はじめての調香 · 65
BHT を入れるべきか——「どうせ害はないだろう」は調べられる
· 12 分
r/DIYfragrance に、酸化による変色や劣化は気にする価値があるのか、という質問が立った。本人が四つの選択肢を挙げている。希釈液に入れる、熟成の段階で入れる、場合による、あるいは何もせず茶色の瓶に移す。七件の返信は割れた。その中で最も有用な一件は二つの問題を分けている。自分が BHT を入れるのは変質を防ぐためで変色を止めるためではなく、むしろ色が濃くなるのは好きだ、と。別の一件は BHT とビタミン E を併用していて、理由を訊かれて「特に理由はない、どうせ害はないだろうから」と答えた。その一文は調べられる。BHT はデータベースに香調タイプを持っていて、フェノリックとカンファー、残香は 400 時間、そして唯一の GHS 表示は水生生物への強い毒性になる。
所要 6 分。
九日前、よく整理された質問が立った。
「酸化による変色や劣化は、本当に気にするべきことなのか。趣味でやっているだけで、完全に自分用、バッチも小さく(50 mL 瓶)、二、三本を回して使えば一年くらいで使い切る。ただ友人には分けている。
この趣味でいろいろ読んでいると、アルデヒドや柑橘油のような揮発性の材料、それに酸化で変色しやすい材料(バニリン、君のことだ)は追加の手当てが要る、という話が繰り返し出てくる。
いちばんよく出てくるのが BHT(あとは紫外線対策のベンゾフェノン)。BHT などを買うべきだろうか。買うなら、どれか一つ選ぶとして:
A. 関連する材料の希釈液に入れる。 B. 熟成の段階(濃縮液+SD40B)で入れる。 C. 場合による(A および/または B)。もう少し読む。 D. 落ち着いて一杯やって、茶色か不透明の瓶に移す。」
七件の返信は割れた。その中の一件が、他の誰もやっていないことをしている。
「**私は B を選ぶ。ただしそうするのは変質を防ぐためであって、変色を止めるためではない。むしろ色が濃くなるのは好きだ。**一年ほど前に作ったものは、最初ほぼ無色だったが、BHT を入れても結局ピンクがかったオレンジになった。その方が魅力的に見えると思った」(Tolerable-DM)
**彼は二つのことを分けている。変色と変質だ。**この記事の残りの大半は、その区別がなぜ重要かの話になる。
もう一件は使用量が具体的だった。
「正直 100% 確信はないが、そんなに違わないと思う。Hedione には入れたいだろう。あれは割と簡単に悪くなる(悪くなるとチーズのような匂いがする)。ただ私は全部の材料に 0.1% くらい入れている。それとアルコールにあらかじめ 0.1% の BHT と 0.2% のビタミン E を混ぜてある。そのアルコールを希釈液にも香水にも使う」(kdoughboy12)
そこにこう訊いた人がいる。
「BHT とトコフェロールを両方使う特別な理由はあるのですか」(kriebelrui)
「特にない。どうせ害はないだろうから、入れておこうかと。」(kdoughboy12)
その返信は −1 まで下がった。そして**「どうせ害はない」は調べられる。**
BHT はデータベースで香調タイプを持っている
butylated hydroxytoluene、CAS 128-37-0、供給元 52 社。分類欄は「香料とフレーバー用の酸化防止剤・保存料」。
そして香りの欄が空ではない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 香調タイプ | フェノリック |
| 香調 | フェノリック、カンファー |
| 強度 | 低い(ランク 1) |
| 残香 | 400 時間(ジプロピレングリコール 20%) |
| 香りの記述 | 「原液で:穏やかなフェノリック、カンファー」 |
| 融点 | 70〜73 °C(固体) |
| logP | 5.30(推定) |
| 水溶解度 | 0.6 mg/L @ 25 °C(実測) |
| GHS | H410 長期継続的影響により水生生物に非常に強い毒性 |
| 経口毒性 | ラット LD50 890 mg/kg |
| 天然での存在 | ニンニクの鱗茎;中国産ヘンルーダ油 @ 0.05% |
立ち止まる価値のある点が三つある。
一、匂いがある。強度欄は「低い」でランク 1 なので大きな匂いではない。ただゼロではなく、しかも残香が 400 時間、この庫の上限値になる。**去らない。**kdoughboy12 のようにすべての材料とすべてのアルコールに 0.1% 入れるなら、そのフェノリックはベースに蓄積していく。
**二、固体である。**融点 70 から 73 °C の白色結晶。入れるには先に溶かす必要があり、水溶解度は 0.6 mg/L、logP は 5.30 なので、エタノールか油相を使うことになる。
**三、唯一の GHS 表示が環境のものである。**H410、長期継続的影響により水生生物に非常に強い毒性。皮膚も吸入も表示がなく、これだけがある。
**つまり「どうせ害はない」には具体的な代償が三つある。匂い、溶解の一手間、環境表示。**どれも大きくはないが、ゼロでもない。
データベースは二つのうち一方のフラグしか持たない
質問者は変色と劣化を一つの文に入れていて、Tolerable-DM がそれを分けた。データベースは Tolerable-DM の側に立つが、その示し方は間接的になる。
溶解性の欄に隠れたフラグがある。non-discoloring in most media(多くの媒体で変色しない)。
全庫に 249 件このフラグがある。うち供給元 30 社以上は 149 件。全庫で供給元 30 社以上の材料は 817 件なので、フラグが付いているのは 18.2% にとどまる。
**このフラグは肯定的にしか使えない。**フラグがないことは変色することを意味せず、誰も記入しなかったことを意味する。
そしてフラグの付いた顔ぶれに見覚えがある。
| 「変色しない」フラグ付き | 供給元 |
|---|---|
| ゲラニオール | 198 社 |
| リナロール | 135 社 |
| 酢酸ゲラニル | 130 社 |
| ベンジルアルコール | 125 社 |
| シトロネロール | 119 社 |
| 酢酸リナリル | 117 社 |
リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、酢酸リナリル。
この四本は、接触アレルギーの文献で最も有名な自動酸化材料になる。〈開けたその瓶はもう同じ原料ではない〉に書いたとおり、純粋なリナロールは局所リンパ節試験で感作性を示さず、空気に触れた試料は示し、酸化で生じるヒドロペルオキシドが最も強い感作物質になる。
変色せず、そして悪くなる。
このフラグが語っているのは外観であって安定性ではない。
逆方向も同じ
質問者自身がバニリンを名指ししている(「バニリン、君のことだ」)。変色の古典的な例だ。
その溶解性の欄を調べた。変色に関する語は一つもない。
供給元 193 社、外観欄は「白色から灰白色の結晶粉末」、保存欄は標準の一文、保存期間 24 か月。データベースはこの一本が褐色になることを警告できない。
つまりこの欄は両方向とも使えない。フラグがあることは安定を意味せず、ないことは変色を意味しない。
では酸化自体は気にする価値があるか
Hagvall らが 2008 年に Contact Dermatitis で行った実験は直球で、題名がそのまま結論になっている。〈ラベンダー油は自動酸化に対する天然の保護を欠き、空気曝露で強力な接触アレルゲンを形成する〉。
彼らは先に、ラベンダー油の主成分である酢酸リナリル、リナロール、β-カリオフィレンを単独で空気に触れさせたときの感作性の変化を調べていた。この論文が問うたのは、完全な精油の中では、天然に存在する他の成分がそれらを保護するのかということになる。
答えは、しない。
- 空気に触れたラベンダー油中のテルペン類の酸化速度は、純化合物を単独で空気に触れさせた場合と同じ
- 生成した酸化生成物も同じ
- ラベンダー油の感作強度もそれに応じて上昇した(局所リンパ節試験)
- 酸化リナロールにパッチテスト陽性の患者は、空気に触れたラベンダー油にも陽性を示した
一本の天然精油に含まれる他の数十種の成分は、主成分の酸化を止めなかった。
Karlberg と Lepoittevin は 2022 年に同じ雑誌で百年を振り返っている。この現象は新しくなく、20 世紀初頭にテレピン油が塗装工の職業性接触皮膚炎を起こしたのが同じ機構になる(スカンジナビア産テレピン油の主犯は Δ3-カレンヒドロペルオキシド)。彼らの結論は、単テルペンのヒドロペルオキシドが一般集団において接触アレルギーのよくある原因であり、百年にわたる化学的・臨床的研究は証拠要件を満たすに足るはずだ、というものになる。
つまり酸化は本物であり、変色とは別のことになる。
ただしこの二本は彼の問いに答えていない
はっきりさせておく。Hagvall の論文は「酸化防止剤を加えたら良くなるか」を測っていない。
測ったのは、精油が自前で持っているもので自分を守れるか(守れない)だ。「BHT を外から加えて効くのか」は別の実験で、私は見つけられなかった。
だから言えるのは、問題は実在する、そして BHT がそれを解決するかについて私は証拠を持たない、ということになる。フォーラムの七件の返信も持っていない。誰も対照実験をしていない。
四つの選択肢への答え
- A(希釈液に入れる)と B(熟成段階で入れる):データベースでは区別できない。BHT は脂溶性(logP 5.30、水溶解度 0.6 mg/L)なので、どちらの段階でもエタノールには溶ける。一度で済む分 B の方が手間が少ない。
- C(場合による):誠実な答えだが、「場合」が何なのかは誰も言っていない。言えるのは手元の材料がテルペン類かどうかになる。リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、リモネンの一群は、Hagvall の論文が自分では守れないことを示している。
- D(茶色の瓶):直接の証拠がある唯一の項目で、しかも処方に何も足さない。Hagvall が測ったのは空気への曝露であって光ではない。ただ遮光とヘッドスペースの削減は、独立した、費用ゼロの二つの動作になる。
- 本人の結論(「大丈夫そうなので、実験して学ぶために少し使ってみる」)は妥当だ。その 0.1% が匂いと溶解の一手間と環境表示を伴うことを知っていれば。
実際にどうするか
- **怖いのが変色なのか変質なのかを先に分ける。**この二つは材料のリストが違う。
- **「変色しない」フラグを安定性の判断に使わない。**フラグ付き上位六本のうち四本が最も有名な自動酸化テルペンになる。
- **フラグがないことも変色を意味しない。**バニリンにはこの欄の記載が一切ない。
- **BHT は匂いがあり、固体で、環境表示を持つ。**全部の瓶に 0.1% 入れる前に、この三つを知っておく。
- **二種類の酸化防止剤を併用するなら理由を持つ。**フォーラムの本人は理由がないと言っている。
- **茶色の瓶とヘッドスペースの削減は費用ゼロ。**まずそれをやる。
- **テルペン系(リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、リモネン、酢酸リナリル)は別扱いにする。**自分では守れない。
この記事が立証していないこと
- **酸化の実験は一切していない。**全編がデータベースの項目と論文二本による。
- **★ 「酸化防止剤を外から加えて香料材料に効くか」の研究は見つけられなかった。**Hagvall が測ったのは天然の保護の欠如であって、外添の効果ではない。この問いの最大の空白であり、フォーラムもそこを埋めていない。
- **「249 件にフラグ」は文字列照合。**書式が違うものは拾えないので過小評価になる。
- **18.2% は供給元 30 社以上の 817 件の中での比率。**閾値を変えれば比率も変わる。
- このフラグを誰が何を根拠に記入したのか、データベースは説明していない。
- **BHT の強度「低い」はデータベースの判断。**0.1% で実際に感じ取れるかは測っていない。
- 残香 400 時間はジプロピレングリコール 20% での測定で、0.1% の実情とは比較できない。
- **Hagvall 2008 は局所リンパ節試験(マウス)とヒトのパッチテストで、測っているのは感作性であって香りの劣化ではない。**この二つは関連するが同じ終点ではない。
- Karlberg 2022 は総説で、引いたのは証拠の総量についての判断になる。
- **ベンゾフェノン(紫外線対策)は一切調べていない。**質問者は挙げているが、この記事では扱っていない。