はじめての調香 · 32
評価のときの3つの動作、うち2つは効かない
· 14 分
調香する人として何が煩わしいかを聞いたスレッドに62件の返信がつき、不満のなかに確かめられる動作が3つ埋まっていた。キャップを嗅ぐ、コーヒー豆で鼻をリセットする、最初の10秒で判断する。コーヒーは試験されている。2011年の研究は9回の香り評価のあとにコーヒー豆・レモン片・ただの空気を嗅がせ、コーヒー豆が他の2つより良い成績を出さないことを見つけた。2000年のレビューが理由を説明する。嗅覚順応は刺激特異的で、回復するのは時間と接触の停止によるのであって、別の匂いによるのではない。3つ目は処方群で測った。残香24時間未満の素材は、中央値の処方でデータのある重量の25.4%にとどまる。
r/DIYfragranceで開かれた問いがある。「調香する人として、何が煩わしいですか」
返信62件。多くは、この仕事が周りからどう扱われるかについてのものだ。5分で香水を作れという話、持続時間しか聞かれない話、天然のほうが安全だという話。
そして不満の山のなかに、確かめられる動作が3つ埋まっている。
先に結論
- キャップやアトマイザーを嗅いでも役に立たない。 そこにあるのは乾いた残液で、蒸発がすでに揮発性の部分を抜いている。
- コーヒー豆で鼻をリセットするのは効かない。試験されている。 Grosofskyらは9回の香り評価のあと、コーヒー豆・レモン片・ただの空気を嗅がせて識別課題をさせた。コーヒー豆はレモン片や空気より良い成績を出さなかった。
- 理由は機構にある。 Daltonの2000年のレビューははっきり書いている。嗅覚順応は刺激特異的で、それ以上の接触がない状態で時間とともに感度が回復する。必要なのは時間と距離であって、別の匂いではない。
- 同じレビューには実務に効く細部がある。片方の鼻孔を刺激すると両方が順応する。刺激された側のほうが強く、回復も遅い。鼻孔を替えてもリセットにはならない。
- 10秒で判断すると、処方の一部だけを判断することになる。 処方群をデータベースの残香欄と突き合わせると、**残香24時間未満の素材は中央値の処方でデータのある重量の25.4%**にとどまる。
- スレッドにはもう1つ、3人が別々に踏んだ具体的な問題もある。黒いプラスチックのアトマイザー部品が、アルコールに触れると魚臭くなる。
読了9分ほど。
1.キャップを嗅ぐ
これには14票がついている。
「小さなテスターの瓶を渡すと、キャップを外してアトマイザーを嗅ぐ人がいる。それでこの香水がどう匂うか全部分かるとでもいうように」
その下に理由が足されている。
「キャップやアトマイザーだけを嗅いで香水を判断してはいけない。嗅いでいるのは全部、乾いた残液だ。」
この説明は正しく、理屈を書いておく価値がある。
ノズルやキャップの残液は空気にさらされて蒸発してきたものになる。蒸発は比例しない。 沸点が低く残香の短い成分から先に去り、重いものが残る。蒸発曲線については書いた。
つまりノズルは「濃縮版の香水」ではなく、「とても古いドライダウン」になる。 嗅いでいるのは4時間後の姿で、しかも肌も体温も希釈もない表面の上でのそれだ。
しかも、嗅いでいるのが香水ですらないかもしれない。
魚臭いアトマイザー
スレッドには、3人が別々に踏んだ小さな挿話がある。
Haven416:
「2 mLのスプレー瓶(ガラス瓶にプラスチックのアトマイザーとキャップ)をまとめて買って、テスターをたくさん作った。最初にキャップを外したとき、ほとんど魚のような匂いがした。香水ではなくプラスチックなのは明らかだけど、第一印象としては最悪だ」
Annual_Impression834(ポーランド語):
「まったく同じことがある。黒いプラスチックのアトマイザー部品は、アルコールに触れると魚の臭いがする。」
Sad-Committee-1870:
「そう。もっといい代替品を見つけたら教えてほしい。なぜか全部がそうなるわけではないけれど、1つ2つでも十分に嫌になる」
3人、別々の場所、同じ記述。黒いプラスチック、アルコールとの接触、魚の匂い。
魚の匂いは匂いの化学では出どころが狭い。アミン類、とりわけトリメチルアミンの一族になる。そしてプラスチックの加工助剤——スリップ剤、帯電防止剤、一部のアミン系酸化防止剤——はエタノールに抽出されうる。
はっきりさせておく。あのアトマイザーを試験してはいないし、これについての研究も見つからなかった。 上の一文は機構として筋の通る推測であって、検証された答えではない。
それでもできることは明確になる。
- 新しいアトマイザーは使う前にエタノールに浸ける。 そしてそのエタノールを嗅ぐ。
- 出たロットは丸ごと使わない。 3人のうち1人が「全部ではない」と書いていて、ロットの問題であって設計の問題ではないことを示唆する。
- 黒い部品には気をつける。 3人のうち2人が黒と書いている。カーボンブラックかその分散剤かもしれないし、偶然かもしれない。
包材は処方の一部になる。 一人でやっていると見落としやすい。大手は包材の適合性試験をするが、こちらはしないからだ。
2.コーヒー豆
これには12票がつき、具体的な代替案も添えられている。
「消費者をもっと教育すべきだと思う。コーヒーを『中和剤』とするのは古い決まり文句だ。コーヒーはコーヒーの匂いがする。本当の中立ではない。 代わりに自分の肘の内側か上着を嗅ぐといい。自分の匂いは自分にとってほぼ中立で、嗅ぐ合間の『リセット』を助けてくれる」
「コーヒーは中立ではない」を実験にかけた人がいる。
Grosofskyらは2011年に Perceptual and Motor Skills に書いている。冒頭がその慣行そのものだ。香水の売り手はしばしば、嗅覚順応と慣れの影響を減らすための「鼻の口直し」として、客にコーヒー豆を提供する。
方法は単純になる。 大学生の被験者が3つの香りを繰り返し嗅ぎ、そのつど評価する。9回の試行を終えたあと、コーヒー豆・レモン片・ただの空気のいずれかを嗅ぐ。その後4つの香りを示され、以前に嗅いでいないものを指すよう求められる。
結果は一文になる。
コーヒー豆は、レモン片や空気より良い成績をもたらさなかった。
3群とも同じだった。
探索的研究で、被験者は大学生、課題は香水の評価ではなく識別——限界は末尾に並べた。それでも1つは言える。この慣行は実証されておらず、試験された一度では効果が出なかった。
なぜコーヒーでは無理なのか
Grosofskyは効果を検出しなかった。Daltonの2000年の Chemical Senses のレビューが、なぜ効果がないはずなのかを説明する。
そのレビューは嗅覚順応の心理物理を整理していて、要点はここになる。
ある匂い物質への反復的あるいは長時間の曝露は、典型的にはその匂い物質に対する刺激特異的な嗅覚感度の低下をもたらすが、それ以上の曝露がない状態では感度は時間とともに回復する。
「刺激特異的」と「時間とともに回復」の2語が、コーヒーの役割を排除する。
- 順応はいま嗅いだそのものに対して起きる。
- 回復の条件はそれ以上の曝露がないこと、つまり時間になる。
- 別の匂いを嗅いでも速まらない。その匂いにも順応し始めるだけだ。
レビューはさらに、順応の大きさと時間経過が匂いの濃度と曝露の持続時間に依存すると書いている。強く長く嗅いだぶん、待つ時間も長くなる。
そして実務にいちばん効くのがこの一行になる。
片鼻への刺激は、同側と対側の両方の鼻孔に順応をもたらす。ただし同側の順応のほうが強く、回復も遅い。
鼻孔を替えてもリセットにはならない。 両方とも疲れる。片方がより早く疲れるだけだ。
(レビューは順応が嗅覚系の複数の水準で起こりうること、受容体レベルの末梢と、その先の中枢の両方が関わること、そして多くの心理物理研究が両者を分けていないことも述べている。「少し休む」が効く理由は1つではない。)
コメント主が挙げた「自分の肘や上着を嗅ぐ」は、コーヒー豆とは別種のものになる。 競合する匂いというより、自分の背景に戻ることに近い。その背景にはもともと順応している。掃除というより退出に近い。 その方向はDaltonの機構と両立するが、直接試験した研究は見つからなかった。
3.最初の10秒
これには18票がつき、スレッドで最短の返信になる。
「ムエットの上の最初の10秒で香水を判断されるとき」
これは測れる。
954件の公開処方をデータベースの残香欄と突き合わせ、重量の半分以上が残香記録に対応する処方だけを残すと569件になる(データ被覆率の中央値72.0%)。残香で帯に分け、その被覆重量に占める割合を見る。
| 残香 | 被覆重量に占める割合の中央値 | 四分位範囲 |
|---|---|---|
| 24時間未満 | 25.4% | 8.8%〜46.7% |
| 24〜100時間 | 21.9% | 8.0%〜37.2% |
| 100〜300時間 | 14.7% | 3.4%〜29.9% |
| 300時間以上 | 14.4% | 2.6%〜35.4% |
残香24時間未満の素材は、中央値の処方の重量の4分の1にあたる。
この表は読み方に注意がいる。 残香は「決められた濃度でムエットの上にどれだけ残るか」の測定で、混合物の時間曲線ではない。 長く残る素材も瓶のなかにもムエットの上にも最初の1秒からいる。この表が言うのは「4分の3をまだ嗅いでいない」ではなく、「処方の重量は、急いで判断しない側に置かれている」になる。
そしてそれが、あのコメント主の不満そのものになる。 10秒で離れる人は、処方者が最も重量を割いた部分を飛ばしている。
(関連して、8時間という基準は計算した。このスレッドで45票の最上位の返信も同じ不満を述べている。「少なくとも8時間持たなければ安物か作りが悪いとみなされるという思い込み」)
まとめると
3つの動作のうち2つは効かない。
| 動作 | 状態 |
|---|---|
| キャップ/アトマイザーを嗅ぐ | 無効。しかも包材を嗅いでいる可能性がある |
| コーヒーでリセット | 試験済み、空気と差がない |
| 10秒で判断 | 重量の4分の3を飛ばす |
効くもののほうは退屈になる。 待つ、部屋を出る、数時間後に戻る、肌で試す、時刻を書き留める。評価ノートの取り方は書いた。
このスレッドでいちばん良い一行は、技術の話ではない。 何をもって調香師と呼べるのかと聞かれ、投稿者はJean-Claude Ellenaから借りてこう答えている。
「ときには、下手なスケッチでも、何もないよりはいい」
この記事が示していないこと
アトマイザーの節に研究の裏づけはない。 3件のコメントは3人の報告で、アトマイザーを試験してもいないし、エタノール中のプラスチック溶出物についての文献も見つからなかった。 アミンの機構は筋の通る推測で、ここに書いたのは具体的な行動(先にエタノールに浸ける)を指し示すからであって、確立されているからではない。
Grosofskyの研究は探索的になる。 被験者は大学生、課題は香水の評価ではなく「どれが新しいか」で、標本数は要旨に書かれていない。「差が検出されなかった」は「効果がないと証明された」ではない。 統計的検出力は要旨からは判断できない。
あの研究が測ったのは識別の成績で、匂いがはっきり感じられるかどうかではない。 関連はするが同じではない。
Daltonのレビューは2000年のものになる。 その後20年の進展があり、読んだのはこの1本だけなので、ここにあるのはあのレビューが整理した内容であって分野の現況ではない。
肘を嗅ぐ案についての直接の研究は見つからなかった。 コメント主の実践であり、Daltonの機構とは両立する。両立は検証ではない。
残香の表には限界が3つある。 第1に、使えたのは569件だけで(残りは素材が残香記録に対応しない)、その569件が無作為な部分集合とはかぎらない。第2に、データ被覆率の中央値は72.0%なので、重量の28%は計算の外にある。 第3に、残香値そのものの測定条件が揃っていない。 原液のものも10%希釈のものもある。これについては別に書いた。この表は相対的な大小に向いていて、正確な比率には向かない。
残香は「いつ嗅こえるか」ではない。 400時間の素材も最初の1秒からそこにいる。支配していないだけになる。誤読されやすいので本文に書いた。
参考文献
A. Grosofsky, M. L. Haupert, S. W. Versteeg, An exploratory investigation of coffee and lemon scents and odor identification, Perceptual and Motor Skills, 112(2), 536-538 (2011). PMID 21667761. doi:10.2466/24.PMS.112.2.536-538
P. Dalton, Psychophysical and behavioral characteristics of olfactory adaptation, Chemical Senses, 25(4), 487-492 (2000). PMID 10944515. doi:10.1093/chemse/25.4.487