原料図鑑 · 70
原料図鑑:イソオイゲノール —— 香料アレルゲンの首位に立ったばかり。理由は、上にいたものが規制で消えたことになる
· 15 分
CAS 97-54-1。2020年にドイツIVDKの2016〜2018年データを分析した論文には、フレグランスミックスIで陽性反応が最も多いアレルゲンはもはやオークモスアブソリュートではなくイソオイゲノールだ、と書かれている。危険になったのではない。オークモスとHICCがEUで禁止され、同じ論文はフレグランスミックスIの陽性率が5.4%という歴史的低水準に落ちたことも記録している。IFRA第49次改訂はこれをカテゴリー4で0.11%に抑えていて、前回のヘキシルシンナマール(9.9%)の90分の1になる。そして954件の公開処方の使用量中央値は、希釈後にその制限値を超える。あの処方群の多くが2020年より前のものだからだ。
GeierとBransは2020年に Der Hautarzt で、ドイツIVDKの2016〜2018年のパッチテストデータを分析している。そのなかの一文は単独で取り出す価値がある。
フレグランスミックスIにおいて、陽性試験反応が最も多いアレルゲンは、もはやオークモスアブソリュートではなくイソオイゲノールである。
首位に移った。
そして、より危険になったわけではない。 前にいたものが取り除かれた。
先に結論
- 2016〜2018年のIVDKデータで、フレグランスミックスIの首位がオークモスアブソリュートからイソオイゲノールに変わった(GeierとBrans 2020)。
- 同じ論文は、フレグランスミックスIの陽性率が2018年に5.4%という歴史的低水準に落ちたこと、ミックスIIは3.2%になったことを記録している。低下の主因はアトラノールとクロロアトラノールを含むオークモス、およびHICCの使用減少で、両者は2019年8月からEUで化粧品への使用が禁止されている。
- つまり首位の交代は、規制が効いていることの副産物であって、この素材に何かが起きたのではない。
- 同じ論文はもう1つ数字を出している。表示義務のある26種の香料のうち、被検者の1%を超えてアレルギー反応を惹起したのは11種だけになる。
- IFRA第49次改訂はカテゴリー4(ファインフレグランス)で0.11%に抑えていて、前回のヘキシルシンナマールの9.9%の90分の1になる。
- そして954件の公開処方の使用量中央値は、希釈後にその制限値を超える。 あの処方群の多くは2020年の改訂より前のものだ。
- 感作強度について、2つの試験は違う言葉を使う。**モルモット最大化試験はextreme(極めて強い)と分類し、非放射性LLNAが出したEC3は12.7%**だった(Takeyoshiら2008)。
読了8分ほど。
順位はどう変わったのか
時系列を並べる。ここは本サイトの何本かにまたがるからだ。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2003〜2004 | IVDKが21,325名を検査:オークモス2.0%、イソオイゲノール1.1% |
| 2015 | アトラノールとクロロアトラノールを減らした「新オークモス」の惹起が有意に少ないと示される |
| 2019年8月 | アトラノール・クロロアトラノールを含むオークモスとHICCが、EUで化粧品への使用を禁止される |
| 2016〜2018 | フレグランスミックスIの首位がイソオイゲノールに。陽性率は5.4%の歴史的低水準へ |
真ん中の2行が、Veramossの回でたどった線になる。
オークモスのIFRA上限はカテゴリー4で0.10%まで下げられ、規格はアトラノールとクロロアトラノールをそれぞれ100 ppm未満と定めた。市場は合成代替品へ大きく動いた。そしてIVDKの数字は、その移動が外来にも現れたことを示している。
GeierとBransは考察ではっきり書いている。ミックスへの陽性反応の低下は、主にアトラノールとクロロアトラノールを含むオークモスおよびHICCの使用減少によるものであり、両者が2019年8月からEUで禁止されている以上、感作頻度のさらなる低下が見込まれる。
規制が効いているのが見える、めずらしい例になる。 その副作用として、卓上に残ったものは自動的に順位が上がる。
だから「イソオイゲノールがいま首位だ」という文は、単独では読めない。 末尾に4文字が抜けている。残ったなかで、だ。
1%を超えたのは11種だけ
GeierとBransにはもう1文あって、前回の結論と同じことを言っている。
表示義務のある26種の香料のうち、被検者の1%を超えてアレルギー性試験反応を惹起したのは11種だけである。
26のうち11。 残りの15種は外来での陽性率が1%を下回った。
そしてイソオイゲノールは、その11種の先頭になる。
これが、表示とリスクの差に数字がついた姿になる。 あの26種のリストは規則によって作られている。前回のヘキシルシンナマールは表示では上位3位、外来では0.1%で、この素材は逆になる。
論文自身の結論もそう述べている。アレルギー学の観点から、個々の香料を区別して扱うことが緊急に必要である。
2つの素材を並べる
前回の素材とこの素材を並べると、規制が何を追っているかが見える。
| α-ヘキシルシンナムアルデヒド | イソオイゲノール | |
|---|---|---|
| 2007年IVDKの感作率 | 0.1%(26種の下位) | 1.1%(5位) |
| 2016〜2018 IVDK | — | ミックスIの首位 |
| IFRAカテゴリー4 | 9.9% | 0.11% |
| IFRAカテゴリー5A | 2.5% | 0.027% |
| IFRAカテゴリー11A | 38% | 0.0090% |
| 処方群での登場 | 157件(16.5%) | 68件(7.1%) |
| 処方群の中央値 | 8.00% | 1.276% |
| サプライヤー | 56社 | 56社 |
IFRAの制限値は90倍、外来の感作率は11倍の差になる。向きは一致している。
表示頻度はどちらとも一致しない。 家庭用製品の成分表ではヘキシルシンナマールが上位3位で、イソオイゲノールは入らない。
3つのデータは3つの別のことを語っている。
- 外来の感作率は、実際に誰がアレルギーを起こすかを語る。
- IFRAの制限値はそれを追い、さらに曝露量の推定を加える。
- 表示の出現頻度は、誰が多く使われ、かつ表示が必要かを追う。
3つ目を1つ目として読むと、間違ったものを怖がることになる。 安全性研究の読み方を書いたが、この2素材はその最もきれいな実演になる。
処方群に隠れている問題
954件の公開処方で、イソオイゲノールは68件(7.1%)に登場し、使用量の中央値は1.276%、第3四分位3.00%、最大の1件で42.00%になる。
この中央値は計算がいる。
- コンセントレート中で1.276%
- 仕上がった香水はふつう10〜20%に希釈する
- したがって最終製品では0.13%から0.26%
- IFRAカテゴリー4の制限値は0.11%
中央値の処方を20%に希釈すると、制限値のおよそ2.3倍になる。10%でもまだわずかに超える。
前回は同じ場所で逆のケースを示した。 ヘキシルシンナマールの8.00%は9.9%の上限すれすれに見えて、希釈後は1桁離れていた。あれは杞憂だった。
こちらは杞憂ではない。
理由は不思議でもなんでもない。あの処方群の74%は特許と公開された出どころから来ていて、この素材に対するIFRAの規制の歴史は長い。 基準の本文が挙げる発行年は1980、1998、2001、2004、2007、そして2020年の第49次改訂になる。それらの処方の多くは、現行の制限値より前に書かれている。
実務上の帰結は直接的だ。古い特許処方をひな型にするときは、この素材を計算し直すことになる。 そのまま写すと超える種類の素材だ。
感作強度:2つの試験、2つの言葉
Takeyoshiらは2008年に Journal of Applied Toxicology で、イソオイゲノールと2種の二量体の感作強度を比較した。非放射性局所リンパ節試験とモルモット最大化試験の両方を使っている。
結果は:
| 物質 | モルモット最大化試験 | 非RI LLNAのEC3 |
|---|---|---|
| イソオイゲノール | extreme(極めて強い) | 12.7% |
| β-O-4-ジリグノール(二量体) | weak | >30% |
| デヒドロジイソオイゲノール(二量体) | moderate | 9.4% |
同じ素材が、一方の試験でextremeと呼ばれ、他方ではEC3 12.7%になる。
矛盾はしていないし、同じものさしでもない。 論文自身の緒言はイソオイゲノールをよく知られた中程度のヒト感作物質と呼んでいて、モルモット試験のextremeとは別の言葉になる。
覚えておく価値がある。感作強度の分類は、どの試験が出したものか、その試験の等級づけの規則が何かに依存する。 形容詞に出会ったら、どの体系から来たかを聞くことになる。
論文のもう1つの発見はもう少し明るい。二量体化は感作強度を下げ、イソオイゲノールの二量体は現在は香料化学品として使われていない。著者らは、二量体化が低感作リスクの化粧品原料の候補を生むかもしれないとしている。それは方向であって、いま使える代替品ではない。
天然は穏やかを意味しない
この素材の産出欄は長い。
オールスパイス葉油、オールスパイス、バジル、キンマ葉油 @ 10.59%、ブルーベリー、カシア、セイロンシナモン樹皮、セイロンシナモン葉油、クローブバッド油 @ 1.08%、クローブ葉油、クローブ油、キンコウボクコンクリート @ 0.10%……
自然界のいたるところにある。 クローブ、シナモン、オールスパイス、バジル、キンマ。台所や市場で買えるものばかりだ。
そしていま、フレグランスミックスIで陽性反応が最も多い素材になっている。
天然のほうが穏やかかを書いたが、これはその最も直接的な例証になる。 ある分子が自然界にどれだけ広く存在するかは、アレルギーを起こす力について何も語らない。
精油を買う人にも直接効いてくる。 クローブバッド油には1.08%含まれるので、処方にクローブ油があるならその線はすでに入っている。ジャスミンアブソリュートがサリチル酸エステルを連れてくるのと同じ構図になる。
物性
| 項目 | 値 |
|---|---|
| CAS | 97-54-1 |
| 分子式 | C₁₀H₁₂O₂、MW 164.20 |
| 外観 | 無色〜黄色の澄明な液体(推定) |
| 融点 | 14〜18 °C |
| 沸点 | 266〜267 °C |
| 引火点 | > 100 °C |
| logP | 3.00(推定) |
| 水溶解度 | 165.9 mg/L @ 25 °C(推定) |
| 残香 | 100%で400時間 |
| 強さ | medium |
| サプライヤー | 56社 |
| 香調 | スイート、スパイシー、クローブ、ウッディ、オールスパイス、カーネーション、フローラル |
| GHS | H302、H315、H317、H319、H335 |
融点14〜18 °Cは目に留めておきたい。 白い粒の回で計算したとおり、融点が室温近くにある素材は寒くなった時期に人を困らせる。これはその帯にいる。
残香は100%で400時間で、ヘキシルシンナマールと同じく原液での高い値になる。早く消える素材ではない。
この記事が示していないこと
嗅いでいないし、比較もしていない。 全体はデータベースの欄、処方群、IFRAの本文、2本の論文の突き合わせになる。
「順位が変わったのは規制のせいだ」はGeierとBrans自身の考察であって、観察された低下への説明として提示されたものであり、実証された因果ではない。他の要因——処方習慣の変化、被検者層の変化——も寄与しうる。
IVDKの対象は皮膚科外来のパッチテスト患者で、一般集団ではない。その集団はもともと皮膚の問題を抱える人が集まっている。
「ミックスIの首位」はミックスIのなかでの順位であって、全香料のなかでの順位ではない。ミックスIIではHICCが依然として首位になる。
制限値超過の計算は10〜20%という希釈の仮定を使っている。 実際の希釈率は製品で変わるし、それらの特許処方がどのカテゴリーの製品を想定していたかは分からない。 カテゴリー4はファインフレグランスで、カテゴリー10B(上限0.75%)向けの処方なら結論は変わる。
IFRAの制限値は最終製品濃度で、処方群のパーセントはコンセントレート中の比率になる。両者の換算には希釈率が要り、使ったのは一般的な範囲であって、それらの処方の実際の値ではない。
Takeyoshiのextremeと12.7%を1つの数字に統合することはできない。 両方を並べているのは、異なる試験と等級体系から来ているからで、どちらがヒトの状況に近いかを判断する立場にはない。
二量体の節はあの論文の展望であって、入手できる製品ではない。 論文自身が、イソオイゲノールの二量体は現在香料化学品として使われていないと書いている。
GHS分類はデータベースの記載であって、規制上の完全な判定ではない。実際に使うときは手元のロットのSDSと現行のIFRA基準に従ってほしい。
参考文献
J. Geier, R. Brans, Wie häufig ist Duftstoffallergie wirklich?, Der Hautarzt, 71(3), 197-204 (2020). PMID 31965209. doi:10.1007/s00105-019-04534-w
M. Takeyoshi, K. Iida, K. Suzuki, S. Yamazaki, Skin sensitization potency of isoeugenol and its dimers evaluated by a non-radioisotopic modification of the local lymph node assay and guinea pig maximization test, Journal of Applied Toxicology, 28(4), 530-534 (2008). PMID 17929237. doi:10.1002/jat.1305
関連:α-ヘキシルシンナムアルデヒド、Veramoss/Evernyl、天然のほうが穏やかか、IFRAの制限値は何を制限しているのか。