はじめての調香 · 43
「私のオリスバターは傷んでいるのか」——問題は材料ではなく、何でも1%で嗅いでいることにある
· 17 分
r/DIYfragranceにオリスバターの写真が投稿された。粘度が高すぎるし30分で嗅げなくなる、不良品ではないかという。二つの疑いはどちらも成立しなかった。データベースはオリスバターの融点を40〜46 °C、外観をペースト状から固体と書いている。2018年のGC-MS分析がその理由を示す。アヤメ根茎の精油はミリスチン酸56%、ラウリン酸15.42%、カプリン酸14.50%で、86%が脂肪酸だ。そして粘いと疑われたTECの融点は−46 °C。本当の問題は本人が書いた一文にある。すべての材料を1%で評価している。データベースで推奨評価濃度を持つ802件のうち、527件が10%、204件が1%、45件が0.1%。資料で最も使われる120本のうち、1%で嗅ぐべきものは6本しかない。
r/DIYfragranceに写真つきで、とても具体的な質問が投稿された。
「オリスバター(TECに10%)はこういう見た目で合っていますか。先月注文しました。見るのも嗅ぐのも初めてです」
「すべての材料を時間経過ごとに評価しているところなのですが、ベースの材料として記載されているのに、30分後にはもう嗅げなくなっていました。」
「それと、すでに10%に希釈されたものにしては粘度が高すぎるのではないかとも思っていました。ただTECも、TECで希釈された他の材料も持っていないので、TEC自体が粘いのかもしれないと思いました」
「もしこれが傷んでいるなら、この店で傷んだ材料を受け取るのは二度目なので、もう注文しません」
挙げているのは三つ。粘い、嗅げない、傷んでいるかもしれない。三つとも調べられて、調べた結果どれ一つとして材料が傷んでいることとは関係がなかった。
結論から
- 「オリスバターは室温で固体だ」は正しい。データベースの Iris pallida アヤメ根茎コンクリートバターの記録には融点40–46 °C、外観「淡黄色から黄色のペースト」とある。室温で流動しないのが元の状態だ。
- **理由は組成にある。2018年のウクライナ産 Iris pallida のGC-MS分析は、根茎の精油にミリスチン酸56%、ラウリン酸15.42%、カプリン酸14.50%**を測っている。86%が脂肪酸で、ミリスチン酸単体の融点は50 °C前後にある。
- 「TECも粘い」は正しくない。TECの融点は−46 °C、外観は「無色澄明な油状液体」。粘いのはオリスであって溶剤ではない。
- **本当の問題は評価濃度にある。**本人が「1%が大半の材料を評価する濃度だ」と書いている。データベースで推奨評価濃度を持つ802件のうち、527件(66%)が10%、204件(25%)が1%、45件(5.6%)が0.1%。
- 資料で最も使われる120本のうち、データベースが1%を推奨しているのは6本だけで、15本は10%を推奨している。
- そして嗅覚疲労を除外した方法は、本人が思うより弱い。2000年の総説は、片鼻への刺激が両側の鼻孔に順応を生じさせること、順応と回復の時間経過が濃度と曝露時間に依存することを指摘している。部屋を出るのは助けになるが、きれいなリセットではない。
粘い:データベースが直接答えている
最初の返信は断定的だった。
「なぜ傷んでいると思うのですか。……**これはまったく正常です。オリスバターは室温で固体で、TECに希釈されていても同じです。**ポケットに入れておけば、また液体になるのが見られます。オリスバターは『傷む』ものではありません。むしろ年を経るほど良くなります」(Junior_Ad4596)
データベースも同意する。Iris pallida アヤメ根茎コンクリートバター(CAS 8002-73-1、供給元40社)の欄はこうだ。
| 欄 | 内容 |
|---|---|
| 外観 | 淡黄色から黄色のペースト(推定) |
| 融点 | 40.00–46.00 °C |
| 香調 | ウッディ、ファッティ、バイオレット、フルーティ、甘い、フローラル、温かい |
| 強度 | 弱い |
融点40–46 °C。グアイアコール(28–32 °C)やジフェニルオキサイド(27 °C)よりずっと高い。あの二本は夏に融けるが、オリスバターは融けない。人が住める室温のどこであってもペーストのままだ。
2018年のMykhailenkoのGC-MS分析が理由を出す。ウクライナ産 Iris pallida の根茎と葉を水蒸気蒸留し(根茎の収率0.20%、葉0.03%)、根茎精油から18成分を同定した。主要なものは。
| 成分 | 含量 |
|---|---|
| ミリスチン酸(テトラデカン酸) | 56% |
| ラウリン酸(ドデカン酸) | 15.42% |
| カプリン酸 | 14.50% |
| α-イロン | 2.85% |
**上位三つはすべて飽和脂肪酸で、合計86%。**ミリスチン酸は白い固体のワックスで、ラウリン酸もそうだ。名前に「butter」が入っているのはそのためで、文字どおり脂の塊であり、イロンはその中に溶けている一部でしかない。
論文には買い手に効く一文もある。**「α-イロンとγ-イロンの含量は、アヤメ精油の商業的品質の最も重要な基準とされている。」**払っている金額はその数パーセントに対してであって、残りの86%に対してではない。
TECのほうは。
| 欄 | 内容 |
|---|---|
| データベース上の分類 | 香料・フレーバーのキャリア溶剤/希釈剤 |
| 外観 | 無色澄明な油状液体(推定) |
| 融点 | −46.00 °C |
| 比重 | 1.135–1.139 @ 25 °C |
| 香りの強度 | なし |
**−46 °C。**TECは粘くない。今回の原料図鑑はこれを扱う。
嗅げない:この答えは材料の側にない
投稿者は観察ノートを補足していて、これが丁寧だ。
「0000:柔らかく、アーシー、パウダリー、フローラル。生のじゃがいもの皮を思わせる香りもある。0005:アーシーさが減り、柔らかくパウダリーでフローラルなだけになる。じゃがいもの皮は消えた。0015:全体にかなり弱く、輪郭は同じ。0030:もう嗅げない。」
「1時間後に戻ってきても、やはり何もない」
「これは1%です、そして1%でもかなり強いはずだと読みました」
「オリスバターなら30分くらいが妥当」という返信も、ベースではなくミドルに分類されることが多いという返信もあった。だが一番効くのはこれだ。
「1%は低すぎると思います。大半の材料は10%での評価が向いていて、強いものは1%、核兵器級のものは0.1%です。」(quodo1)
「これは効きます。あなたのオリスバターを例にすると、あれはイロンを20%含みます。材料を1%に希釈すると、手元にあるのは0.2%のイロン溶液(プラス他のすべて、うちいくつかは非常に微弱)で、これは大した量ではありません」
そして投稿者の返しが、このスレッドで最も答えられるべき一文だ。
「そんなに違いますか。高い濃度では見落とす細かいところが嗅ぎやすくなると思っていました」
この一文は真面目に答える価値がある。直感の向きは正しく、一つだけ逆になっているからだ。
データベースは何と言っているか
全42225件の強度欄を引き出した。
まず限界を書く。**推奨評価濃度が強度欄に入っているのは802件(1.9%)だけだ。**大多数の材料について、データベースは「中/弱/強」しか出さないか、何も出さない。
推奨のある802件の内訳。
| 推奨評価濃度 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 10.00% | 527 | 65.7% |
| 1.00% | 204 | 25.4% |
| 0.10% | 45 | 5.6% |
| 50.00% | 12 | 1.5% |
| 0.01% | 9 | 1.1% |
| 5.00% | 4 | 0.5% |
| 20.00% | 1 | 0.1% |
**quodo1の「大半は10%、強いものは1%、核兵器級は0.1%」という口伝が、データベースの分布とほぼ一致する。**66%、25%、5.6%。感覚で言っているのではなく、実在する三段階を言い直している。
これを資料で最も使われる120本に掛け合わせると。
| データベースの推奨 | 本数 | 例 |
|---|---|---|
| 10% | 15 | クマリン、オイゲノール、バニリン、β-イオノン、α-イオノン、エチルバニリン、フェニルアセトアルデヒド、ラズベリーケトン、ベンズアルデヒド |
| 1% | 6 | インドール、α-ダマスコン、ガルバナム油、酪酸エチル、Ambroxan、β-ダマスコン |
| 強度のみ、推奨濃度なし | 55 | リナロール、酢酸ベンジル、フェネチルアルコール、シトロネロール、酢酸リナリル、ゲラニオール…… |
| まったく引けない | 44 | 商品名の一群 |
120本のうち、1%で嗅ぐべきものは6本しかない。
投稿者はすべてを1%で嗅いでいる。その6本には正しく、他の15本には10倍薄い。
「強度のみで推奨濃度なし」の55本については、処方での使用量を見るのが一番わかりやすい。
| 材料 | 処方件数 | 処方での中央値 |
|---|---|---|
| リナロール | 338 | 6.00% |
| 酢酸ベンジル | 317 | 5.50% |
| フェネチルアルコール | 274 | 10.00% |
| シトロネロール | 220 | 6.00% |
| ヒドロキシシトロネラール | 161 | 8.50% |
| サリチル酸ベンジル | 159 | 9.63% |
| α-ヘキシルシンナムアルデヒド | 157 | 9.71% |
**フェネチルアルコールの処方中央値は10%だ。**1%の希釈液で評価すると、実際の処方での濃度の10分の1を嗅いでいることになる。それは「細部が見える」のではなく、聞こえない位置まで下げている。
投稿者の直感——低い濃度なら細かいところが聞こえる——は、ある種の材料では成り立つ。強度の高い材料は高濃度で自分の層を覆い隠すし、それこそインドールやダマスコンが1%、グアイアコールが1%以下で推奨される理由だ。ただしその理屈はその向きにしか効かない。強度が「弱い」と記された材料に同じことをすれば、細かくするのではなく、消すことになる。
そしてオリスバターの強度欄は**「弱い」**と書いてある。
あの20%は私には保証できない
quodo1の算術は別扱いにする。算術は正しく、入力が確認できないからだ。
彼はオリスバターがイロンを20%含むので、1%の希釈液は0.2%のイロン溶液になると言う。この掛け算は完全に正しいし、このシリーズが繰り返し出会う「希釈の希釈」そのものだ。
ただしその20%は確認できなかった。見つかった公開データは2018年のもので、**ウクライナ産 Iris pallida の水蒸気蒸留した根茎精油で、α-イロン2.85%**だった。
この二つの数字は直接比較できない。理由を明記する。
- あの論文が測ったのは水蒸気蒸留した精油であって、商業的に「オリスバター/コンクリート」と呼ばれるものではない。
- 商業オリスバターはそもそもイロン含量で等級分けして売られる。市場には異なる濃度の等級があり、20%は特定の等級を指しているかもしれない。
- 産地、種(pallida か germanica か)、根茎の熟成年数がイロン含量を変える。論文自身がイロン含量を商業品質の基準だと書いている。
だから私の立場はこうなる。**quodo1の計算法は正しく、その20%は供給元に確認すべきであって、私に確認するものではない。**イロン10%等級の製品を買っているなら、1%に希釈した手元にあるのは0.1%のイロンだ。
もう一つ厄介な可能性がある。投稿者が買ったのは「TECに10%」の製品で、そのうえで「これは1%です」と書いている。この文には二通りの読みがある。
- その10%の製品を(オリスバター換算で)1%まで希釈した
- その10%の製品を原料として扱い、1%の評価液を作った → 実際のオリスバターは0.1%
スレッドはこれを明確にしていないし、外から判断する手段もない。**ただしこの二通りは10倍違い、これは予希釈された製品を扱うときに最も間違いやすいところだ。**もし後者なら、評価用ムエットの上のイロンは百万分の数百しかないかもしれない。
「部屋を出ている」——この対照は思うほどきれいではない
投稿者は交絡因子を丁寧に一つ排除している。
「嗅覚疲労ではないと思います。嗅ぐ合間に部屋を出ているので」
そして二人が同じ方向を指した。
「もっと希釈してみてください。嗅覚受容体を圧倒して、即座の嗅覚疲労を起こしているのかもしれません」(Mammoth-Trip-4522)
「イロンとイオノンは鼻をすぐ吹き飛ばします。もっと希釈してみて」(Infernalpain92)
2000年にDaltonが『Chemical Senses』に書いた嗅覚順応の総説が、これを具体的にする。
この話に効くのは三点。
- ある匂いへの反復または長時間の曝露は、その匂いに特異的な感受性の低下をもたらし、さらなる曝露がなければ時間とともに回復する。心理物理学的分析は、順応が閾値を上げると同時に閾上刺激への反応性を下げることを示している。
- 低下の大きさ、そして順応と回復の時間経過は、匂いの濃度と曝露時間に依存する。
- 機構について。**片鼻への刺激は同側と対側の両方の鼻孔に順応を生じる。**同側のほうが深く、回復も遅い。また反復刺激後に末梢の反応低下はわずかなのに、知覚強度が大きく下がるという研究もある。
三点目が肝心だ。**順応は鼻腔の中だけで起きるのではなく、より中枢でも起きる。**部屋を出れば新たな曝露は止まる。それは正しい操作だ。だが中枢レベルの順応を即座に消すわけではないし、回復にかかる時間は嗅いだ濃度と時間による。
公平に書けば、投稿者のやり方は間違ってはいない。出ないよりは出るほうがいい。**思っているより弱いというだけだ。**そして本当の原因が疲労ではなく材料の濃度不足なら、何度部屋を出ても結果は変わらない。この二つの仮説を彼はまだ分けて試していない。
分ける方法は簡単で、返信の一つがすでに出している。**10%のものを作って、1%と並べて嗅ぐ。**10%のほうが30分後にも残っていれば問題は濃度だ。両方消えるなら、そこで初めて疲労か材料自体の話になる。
資料も同じことをしている
「希釈液で作業する」のが初心者だけの話ではないことを示す数字を一つ。
954件の公開処方には材料の項目が17481個あり、そのうち2179項(12.5%)は名前に百分率が入っている。つまり処方の書き手は、ある濃度の希釈液を一つの項目として書き込んでいる。「indole 10%」「aldehyde c-12 10%」のように。
8項目に1項目が希釈液だ。「この瓶は結局何%なのか」が処方で繰り返し間違えられるのはこのためで、二段の希釈のうち一段でも記録が甘ければ10倍ずれる。
今回学んだこと
最初は「なぜオリスバターは固体なのか」を中心に据えるつもりだった。一番調べやすく、答えもきれいだからだ。調べ終えたらその節は三段落で終わり、しかもそれは投稿者が最も必要としていた答えではなかった。本当の困りごとは「嗅げない」ほうで、それこそが材料を疑った理由だった。
そして嗅げない件の答えは、本人がついでに書いた一文の中にあった。「1%が大半の材料を評価する濃度だ」。彼はそれを問題としてではなく、背景情報として書いている。スレッドでその一文に気づいたのはquodo1だけで、その返信はスレッドの下半分に埋もれていた。
これは私のスレッドの読み方に影響がある。質問した人自身が重要でないと思っている一文に、答えがあることが多い。
実際にどうするか
- **評価濃度は三段階に分ける。大半は10%、強いものは1%、核兵器級は0.1%。**データベースの分布(66% / 25% / 5.6%)と一致する。
- **すべてを1%にしない。**資料で最も使われる120本のうち、1%が適切なのは6本だけだ。
- 強度欄を見てから決める。「弱い」と記された材料を1%で嗅ぐのは、嗅がないのと同じになる。
- 予希釈された製品を買ったら、二段の希釈をラベルに書く。「TECに10%、さらに1%に希釈」と「10%製品の1%」は10倍違う。
- **疲労を疑ったら、10倍濃いものを作って並べる。**部屋を出るより、「濃度不足」と「鼻が疲れた」をよく分けられる。
- **ペースト状は傷んだという意味ではない。**融点40–46 °Cのものは室温でそういう見た目になる。ポケットか湯せんで。
この記事が示していないこと
- **推奨評価濃度を持つ材料は1.9%しかない。**66% / 25% / 5.6%はその802件の中の分布であって、全データベースの分布ではない。残りの41423件について、データベースは推奨を出していない。
- **推奨評価濃度の出所と方法をデータベースは説明していない。**誰がどんな根拠で決めたのかは判断できない。
- **イロン20%は確認できていない。**2018年の論文が測ったのは水蒸気蒸留の精油(α-イロン2.85%)であって商業オリスバターとは別の製品なので、二つの数字は互いを否定しない。
- Mykhailenko 2018が測ったのはウクライナ産の Iris pallida、一つの産地の一つの種だ。脂肪酸が86%という事実は「なぜbutterが固体か」の方向を説明するが、すべてのオリスバターの成分表として扱うことはできない。
- Dalton 2000は総説論文で、引用しているのはそこで整理された一般則であって、個別の実験の数値ではない。論文自身、大半の心理物理学的研究が末梢と中枢の過程を分けていないと明記している。
- **私はこのオリスバターを嗅いでいない。**この記事はデータベースと論文と算術であって、官能評価の報告ではない。投稿者の材料が実際どうなのかは、本人しか確認できない。