原料図鑑 · 18
原料図鑑:シンナムアルデヒド — シナモンの熱さは、メントールの冷たさと同じ一族のスイッチに載っている
· 9 分
CAS 104-55-2、シナモンの匂いの本体。メントールの回で扱った冷スイッチTRPM8に対し、シンナムアルデヒドが押すのは同じ一族のもうひとつ、TRPA1。2004年の研究は、試験した化合物の中でこの分子が同チャネルに最も選択的だと同定しました。EUがラベル表示を求める香料アレルゲンのひとつでもあり、1996年の閾値研究は既に感作された被験者での反応濃度と遅延日数を測定しています。105社、持続212時間。香水の「熱」はここから来ます。
クマリンの回でカシアシナモンに触れました。クマリンはその中に隠れています。でもシナモンロールをかじった瞬間に口と鼻を満たすあの熱さの主役は、別の分子。シンナムアルデヒドです。
先に要点
- シンナムアルデヒドはシナモンの匂いの本体で、香水の「熱」の多くはここから来ます。強度は高く、10%以下での評価を推奨。持続212時間はベースノート級です。
- メントールが押すのは冷スイッチTRPM8。シンナムアルデヒドが押すのは同じ一族のもうひとつ、TRPA1。2本並べて読むと、温度知覚の両端が揃います。
- EUがラベル表示を求める香料アレルゲンのひとつです。既に感作された人について、1996年の研究が反応を誘発する濃度域を測定しています。肌に載せる処方はIFRAの制限値を必ず確認。
基本記録
| CAS | 104-55-2 |
| 分子式 | C₉H₈O |
| 分子量 | 132.16 |
| 香調 | 甘い、スパイシー、アルデヒド様、芳香、バルサム、シンナミル、樹脂、蜂蜜、パウダリー、カシア |
| 香調分類 | spicy |
| 強さ | 高(10%以下での評価を推奨) |
| 持続性 | 212時間(原液、ムエット上) |
| 比重 | 1.046–1.050(25 °C) |
| 引火点 | 93 °C |
| 推奨保存 | 24か月以上(冷暗所、密封) |
| 収載名簿 | GRAS、JECFA、CoE、FEMA GRAS、IFRA |
比重が1を超えるので、これは水に沈む側です。212時間はシリーズの中でも長い尾で、クローブやバルサム類と同じ棚。香気語の「蜂蜜」「パウダリー」は初心者が見落としがちですが、薄めるとあの甘さは辛さより先に出てきます。
熱のスイッチ
まず復習から。メントールの回で、ミントの「涼しさ」は分子が冷受容体TRPM8を押すからで、温度計は関係ない、という話をしました。シンナムアルデヒドは同じ物語の反対側です。2004年、Bandell らの Neuron 論文:
TRPイオンチャネル一族の6つのメンバーは、それぞれ特定の温度閾値に応答する。(中略)シナモン、ウィンターグリーン、クローブ、マスタード、ジンジャーの精油に含まれる刺激性化合物はTRPA1を活性化する。(中略)シンナムアルデヒドはその中で最も選択的な活性化剤と同定され、冷感受性の感覚ニューロンを刺激し、マウスで侵害受容反応を引き起こした。
著者らはこの結果を、有害な冷たさが逆説的に灼けるような痛みとして感じられる理由へのメカニズム上の手がかりと読んでいます。舌の上の「シナモン熱い」は、刺激を報告するために作られたチャネルが分子に押されている状態です。ニューロンとマウスの実験はメカニズムの話で、香水を付けた人に何が起きるかを語るものではありません。ただ、メントールのTRPM8と並べれば、温度知覚の両端それぞれに「押す分子」が揃ったことになります。調香上の実用はここです。処方に「温かさ」が要るとき、頼るのはたいてい同じ植物たちです。論文のリストにあるシナモン、クローブ、ジンジャーは、そのまま温かいスパイス調の常連でもあります。
TRPA1とメントールのTRPM8、オイゲノールのTRPV3の分担は、「香りはなぜ冷たく、熱く、温かく感じるのか」でまとめています。
感作を数字で見ると
シンナムアルデヒドはEU化粧品規則が成分表への記載を求める香料アレルゲンのひとつで、IFRAは制限基準を設けています。感作が人の上で実際どう見えるかを知るには、1996年の Johansen らの Contact Dermatitis の用量研究が古典です:
シンナムアルデヒドに感作された被験者において、系列希釈パッチテストと、エタノール中0.02%、0.1%、0.8%のシンナムアルデヒドを用いた6週間の段階的使用テストを実施した。(中略)使用テスト陽性13名のうち6名(46%)は7日目より後に反応した。(中略)パッチテスト感受性と使用テスト結果のあいだに有意な相関が見られた。
持ち帰るべきは2点。第一に、被験者は全員すでにシンナムアルデヒドに感作された人で、これらの濃度は彼らについての数字です。一般人口の話ではありません。第二に、反応の半分近くは1週間を過ぎてから現れました。「3日付けて何ともなかった」は合格の証明にならない — この文献群でいちばん実用的な教訓だと思っています。
嗅ぐときは
- 高強度。データベースの明記は10%以下での評価です。私は最初の原液で咳き込み、蜂蜜の層は1%まで薄めてやっと聞こえました。
- 熱さには用量の閾があります。微量なら「温かい」、過ぎれば「辛い」。アンバーやオリエンタルのアコードに0コンマ数%で全体の温度が上がります。
- バニリンとクマリンとは生まれつきの三点セット。シナモンロールの道具箱です。
- 肌に載せるものは、用量を決める前に現行IFRAスタンダードの該当カテゴリーのシンナムアルデヒド制限値を確認すること。これは本当に制限値のある原料です。
カタログ上の一族
| 品目 | 何であるか |
|---|---|
| cinnamaldehyde(105社) | 本体:シナモンの熱 |
| alpha-hexyl cinnamaldehyde(56社) | ヘキシル版。辛さはほぼ消え、ジャスミン方向のフローラルアルデヒドに。石鹸の常連 |
| alpha-amyl cinnamaldehyde(53社) | アミル版。こちらもフローラルへ。古いジャスミン処方の骨格 |
| alpha-methyl cinnamaldehyde(34社) | メチル版。おだやかなシナモン |
| ortho-methoxycinnamaldehyde(32社) | メトキシ版。カシアの中の脇役成分 |
側鎖が伸びると、辛さは花に席を譲ります。ヘキシルとアミルは本体とは別世界の匂いなのに、名前は接頭辞ひとつ違い。注文前によく読むこと。
法規
GRAS、JECFA、CoE、FEMA GRAS、IFRAに収載。本シリーズの多くの原料と違い、IFRAはシンナムアルデヒドに制限基準を設けています。EU化粧品規則も閾値を超える場合の成分表記載を求めます。肌用処方は現行IFRAスタンダードの該当カテゴリーの制限値と供給業者規格書を。
買うときは
- 小瓶で長く持ちます。高強度で制限値持ちの身分なので、処方用量はもともと上がりません。
- CAS 104-55-2 を確認して、ヘキシル/アミルのフローラル版と取り違えないこと。
- まず1%希釈液から。「温かい」の用量窓は思っているより狭く、階段を自分の鼻で一度上るのが最速です。
→ データベースのシンナムアルデヒド:全物性、供給業者一覧、推奨の組み合わせ。 → alpha-hexyl cinnamaldehyde|香調で検索:「スパイシー 甘い」で隣人を探せます。
参考文献
M. Bandell, G. M. Story, S. W. Hwang, V. Viswanath, S. R. Eid, M. J. Petrus, T. J. Earley & A. Patapoutian, Noxious cold ion channel TRPA1 is activated by pungent compounds and bradykinin, Neuron, 41(6), 849–857 (2004). PMID 15046718
J. D. Johansen, K. E. Andersen, S. C. Rastogi & T. Menné, Threshold responses in cinnamic-aldehyde-sensitive subjects: results and methodological aspects, Contact Dermatitis, 34(3), 165–171 (1996). PMID 8833458