原料図鑑 · 23
原料図鑑:オイゲノール(eugenol)— 歯医者の匂いと、温度知覚の3つめのスイッチ
· 10 分
CAS 97-53-0、クローブの本体でカーネーション調の骨格。2006年の研究はこれが温感チャネルTRPV3を強力に活性化・感作することを示し、メントールのTRPM8、シンナムアルデヒドのTRPA1と合わせて本シリーズの温度知覚の三部作が揃いました。同じ論文は、これらの分子が皮膚感作物質でもあると明言しています。一族のイソオイゲノールはより注視されるアレルゲンで、3636名の患者の5年データは接触皮膚炎の頻度が下がるどころか上がっていることを示しました。97社、持続52時間。
歯医者の匂いを思い出してください。あの薬っぽくてスパイシーで、少し燻したような何か。主役はオイゲノールです。歯科材料での使用は長い歴史のある業界の通り相場で、多くの人がこの分子に初めて会うのは診察台の上です。
先に要点
- オイゲノールはクローブ精油の主成分で、カーネーション調の骨格、そしてシンナムアルデヒドが率いる「温かいスパイス一家」の二枚目です。中程度の強さ、持続52時間。シンナムアルデヒドよりずっと御しやすい。
- 温度知覚のスイッチが3つ揃いました。メントールは冷のTRPM8、シンナムアルデヒドは刺激熱のTRPA1、そしてオイゲノールが押すのは温のTRPV3。同じ論文は、これらの分子が皮膚感作物質でもあると述べています。
- 一族のイソオイゲノールはより注視されるアレルゲンです。3636名・5年のデータで陽性頻度は下がるどころか上がっていました。一族を買う前に名前をよく読むこと。
基本記録
| CAS | 97-53-0 |
| 分子式 | C₁₀H₁₂O₂ |
| 分子量 | 164.20 |
| 香調 | 甘い、スパイシー、クローブ、ウッディ、フェノール様、セイボリー、ハム、ベーコン、シナモン、オールスパイス |
| 香調分類 | spicy |
| 強さ | 中(10%以下での評価を推奨) |
| 持続性 | 52時間(原液、ムエット上) |
| 比重 | 1.064–1.070(25 °C) |
| 引火点 | > 93 °C |
| 推奨保存 | 24か月以上(冷暗所、密封) |
| 収載名簿 | GRAS、JECFA、CoE、FEMA GRAS、IFRA |
香気語の「ハム」「ベーコン」はそのまま受け取ってかまいません。フェノール類は生まれつき燻香を帯びていて、燻製食品の香りには実際この一族がいます。比重は1超で水に沈む側。52時間の持続はスパイスの中では中位で、シンナムアルデヒドの212時間には遠く及びません。
温度知覚の3つめのスイッチ
2006年、Xu らが Nature Neuroscience 誌に発表した研究は、タイトルで2本の糸を両方名指ししています:「オレガノ、タイム、クローブ由来の風味物質および皮膚感作物質は特定のTRPチャネルを活性化する」。
カルバクロール、オイゲノール、チモールはオレガノ、セイボリー、クローブ、タイムなどの植物の主要成分である。舌に塗ると、これらの風味物質は温かい感覚を引き起こす。これらは皮膚感作物質・アレルゲンとしても知られている。TRPV3は温に敏感なCa²⁺透過性陽イオンチャネルで、皮膚、舌、鼻に高発現する。本研究ではTRPV3がカルバクロール、チモール、オイゲノールによって強力に活性化・感作されることを示す。(中略)結果は口鼻上皮の化学感覚における温度感受性TRPチャネルの役割を支持し、TRPV3が植物由来の皮膚感作物質の分子標的である可能性を示唆する。
これで揃いました。ミントの涼はTRPM8、シナモンの灼ける熱はTRPA1、クローブの温かさはTRPV3。3本の記事を並べて読めば、「スパイスの温度」は最初から最後まで分子がスイッチを押す話で、温度計は関係ありません。この論文のもうひとつの要点はタイトルに隠れています。温かく感じさせる分子と皮膚を感作する分子は、同じ顔ぶれだということ。チャネルの機構と感作は別の現象ですが、しばしば同じ分子の上に同居します。ここまでの読み方は私たちの解釈です。「可能性を示唆する」は論文自身の言い回しで、そのまま残しておきます。
3つのチャネルの比較と「温度感は匂いそのものではない」という境界は、「香りはなぜ冷たく、熱く、温かく感じるのか」へ。
一族の注視されるアレルゲン
この一族の感作の物語の主役は、実は異性体のイソオイゲノールです。2007年、White らは British Journal of Dermatology 誌で2001〜2005年の3636名の患者のパッチテストデータを総説しました:
化粧品中のイソオイゲノールの推奨濃度は引き下げられていたにもかかわらず、そのアレルギー性接触皮膚炎の頻度は**統計的に有意な上昇傾向(P = 0.0182)**を示し、全体の発生率は2.67%だった。研究者らは、イソオイゲノールと化学的に関連する、あるいはイソオイゲノール自体に加水分解される化合物への置き換えが原因ではないかと疑っている。
最後の一文は購買にそのまま効きます。下の一族表を見てください。benzyl isoeugenol、methyl isoeugenol といった名前が、まさに「化学的に関連する化合物」の棚での姿です。研究者らの疑いが正しければ、筋書きはこうです。規制が親分子を押さえ、市場は誘導体で迂回し、感作データが後から追いつく。この猫とネズミはリナロールの酸化で一度見ました。これが2周目です。被験者は皮膚科の患者で、数字はその集団についてのものです。一般人口の話ではありません。
嗅ぐときは
- 10%評価で十分。中程度の強さで刺しません。単体では完全なクローブで、ウッディで燻した尾を引きます。
- カーネーションの古典式:オイゲノールにイランイランかバラ系フローラル。業界で百年以上使われてきた、通り相場級の処方常識です。初めてなぞったとき驚いたのは、フローラルを足した瞬間に薬っぽいフェノールの縁がほぼ消えたことでした。
- シンナムアルデヒド、バニリンと組めば温かい三角形。冬の調香の本拠地です。
- 肌に載せる処方は現行IFRAスタンダードを。一族には個別基準を持つメンバー(特にイソオイゲノールとメチルオイゲノール)がいて、親と誘導体で扱いが違います。1つずつ調べること。
カタログ上の一族
| 品目 | 何であるか |
|---|---|
| eugenol(97社) | 本体:クローブ |
| clove bud oil(128社) | 天然側:クローブ蕾の精油。オイゲノールが本体で脇役一式付き |
| isoeugenol(56社) | 異性体 — よりフローラルでカーネーション的。より注視されるアレルゲンでもある |
| methyl isoeugenol(46社) | イソオイゲノールのメチルエーテル。上述「化学的に関連する誘導体」の一族 |
| methyl eugenol(38社) | メチルエーテル版。IFRAの厳しい個別基準の対象 |
| benzyl isoeugenol(27社) | ベンジルエーテル版。上述「化学的に関連する誘導体」の一族 |
| dihydroeugenol(23社) | 水素化版。より沈んだフェノール |
法規
GRAS、JECFA、CoE、FEMA GRAS、IFRAに収載。オイゲノール自体はEU化粧品規則がラベル表示を求める香料アレルゲンのひとつで、一族のイソオイゲノールとメチルオイゲノールにはより厳しいIFRA個別基準があります。これらの名簿は使用上限を示しません。肌用処方は現行IFRAスタンダードで品目ごとに、供給業者規格書とあわせて確認を。
買うときは
- オイゲノールとクローブ蕾精油は用途が別です。単体の練習には前者、完全なクローブ感には後者。価格差は小さい。
- 一族の注文はCASで。eugenol は 97-53-0。異性体とエーテル誘導体は名前が一音違いで、法規の扱いは大違いです。
- 持続52時間、保存期は普通。1瓶を1年かけて使って問題ありません。鮮度競争は不要です。
→ データベースのオイゲノール:全物性、供給業者一覧、推奨の組み合わせ。 → clove bud oil|isoeugenol|香調で検索:「クローブ スパイシー」で隣人を探せます。
参考文献
H. Xu, M. Delling, J. C. Jun & D. E. Clapham, Oregano, thyme and clove-derived flavors and skin sensitizers activate specific TRP channels, Nature Neuroscience, 9(5), 628–635 (2006). PMID 16617338
J. M. L. White, I. R. White, A. Glendinning, J. Fleming, D. Jefferies, D. A. Basketter, J. P. McFadden & D. A. Buckley, Frequency of allergic contact dermatitis to isoeugenol is increasing: a review of 3636 patients tested from 2001 to 2005, British Journal of Dermatology, 157(3), 580–582 (2007). PMID 17573874