データの読み方 · 10
「どれくらい持つのか」——その数字は存在する。ただ、聞いている人が知りたいものを測っていない
· 10 分
打ち切り値と全濃度未満の測定を除いた 1,372 件で、中央値は 76 時間、87% が 8 時間以上に達する。それらの時間は原液 100% で記録されたもので、原料そのものの挙動を表す。香水がどれくらい持つかを尋ねる人が求めているのは肌の上での挙動であり、それは別の数字になる。
ある調香師がフォーラムで尋ねた。この仕事で何にいらだつか。57 件の返信で最も多く繰り返された不満は「嗅ぐ前に、どれくらい持つのかと聞かれること」だった。
言い換えた人もいる。8 時間に満たなければ安物と見なされる。会話は拡散性と持続性だけで、それが何をしているかには決して及ばない。ある返信は具体的な変化を名指しした。大手の香料データベースが持続性を「時間の表示」から「excellent から poor までの評価」に変えた。評価はもっと欲しくさせるが、数字はそうしない。その「excellent から poor」の線は、自然な切れ目のない分布の上に引かれている。
この苛立ちはもっともだ。ただし注目すべきは、その質問には答えがあるということで、きちんと答えるほうが、退けるよりも苛立ちの出どころをよく説明する。
解釈の前に、データそのもの
本サイトのデータベースには、供給元が 1 社以上ある原料 1,871 件に持続時間の記録がある。分布が意味を持つ前に二つを外す必要がある。266 件は正確値ではなく打ち切り値で、1 時間から 168 時間までの各閾値に大なり小なりで記録され、246 件は全濃度未満で評価されたか濃度の記録がない。残る 1,372 件の分布は、「8 時間」という議論が前提にしているものとは違う。
| 持続時間 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 1 以上 4 時間未満 | 32 | 2.3% |
| 4 以上 8 未満 | 142 | 10.3% |
| 8 以上 24 未満 | 245 | 17.9% |
| 24 以上 48 未満 | 150 | 10.9% |
| 48 時間以上 | 803 | 58.5% |
中央値は 76 時間、8 時間以上に達するものが 87%——厳密に 8 時間を超えるものは 83.5%。
走らせる前に予想を聞かれていたら、私は「大半の原料は 8 時間ももたないので、その期待は不合理だ」と答えていた。その予想は外れで、外れの訂正のほうが面白い。
では、なぜ仕上がった香水は三日ももたないのか
その時間が、装用者に似たものの上で測られていないからだ。
元のフィールドは裸の数字ではない。たとえば 12 hour(s) at 100.00 % と記録されている。濃度が測定の一部であり、あの表に残った各行はすべて原液で評価されている。 処方に希釈されてもいないし、他の三十種類と同じ空気を奪い合ってもいないし、温かく動き吸収し一日中自らの油分を補充し続ける表面の上にもない。
仕上がった香水は、その条件をすべて同時に変える。
- 濃度。 処方中に 2% で存在する原料は、100% で試験された原料と同じものではない。
- 同居。 混合物の持続性は混合物の性質である。原料同士は互いを抑えもし伸ばしもするので、単独の数字は残りと接触した時点で成立しない。
- 表面。 肌は温かく、汗をかき、布とこすれ、吸収する。実験室の数字が乗っている表面には、そのどれもない。
76 時間は原液の原料を試香紙で見たときの値、4 時間は希釈した香水を人の肌で見たときの値である。測っている対象が違うので、どちらも成り立つ。
三つの要因は、それぞれどこまで裏づけがあるか
希釈の差に一般的な倍率はない。 完成品における一原料の比率は「賦香率 × 香精中の配合比」で、 後者は数桁にわたる。RIFM の使用実態調査はファインフレグランス完成品の 95 パーセンタイル濃度を 原料ごとに報告しており、linalool oxide が 0.0065%、musk ketone が 0.68%、HHCB が 3.0%。 同じパーセンタイルで数百倍の開きがある。賦香率のほうには慣例があり、IFRA は EDT を 5–15%(典型で約 10%)、 EDP を 10–20%(典型で約 15%)とし、これは業界慣行であって分類基準ではないと明記している。
肌は試香紙より温かく、その差は測れている。 前腕の皮膚温は典型で約 31°C、屋内は 20–25°C で、 差は 6〜11 度。蒸気圧は Clausius–Clapeyron に従って上がり、上げ幅は分子による。 limonene は 20°C から 25°C で約 41%、linalool oxide は約 69% 増える。 これは方向を示すだけで時間への換算にはならない。吸着、浸透、湿度、気流、基剤が同時に働くためである。
肌は吸収し、その量も出ている。 非閉塞のヒト皮膚 in vitro で、linalool の 24 時間吸収量は 塗布量の約 1.84–4.08%、閉塞下では 5.9–14.7% に上がる。皮膚は代謝もし、benzyl acetate は エステラーゼで加水分解される。ただし吸収がすべてを早く消すわけではない。2025 年の研究では、 皮膚が一部の分子を保持する一方、揮発性の高い分子ではガラスより皮膚からの放出が多いものもあった。
76 時間そのものについての訂正
この記事は当初、それを「分子がまだ存在するか」の測定として扱っていた。これは誤りである。 TGSC は「172 hour(s) at 100.00 %」のような値を Organoleptic Properties / Substantivity に掲載し、 出典を Luebke 1989 としている。これは嗅覚による検出時間であり、GC・質量分析・残存質量ではない。
つまり二つの数字は同じ種類のもの、つまり「嗅ぎ取れるかどうか」を、異なる条件で測っている。 一方は純原料・試香紙・データベースの官能終点、もう一方は完成品・肌・実使用量で、 終点は着用者が決めており、その基準はたいてい明示されていない。
TGSC の公開ページは試香紙の材質、塗布質量、評価者数、嗅ぐ間隔、検出基準、不確かさを示していない。
そしてこの項目の分解能は 1 時間である
調香の現場で持続を語るとき、たいてい 30 分刻みから始まる。トップの変化がそこで起きるからだ。 この項目はそれを記録できない。
時間の値をもつ 2,027 件について:
| 1 時間未満 | 0 件 |
| 小数を含むもの | 0 件 |
| 1・2・4・8・12・24・48・72・100・168・200・400 のいずれかに乗るもの | 1,027 件(51%) |
| 8 時間以下 | 408 件 |
| 2 時間以下 | 88 件 |
データの半分が 12 個の丸い値に集まり、最小刻みは 1 時間である。 つまり「トップがまだあるか」という実務で最もよく議論される範囲では、 この項目は 1 から 4 までの 4 段階しか持たず、しかもそのうち 1 と 4 は最も落ちやすい値でもある。
これは測定条件が書かれていないという前節と同じことの裏側にあたる。 一方は記録されなかったもの、もう一方は書式が保持できないものである。 したがって 76 時間という中央値を精密な標準値として読むべきではない。
嗅覚順応ではこの差を説明しきれない
きれいな説明がある。自分の香りが嗅げなくなるので「5 時間」は香水ではなく鼻を測っている、というものだ。 調べた結果、この説明はその重さを支えられない。
短時間の研究では急速な低下が確認されている。反復刺激で嗅覚事象関連電位の振幅は約 48% 低下し、 時定数は約 4〜10 秒。10 分間の連続暴露では知覚が約 10 秒でピークに達し、120 秒前後で最低になる。 4 時間の室内芳香研究では低濃度群が約 2 時間後に無臭条件に近づき、 1 日 6 時間以上・2 週間の家庭内暴露は持続的で匂い特異的な閾値上昇を生む。
いずれも同じ状況ではない。着用者が 5 時間目に知覚を失う一方で、機器や第三者がどれだけ検出し続けるかを 測った研究は見つからなかった。 肌の上の濃度は下がり続け、気流は断続的で、 香調の構成も変わるため、定常刺激の結果は転用できない。 着用者と第三者の終点判断を直接比較した査読研究も見つからなかった。
だからその質問は、無知ではなく答えられる質問だ
どれくらい持つのかと尋ねる人は、自分の体験について尋ねている。自分がこの香りをどれくらいまとっていられるか。それは知りたくて当然のことであり、原料データベースが報告しているものではない。
一言聞き返せば片づく。「何の上で?」 試香紙、肌、この濃度、この気候——4 つの条件は 4 つの数字になり、相手が求めているのはたいてい肌の上の値だ。
この置き換えは 8 時間という基準も片づける。肌の上で 8 時間は厳しい目標で、処方について何かを語る。原液で 8 時間は平凡で、あの表に残る原料の 87% が難なく超えており。
この数字は私たちも出しているので、これは私たちの問題でもある
本サイトの原料ページはすべて持続時間を表示している。同じフィールド、同じ測定条件から来ており、それが何を指すのかを言わずに表示するなら、私たちはあの議論の調香師たちがうんざりしている混同を、まさに生産していることになる。
それがこの記事の理由だ。条件のない数字は情報ではなく、ほのめかしである。 データベースは、誰も尋ねていない質問への答えのように見える数字を出すときよりも、自分が何を測ったかを言うときのほうが役に立つ。
この記事が立証しないこと
- 数字は出典元の記録であり、私たちの測定ではない。 官能評価につきものの変動がある。上で除外した打ち切り値は元の集合の 14% にあたり、それを外すことはノイズではなく情報を削っている。
> 168 hour(s)と記録された原料は実際に非常に持続するが、いまその集計には入っていない。 打ち切り値の文字列を開くとさらに厄介である。Ambroxan の 400 時間は 10 分の 1 の濃度で DPG に溶かして得られた下限値であり、数値カラムはその三点をすべて捨てている。 - 原料の数字から肌の上の持続時間を予測できるものは、ここには何もない。 関係は存在するが緩い。沸点は持続時間の代わりになるかが、順位は残り予測は残らないという近い事例を扱っている。
- 不満は一つのフォーラムの一つの議論である。 その規模の議論としては異常に一貫しているが、調査ではない。