はじめての調香 · 28
供給元がジャスミンを5つ並べていた。それは産地5つではなく、うち2つには花が入っていない
· 20 分
供給元のジャスミンの選択肢に圧倒された人が、5つの名前を挙げてどれがいいかと聞いた。スレッドの誰も肝心なことを言わなかった。その5つは同じ種類の製品ではない。データベースには名前に「jasmin」を含む記録が74件あり、52件にサプライヤーがつき、9件の産出欄は「自然界では見つかっていない」と書いている。そして商品ラインの語が2つ、ほぼラベルとして使える。商品名に「Floraline」を含む28件の供給記録は、1件も本物の抽出物に対応しない。「Givco」の52件も同じだ。スレッドではFlorallineをグランディフロラム版だと推測した人がいたが、あれは再構成品になる。
原料の供給元に発注しようとして、ジャスミンで詰まった人がいた。
「BulkAromaで買おうと思ったんですが、選択肢に圧倒されました! ジャスミンのところにはこれだけあります。Sampaquita Givco、Jasmine 74、Jasmine Grandi、Jasmine Sambac ROBERTET、Jasmine Floraline ROBERTET。どれがいちばん買う価値があるか分かる方がいますか?」
「あと『Attar shop』の下にあるものは調香に使えるんでしょうか?」
返信13件。いい助言もあったが、肝心なことを誰も言わなかった。その5つは同じ種類の製品ではない。
うち2つには花が入っていない。
先に結論
- データベースで名前に
jasminを含む記録は74件。うち52件にサプライヤーがつき、13件はサプライヤー10社以上になる。この人が気後れしていたのではなく、この項目には本当に74個ある。 - その74件のうち、9件の産出欄が「自然界では見つかっていない」と書いている。この欄が最速の仕分けになる。
- 商品ラインの語が2つ、ほぼラベルとして使える。 商品名に Floraline を含む供給記録28件のうち、1件も本物の抽出物に対応しない(24件が再構成品、4件が特調ベース)。Givco を含む52件も同じふるまいをする。
- スレッドには「Robertetのfloralineはグランディフロラム版だと思う」と推測した人がいた。それは誤りになる。 データベースは
Jasmine floraline 62と73をどちらも jasmin absolute replacer(再構成品)に対応させている。彼は品種を選んでいるつもりで、花が入っているかどうかを選んでいた。 - 残香の差は見える。本物のアブソリュートが100%で280〜312時間、再構成品が72時間。
- 「Robertetのはキャンドル用だ」と書いた人がいた。このデータベースでRobertetは供給記録1,018件、684素材をカバーしているし、ジャスミンの品目は商品名に
for fragranceと書いてある。 - サンバックかグランディフロラムかを先に決めるのは正しい一手で、それを言った人がいた。ただし両方の上位を占めるのは同じ3分子で、違うのは比率になる(Beraら2015)。
読了9分ほど。
ジャスミンという名前の74個
まずこの項目の大きさを測る。名前に jasmin を含む記録は:
| 件数 | |
|---|---|
| 全部 | 74 |
| サプライヤーが1社以上 | 52 |
| サプライヤーが10社以上 | 13 |
圧倒されたのは経験不足のせいではない。
そしてこの74件には、少なくとも6種類の別物が混ざっている。
| 分類 | 例 | サプライヤー |
|---|---|---|
| アブソリュート(本物の抽出物) | jasmin absolute sambac | 56社 |
| jasmin absolute (from chassis) | 46社 | |
| jasmin absolute india (from concrete) | 34社 | |
| 他の抽出段階 | jasmin concrete | 21社 |
| jasminum sambac flower oil CO2 extract | 4社 | |
| 特調ベース(供給元が組んだもの) | jasmin specialty | 19社 |
| 再構成品(花なし) | jasmin absolute replacer | 16社 |
| 調合済み香料(製品用) | jasmin fragrance | 18社 |
| ジャスミンの名がついた単一分子 | jasmin cyclopentanone | 19社 |
| jasmin pyranol | 17社 | |
| 化粧品原料 | jasminum officinale flower water | 3社 |
最後の2分類がとくに人を引っかける。 jasmin cyclopentanone と jasmin pyranol は単一の香料分子で、名前にジャスミンとあるのはその一面に似ているからであって、花とは関係がない。flower water(芳香蒸留水)の類は化粧品原料で、調香用の濃縮物ではない。
いちばん速い仕分け:産出欄を読む
この74件のうち、9件の occurrence(産出)欄が not found in nature になっている。
| サプライヤー | 名称 |
|---|---|
| 19社 | jasmin cyclopentanone |
| 19社 | jasmin specialty |
| 17社 | jasmin pyranol |
| 16社 | jasmin absolute replacer |
| 7社 | jasminone |
| 5社 | jasmin acetate |
| 5社 | sambac jasmin specialty |
名前にabsoluteが入っていて、産出欄には自然界で見つかっていないと書いてある。 その組み合わせが答えそのものになる。jasmin absolute replacer はジャスミンアブソリュートを置き換えるために組まれた処方であって、ジャスミンアブソリュートではない。
(前回、産出欄が誤っている例を書いた。veramossの「自然界では見つかっていない」は誤りだった。ここでは欄の使い方が正しい。 あれらは実際に調合物だからだ。同じ欄が一度は誤り一度は正しいので、隣の欄も読むことになる。)
uses 欄も効く。 jasmin fragrance の用途欄は「あらゆる種類の加香製品」で、アブソリュートが持つ「香料および食品香料原料」ではない。調合済みの香料であって、処方を組むための原料ではない。
商品ラインの語が2つ、例外なし
ここがいちばん実務的になる。
この人が見た Jasmine Sambac ROBERTET と Jasmine Floraline ROBERTET について、あるコメントはこう推測した。
「Robertetのfloralineはグランディフロラム版だと思うが、嗅いだことがないので断言はできない」
誤りで、しかも教訓になる誤り方をしている。 データベースの対応はこうだ。
| サプライヤー商品名 | 対応先 |
|---|---|
| Robertet|Jasmin Sambac Absolute | jasmin absolute sambac |
| Robertet|Jasmine Grandiflorum India Absolute (for fragrance) | jasmin absolute india (from concrete) |
| Robertet|Jasmine floraline 62 | jasmin absolute replacer |
| Robertet|Jasmine floraline 73 | jasmin absolute replacer |
| Robertet|Sambac floraline 10 | jasmin absolute sambac replacer |
Floralineは品種ではなく製品ラインになる。
しかも規則として使えるくらい一貫している。商品名に floraline を含む供給記録を全部引くと:
| Floraline | 件数 |
|---|---|
| 再構成品に対応 | 24 |
| 特調ベースに対応 | 4 |
| 本物の抽出物に対応 | 0 |
28件、例外ゼロ。 しかもジャスミン専用ではない。Civet floraline 54 の対応先は civet absolute replacer だ。再構成品ライン全体の命名規則になる。
Givco も同じふるまいをする。Givaudanのベース番号だ。
| Givco | 件数 |
|---|---|
| 特調ベース | 33 |
| 再構成品 | 18 |
| その他 | 1 |
| 本物の抽出物 | 0 |
52件、こちらも例外なし。 つまりこの人のリストの1番目 Sampaquita Givco も調合ベースになる。データベースは Sampaquita Givco 138 を sambac jasmin specialty に対応させ、その記録の産出欄は「自然界では見つかっていない」だ。
5つの選択肢のうち2つが調合品で、彼は「どれがいちばんいいか」を聞いていた。
彼のせいではない。 名前はきれいに並列に見える。
ではサンバックとグランディフロラムは
正しい第一歩を書いた人がいた。
「まずどちらのジャスミンが欲しいかを決めるといい。サンバックかグランディフロラムか。これで選択肢が絞れる。サンバックはよりグリーン、よりフルーティ、よりインドリック。グランディフロラムはより軽やか、より明るく、よりフローラル」
この切り方は正しく、聞こえるより微妙な話になる。
Beraらは2015年に Natural Product Research で、商業栽培される4種の Jasminum のヘッドスペース香気成分をGC-MSで分析した。J. sambac、J. auriculatum、J. grandiflorum、J. multiflorum の4種になる。
これらの花の香気揮発成分はテルペノイドとベンゼノイドの両方に富むことが分かった。要点はここだ。
- リナロールは4種すべてで主要なモノテルペン
- (3E,6E)-α-ファルネセンは4種すべてで主要なセスキテルペン
- 酢酸ベンジルは4種すべてで最も多いベンゼノイド
4種、上位に来るのは同じ3分子。 揮発成分プロファイルの比較は、4種の花が放つ香気の含量と種類に差があることを示した。
つまり「サンバックはよりグリーン、グランディフロラムはより軽やか」は本物の違いで、別の分子によるものではない。同じ組み合わせの比率が違う。 実務上の帰結が1つある。特徴分子を1つ足してグランディフロラムをサンバックに変えることはできない。
(酢酸ベンジルはフェネチルアルコールの回で出てきた。954件中317件で2番目に多い。花のなかでは主役、処方のなかでは汎用材料になる。)
アブソリュート1本に何が入っているのか
「その分子だけ買えばいいのでは」への答えになる。
Braunらは2009年に Natural Product Communications で、南インド産の Jasminum flexile 花アブソリュートを分析し、市販のインド産ジャスミンアブソリュート3種——J. sambac、J. officinale subsp. grandiflorum、J. auriculatum——と比較した。
そのアブソリュートからは121化合物が同定され、主成分はリノール酸メチル、サリチル酸ベンジル、安息香酸ベンジル、(2E,6E)-ファルネソール、酢酸ベンジルだった。
そのリストのサリチル酸ベンジルと安息香酸ベンジルに注目したい。
ジャスミンアブソリュートを1本買えば、サリチル酸エステルも一緒に買っている。 前回、サリチル酸エステルのドライダウンを1年追った人がいた。処方にジャスミンアブソリュートが入っているなら、その線はもとから入っている。
121という数字は、再構成品が別物である理由も説明する。 再構成品は15〜20の材料でその121の全体印象に近づけるのであって、再現するのではない。
残香:あの質問には答えがある
投稿者はこう追記していた。
「あとROBERTETの情報が見つけられないんですが、残香などを見る方法はありますか? それも買うものに関わるので」
返信は**「ベースには残香などは普通書かれていない。ただ安全データシートを見れば、下地の成分から推測できる」**だった。
いい助言になる。 そしてデータベースは分類レベルの数字を持っている。
| 残香 | |
|---|---|
| jasmin absolute (from chassis) | 100%で280時間 |
| jasmin absolute india (from concrete) | 100%で312時間 |
| jasmin absolute replacer | 72時間 |
本物のアブソリュートが280〜312時間、再構成品が72時間。 4倍以上になる。
この数字の扱いには注意がいる。 分類の代表値であって、特定の商品の仕様ではない。再構成品はメーカーによって大きく違う。この2つが同じ種類のものではないことは分かるが、Floraline 73が何時間持つかは分からない。
誰も答えなかった問い:Attar
投稿者は2回聞いていて、誰も触れなかった。
アター(またはイター)は伝統的には抽出物ではなく蒸留製品になる。 花を蒸留器に入れ、受け側には白檀油を置いて、花の揮発成分をそこへ直接吸わせる。できあがるのは花を帯びた白檀油だ。
処方への帰結が3つある。
- 中身は主に白檀になる。 ジャスミンのアターを買えば、名前に書かれていない白檀のベースが処方に増える。
- すでに希釈された状態で届く。 濃度はこちらが動かせる変数ではない。
- 伝統的にはそのまま身につけるもので、処方材料として使うものではない。
調香に使えるか。「ジャスミン」ではなく「白檀+ジャスミン」として扱うなら使える。 処方にすでに白檀があるなら、2つ重ねていることになる。
(聞かれていた JASMIN 74 はデータベースに出てこないので、こちらは分類できない。)
「Robertetはキャンドル用だ」
スレッドにはこんな行がある。
「ROBERTETのはキャンドル用だと確信している」
投稿者:「えっ、そうなんですか?」
データベースは同意しない。 ここでRobertetは供給記録1,018件、684素材をカバーしている。そしてジャスミンの品目は、商品名そのものに用途を書いている。
Jasmine Grandiflorum India Absolute
(for fragrance)
天然原料の供給元であって、キャンドル用香料の会社ではない。
これを分けて書くのは、あの一行が相当な確信をもって述べられ、投稿者が判断を変えかけたからになる。 前回書いたのと同じ型だ。断定の強さは、正しさについて何も語らない。
もう1つ、根拠のない主張がスレッドにある。「あそこから買うな。原料が全部希釈されている」。個人的な経験に基づくのかと聞いた人がいて、返信はなかった。 確かめる手段がないので、そう言われたという事実だけを記録しておく。
発注前の4つの確認
- サンバックかグランディフロラムかを先に決める。 リストが半分になり、しかもここで唯一、香りについての判断になる。
- 名前に製品ラインのコードがないか見る。 FloralineやGivcoのような語が出てきたら、見ているのは調合品になる。分からないときは、そのコードが他の素材で何に対応しているかを調べる。
- 産出欄か安全データシートを読む。 「自然界では見つかっていない」や、単体化学品が並ぶ成分表なら再構成品になる。
- すでに希釈されていないか確認する。
10%と書かれたもの、そしてアターはすべてそうだ。処方の計算が直接変わる。
この4つはどれも嗅ぐ必要がなく、発注前に済ませられる。どれがいい香りかについては、スレッドのあの一言が正しい。自分で嗅ぐしかない。
この記事が示していないこと
ここに挙げたものを1つも嗅いでいない。 全体はデータベースの欄と論文の突き合わせで、どれがいい香りかについての判断はここに1つもない。
FloralineとGivcoの「例外ゼロ」は、このデータベースのなかでのゼロになる。 28件と52件は多い数字ではないし、サプライヤー商品名からの対応づけはメーカーの公式分類ではなくデータベースの編集判断だ。どこかの会社が純粋な抽出物にFloralineと名づけたことがあっても、ここからは見えない。
「Floralineは再構成品」は、データベースがそれを jasmin absolute replacer の記録に対応させているという意味になる。 その記録は分類であって、その商品の仕様書ではない。Floraline 62や73の安全データシートは見ていない。
残香の3つの数字は分類レベルの代表値になる。 280、312、72はデータベースの3つの分類の記録から来ていて、1つの実験で同時に測られた3つの値ではないので、比は正確ではない。
Beraの研究が測ったのはヘッドスペース、つまり生きた花が放つものであって、アブソリュートではない。 枝の上の花が放つものと、溶剤が引き出すものは違う。抽出は花が放たない重い成分を捕まえる。 種間差の性質のために引いているのであって、アブソリュートの組成のためではない。
Braunの121化合物は J. flexile のアブソリュートの数字で、サンバックやグランディフロラムのものではない。あの論文は他の3つを比較対象にしているが、121は主役のものだけになる。
アターの節には論文の裏づけがない。 PubMedで適当な文献が見つからず、あの節は伝統的な製法の通行の説明を書いている。 現在アターとして売られているものには別の作り方も多い。買う前にベースが何かを聞いてほしい。
「Robertetの供給記録1,018件」はこのデータベースの収録状況であって、市場シェアや売上ではない。「キャンドル専用」への反証にはなるが、順位づけには使えない。
参考文献
P. Bera, J. N. Kotamreddy, T. Samanta, S. Maiti, A. Mitra, Inter-specific variation in headspace scent volatiles composition of four commercially cultivated jasmine flowers, Natural Product Research, 29(14), 1328-1335 (2015). PMID 25583067. doi:10.1080/14786419.2014.1000319
N. A. Braun, B. Kohlenberg, S. Sim, M. Meier, F. J. Hammerschmidt, Jasminum flexile flower absolute from India — a detailed comparison with three other jasmine absolutes, Natural Product Communications, 4(9), 1239-1250 (2009). PMID 19831037