章、データベースの欄、2本の論文に対して書いている。
「彼の瓶は B. occulta か酢酸オクチル入りかもしれない」は仮説であって診断ではない。 可能性を並べたのであって、確かめる方法はその瓶を分析することだけになる。
Ojhaの研究は市販の Boswellia carteri 精油21本を対象にした。 特定の標本であって、市場からの無作為抽出ではないし、その21本をどう選んだかは論文に書かれていない。「市販フランキンセンスはしばしば不正混和されている」はあの論文が支持するより強い主張なので、そう書いてはいない。
項目は互いに重なり、きれいな合計は出せない。 要旨は問題のなかった本数を述べていない。
Jurevičiūtėの研究はレモンタイムになる。 60分という結論はあの植物とあの装置に属する。モノテルペンとセスキテルペンの比が動く向きは一般的だが、数字はそうではない。
「テルペン感は欠陥ではない」はデータベースの記述についての話になる。 テルペン感の強い油がすべて良いという意味ではない。それだけでは判断できない、という意味だ。
酢酸オクチルとの対応は、彼の描写とデータベースの香調欄を並べて得たものになる。 彼は「酢酸オクチル」とは言っていないし、セージ自体の主成分(ツヨン、シネオールなど)は酢酸オクチルとは別の分子群になる。 どちらもグリーンでハーバルな印象を与えうるが、彼が嗅いだのが酢酸オクチルだということにはならない。
スレッドの B. occulta のCO2と精油の差はコメント主の経験で、検証していない。
参考文献
P. K. Ojha, D. K. Poudel, A. Rokaya, R. Satyal, W. N. Setzer, P. Satyal, Comparison of Volatile Constituents Present in Commercial and Lab-Distilled Frankincense (Boswellia carteri) Essential Oils for Authentication, Plants, 11(16), 2134 (2022). PMID 36015437. doi:10.3390/plants11162134
R. Jurevičiūtė, K. Ložienė, M. Bruno, A. Maggio, S. Rosselli, Composition of essential oil of lemon thyme (Thymus × citriodorus) at different hydrodistillation times, Natural Product Research, 33(1), 80-84 (2019). PMID 29394873. doi:10.1080/14786419.2018.1434642