はじめての調香 · 31
「主力原料」は測れる:954件の処方を14ジャンルに分けた成績表
· 16 分
どの素材が主力かという問いがフォーラムに立った。「HedioneやIESのような、目立ちすぎずに作品を良くする成分」という定義には条件が2つあり、どちらも測れる。954件の公開処方をタイトルから14ジャンルに分け、各素材が何ジャンルに登場し、最大のジャンルがどれだけを占めるかを数えた。パチョリ油とベルガプテン除去ベルガモットは14ジャンル全部に登場し、最大ジャンルの比率は19.9%と20.2%。Hedioneのフローラル比率は35.4%で、処方群自体のフローラル基準線35.4%と一致する。フォーラムの指名のうち採点できた16本中15本が支持された。
r/DIYfragranceに、定義のはっきりした問いが立っていた。
「HedioneやIESのような成分のことです。主力、目立ちすぎずに作品を良くするもの。フローラルならサリチル酸エステルとか。ムスクならMuscenone Deltaとか」
返信12件、それぞれが自分のリストを出している。
そしてこの定義には条件が2つ隠れていて、どちらも測れる。
- 「作品を良くする」→ よく使われる
- 「目立ちすぎない」→ 特定の系統に縛られない
2つ目が肝で、これはこれまで計算していなかったものになる。
先に結論
- 954件の公開処方をタイトルから14ジャンルに分けた(フローラル、フルーティ、シトラス、ウッディ、シプレ、フゼア、オリエンタル/アンバー、ムスク、グリーン/ハーバル、グルマン、マリン、スパイシー、レザー/タバコ、機能性)。752件(78.8%)が少なくとも1つのラベルを得た。
- 14ジャンル全部に登場し、最大ジャンルの比率が最も低い2本はパチョリ油(19.9%)とベルガプテン除去ベルガモット(20.2%)になる。
- 処方群自体のフローラル基準線は35.4%。 素材のフローラル比率はゼロではなくこの数字と比べることになる。
- Hedioneのフローラル比率はちょうど35.4%。 基準線と一致する。この処方群が各ジャンルを作っている比率と同じ比率で登場している。それが「主力」の最も純粋な姿になる。
- フォーラムの指名のうち採点できたのは16本で、15本が支持された。
- データが押し返した1本はヒドロキシシトロネラールになる。161件・13ジャンルで主力に見えるが、フローラル比率が54.7%で基準線をはるかに上回る。主力の上着を着た専門家だ。
読了9分ほど。
「目立たない」を数字にする
方法から書く。結論がすべてこれに乗っているからだ。
954件の処方にはそれぞれタイトルがある。floral fruity fragrance、chypre perfume base、lily of the valley type、powder detergent perfume といった具合になる。タイトルをキーワードで14ジャンルに振り分け、1件が複数に属することも許した(「fruity floral」はフローラルとフルーティの両方)。
| 数字 | |
|---|---|
| 処方数 | 954 |
| 少なくとも1ラベルがついた | 752(78.8%) |
| ラベル総数 | 1,066 |
| フローラルラベルが全ラベルに占める割合 | 35.4% |
最後の行がここでいちばん重要な数字になる。
この処方群はフローラルが多いので、どの素材のフローラル比率も高く出る。だから「この素材の登場の40%はフローラル」だけでは意味がない。35.4%という基準線からどれだけ離れているかを見ることになる。
- 35.4%を明確に下回る → 処方群自体より広く散っている。これが主力になる。
- 35.4%を明確に上回る → 処方群自体よりフローラルに寄っている。これが専門家になる。
14ジャンル全部に届いた群
20件以上に登場し、採点に足るラベルがある素材のうち、14ジャンル全部に届いたのは15本。最大ジャンル比率の低い順に:
| 素材 | 件数 | ジャンル | 最大ジャンル比率 | 使用量中央値 |
|---|---|---|---|---|
| パチョリ油 | 132 | 14/14 | 19.9% | 3.45% |
| ベルガモット(ベルガプテン除去) | 132 | 14/14 | 20.2% | 10.00% |
| エチルバニリン | 80 | 14/14 | 25.2% | 0.50% |
| バニリン | 137 | 14/14 | 28.9% | 1.00% |
| クマリン | 225 | 14/14 | 29.7% | 2.34% |
| α-ヘキシルシンナムアルデヒド | 157 | 14/14 | 32.4% | 8.00% |
| Hedione | 165 | 14/14 | 35.4% | 7.00% |
| β-イオノン | 107 | 14/14 | 35.5% | 1.94% |
| 酢酸リナリル | 207 | 14/14 | 36.3% | 5.56% |
| オイゲノール | 161 | 14/14 | 40.5% | 1.70% |
| リナロール | 338 | 14/14 | 41.4% | 5.93% |
| シトロネロール | 220 | 14/14 | 42.8% | 5.94% |
| サリチル酸ベンジル | 159 | 14/14 | 42.8% | 9.47% |
| 酢酸ベンジル | 317 | 14/14 | 45.5% | 5.00% |
| フェネチルアルコール | 274 | 14/14 | 51.1% | 10.00% |
上位6本は基準線を下回っている。処方群自体より広く散っている。
パチョリとベルガモットが先頭にいることは、少し立ち止まる価値がある。
どちらも天然物になる。 スレッドで挙がった多くは合成品だ。Hedione、IES、Habanolide、Muscenone、Florol。それでいて、処方群でいちばん汎用なのは精油2本になる。 片方はシプレの土台、もう片方はコロンの頭で、それでいてグルマンにもムスクにも機能性にもマリンにも顔を出す。
スレッドでこの2本を挙げた人はいる。 middleaged_mpdは「パチョリとラブダナム、とにかく万能だ」と書き、Public-Ideal-5166のリストにはbergamotが入っている。データは彼らに同意する。
Hedioneはちょうど基準線に乗る
投稿者が最初に挙げた例がHedioneだった。
フローラル比率は35.4%。処方群のフローラル基準線は35.4%。
同じ数字になる。
この一致の意味を書いておく。Hedioneが各ジャンルに登場する比率は、この処方群が各ジャンルを作っている比率と一致している。 選好も忌避もない。何を作っていても、その中に出てくる。
これがこの語のいちばんきれいな定義になる。
(Hedioneは書いた。ここで足すのは処方群での位置になる。165件、中央値7.00%、分布は処方群そのもの。)
フォーラムの成績表
採点に足る標本があった16本を並べる。
| 指名 | 件数 | ジャンル | 最大ジャンル比率 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| Cashmeran | 32 | 13/14 | 15.9% | ✓ 表中で最も散っている |
| パチョリ油 | 132 | 14/14 | 19.9% | ✓ |
| ベルガモット | 132 | 14/14 | 20.2% | ✓ |
| サリチル酸イソアミル | 47 | 13/14 | 24.5% | ✓ |
| Ambroxan | 31 | 10/14 | 25.6% | ✓ |
| Iso E Super | 104 | 13/14 | 30.5% | ✓ |
| α-ヘキシルシンナムアルデヒド | 157 | 14/14 | 32.4% | ✓ |
| Vertofix | 50 | 12/14 | 33.9% | ✓ |
| エチルリナロール | 38 | 12/14 | 34.4% | ✓ |
| Hedione | 165 | 14/14 | 35.4% | ✓ 基準線ちょうど |
| ラズベリーケトン | 45 | 12/14 | 35.8% | ✓ 最大ジャンルがフローラルでない唯一 |
| リナロール | 338 | 14/14 | 41.4% | ✓ |
| Habanolide | 35 | 10/14 | 30.8% | ✓ |
| Florol | 24 | 9/14 | 40.0% | △ やや狭い |
| Mayol | 21 | 6/14 | 35.3% | △ 6ジャンルのみ |
| ヒドロキシシトロネラール | 161 | 13/14 | 54.7% | ✗ 専門家 |
16本中15本が立つ。
Cashmeranの15.9%は表全体で最も低く、パチョリより散っている。登場は32件だけだが、その32件が14ジャンルにほぼ平らに広がっている。 Cashmeranは書いたが、この数字がいちばんの弁護になる。
ラズベリーケトンは最大ジャンルがフローラルでない唯一の指名になる(フルーティで35.8%)。middleaged_mpdは「ホワイトフローラルでも、ローズと合わせても、ラクトンと合わせても、レザーを増強するにも、フルーツ調にも使える」と書いていて、12ジャンルという数字はその記述を支持する。
押し返された1本
ヒドロキシシトロネラールは完全に主力に見える。 161件、13ジャンル、EUの26表示義務アレルゲンの1つで、誰でも持っている。
しかしフローラル比率は54.7%、基準線の1.55倍になる。
よく登場し、そしてフローラルに登場する。 スズランの骨格素材で、この処方群にはスズランが多い。
middleaged_mpdが間違っているという話ではない。 彼が書いたのは「ヒドロキシシトロネラールとエチルリナロールを合わせるとエタノールの匂いをよく隠せる」で、汎用性の主張ではなく具体的な用途になる。 そしてエチルリナロールは12/14・34.4%で、確かに汎用だ。
教訓は、「みんなが使う」と「何にでも使える」は別の主張だということになる。
なぜ主力が必要なのか
ここは前回引いた実験につながる。
Weissらは2012年に、等強度で匂い空間を張る成分がおよそ30本に達すると、共通成分が1つもなくても多くの混合物が似た匂いになることを見つけている。
処方がその領域から逃れる方法は、重量を極端に不均等にすることになる。 中央値の処方では上位3本が54.7%を占める。
主力原料はその不均等を支えるものになる。
中央値10.00%のフェネチルアルコール、8.00%のヘキシルシンナマール、9.47%のサリチル酸ベンジル。この3本だけで処方の4分の1を超える。 そして共通点は、14ジャンル全部、最大ジャンル比率が低い、使用量が多いになる。
「目立たない」と「大量に使う」は矛盾せず、同じことの両面になる。 ある素材が10%入っても支配しないのは、処方を特定の方向へ引っ張らないからだ。
専門家は欠点ではない
逆に最も集中しているリストも役に立つ。
| 素材 | 件数 | ジャンル | 最大ジャンル比率 |
|---|---|---|---|
| ケイ皮アルコール | 98 | 11/14 | 71.9% フローラル |
| 酢酸エチル | 20 | 4/14 | 71.4% フルーティ |
| ベンジルアルコール | 43 | 5/14 | 69.4% フローラル |
| ジャスミンアブソリュート | 23 | 3/14 | 66.7% フローラル |
| フェニルアセトアルデヒド | 57 | 9/14 | 66.1% フローラル |
| ロジノール | 39 | 9/14 | 64.9% フローラル |
これらは劣った素材ではなく、ジャンルを定義する素材になる。
ジャスミンアブソリュートが3ジャンルなのは、それがジャスミンだからだ。 汎用性が高いとは、処方をどこへも押さないということ。低いとは、押すということ。そして押してほしいときもある。
買うときの用途が違う。 主力のリストはパレットの使い勝手を決め、専門家のリストは何を作れるかを決める。
(原料図鑑#72はそのリストのフェニルアセトアルデヒドを扱う。処方群で最も集中した専門家の1つで、そうなるだけの理由がある。)
この記事が示していないこと
ジャンル分類はタイトルへのキーワード照合であって、人手の判断ではない。 タイトルに「rose」があればフローラル、「woody」があればウッディと数える。これは外れる。 「rosewood」はウッディなのにフローラルに数えられる。752件を目で確認してはいない。
処方の21.2%はどのラベルもつかない(「fragrance composition」のような情報のないタイトル)。その202件は横断統計から完全に外れていて、無作為に欠けているとはかぎらない。
ジャンル数は14で頭打ちになる。 15本が14/14を取ったので、その列ではもう区別できない。だから最大ジャンル比率を第2の指標にしている。
基準線35.4%はラベル単位の比率で、処方単位ではない。 1件が複数のラベルを持つので、「処方の35.4%がフローラル」という意味ではない。
標本数の差が大きい。 リナロールは338件、Mayolは21件になる。Mayolの6/14は本当に狭いのではなく標本不足かもしれない。 表の△はその意味だ。
処方群の年代バイアスがここでは特に効く。 74%が特許と公開された出どころから来ているので、Habanolide(35件)、Muscenone(4件)、Florol(24件)といった新しめの素材はどれも標本が小さい。実務では記録が示す以上に使われている可能性がある。フォーラムが挙げ、処方群が強い証拠を出せないとき、その差は処方群の側の問題であって、挙げた人の問題ではない。
「Hedioneがちょうど基準線に乗る」はきれいな一致で、そして一致にすぎない。 両方とも小数第1位で丸めた数字で、分類方法を変えれば等しいままとはかぎらない。頑健な結果だと主張することはできない。
Weissの条件(等強度、匂い空間を張ること)を香水は満たさないことは前回書いた。不均等が機能を持つことを示すために引いているのであって、処方を予測するためではない。
参考文献
T. Weiss, K. Snitz, A. Yablonka, R. M. Khan, D. Gafsou, E. Schneidman, N. Sobel, Perceptual convergence of multi-component mixtures in olfaction implies an olfactory white, Proceedings of the National Academy of Sciences, 109(49), 19959-19964 (2012). PMID 23169632. doi:10.1073/pnas.1208110109
関連:「1本か2本で足りないか」と聞いた人に、フォーラムは40本を挙げた、パレットはどれくらい大きいか、頻度で買う、入門パレットの地図。