原料図鑑 · 15
原料図鑑:β-イオノン — 一分子でスミレとベリーをつなぐ
· 6 分
CAS 14901-07-6、スミレ、ウッド、ベリーが同居します。78社、持続76時間。処方内で花から果実へ動く使い方に集中します。
エチレンブラシレートの回は「同じ瓶のムスクが鼻によって違う強さに読まれる」話をしました。本稿はその物語のもう半分で、遺伝学はさらにクリーンです。
先に要点
- β-イオノンはスミレの香りの代表分子で、ベリーと蜜蝋の甘さも併せ持ちます。香水の「スミレ」とベリー調の多くはここから出発します。
- これへの感度差の96%以上が、たったひとつの遺伝的変異で説明されます。嗅覚遺伝学でメンデルのエンドウ豆に最も近い事例です。敏感な人は「芳香がある、フローラル」と言い、感度の低い人は異なる描写をします。
- これに敏感な人は、大環状ムスクには鈍い傾向があります(研究で観察された逆相関)。あなたの鼻は万能アンテナではなく、トレードオフの束です。
基本記録
| CAS | 14901-07-6 |
| 分子式 | C₁₃H₂₀O |
| 分子量 | 192.30 |
| 香調 | フローラル、ウッディ、甘い、フルーティ、ベリー、トロピカル、蜜蝋、グリーン |
| 強さ | 中(10%以下での評価を推奨) |
| 持続性 | 112時間(原液、ムエット上) |
| 比重 | 0.939–0.947(25 °C) |
| 推奨保存 | 24か月以上(冷暗所、密封) |
| 収載名簿 | GRAS、JECFA、CoE、FEMA GRAS、IFRA |
112時間はミドルとベースの境界で、エチレンブラシレート(208h)より短く、PEA(32h)より長い。香気語で「ベリー」と「蜜蝋」が並んでいるのがミソで、このワキシーで甘い複合性格こそ、ラズベリーのアコードとスミレのアコードがこの分子を共有する理由です。
人によって別の原料のように感じる
一研究ではOR5A1の一変異がβ-イオノン感度差の大部分を説明しました。この例は「嗅覚研究が同じ香気分子を使う理由」と個人差へ移し、本稿にはスミレとベリーの使い方を残します。
嗅ぐときは
- 10%以下で評価。データベースにそう明記されています。高濃度ではウッディでワキシーに寄り、スミレの繊細さは薄めてこそ現れます。私も最初は原液のままムエットに付けて、蝋と木ばかりで買い間違えたかと思いました。
- スミレとベリーは同じ分子の両面:低用量ではフローラル、上げるとフルーティ。0.1%/1%/10%の階段を自分で作って一度並べて嗅いでみてください。
- αかβか?α-イオノン(115社)はより軽く「オリス的な脂粉感」、βはよりウッディでベリー。2本並べるのがスミレ調の第一課です。
- 古典の組み合わせ:酢酸ベンジルとグリーンを足せば古典的スミレ、果実エステルを足せばラズベリーへ。
カタログ上の一族
| 品目 | 何であるか |
|---|---|
| alpha-ionone(115社) | 脂粉的でオリス寄りの姉妹 — 実は供給がより広い |
| beta-ionone(78社) | 本体:スミレ+ベリー |
| alpha-isomethyl ionone(47社) | メチル化変種 — より石鹸的で長持ち。日用品香料の常連 |
| dihydro-beta-ionone(30社) | 水素化版 — よりウッディでアンバー寄り(サンダルウッドの回の窒素リストに登場済み) |
| ionone mixed isomers(30社) | 混合異性体のお値打ち選択肢 |
法規
GRAS、JECFA、CoE、FEMA GRAS、IFRAに収載。これらの名簿は使用上限を示しません。イオノン類は法規的に単純です。肌用処方は現行IFRAスタンダードと供給業者規格書を。
買うときは
- αとβを小瓶で1本ずつ。並べて嗅ぐのがスミレ最速の入門です。
- まず自分の感度を自己テスト。0.1%希釈をはっきり聞き取れますか? 聞き取りにくければ、あなたは感度の低い側かもしれません。その場合、処方の用量はブラインドテストに決めさせるのが安全です。
- 112時間のミドル〜ベース。新鮮さ競争はなく、ゆっくり使えます。
→ データベースのβ-イオノン:全物性、供給業者一覧、推奨の組み合わせ。 → α-イオノン|バイオレットリーフアブソリュート|香調で検索:「スミレ ベリー」で隣人を探せます。
参考文献
S. R. Jaeger ほか, A Mendelian trait for olfactory sensitivity affects odor experience and food selection, Current Biology, 23(16), 1601–1605 (2013). PMID 23910657
N. Sato-Akuhara ほか, Genetic variation in the human olfactory receptor OR5AN1 associates with the perception of musks, Chemical Senses, 48, bjac037 (2023). PMID 36625229