原料図鑑 · 73
原料図鑑:α-アミルシンナムアルデヒド —— 主力にならなかったほうの双子。理由を4つの欄が語る
· 14 分
CAS 122-40-7。α-ヘキシルシンナムアルデヒドとは炭素1つ違いで、市場はヘキシルを選んだ。処方群で70件対157件になる。今回ジャンル横断も測ったら差はもっとはっきりした。ヘキシルは14ジャンル全部で最大ジャンル32.4%、アミルは12ジャンルで55.6%、基準線35.4%を大きく上回る。残香は256時間対400時間。水生有害性はH411「有毒」対H412「有害」で、IFRAカテゴリー9はそのため1.5%対19%になる。独立した4つの欄が同じ方向を指す。1996年のデンマークの研究は、天然をうたう香水のなかに双子の両方を見つけている。
ヘキシルシンナマールの回でこの双子を紹介した。側鎖の炭素1つ違いで、どちらもジャスミンの匂いがし、どちらもEUの26表示義務香料に入る。
あの回では残香、水生毒性、IFRA制限値を比べた。今回はもう1つの欄——ジャンル横断——が加わり、像がはっきりする。
独立した4つの欄が、すべて同じ方向を指す。
先に結論
- 70件対157件。 ヘキシルは2.2倍使われている。
- ジャンル横断の差はもっと大きい。 ヘキシルは14/14ジャンルで最大ジャンル32.4%(基準線35.4%を下回る主力)。アミルは12/14で55.6%(基準線の1.57倍、フローラルの専門家)。
- 残香は256時間対ヘキシルの400時間。
- 水生有害性はH401/H411「有毒」対ヘキシルのH402/H412「有害」。
- IFRA第49次改訂のカテゴリー9(家庭用洗浄)は1.5%対19%、12倍になる。
- 1996年のデンマークの研究は、天然をうたう香水22件の91%から対象の感作物質を検出した。 双子の両方がそのリストにある。
- 自然界での産出は大豆と紅茶(ヘキシルはカモミール)。
読了8分ほど。
4つの欄を並べる
| α-アミルシンナムアルデヒド | α-ヘキシルシンナムアルデヒド | |
|---|---|---|
| CAS | 122-40-7 | 101-86-0 |
| 分子式 | C₁₄H₁₈O、MW 202.30 | C₁₅H₂₀O、MW 216.32 |
| 処方群での登場 | 70件(7.3%) | 157件(16.5%) |
| 使用量の中央値 | 6.00% | 8.00% |
| ジャンル | 12/14 | 14/14 |
| 最大ジャンル | 55.6% フローラル | 32.4% フローラル |
| 処方群の基準線 | 35.4% | 35.4% |
| 残香 | 100%で256時間 | 100%で400時間 |
| 水生 | H401/H411 有毒 | H402/H412 有害 |
| IFRAカテゴリー4 | 7.0% | 9.9% |
| IFRAカテゴリー9 | 1.5% | 19% |
| IFRAカテゴリー10A | 1.5% | 69% |
| サプライヤー | 53社 | 56社 |
| 産出 | 大豆、紅茶 | カモミール |
サプライヤー数はほぼ同じ(53対56)で、他のすべての欄が違う。
ここは分けて書く価値がある。どちらも市場にあり、どちらも買いやすく、それでいて使用は2倍以上違う。 供給の問題ではなく選択の問題になる。
横断の欄は今回追加したもの
前回、954件の処方をタイトルから14ジャンルに分けた。各素材が何ジャンルに届き、最大のジャンルがどれだけを占めるかを数えている。
要は先に基準線を出すことになる。処方群でフローラルのラベルは全ラベルの35.4%を占める。
- ヘキシルシンナマールは32.4%、基準線を下回る。処方群自体より広く散っていて、主力になる。
- アミルシンナマールは55.6%、基準線の1.57倍。処方群よりフローラルに寄っている。
どちらもジャスミンの匂いがして、どこにでも置けるものになったのは片方だけになる。
この差は他の欄には現れない。 残香144時間の差も水生有害性1段の差も、ウッディでこれを手に取るかどうかを直接は決めない。横断の欄が測っているのは別のもので、フローラル以外の場所でどれだけ筋が通るかになる。
データから因果は出せない。 匂い自体がよりフローラルなのかもしれないし、歴史的な慣性かもしれない(アミルのほうが古い分子になる)し、家庭用の制限値が機能性の処方から締め出しているのかもしれない。最後のものには数字がある。
家庭用の制限値が12倍違う
IFRA第49次改訂は、ファインフレグランスでは似た扱いをし、家庭用のカテゴリーでは大きく違う扱いをする。
| IFRAカテゴリー | アミル | ヘキシル | 倍率 |
|---|---|---|---|
| カテゴリー4(ファインフレグランス) | 7.0% | 9.9% | 1.4倍 |
| カテゴリー9(家庭用洗浄) | 1.5% | 19% | 12.7倍 |
| カテゴリー10A(その他家庭用) | 1.5% | 69% | 46倍 |
そしてGHSが筋の通る説明を与える。
| アミル | ヘキシル | |
|---|---|---|
| 感作 | H317 | H317 |
| 水生 | H401/H411 有毒 | H402/H412 有害 |
片方は「有毒」、片方は「有害」で、1段違う。
はっきりさせておくと、これは2つの表を並べて得た読みで、IFRAは制限値の導出を本文で説明していない。 水生毒性はもっともらしい説明であって、示された因果ではない。
それでも実務上の帰結は本物になる。 石鹸、洗剤、キャンドル、そのほかカテゴリー9や10のものを作るなら、アミルにはほとんど余地がなく、ヘキシルには十分ある。 ヘキシルの回で引いた2018年の調査が131世帯1,447製品の成分表で最も多く数えたのもヘキシルであって、アミルではなかった。
70対157の一部は、この線に沿っているのかもしれない。
安全性評価
RIFM(香粧品香料原料安全性研究所)は2015年に、この素材の成分安全性評価を Food and Chemical Toxicology に発表している(Apiら)。CAS 122-40-7 になる。
ここは慎重にいく。 あの評価にはPubMed上に要旨がない。存在することと、CASが正しく対応することは確認できたが、結論を引用することはできない。 参考文献に挙げているのは「この素材には専用の安全性評価があって読める」ことを示すためであって、読んでいない内容を伝えるためではない。
これを書いておく価値があるのは、RIFMの評価は取り違えやすいからになる。 「amyl cinnamal RIFM」で検索すると次が同時に出てくる。
- amyl cinnamate(CAS 3487-99-8)——エステルであってアルデヒドではない、別の分子
- α-amyl cinnamic aldehyde diethyl acetal(CAS 60763-41-9)——アセタール誘導体
- α-amylcinnamaldehyde(CAS 122-40-7)——これ
名前のよく似た3つの別々の評価になる。 ジャスミンの回の商品名の問題と同じ種類だ。名前ではなくCASを照合することになる。
「天然」製品のなかのこれ
スレッドには「安全な天然物——あの有名な撞着語法」という不満があった。この素材は、そこへ真正面から向かう研究に登場する。
Rastogiらは1996年に Contact Dermatitis で、天然成分をうたう化粧品42品について、11種の香料物質の含有を調べた。ゲラニオール、ヒドロキシシトロネラール、オイゲノール、イソオイゲノール、ケイ皮アルデヒド、ケイ皮アルコール、α-アミルケイ皮アルデヒド、シトラール、クマリン、ジヒドロクマリン、α-ヘキシルケイ皮アルデヒドになる。
結果は:
- 天然成分ベースの香水22件のうち91%(20/22)が、対象香料の1〜7種を0.027%〜7.706%含んでいた。
- 82%(18/22)が、フレグランスミックスの化学的に定義された合成構成成分を1〜5種含んでいた。
- その他の化粧品(シャンプー、クリーム、化粧水など)20件では35%(7/20)が0.0003%〜0.0820%の1〜3種を含んでいた。
- 一部の製品からはヒドロキシシトロネラール、クマリン、ケイ皮アルコール、α-アミルケイ皮アルデヒドが比較的高濃度で検出された。
そして論文自身の結論がいちばん率直になる。
一部の製品からヒドロキシシトロネラールとα-ヘキシルケイ皮アルデヒドが検出されたことは、人工香料、すなわち天然物質とはまだみなされていない化合物が、天然成分に基づくと謳う製品に存在しうることを示している。
1996年の研究で、市場は変わった。 構造的な問題は変わっていない。「天然成分ベース」は規制された定義ではない。
物性
| 項目 | 値 |
|---|---|
| CAS | 122-40-7 |
| 分子式 | C₁₄H₁₈O、MW 202.30 |
| 外観 | 淡黄色〜黄色の澄明な液体(推定) |
| 沸点 | 287〜290 °C |
| 引火点 | > 100 °C |
| logP | 4.20(推定) |
| 水溶解度 | 8.545 mg/L @ 25 °C(推定) |
| 保存期間 | 12か月以上 |
| 残香 | 100%で256時間 |
| 強さ | medium |
| サプライヤー | 53社 |
| 産出 | 大豆、紅茶 |
| 規制収載 | JECFA、FEMA GRAS、CoE、FLAVIS |
| GHS | H317、H401、H411 |
| 香調 | スイート、フローラル、オイリー、フルーティ、ハーバル、ジャスミン、トロピカル、グリーン、パウダリー |
保存期間12か月はヘキシルと同じで、多くの素材より短い。アルデヒドは酸化する。
水溶解度8.545 mg/Lはヘキシルの2.75の3倍だが、どちらも水相には入らない。
産出欄の紅茶は目に留めておきたい。 ヘキシルはカモミール、こちらは大豆と紅茶になる。どちらもジャスミン由来ではない。 ヘキシルの回に書いたとおり、ジャスミンはこの種の分子を作らない。
この記事が示していないこと
どちらも嗅いでいないし、比較もしていない。 全体はデータベースの欄、処方群、IFRAの本文、2本の論文の突き合わせになる。
RIFMの論文については存在とCASだけを確認し、結論は一切引用していない。 PubMedに要旨がなく、読んでいない内容は伝えない。 あの評価を使うなら原文を読むことになる。
「家庭用制限値の差は水生毒性から来る」はこちらの推論になる。 2つの表は別々に引いたもので、IFRAは制限値の導出を説明していない。
横断の差の理由については、まったく答えを持っていない。 匂いも歴史も規制も関わりうるが、データが言えるのは差があることだけになる。
横断の方法と限界は主力の回にある。 タイトルへのキーワード照合は外れるし、処方の21.2%はラベルがつかない。標本も2倍以上違う(70対157)ので、12/14対14/14の差の一部は標本数だけの話かもしれない。
Rastogiの研究は1996年のデンマーク市場になる。 30年が経ち、EUの表示規則は2005年にようやく始まった。あの百分率で現在の市場を語ることはできない。 引いているのは構造的な観察であって数字ではない。
残香の2つの数字(256対400時間)はデータベースの2件の記録から取っている。 どちらも100%と書かれているが、同一の実験・同一の方法である保証はない。
GHS分類はデータベースの記載であって、規制上の完全な判定ではない。実際に使うときは手元のロットのSDSと現行のIFRA基準に従ってほしい。
参考文献
A. M. Api, D. Belsito, S. Bhatia, et al., RIFM fragrance ingredient safety assessment, α-amylcinnamaldehyde, CAS registry number 122-40-7, Food and Chemical Toxicology, 82 Suppl, S20-S28 (2015). PMID 25636726. doi:10.1016/j.fct.2015.01.008
S. C. Rastogi, J. D. Johansen, T. Menné, Natural ingredients based cosmetics. Content of selected fragrance sensitizers, Contact Dermatitis, 34(6), 423-426 (1996). PMID 8879930. doi:10.1111/j.1600-0536.1996.tb02246.x
関連:α-ヘキシルシンナムアルデヒド、「主力原料」は測れる、天然のほうが穏やかか、IFRAの制限値は何を制限しているのか。