はじめての調香 · 64
彼が訊いた材料は、四万二千件のデータベースに入っていない——そしてこの状況には四種類ある
· 11 分
r/DIYfragrance に、IFF が SIMPPAR2026 で展示したばかりの新しいホワイトムスクベース Orionide Oliffac についての質問が立った。15 件の返信の中には、この材料はまだどこでも買えないようだ、今のところ一社しか扱っていない、IFF の新しいムスク Luminide がベースになっているらしい、といった書き込みがある。調べたところ、Orionide はデータベースになく、Luminide もない。そこで過去十五回この板から拾った商品名 46 個を一括で照合した。結果は四つに分かれた。名称欄で直接ヒットが 31、綴りが一字違いで見つかったのが 1、供給元のテキストにしか出てこないのが 9、まったく見つからないのが 5。「見つからない」は一つのことではなく四つのことで、しかも対処法が違う。
所要 6 分。
九時間前の投稿。
「究極にクリーンで、ラグジュアリーで、抽象的な香りを作ろうとしている。主にホワイトムスクを使う予定だ。
Orionide™ Oliffac™ について議論を始めたい。IFF が最近 SIMPPAR2026 で展示した captive/スペシャリティベースの一つになる。
知らない人のために。Orionide Oliffac はモダンで高インパクトのムスクベースで、豊かでクリーミーなクリーンムスクの輪郭、トップにパウダリーなニトロムスク感、柔らかいフローラルと控えめで温かいアニマリック/アンバーの下地を持つと説明されている。極めて強力とのことで、オープニングとドライダウンのあいだの見事な橋渡しになるはずだ。
SIMPPAR 以降にサンプルを入手したり処方に使ったりした人はいるだろうか。調合の中でどう振る舞い、どのくらいの使用率がうまくいっているか。」
15 件の返信。要点は二つ。
「**この材料は今のところどこでも買えないようだ。**一般に出回るかもしれないし、出回らないかもしれない。様子を見よう」(Salty-Flounder3840)
「この投稿を見る直前にこの新材料を見たところだった。ScentFriends が今のところ唯一扱っているようだ。」(reallybigshark)
そして推測が一つ。
「分からないが、読んだ限りでは IFF の新しいムスク Luminide がベースになっている」(roldarin)
データベースを調べた。
**Orionide はない。Luminide もない。**四万二千二百二十五件のうち、どちらも存在しない。
それで残りの四十五個も調べた
一つ見つからないだけなら、その材料が特別に新しいだけかもしれない。そこで過去十五回この板から拾った商品名をすべて集め、46 個を一括で照合した。
照合は二層に分けた。
- 第一層:
name、head_synonym、synonyms(材料自身の名前の欄) - 第二層:
solubility、notes、odor_descriptions(これらの欄に供給元の製品名テキストが混ざっている)
結果は四種類になった。
| 結果 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| A 名称欄で直接ヒット | 31 | 67% |
| B 綴りを変えて初めてヒット | 1 | 2% |
| C 供給元テキストにしかない | 9 | 20% |
| D まったく見つからない | 5 | 11% |
商品名の三分の一は、名前をそのまま引いても出てこない。
B:一字違い
一件だけだが、単独で書く価値がある。
tonalide を引いて第一層は空振り。tonalid(末尾の e を落とす)に変えるとヒットした。
#26882
musk tetralinCAS 21145-77-7 供給元 32 社 head_synonym:tonalid (PFW)
**データベースは Tonalid、フォーラムは Tonalide。**一字違いで文字列照合がまるごと失敗する。
(この材料は自分でも原料図鑑に書いているが、あのときは CAS で引いた。名前で引いていたら庫にないと思っただろう。)
C:名前が供給元の製品テキストの中にある
この層は九件あり、いちばん諦めやすい類になる。
| 商品名 | データベースのレコード | CAS | 供給元 |
|---|---|---|---|
| Timbersilk | patchouli ethanone |
54464-57-2 | 79 社 |
| Cetalox | ambroxan |
6790-58-5 | 61 社 |
| Orcanox | ambroxan |
6790-58-5 | 61 社 |
| Norlimbanol | timber propanol |
70788-30-6 | 44 社 |
| Scentolide | isoambrettolide |
28645-51-4 | 43 社 |
| Amber Xtreme | musk indenofuran |
647828-16-8 | 12 社 |
| Tonkarome | tonka specialty |
なし | 4 社 |
| Nirvanolide | 13-methyl-10-oxacyclopentadecen-… |
329925-33-9 | 0 社 |
| Paradisone | (+)-methyl dihydroepijasmonate |
39647-11-5 | 0 社 |
一行目で止まる価値がある。**Timbersilk は patchouli ethanone、CAS 54464-57-2 を指す。それは Iso E Super のレコードになる。**同じ材料に二つの商品名がついている。
Cetalox と Orcanox がどちらも ambroxan を指す件は〈Cetalox と Ambroxan は同じものか〉で追った。
**⚠️ この層は偽陽性を出す。**最初に走らせたとき、tonalide は第二層で musk specialty(58 社、CAS なし)にヒットした。ある供給元の製品テキストにその名前が出てくるからだ。**それは Tonalide のレコードではない。**本当のレコードは musk tetralin で、綴りの変形か CAS でしか辿り着けない。
供給元テキストに名前が出ることは、そのレコードがその材料であることを意味しない。(同じ罠は〈Pretty Oud は沈香ではない〉でも記した。)
D:本当にない
五つ。Orionide、Luminide、Operanide、Ambrexol、Sulfrol。
前の二つはこのスレッドの話題で、どちらも IFF が展示したばかりのもの。Ambrexol は Fraterworks の自社処方。Operanide と Sulfrol は別のスレッドで見かけたが、どちらも見つからない。
この五つには共通点がある。調合ベースか、ごく新しい captive であって、CAS を持つ単体ではない。
(CAS がないものが引けない件は沈香の回でも当たった。agarwood specialty のレコードは供給元 41 社で、CAS がなく、天然での存在の欄は「自然界では見つかっていない」になっている。)
では Orionide について何が分かるか
**データベースからは何も分からない。**CAS も分子式も供給元も物性も規制番号もない。
そして投稿者が訊いているのは「どのくらいの使用率がうまくいっているか」。その問いには使った人が必要で、スレッドには使った人がいない。投稿者自身が「もう手に入れた、来週届く」と書いている。
15 件の返信で唯一実質のあるものは、Orionide の話ではない。
「クリーンなムスクの輪郭ということなら、いちばん確実なのはヒドロキシシトロネラールとその他のミュゲ系の材料だ。cyclosia、l-laurinal、biocyclamol、biomuguet など、それにシトロネロール系をいくつか合わせる。そのうえでクリーンなムスクで味付けする」(Superb_Walk4874)
これは使える助言で、しかもあの引けない材料を迂回している。
それがこのスレッドの本当の教訓になる。材料にデータがないとき、引けるのはその周辺になる。
投稿者はこれを Helvetolide と Habanolide、それに Iso E Super と組み合わせたいと書いている。その三つはすべて引ける。
| 挙げられた名前 | データベースのレコード | CAS | 供給元 |
|---|---|---|---|
| Helvetolide | musk propanoate |
141773-73-1 | 14 社 |
| Habanolide | (E)-12-musk decenone |
111879-80-2 | 14 社 |
| Iso E Super | patchouli ethanone |
54464-57-2 | 79 社 |
そして誰かが Orionide は「Galaxolide の代替品だ」と書いている。Galaxolide も引ける。musk gx 100%、C18H26O、供給元 34 社。その一文が正しいなら、照合の出発点が一つできる。
実際にどうするか
- **見つからないとき、まずどの種類かを分ける。**打ち間違い、綴りの変形、供給元テキストの中、本当にない。四つで対処が違う。
- **商品名ではなく CAS で引く。**いちばん手間が省ける。商品名の的中率は 67%、CAS は(あれば)ほぼ 100% になる。
- **綴りの変形を試す。**tonalide/tonalid、oud/oudh。文字列照合は脆い。
- **供給元テキストのヒットは人手で確認する。**この層は偽陽性を出し、私自身も一度引っかかった。
- **CAS がないものはたいてい調合ベースになる。**データベースの収録漏れではなく、そもそも登録番号がない。
- 材料が引けないときは、その隣を引く。「これは X の代替品だ」の X はたいてい引ける。
- **「何 % で使うか」ではなく「誰が使ったか」を訊く。**このスレッドの 15 件に、使った人の書き込みは一つもない。
この記事が立証していないこと
- 46 個の商品名はこの十五回で拾い集めたものであって無作為抽出ではない。フォーラムで話題になっている材料、つまり新しめで captive 寄りに偏っている。別のリストなら四つの比率はすべて変わる。
- 第二層の九件のうち、人手で確認したのは一部だけ。
tonkarome → tonka specialtyとnirvanolideは独立に検証しておらず、偽陽性かもしれない。 - 「D まったく見つからない」は私の検索で見つからなかったという意味で、データベースが収録していないとは限らない。思いつかなかった名前の下にあるかもしれない。
- 綴りの変形は二つの規則しか試していない(末尾の e を落とす、ide→id)。本格的なあいまい照合ならもっと見つかる。
- Timbersilk が Iso E Super のレコードを指すのは供給元テキストからの推論で、両者が同じ規格かは検証していない。
- **Orionide についての一次情報は一つも持っていない。**上に書いた説明はすべて、あの投稿が転載したメーカーの文章になる。
- 「Galaxolide の代替品」はフォーラムの一人の発言で、投稿者本人は同意していない(「単なる Galaxolide の代替品より複雑だ」)。どちらも検証できない。
- **SIMPPAR2026 は検証していない。**投稿が挙げている展示会の名前になる。