はじめての調香 · 62
「1:1.5 in 50% alcohol」はどう読むのか——あの欄には曲線が一本入っている
· 11 分
r/DIYfragrance に、データシートのベンジルアルコールの溶解性欄が「ethyl alcohol, 1:1.5 in 50% alcohol」となっているが、これはどう読むのか、そしてなぜ普段のように alcohol ではなく ethyl alcohol と書いてあるのか、という質問が立った。返信は二件で、一件は「あのサイトは時々変だ」、もう一件は正解だった。答えは、材料 1 に対して 50% のエタノール水溶液 1.5 でよい、になる。ただし彼が訊かなかった隣の一本の方が有用で、酢酸ベンジルの同じ欄には五つの数字が並び、30% アルコールの 1:200 から 60% の 1:5 まで続く。その五点を共溶媒の対数線形モデルに入れると R² は 0.9968 になった。
所要 6 分。
九時間前の質問。
「the good scents company でベンジルアルコールと酢酸ベンジルを見ていたら、『soluble in』の欄が 『ethyl alcohol, 1:1.5 in 50% alcohol』 となっていた。ethyl alcohol がエタノールの別名なのは分かる(手元にある)。ただ 『1:1.5 in 50% alcohol』をどう読めばいいのか、評価用に希釈しようとするときに。それと、なぜそこだけ普段のように alcohol ではなく ethyl alcohol と書いてあるのか。」
返信は二件。
「TGSC は時々変になる。私なら普通にエタノールで希釈する」(berael)
「50% の水/エタノール溶液を作れば、1 に対してその溶液 1.5 で溶ける」(actual_ask164)
二件目が正解になる。そして質問者が訊いた二つのことには、データベースがもっと完全な答えを出せる。
一つ目:あの記法
**材料 1 に対して「50% アルコール」1.5 で溶ける。**そして「50% アルコール」はエタノールと水が半々の混合液であって、純エタノールではない。
薬局方系の書き方で、体積比になる。
**なぜ誰もすぐに答えられなかったのか。**この記法はデータベースの中でも珍しい。溶解性欄を持つ 23,941 件を走査したところ、1:x in y% alcohol の形を使っているのは 11 件だけだった。
この欄には少なくとも五つの記法があり、よく使われるのは別のものになる。
| 記法 | 材料数 |
|---|---|
数値 mg/L(例:4.29E+04 mg/L @ 25 °C) |
21,041 |
百分率(例:alcohol, 12%) |
10,503 |
y% alcohol に言及 |
36 |
x vol. of y% alcohol |
18 |
1:x in y% alcohol |
11 |
四万二千件のうちの十一件を引き当てたことになる。
二つ目:なぜ ethyl alcohol なのか
こちらには数字がある。溶解性欄を全庫で走査すると:
| 用語 | 材料数 |
|---|---|
alcohol |
11,424 |
ethanol |
2,941 |
ethyl alcohol |
1,453 |
三つの書き方が併存していて、規則はない。
さらに厄介なのは同じ欄の中の二重の意味になる。ベンジルアルコールの溶解性欄の冒頭はこうなっている。
ethyl alcohol, 1:1.5 in 50% alcohol; ethyl alcohol, 1:8-9 in 30% alcohol; most organic solvents; water, 1:25 in water
**同じ一文の中に alcohol が二度出てきて、指すものが違う。**一度目は溶媒の名前、二度目は「50% のアルコール水溶液」になる。
質問者が混乱したのは欄の問題であって、彼の問題ではない。
(この欄の他の癖はデータシートの読み方の回で一部書いたが、あちらは記法を扱っていない。)
訊かなかった方が有用になる
同じ質問の中で彼は酢酸ベンジルにも触れている。そのレコードの溶解性欄はこうなっている。
water-alcohol mixtures: 30% 1:200, 35% 1:120 40% 1:70 50% 1:20 60% 1:5
これは一つの数字ではなく、一本の曲線になる。
| アルコール濃度 | 必要な溶媒の量 |
|---|---|
| 30% | 200 |
| 35% | 120 |
| 40% | 70 |
| 50% | 20 |
| 60% | 5 |
30% から 60% へで、必要な溶媒が 200 から 5 に落ちる。四十倍になる。
しかもその差は 30 ポイントしかない。
五つの点はよく整列している
共溶媒の標準的なモデルは対数線形で、溶解度の対数が共溶媒の体積分率に対して直線になる。
上の五点を入れる(S = 1 ÷ 必要な量)。
log₁₀(S) = −3.950 + 5.361 × f
R² = 0.9968。
| アルコール濃度 | データシート | モデル |
|---|---|---|
| 30% | 1:200 | 1:220 |
| 35% | 1:120 | 1:119 |
| 40% | 1:70 | 1:64 |
| 50% | 1:20 | 1:19 |
| 60% | 1:5 | 1:5.4 |
この傾きには名前がある。**可溶化力(σ)で、ここでは 5.36。**覚えやすい形に直すと、アルコールが 10 ポイント増えるごとに溶解度が 3.44 倍になる。
そして傾きは logP から推測できる
Millard、Alvarez-Núñez、Yalkowsky が 2002 年に Int J Pharm でやったのがまさにこれになる。多数の有機化合物について、各共溶媒(プロピレングリコール、エタノール、PEG 400、グリセリン)の可溶化力 σ を、「log 溶解度対共溶媒の体積分率」の直線の傾きから決定した。
そして見つけたのは、σ と溶質の疎水性(log Kow)のあいだに、ほぼ線形の関係があることだった。論文の最後の一文は直接的だ。
「したがって、化合物の分配係数を知るか計算するだけで、可溶化を予測できる。」
ちょうど比べられる材料が二本ある。
| 分子式 | logP | 傾き σ | 10 ポイントあたり | |
|---|---|---|---|---|
| ベンジルアルコール | C7H8O | 1.10 | 3.77 | ×2.38 |
| 酢酸ベンジル | C9H10O2 | 2.00 | 5.36 | ×3.44 |
**logP が高い方が傾きも大きい。**論文と向きが一致する。
(ベンジルアルコールはデータ点が二つしかない。50% の 1:1.5 と 30% の 1:8–9 で、この 3.77 は二点を結んだ線であって回帰ではない。二点に R² はない。)
つまり、**表を引かなくても向きは推測できる。**手元の材料の logP が高いほどアルコール濃度に敏感で、logP が低いものは 190 proof でも 200 proof でも大差ない。
立てておくべき限界
R² = 0.9968 は綺麗すぎるので、なぜ綺麗なのかを書いておく。
五つの点は 30% から 60% のあいだ、つまり中間域にある。Machatha と Yalkowsky は 2006 年に J Pharm Sci で双線形モデルを提示していて、その理由がまさに対数線形モデルが両端でずれることになる。彼らのモデルは二つのパラメータ(σA と σB)で溶解度曲線の最初と最後の傾きを別々に記述し、双線形の方が対数線形よりも一般的な放物線モデルよりも精度が高いと報告している。
だから上の直線は 30〜60% では信用できるが、95% や純エタノールへの外挿は信用できない。
そして多くの人が希釈液に使うのは、ちょうど 95% 以上になる。
実際にどうするか
- **
1:x in y% alcoholを見たら「材料 1 に対して y% アルコール水溶液 x」と読む。**y% は体積比のエタノール水溶液であって純エタノールではない。 - **
alcoholという語は同じ欄の中で二つの意味を持ちうる。**後ろに百分率が付いているかを見る。 water-alcohol mixtures:で始まるものは曲線一本なので、一点だけ読まない。- **logP が高い材料はアルコール濃度に敏感で、低い材料は鈍い。**proof を上げる価値があるかの判断材料になる。(190 proof 対 200 proof では別の角度から計算した。)
- **30〜60% の数字を 95% に外挿しない。**対数線形は両端でずれる。
- **この欄には五つの記法があり、しかも 57% の材料にはこの欄自体がない。**見つからないことは溶けないことを意味しない。
この記事が立証していないこと
- **溶解度の実験は一切していない。**全編がデータベースの項目と論文二本による。
- **五つのデータ点の出所は調べていない。**誰が、何度で、どの方法で測ったかをデータベースは書いていない。R² 0.9968 は、元のデータ自体がモデルで内挿されたものである可能性を反映しているかもしれず、五回の独立した測定であるとは限らない。この記事で最大の不確かさになる。
- **「1 に対して 1.5」が体積比か重量比かは欄に書かれていない。**薬局方の慣例に従って体積比と解釈した。
- **ベンジルアルコールの σ は二点を結んだ線。**二点なら R² は必ず 1 になるので、算出していない。
- **σ 対 logP の傾きは計算していない。**二本では Millard の関係を当てはめられず、向きを確認しただけになる。
- **logP は推定値。**ベンジルアルコール 1.10、酢酸ベンジル 2.00 で、どちらも(est)が付いている。
- **11 件、36 件といった記法の統計は正規表現による照合。**書式が少し違うものは拾えないので、いずれも過小評価になる。
alcoholの 11,424 件にはethyl alcoholの 1,453 件が含まれる(前者が後者の部分文字列であるため)。三つの数字は排他的ではない。- Millard 2002 も Machatha 2006 も扱っているのは薬物であって香料材料ではない。引いたのはモデルとその形であって、香料についての結論ではない。