原料図鑑 · 69
原料図鑑:α-ヘキシルシンナムアルデヒド —— ジャスミンが作らないジャスミン分子。表示ではアレルゲン第3位、外来では最下位群
· 15 分
CAS 101-86-0。954件の処方のうち157件(16.5%)に入り、使用量の中央値は8.00%。このシリーズで扱ったなかでも重く使われる部類になる。香調欄はjasmin、産出欄はカモミール。GHSはH317で感作を示し、2018年の調査は131世帯1,447製品のなかでこれを最も多く表示された3つのアレルゲンの一つに数えた。一方2007年の21,325名のパッチテスト研究では感作率0.1%で、EUの26種のなかで最下位群になる。α-アミルシンナムアルデヒドとは炭素1つ違いで、その1つが家庭用カテゴリーのIFRA制限値を1桁動かしている。
まず2つの欄を並べてみる。
香調欄: fresh; floral; green; jasmin; herbal; waxy; sweet; citrus; fruity; powdery; tropical; spicy
産出欄: chamomile(カモミール)
ジャスミンの匂いがして、自然界でこれを作っているのはカモミールになる。ジャスミンはこの分子を作らない。
今日のもう1本は、供給元がジャスミンを何種類置いているかを数えている。その1分類が再構成品で、15〜20の材料で本物の花の全体印象に近づけるものだ。この素材はその主梁にあたる。
先に結論
- 954件中157件(16.5%) に登場し、使用量の中央値は8.00%。このシリーズで扱ったなかでも重く使われる部類になる。
- 香調欄はjasminで、産出欄はカモミール。2015年に商業ジャスミン4種を測った研究の上位はリナロール、ファルネセン、酢酸ベンジルで、これは入っていない。
- 残香100%で400時間、強さはmedium。保存期間は12か月で、このシリーズでは短いほうになる。
- GHSはH317(アレルギー性皮膚反応のおそれ)を示す。 これについて2つのデータは逆を向く。
- 表示の上では:2018年の調査で、131世帯1,447製品の成分表にEU表示対象の26アレルゲンが約2,000回現れ、最も多かったのはリモネン、リナロール、そしてこれだった。
- 外来では:2007年の21,325名のパッチテスト研究で、感作率は0.1%、26種のなかの最下位群になる。
- α-アミルシンナムアルデヒドとは炭素1つ違い。その1つが家庭用カテゴリーのIFRA制限値を1桁動かしている(カテゴリー9で19%対1.5%)。
読了8分ほど。
どれだけ多く、どれだけ重く
重複を除いた954件の処方群で:
| 値 | |
|---|---|
| 登場件数 | 157 / 954(16.5%) |
| 使用量の中央値 | 8.00% |
| サプライヤー | 56社 |
6件に1件が使い、中央値で8%入る。
強さのラベルと使用量の階段を作ったところ、mediumの素材の中央値は2.00%だった。これはmediumでありながら、その4倍入る。
この差が役割を語っている。 印象を与えるための素材ではなく、量を担うための素材になる。フローラルの体積を埋める種類で、フェネチルアルコール(中央値10.00%)と同じ側に立つ。
残香は100%で400時間。この数字はシリーズのなかでは高い。カローンは600時間超だが10%希釈、veramossの400時間も10%希釈で、こちらの400は原液での測定になる。
ジャスミンには入っていない
この素材でいちばん覚えておく価値があるのがここだ。
Beraらは2015年、商業栽培される4種のジャスミン(サンバック、アウリクラツム、グランディフロラム、ムルチフロルム)のヘッドスペース香気をGC-MSで測った。4種すべてで上位に来たのは:
- 主要モノテルペン:リナロール
- 主要セスキテルペン:(3E,6E)-α-ファルネセン
- 最も多いベンゼノイド:酢酸ベンジル
シンナムアルデヒド系はこのリストにない。
そしてデータベースの産出欄はカモミールになっている。工業的な合成品で、ヘキサナールとベンズアルデヒドの縮合生成物であり、花から抽出したものではない。
ではなぜジャスミンアルデヒドと呼ばれるのか。 ジャスミンのいくつかの側面——グリーン、ワクシー、フルーティ、パウダリー——に当たるからだ。再構成品のなかでは、ジャスミンに含まれるどの分子を再現するでもなく、全体をジャスミンの方向へ押す役をしている。
買う側への帰結が1つある。 本物の花の複雑さが欲しいなら、これでは届かない。Braunらは1本のジャスミンアブソリュートから121化合物を同定している。収穫で揺れない、安定して安価なジャスミンの方向が欲しいなら、これはまさにそのために存在している。
α-アミルシンナムアルデヒドとは炭素1つ違い
市場には混同されがちな双子がいる。
| α-ヘキシルシンナムアルデヒド | α-アミルシンナムアルデヒド | |
|---|---|---|
| CAS | 101-86-0 | 122-40-7 |
| 分子式 | C₁₅H₂₀O | C₁₄H₁₈O |
| 処方群での登場 | 157件(16.5%) | 70件(7.3%) |
| 使用量の中央値 | 8.00% | 6.00% |
| 残香 | 100%で400時間 | 100%で256時間 |
| サプライヤー | 56社 | 53社 |
| 産出 | カモミール | 大豆、紅茶 |
側鎖の炭素1つで、残香が144時間、市場での採用が倍以上変わる。
ただし本当に両者を分けているのは別の欄になる。
| GHS | ヘキシル | アミル |
|---|---|---|
| 感作 | H317 | H317 |
| 水生 | H402/H412 有害 | H401/H411 有毒 |
片方は「有害」、片方は「有毒」。 そしてその差はIFRA第49次改訂に現れる。
| IFRAカテゴリー | ヘキシル | アミル |
|---|---|---|
| カテゴリー4(ファインフレグランス) | 9.9% | 7.0% |
| カテゴリー9(家庭用洗浄) | 19% | 1.5% |
| カテゴリー10A(その他家庭用) | 69% | 1.5% |
ファインフレグランスでは近く、家庭用の2列では1桁離れる。
この線は洗剤ボトルの裏まで届く。 Wieckらは2018年に Regulatory Toxicology and Pharmacology で131世帯の洗剤を調査し、1,447製品の成分表からEU洗剤規則が表示を求める26種の香料アレルゲンを探した。
その26種は約2,000回現れ、最も多かったのはリモネン、リナロール、ヘキシルシンナマールだった。
家庭用製品の表示に載るのはヘキシルであってアミルではない。 上の表は筋の通る理由を示している。
(はっきりさせておくと、あの研究が数えたのは表示であり、因果の結論は出していない。IFRAの制限値と表示頻度を並べたのはこちらの読みで、どちらの論文の結論でもない。)
H317の意味と、意味しないこと
この素材のGHSには H317:アレルギー性皮膚反応を起こすおそれ がついている。この行を見て一歩引く人が多い。
臨床の数字は別の方を向いている。
Schnuchらは2007年に Contact Dermatitis でIVDKのデータを報告している。2003年から2004年にかけて6か月ずつ4期、21,325名の患者が標準シリーズに加えてEU表示対象の26種の香料でパッチテストを受け、各物質の被検者数は1,658名から4,238名だった。
性別と年齢で標準化した感作率の上位と下位はこうなる。
| 香料 | 感作率 |
|---|---|
| ツリーモス | 2.4% |
| HMPCC(Lyral) | 2.3% |
| オークモス | 2.0% |
| ヒドロキシシトロネラール | 1.3% |
| イソオイゲノール | 1.1% |
| … | |
| α-アミルシンナムアルデヒド | 0.1% |
| α-ヘキシルシンナムアルデヒド | 0.1% |
| リモネン | 0.1% |
| 安息香酸ベンジル | 0.0% |
0.1%、26種のなかの最下位群になる。
論文はもう1つ有用な区別をしている。感作頻度の高い物質は「++/+++」の強い反応をかなりの数ともない、低い物質は疑わしい反応や刺激反応が多く強い反応が少ない。
結論はそっけない。この26種のなかには、接触アレルギーに関して重要度の大きいもの、小さいもの、そしてまったく重要でないものが明らかに存在する。
2つのデータを重ねると、こうなる。 表示の上では最も多く挙がる3つのアレルゲンの一つであり、外来では最も確認されにくい部類の一つになる。
表示が並べているのは「表示すべきもの」であって「リスクの高いもの」ではない。 あの26種のリストは規則によって作られたのであって、測定された感作率で並べられてはいない。安全性研究の読み方を書いたが、これはそのきれいな一例になる。
だからといってH317を無視していいわけではない。 すでに感作された人は反応するし、21,325名の0.1%でも20名を超える。言いたいのは、この行はオークモスの行ほど心配しなくてよく、実際に心配すべきなのは後者だということだ。
IFRAの9.9%と処方群の8.00%:単位の落とし穴
2つの数字を並べると驚くことになる。
- IFRAカテゴリー4(ファインフレグランス)の制限値 9.9%
- 処方群での使用量の中央値 8.00%
処方の半分が規制上限すれすれで走っているように読める。
単位が違う。
- IFRAのパーセントは最終製品中の濃度になる。
- 処方群のパーセントは香料コンセントレート中の比率になる。
仕上がった香水はふつうコンセントレートを10〜20%に希釈する。だからコンセントレート中の8.00%は最終製品では**0.8%から1.6%**で、9.9%には遠い。
この落とし穴は単独で立てる価値がある。両方とも「%」と書かれているからだ。 IFRAの回で同じ点を書いたが、この素材はいちばん引っかかりやすい。2つの数字がたまたま近いからになる。
物性
| 項目 | 値 |
|---|---|
| CAS | 101-86-0 |
| 分子式 | C₁₅H₂₀O、MW 216.32 |
| 外観 | 淡黄色〜黄色の澄明な液体(推定) |
| 沸点 | 174〜176 °C @ 15 mmHg |
| 引火点 | 113 °C |
| logP | 4.80(推定) |
| 水溶解度 | 2.75 mg/L @ 25 °C(推定) |
| 保存期間 | 12か月以上 |
| サプライヤー | 56社 |
| 規制収載 | JECFA、FEMA GRAS、CoE、FLAVIS |
保存期間12か月は目に留めておきたい。 このシリーズの素材の多くは24か月からで、フェネチルアルコールもveramossもそうだ。アルデヒドはもともと酸化しやすいし、8%も入れるつもりなら、古い1本は処方そのものを書き換えてしまう。
水溶解度2.75 mg/Lは、フェネチルアルコールの22,000 mg/Lより4桁低い。これは水相には入らない。
この記事が示していないこと
嗅いでいないし、比較もしていない。 全体はデータベースの欄、処方群、論文の突き合わせになる。
「ジャスミンはこの分子を作らない」の根拠は産出欄とBeraのヘッドスペース分析になる。 ヘッドスペースが測るのは生きた花が放つもので、アブソリュートではない。アブソリュートに微量あってヘッドスペースに出ない可能性は、手元の材料では排除できない。ただし工業的な供給源が合成であることに疑いはない。
「家庭用制限値の差は水生毒性から来る」はこちらの推論になる。 2つの表は別々に引いたもので、IFRAは制限値の導出を本文で説明していない。水生毒性は筋の通る説明であって、示された因果ではない。
Wieckの研究が数えたのは成分表への記載回数で、実際の含有量ではない。 表示されていることは含有量の多さを意味しない。あの研究は製品を1つも測定していない。
Schnuchの対象は皮膚科外来のパッチテスト患者で、一般集団ではない。外来の集団はもともと皮膚の問題を抱える人が集まっているので、0.1%は一般集団ではさらに低くなるはずで、そのまま当てはめられる数字ではない。
あのデータは2003〜2004年のものになる。 20年で市場での使用量は変わり、曝露も変わった。当時2.3%だったLyral(HMPCC)はその後IFRAで禁止されており、あの順位は現在成り立たない。
残香の比較(400時間対256時間)はデータベースの2件の記録から取っている。 どちらも100%と書かれているが、同一の実験・同一の方法である保証はない。
GHS分類はデータベースの記載であって、規制上の完全な判定ではない。実際に使うときは手元のロットのSDSと現行のIFRA基準に従ってほしい。
参考文献
A. Schnuch, W. Uter, J. Geier, H. Lessmann, P. J. Frosch, Sensitization to 26 fragrances to be labelled according to current European regulation. Results of the IVDK and review of the literature, Contact Dermatitis, 57(1), 1-10 (2007). PMID 17577350. doi:10.1111/j.1600-0536.2007.01088.x
S. Wieck, O. Olsson, K. Kümmerer, U. Klaschka, Fragrance allergens in household detergents, Regulatory Toxicology and Pharmacology, 97, 163-169 (2018). PMID 29940212. doi:10.1016/j.yrtph.2018.06.015
関連:供給元がジャスミンを5つ並べていた、IFRAの制限値は何を制限しているのか、香料安全性研究の読み方、入門パレットの地図。