原料図鑑 · 104
原料図鑑:沈香油 —— 傷の反応であり、模造品の供給元が本物の二倍いる
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CAS 94350-09-1、供給元 26 社。データベースの備考は率直で、この油は真菌に感染した沈香樹の木材から水蒸留されたものだと書いている。2026 年の論文二本が規模を与えてくれる。一方は沈香精油から 83 種の揮発性成分を同定しセスキテルペンが 66.27% を占め、もう一方は 118 種の沈香特徴的なセスキテルペン骨格と 2-(2-フェニルエチル)クロモンを同定している。香調欄には十語あり、サンダルウッド、レザー、タバコを含む。同じ庫の調合ベース(41 社)と替代品(16 社)にはこの三語がない。香りの記述欄にはこんな一文も収められている。天然のウードはほとんどすべて産地で混ぜ物をされている。
**要点:**このレコードのデータページは多くの材料より短く、項目が大きく空いている。その空白自体が情報になる。天然の複合物であり、しかも感染によって形成されるので、分子量も logP も存在しない。
項目
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| CAS | 94350-09-1 |
| 同義語先頭 | 沈香樹(Aquilaria agallocha、ジンチョウゲ科)全株から得られる揮発油 |
| データベース分類 | フレグランス成分 |
| 天然/合成 | 天然 |
| 天然での存在 | 沈香樹の木材 |
| 外観 | オレンジから緑褐色の粘稠な液体(推定) |
| 引火点 | 61.00 °C |
| 溶解性 | アルコール;水 |
| 香調タイプ | ウッディ |
| 香調 | 甘い、沈香、ウッディ、バルサミック、サンダルウッド、レザー、フルーティ、スモーキー、アニマリック、タバコ |
| 供給元 | 26 社 |
| 化粧品用途 | 皮膚コンディショニング;皮膚保護剤 |
| 経口毒性 | 未測定 |
| 備考 | この油は真菌に感染した沈香樹(Aquilaria Agallocha)の木材から水蒸留されたもので、樹はインド北東部に生育する |
存在しない項目:分子量、分子式、logP、蒸気圧、融点、沸点、比重、屈折率、残香、強度、保存期間、規制番号。
データベースの手抜きではない。天然の複合物なので単一の分子量が存在せず、他の物性欄の多くは単一分子から計算または推定されるものになる。
(比べると、同じ庫のタイム油には比重と屈折率がある。油全体について測れるからだ。沈香油はそれすらない。あまりに希少でロットの差が大きく、共通の規格が確立されていないことを反映している。)
これは傷の反応になる
備考欄の一文が要点だ。真菌に感染した木材。
健康な沈香樹の心材は淡色で軽く、ほとんど匂いがない。感染すると樹は樹脂を分泌し、その暗色で重く芳香のある部分が沈香になる。
Zhou らは 2026 年に World J Microbiol Biotechnol で、沈香から分離した三株の内生真菌(Fusarium sp.、Phaeoacremonium sp.、Penicillium sp.)を接種し、形成様式の異なる沈香精油を比較した。GC-MS で 83 種の揮発性代謝物が同定され、セスキテルペンが 66.27%、残りは主にクロモン類。真菌の接種はセスキテルペンとクロモンを有意に増やした(p < 0.05)。
相対的匂い活性値で見た主要な寄与成分は α-エレモール、(+)-ヌートカトン、ベンズアルデヒド、ベンジルアセトン、3-フェニルプロピオン酸エチルで、ウッディ=フローラル=フルーティ=スパイシーの輪郭を作る。
Ma らは 2026 年に Frontiers in Plant Science で時系列を追った。高効率の誘導菌株を接種し、7、14、21、28 日目に採取してメタボロミクスと GC-MS で解析した。14,784 の代謝物を同定し、そのうち **118 種が沈香特徴的なセスキテルペン骨格と 2-(2-フェニルエチル)クロモン(PECs)**だった。
**118 の骨格。**調合された替代品が「劣った同じもの」ではなく「別のもの」になる理由がこの数字になる。
そして Ma の論文の冒頭には買い手により関わる一文がある。天然の沈香形成は遅く、人工誘導された沈香の品質は依然として不安定である。
三件の香調欄
同じ庫に沈香方向のレコードが三件あり、合計するとこの一本より供給元が多い。
| 供給元 | CAS | 香調欄 | |
|---|---|---|---|
| 沈香油(この一本) | 26 | あり | 甘い、沈香、ウッディ、バルサミック、サンダルウッド、レザー、フルーティ、スモーキー、アニマリック、タバコ |
| agarwood specialty | 41 | なし | 沈香、ウッディ、ベチバー、バルサミック、アニマリック、アーシー、アンバー、スパイシー、スモーキー |
| agarwood oil replacer | 16 | なし | ウッディ、ベチバー、甘い、バルサミック、アニマリック、アーシー、アンバー、スモーキー |
サンダルウッド、レザー、タバコはこの一本にしかない。ベチバーは他の二件にしかない。
そして替代品のレコードの香調欄には**「沈香」という語がまったくない**。
(その二件の天然での存在の欄は、specialty が「自然界では見つかっていない」、replacer が「天然でありうる」。フォーラムでベースを沈香として評価している人がいた件は〈Pretty Oud は改名すべきか〉に書いた。)
「天然のウードはほとんどすべて混ぜ物をされている」
香りの記述欄にこういう評が収められている。
「ウード、フレッシュウッディ、バルサミック、アニマリック=牛舎的。これは本物で、美しく複雑で、驚くほど持続する。ほぼ確実に産地の段階で混ぜ物をされている。天然のウードはほとんどすべてそうだからだ。」
私が書いた文ではなく、データベースが収録したものになる。比率も出典も示されていない。
私が足せるのは文脈だ。これは全庫でも規格欄を持たない数少ない材料の一つで(純度なし、比重なし、屈折率なし)、規格こそが混ぜ物を捕まえるためのものになる。規格がなければ書類で検品する手段がない。
(天然原料の成分の振れ幅は〈天然原料はどれだけ振れるのか〉で計算した。分子×植物の 806 通りで中央値が 7.1 倍、四割以上が十倍を超える。あの統計は含量の百分率に依存していて、沈香油はその百分率すら持っていない。)
別の植物
四件目は agarwood oil (aetoxylon sympetalum)、CAS 1333524-00-7、供給元 2 社。
**Aetoxylon sympetalum は Aquilaria ではない。**産地では gaharu buaya と呼ばれ、市場では White Oud と表示されることがある。
香調欄は、沈香、アロマティック、ウッディ、うま味、モッシー、アーシー、マッシュルーム、スモーキー、アニマリック。
うま味とマッシュルームの二語は、この一本(本物の沈香油)の香調欄にはない。
独自の CAS があるので書類の上では区別がつく。
買い方
- **CAS を照合する。**94350-09-1 が Aquilaria agallocha の油、1333524-00-7 は別の植物、CAS がないものは調合品になる。
- **照合できる規格欄がないので、売り手と GC/MS に頼ることになる。**この一本には純度も比重も屈折率もない。
- **残香欄も強度欄もない。**使用量は自分で試すしかなく、データベースは推奨評価濃度を出せない。
- **原液の評価は処方での挙動と同じではない。**この一本の香りの記述欄は 100% での注記になっている。
- 人工誘導の品質は不安定というのは論文自身の記述であって、売り文句ではない。
この記事が立証していないこと
- **私はこれを嗅いでいない。**全編がデータベースの項目と論文二本による。
- 「規格欄がない」はこのレコードの状態であって、すべての供給元が規格を出さないという意味ではない。天然油を売る多くは自社の COA を出す。
- 「天然のウードはほとんどすべて混ぜ物をされている」はデータベースが収録した評で、比率も出典もなく、検証していない。
- Zhou 2026 と Ma 2026 が扱ったのはどちらも人工誘導の沈香で、しかも Aquilaria sinensis と一年生の沈香を使っている。この一本の由来は Aquilaria agallocha、インド北東部で、同じ組成分布を持つかには答えていない。
- 83 種の揮発性成分と 118 の骨格は別々の論文の別々の方法による数字で、足すことも互いに検証することもできない。
- **香調欄の三件の対照は条件を揃えた比較ではない。**評価者も年代も違う。
- 供給元の 26 対 41 対 16 はこの庫が収録した件数で、同じ会社が複数を扱っている可能性があり重複除去はしていない。
- コーパスの統計は取っていない。