原料図鑑 · 68
原料図鑑:Veramoss/Evernyl —— 1分子に商品名5つ、そしてデータベースは「自然界では見つかっていない」と書いている(それは誤りだ)
· 14 分
CAS 4707-47-5、アトラリン酸。Evernyl、Veramoss、Atralone、Phenomoss、Mousse de Metraはすべて同じ素材になる。公開処方954件のうち52件(5.5%)に入っているが、コーパスは名前で2つに割れている。25件がveramoss、27件がevernyl。存在する理由はIFRA第49次改訂にある。オークモス抽出物はカテゴリー4で0.10%に抑えられ、この分子には基準が1つもない。データベースの産出欄は「自然界では見つかっていない」だが、2020年の研究は地衣類からこれを得ている。融点143 °Cの結晶粉末、強さhigh、10%希釈で400時間。
まず、同じものを2回買わせる話から。
以下の名前はすべて同じ分子になる。
Evernyl(Givaudan)、Veramoss(IFF)、Atralone、Phenomoss、Mousse de Metra、アトラリン酸、2,4-ジヒドロキシ-3,6-ジメチル安息香酸メチル。
CASはどれも 4707-47-5 だ。
公開処方のコーパス自体がこれにつまずいている。 954件のうち:
- 25件が
veramossと書く - 27件が
evernylと書く
合わせて52件(5.5%)。どちらかの名前で検索すると、半分しか見えない。
先に結論
- 1分子に商品名が少なくとも5つ。コーパスでは2つの山に割れていて、まとめると処方の5.5%に登場する。
- 使用量の中央値0.500%、第3四分位1.43%、最大の1件で5.56%。強さはhigh、10%以下に希釈して嗅ぐことを推奨、残香はDPG中10%で400時間。
- 存在する商業上の理由は規制になる。 IFRA第49次改訂はオークモス抽出物をカテゴリー4(ファインフレグランス)で0.10%に抑え、アトラノールとクロロアトラノールをそれぞれ100 ppm未満にすることを求めている。この分子には第49次改訂に基準が1つもない。
- その制限には臨床的な裏づけがある。アトラノールとクロロアトラノールを減らした「新オークモス」は、オークモス感作者30名において接触皮膚炎の惹起が有意に少なかった。それでもアレルゲンではある(Andersenら2015)。
- オークモスアブソリュートとはほぼ同時に登場しない。 52件がこちらを使い、37件がオークモスアブソリュートを使い、両方を使うのはちょうど1件。代替であって併用ではない。
- データベースの産出欄は「自然界では見つかっていない」だが、この欄は誤りになる。 2020年の研究は地衣類 Heterodermia hypoleuca の二次代謝産物としてこれを得ている(Munら2020)。
読了8分ほど。
なぜ発明されたのか
地衣類 Evernia prunastri から採るオークモスアブソリュートは、シプレの骨格素材として100年以上使われてきた。問題はその中の2分子、アトラノールとクロロアトラノールにある。
IFRA第49次改訂のオークモス抽出物の扱いは、基準全体のなかでもっとも厳しい部類に入る。
| IFRAカテゴリー | オークモス抽出物 | 参考:サリチル酸ベンジル |
|---|---|---|
| カテゴリー1 | 0.020% | 1.3% |
| カテゴリー4(ファインフレグランス) | 0.10% | 7.3% |
| カテゴリー5A | 0.076% | 1.9% |
| カテゴリー11A | 0.10% | 28% |
ファインフレグランスで0.1%。 同じカテゴリーでサリチル酸ベンジルは7.3%、73倍になる。
そして基準の本文が、その制限が何のためかを書いている。
オークモスおよびツリーモス抽出物について、基準における制限は最終製品中のアトラノールおよびクロロアトラノールの存在に直接結びついている。それらを痕跡量未満に保つため、上限濃度は2008年の第43次改訂から引き上げられていない。
規格欄はさらに、オークモス抽出物中のアトラノールとクロロアトラノールはそれぞれ100 ppm未満であるべきとしている。
そしてアトラリン酸は第49次改訂の本文に出てこない。 基準も、制限値も、規格もない。
その空白が、この素材の市場になる。
「新オークモス」は効いているのか
オークモス側も手を打った。アトラノールとクロロアトラノールを抜いた「新オークモス」だ。それが効くかどうかは測られている。
Andersenらは2015年に Contact Dermatitis で、オークモスアブソリュートの2つの調製品を比較した。歴史的に使われてきた**「クラシックオークモス」と、主要アレルゲンを減らした「新オークモス」**になる。
方法は読む価値がある。無作為化二重盲検の反復開放塗布試験(ROAT)と系列希釈パッチテストを、オークモス感作の志願者30名と非アレルギー対照30名で実施している。
結果はこうだ。どちらの試験モデルでも、新オークモスはオークモス感作者においてクラシックオークモスより有意に少ないアレルギー性接触皮膚炎を惹起した。 対照群はどちらの調製品にも反応しなかった。
結論は慎重に書かれている。新オークモスは依然として香料アレルゲンであるが、既感作者において惹起するアレルギー性接触皮膚炎は少なく、これは未感作者に対する感作性が低いことを示唆する。
「依然としてアレルゲンである」の半分に注意がいる。 この論文は問題が解決したとは報告していない。リスクが1桁下がり、ゼロにはなっていないと報告している。実際、オークモスのIFRA上限はこれを理由に緩められてはいない。
つまり処方者の前には3つの道がある。 制限つきのオークモス、新オークモス(同じ上限で管理される)、そして制限のないこの合成品。コーパスを見るかぎり、多くは3つ目を選んでいる。
オークモスとはほぼ同時に出ない
これは数えるだけで分かる。954件のうち:
| 件数 | |
|---|---|
| veramoss/evernylを使う | 52 |
| オークモスアブソリュートを使う | 37 |
| 両方を使う | 1 |
88件のうち、両方入れているのは1件になる。
この数字は併用ではなく代替を語っている。 相棒として働く素材もある——フェネチルアルコールの回でロジノールのリフトが2.59だった——が、この2つは排他的だ。
モス感を増したいからと重ねる人はいない。どちらか一方になる。
使用量:少量側の素材になる
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 強さ | high、10%以下に希釈して嗅ぐことを推奨 |
| 残香 | DPG中10%で400時間 |
| コーパスでの登場 | 52 / 954(5.5%) |
| 使用量の中央値 | 0.500% |
| 第3四分位 | 1.43% |
| 最大の1件 | 5.56% |
中央値0.5%。 強さのラベルと使用量の階段を作ったところ、highの素材の中央値は0.80%、lowは5.78%だった。これはhighの群のなかでも低いほうにいる。
そして400時間は10倍希釈での測定になる。オークモスアブソリュートの記録は**20%**で400時間だ。同じ持続を、半分の濃度で出している。
他人の対照実験で問題を起こす理由もここにある。 これのせいで1年間まちがった容疑者を追った人がいる。試していたのはサリチル酸エステルで、その日いちばん触っていた瓶がこれだった。0.5%で使う素材の痕跡が肌に残れば、まだ閾値の上にいる。
あのデータベースの欄は誤りだ
この素材の occurrence(産出) 欄にはこう書かれている。
not found in nature(自然界では見つかっていない)
この欄は誤りになる。
Munらは2020年に International Journal of Molecular Sciences でこの分子の抗炎症活性を研究していて、冒頭にこうある。地衣類は菌類と藻類の共生によって成り立つ複合生物で、薬理活性を示すさまざまな二次代謝産物を産生する。本研究の目的は、Heterodermia hypoleuca が産生する二次代謝産物アトラリン酸の抗炎症活性を調べることである。
地衣類から取り出している。 自然界に存在するどころか、もともと地衣類の化学の一部になる。オークモス自体が地衣類だ。
この欄が誤っている理由は、証拠なしなら推測できる。 ありそうな読みはこうだ。この素材は香料業界では完全に合成品で、天然抽出の商業的供給源がない。そして「天然の商業的供給源がない」が、編集の段階で「自然界では見つかっていない」になった。この2つは別のことを言っている。
この種の欄の誤りは一度きちんと名指しする価値がある。 規格表の読み方を書いたとおり、どの欄にも記入した人の意図があり、その意図が列名の字義と一致するとはかぎらない。産出欄が語っているのは、たいてい「商業的にどこから来るか」であって「自然界にあるか」ではない。
(念のため、Munの論文が測っているのは細胞とマウスモデルでの抗炎症作用で、香水とは関係がない。天然由来の確認のためだけに引いている。)
物性
| 項目 | 値 |
|---|---|
| CAS | 4707-47-5 |
| 分子式 | C₁₀H₁₂O₄、MW 196.20 |
| 外観 | 白色〜ピンクがかった黄色の結晶粉末 |
| 融点 | 143 °C |
| 沸点 | 246 °C |
| 引火点 | 182.8 °C |
| 水溶解度 | 310.6 mg/L @ 25 °C(推算) |
| 保存期間 | 24か月以上 |
| サプライヤー | 40社 |
| GHS | H315(皮膚刺激)、H319(強い眼刺激)、H335(呼吸器への刺激のおそれ) |
| 香調 | モッシー、オークモス、ウッディ、フェノリック、アーシー |
融点143 °Cの結晶粉末で、このシリーズが扱ってきた素材のなかでは高いほうの端にいる。使う前にエタノールかDPGに溶かす必要があり、ボトルに白い粒が出たとき、この種の素材は容疑者リストの常連になる。
引火点182.8 °Cは輸送にも保管にも寛容だ。
GHSの3つはすべて刺激で、感作の表示はない。 オークモスの状況とちょうど裏返しになる。オークモスの問題はアレルギーで、こちらの問題は刺激だ。 機構が違い、対策も違う。
この記事が示していないこと
本物のオークモスと嗅ぎ比べてはいない。 データベースに収録されたコメントの一つは、合成品には自然のオークの柔らかな拡散性が決して出せないと書いているが、それは一人の主観的評価で、検証できないし、結論としては書いていない。
「IFRAにこの基準はない」は第49次改訂の本文を検索した結果になる。 基準がないことは、安全であることでも規制外であることでもない。他の枠組み(たとえばEU化粧品規則の表示要求)に入る可能性も、将来の改訂で取り上げられる可能性もある。ここに書いたのは2026年8月時点の状態だ。
52対37の比較には前提がある。 コーパスの素材名は元の処方の書き方のままなので、まとめなかった第3の商品名(Atralone、Phenomoss、Mousse de Metra)を使った処方があれば、52は過小になる。まとめたのはveramossとevernylの2つだけだ。
「両方使うのは1件」はこの954件についての事実で、業界慣行の証明ではない。 コーパスの74%は特許と公開された出どころから来ていて、それらの処方がいま店頭にあるものを表すとはかぎらない。
Andersenの研究が試したのは既に感作された30名になる。 「未感作者に対する感作性が低い」は結果からの示唆であって、その研究が直接測定した終点ではない。あの論文はこの合成品を試してもいない。
Munの論文は細胞とマウスの抗炎症研究で、天然由来の確認にだけ使っている。香料の安全性については何も言っていないし、この素材が肌に良いという主張には使えない。
「産出欄は商業的供給源の意味だ」はこちらの推測になる。 引ける編集ガイドラインはなく、あの一文はもっともらしい説明であって検証された事実ではない。
参考文献
F. Andersen, K. H. Andersen, A. Bernois, et al., Reduced content of chloroatranol and atranol in oak moss absolute significantly reduces the elicitation potential of this fragrance material, Contact Dermatitis, 72(2), 75-83 (2015). PMID 25395354. doi:10.1111/cod.12312
S. K. Mun, K. Y. Kang, H. Y. Jang, et al., Atraric Acid Exhibits Anti-Inflammatory Effect in Lipopolysaccharide-Stimulated RAW264.7 Cells and Mouse Models, International Journal of Molecular Sciences, 21(19), 7070 (2020). PMID 32992840. doi:10.3390/ijms21197070