原料図鑑 · 45
原料図鑑:酢酸ゲラニル — バラがゲラニオールを着替えさせるとき
· 6 分
CAS 105-87-3。ゲラニオールにアセチル基が付くと、バラ香は洋梨、ラベンダー、青いフローラルへ動きます。2003年の研究は、この反応を担うバラ花弁の酵素 RhAAT1 を同定しました。発現は花組織に限られ、香気放出が最大になる段階でピークに達します。130社、持続24時間。水にはほぼ溶けず、冷蔵密封が基本です。
ゲラニオールの回では、バラの甘い面を扱いました。そのアルコールをバラ花弁の酵素に渡し、アセチル基をひとつ付けます。名前に「酢酸」が加わるだけに見えて、香りは直線的なバラ草から、洋梨、ラベンダー、透明な花果香へ動きます。
先に要点
- 酢酸ゲラニルは「薄いゲラニオール」ではありません。骨格は近くても、揮発性、溶解性、香りが違います。データベースの記録はフローラル、ローズ、ラベンダー、グリーン、ワックス、ハーバル。
- 2003年のバラ研究は RhAAT1 を同定しました。ゲラニオールを酢酸ゲラニルに変え、シトロネロールも基質にします。発現は花組織だけで、香気放出が最大になる開花段階に転写量も最高になりました。
- 水への溶解度は推算 18.24 mg/Lで、ほぼ不溶です。アルコール、固定油、流動パラフィンには溶け、プロピレングリコールにはわずかに溶けます。冷蔵し、密封します。
基本記録
| CAS | 105-87-3 |
| 分子式 | C₁₂H₂₀O₂ |
| 分子量 | 196.29 |
| 香調 | フローラル、ローズ、ラベンダー、グリーン、ワックス、ハーバル、涼感 |
| 香調分類 | floral |
| 強さ | 中 |
| 持続性 | 24時間(原液測定) |
| 外観 | 無色透明の液体 |
| 沸点 | 240–245 °C @ 760 mmHg |
| 引火点 | 104 °C |
| 比重 | 0.900–0.914 @ 25 °C |
| 屈折率 | 1.458–1.464 @ 20 °C |
| 水への溶解度 | 18.24 mg/L @ 25 °C(推算) |
| その他の溶解性 | アルコール、固定油、流動パラフィンに可溶;プロピレングリコールに微溶 |
| 推奨保存 | 24か月以上;冷蔵、密封 |
| 収載名簿 | JECFA、FEMA GRAS、CoE、FLAVIS |
比重が1未満なので水に落とすと浮きます。ただし浮くことは、溶けていないことも示します。18.24 mg/Lは約0.0018%。水系製品では、振る回数ではなく適切な溶剤か可溶化系が必要です。
バラ花弁がアルコールをエステルにするまで
2003年、Shalit らは香りの強いバラ品種 Fragrant Cloud から、主要な揮発性エステルとして酢酸フェネチル、酢酸 cis-3-ヘキセニル、酢酸ゲラニル、酢酸シトロネリルを同定しました。バラの配列データから RhAAT1 を見つけ、大腸菌で発現させ、その酵素が acetyl-CoA を使ってゲラニオールを酢酸ゲラニルに変えることを確認しました。
この酵素はすべてのアルコールを同じようには扱いません。シトロネロールと 1-octanol は基質になりますが、2-フェニルエチルアルコールと cis-3-hexenol は不得手でした。ほかの主要エステルには別の酵素が必要です。花香は一本の生産ラインではなく、同じ花の中で並走する複数のラインです。
RhAAT1 の発現は花組織に限られ、開花段階4で最大になりました。そこは花全体の香気放出も最大になる時期です。酢酸ゲラニルは単に「バラから検出された成分」ではなく、その生成時期まで花の放香と重なっています。
アセチル化の前後を嗅ぐ
官能基を暗記するより、2本のムエットを並べる方が早いです。
| 原料 | データベース記録の中心 | 持続記録 |
|---|---|---|
| ゲラニオール | ローズ、シトラス、ハーバル。より直接的 | 36時間 |
| 酢酸ゲラニル | ローズ、ラベンダー、グリーン、ワックス。果実の気配 | 24時間 |
エステル化はバラを消しません。角を丸め、果実と葉の間にあるような光沢を足します。これはこの2分子での観察であり、「エステルなら必ずこの香りになる」という法則ではありません。
嗅ぎ方と使い方
- まずアルコール10%希釈。原液も極端に強くはありませんが、薄めると洋梨様の果実、ラベンダー、青い縁を分けやすくなります。
- ゲラニオール10%と酢酸ゲラニル10%を一枚ずつ。0、2、8、24時間で嗅ぎ、共通骨格が残す部分と酢酸化で変わる部分を記録します。
- 花香ではゲラニオール、シトロネロール、酢酸リナリルの間をつなげます。果香では洋梨やリンゴ系エステルをキャンディーから花弁へ引き戻せます。
- 24時間は原液ムエットの記録です。完成香水が必ず一日続くという意味ではありません。
保存と購入
データベースの推奨は冷蔵密封、保存期間24か月以上。凍結させる必要はありません。使用後は瓶口を拭き、すぐ閉めます。冷えた瓶を湿った空気中で開けると結露しやすいため、密封したまま室温に近づけてから開ける方が安定します。
130社が扱うため、入手性は十分です。比較するのは純度、天然/合成、規格に異性体や共存エステルが記載されているか。構造と香りを学ぶなら標準的な合成品が分かりやすく、特定の天然油の質感を再現するときだけ天然グレードを比較すれば足ります。
法規
JECFA、FEMA GRAS、CoE、FLAVISに収載。収載は皮膚使用上限ではなく、完成品の安全評価にも代わりません。皮膚用は現行IFRAスタンダード、供給業者のSDSと規格書を確認します。
→ データベースの酢酸ゲラニル:全物性、130社、推奨の組み合わせ。 → ゲラニオール|酢酸リナリル|香調で検索:「ローズ ラベンダー グリーン」。
参考文献
M. Shalit ほか, Volatile ester formation in roses. Identification of an acetyl-coenzyme A. Geraniol/Citronellol acetyltransferase in developing rose petals, Plant Physiology, 131(4), 1868–1876 (2003). PMID 12692346. doi:10.1104/pp.102.018572