原料図鑑 · 103
原料図鑑:安息香酸ベンジル —— データベースが香料とキャリア溶媒の両方に分類している一本
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CAS 120-51-4、供給元 84 社。データベースの分類欄は「フレーバー・フレグランス成分、キャリア溶媒」で、二つの肩書きを同時に持つ数少ない材料になる。強度欄は「低い」でランク 1(この庫の最下段)、それでいて残香は 322 時間。融点 18〜21 °C、つまり冬の室内では固まる。溶解性欄にはこの庫では珍しい実測値が入っていて、1 kg がムスクアンブレットを 450 g、ムスクキシロールを 280 g、ムスクケトンを 205 g 溶かす。そしてカブレウバ油の中では 57 から 61% を占める。
**要点:**私が書いてきた材料の中で、分類欄に「キャリア溶媒」と書かれている数少ない一本になる。しかも自分の匂いを持っている。買う前に知るべきなのは融点と比重だ。
項目
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| CAS | 120-51-4 |
| 同義語先頭 | 安息香酸フェニルメチル |
| 分子式 | C14H12O2、分子量 212.248 |
| データベース分類 | フレーバー・フレグランス成分、キャリア溶媒 |
| 外観 | 無色から淡黄色の澄明な油状の液体から固体(推定) |
| 純度 | 99.00 〜 100.00 |
| 融点 | 18〜21 °C |
| 沸点 | 323〜324 °C @ 760 mmHg |
| 引火点 | 158.00 °C |
| logP | 4.00(推定) |
| 蒸気圧 | 0.000250 mmHg @ 25 °C |
| 蒸気密度 | 7.3(空気 = 1) |
| 比重 | 1.113〜1.121 @ 25 °C |
| 屈折率 | 1.566〜1.571 @ 20 °C |
| 香調タイプ | バルサミック |
| 香調 | 甘い、バルサミック、オイリー、ハーバル、フローラル、フルーティ |
| 強度 | 低い(ランク 1) |
| 残香 | 322 時間(100% 原液) |
| 保存期間 | 24 か月 |
| 天然での存在 | カブレウバ油 57.28〜60.66%;中国産カナンガ油 20.45%;カーネーションアブソリュート 14.60%;ペルーバルサムとトルーバルサム |
| 供給元 | 84 社 |
| 規制 | JECFA 24、FEMA 2138、CoE 262、FLAVIS 09.727 |
| 化粧品用途 | 抗菌剤;賦香剤;溶媒 |
| 経口毒性 | ラット LD50 1700〜2800 mg/kg;マウス 1400〜1568 |
| 皮膚毒性 | ウサギ LD50 4000 mg/kg |
| GHS | H302 飲み込むと有害;H411 長期継続的影響により水生生物に有毒 |
| 備考 | **アルコール類とアルデヒド類と相性が良い。高級アルコールとアルデヒドの安定剤。**ペルーバルサムとトルーバルサムに含まれる |
二つの肩書き
分類欄は flavor and fragrance agents, carrier solvents になっている。
百数十本の材料を書いてきて、多くは分類が一つになる。香料とキャリア溶媒を同時に持つものは少なく、その中で供給元が最も多いのがこの一本(84 社)だ。
化粧品用途の欄がもう一度確認してくれる。抗菌剤;賦香剤;溶媒。
この二重の肩書きには実務上の帰結がある。**溶媒として使うとき、同時に匂いのあるものを加えていることになる。**強度欄は「低い」でランク 1 なので匂いは小さいが、ゼロではない。
(私が書いた三本のキャリア溶媒のうち、ジプロピレングリコールとミリスチン酸イソプロピルは香りの強さの欄が「なし」で、この一本だけが「低い」になる。)
融点 18〜21 °C
買う前にいちばん知っておくべき数字になる。
**暖房のない部屋、冬の洗面所の棚、車のダッシュボードの下は、21 °C を下回りうる。**瓶の中で固体か半固体になる。
外観欄も自分でそう書いている。「無色から淡黄色の澄明な油状の液体から固体」。
ノズルの詰まりの回で四本の共溶媒を三つの軸で比べた。この材料は logP 4.00 で多くの香料に最も近く(TEC の 0.10、DPG の −0.60 よりずっと良い)、蒸気圧 0.000250 mmHg も十分に低い。唯一負けているのがこの融点になる。
比重 1.113〜1.121
水より重い。
多くの香料材料の比重は 0.85 から 1.05 のあいだで、1.1 を超えるものは多くない。実務上の意味は二つ。同じ体積でも予想より重いことと、水を含む系では沈むことになる。
(処方に滴数ではなく重量百分率を使うべき理由の一つがここにある。〈処方に滴数を使ってはいけない理由〉に書いた。)
溶解性欄に実測値が入っている
この欄は多くの材料で溶媒の名前しか並ばない。この一本は三つの数字を出している。
musk ambrette, 1kg dissolves 450 g. musk ambrette; musk ketone, 1kg dissolves 205 g.; musk zylol, 1kg dissolves 280 g.
安息香酸ベンジル 1 kg が溶かせる量:
- ムスクアンブレット 450 g
- ムスクキシロール 280 g
- ムスクケトン 205 g
同じ欄にもう一つ直接的な一文がある。solvent for the nitro musks(ニトロムスクの溶媒)。
ニトロムスクは固体で(ムスクケトンの融点は 135 °C)、処方に入れるには先に溶かす必要がある。この欄は 1 kg が何グラム受け入れられるかを教えてくれる。そのまま処方計算に使える数字は、この庫では珍しい。
(実測の溶解度の数字がこの欄でなぜ珍しいのかは溶解性欄の読み方の回で測った。)
天然での存在の 57%
cabreuva oil @ 57.28-60.66%。
カブレウバ(Myrocarpus 属)の油では半分以上を占める。ほかに高いのは中国産カナンガ油 20.45%、カーネーションアブソリュート 14.60%。
備考欄はペルーバルサムとトルーバルサムに含まれるとも書いている。この二つは接触アレルギーの研究の常連で、ペルーバルサムはヨーロッパのパッチテストで陽性率が最上位に来る。その数字は〈合成のものは頭が痛くなるから天然だけ使う〉に書いた。
**これは天然物であり、陽性率の高い天然バルサムの中でかなりの割合を占める。**この二つは矛盾しないが、並べて見る価値がある。
毒性は他のキャリア溶媒より一段高い
| キャリア溶媒 | ラット経口 LD50 |
|---|---|
| ミリスチン酸イソプロピル | > 16,000 mg/kg |
| ジプロピレングリコール | 14,850 |
| クエン酸トリエチル | 5,900 |
| 安息香酸ベンジル | 1,700〜2,800 |
GHS にも H302 飲み込むと有害と H411 水生生物に有毒があり、他の三本にはない。
使うのが危険という意味ではなく、他の三本と同じ枠ではないという意味になる。(備考欄はカーペットのダニ駆除剤に使われることにも触れていて、それはまた別の用途になる。)
この記事が立証していないこと
- **私はこれを嗅いでいない。**全編がデータベースの項目と論文一本による。
- 「二つの分類を同時に持つ少数派」は私が書いた百数十本の中での比較であって、全庫の走査ではない。前回「唯一」という言い方で足をすくわれたので、今回は範囲を先に書いておく。
- **三つのムスクの溶解量に温度が書かれていない。**1 kg が 450 g を溶かすのが何度でのことか、この欄は述べていない。
- 融点 18〜21 °C の実務上の影響は実測していない。「冬に固まる」は数字からの推論になる。
- カブレウバ油の 57〜61% は文献の報告値の範囲で、同一ロットの再測定ではない。この欄の信頼度は天然の振れ幅の回で測った。
- **ペルーバルサムの陽性率とこの材料の関係は調べていない。**あのバルサムの成分の一つであることしか分からず、感作の原因成分かどうかは知らない。
- 毒性の数字は年代が古く(1948〜1973 年)、動物の急性毒性になる。
- Millard 2002 から引いたのは共溶媒の可溶化力のモデルで、あの論文はこの材料を測っていない。
- **コーパスの統計は取り直していない。**954 件中 43 件(4.5%)、使用量の中央値 10.5% は溶媒の回で計算したもので、あれは香料濃縮液の処方になる。