原料図鑑 · 20
原料図鑑:酢酸イソアミル(isoamyl acetate)— バナナと、バナナ油と、いちばん安上がりなエステル化学の授業
· 8 分
CAS 123-92-2、バナナの匂いの本体。塗料用シンナーが「バナナ油」と呼ばれるのはこの分子にちなみます。1962年のNature論文はこれをミツバチの毒針警報フェロモンの活性成分のひとつと同定し、2003年の醸造酵母研究は小麦ビールのバナナ香が酵母のエステル合成酵素から来ることを証明しました。高強度、1%以下での評価推奨、持続4時間未満、引火点25 °C。93社、フルーティ入門の最初のエステルです。
除光液の瓶を開けて、それから熟したバナナをむいてください。2つのあいだにあるかすかな共通項が、本稿の主役です。塗料用の溶剤が「バナナ油」と呼ばれるのはこの分子にちなんだもので、当社データベースの香気語にも「バナナ」と「溶剤」が並んで載っています。
先に要点
- 酢酸イソアミルはバナナの匂いの本体で、エステル化学のいちばん安上がりな授業でもあります:アルコールに酸を足して水を引くと、エステルになる。フルーティのアルファベットはここから覚えます。
- 強度は高く、データベースの推奨は1%以下での評価。本シリーズで1%まで下げた初めての原料です。持続は4時間未満、純粋なトップノート。
- ミツバチの毒針警報フェロモンの活性成分のひとつでもあり(1962年に同定)、小麦ビールのバナナ香も酵母が醸すこの分子です。ひとつの原料に、3つの世界。
基本記録
| CAS | 123-92-2 |
| 分子式 | C₇H₁₄O₂ |
| 分子量 | 130.18 |
| 香調 | 甘い、フルーティ、バナナ、溶剤、熟した果実、エステル様 |
| 香調分類 | fruity |
| 強さ | 高(1%以下での評価を推奨) |
| 持続性 | 4時間未満(原液、ムエット上) |
| 比重 | 0.860–0.878(25 °C) |
| 引火点 | 25 °C |
| 推奨保存 | 24か月以上(冷暗所、密封) |
| 収載名簿 | GRAS、JECFA、CoE、FEMA GRAS、IFRA |
この表にはシリーズ初の数字が2つあります。評価推奨が1%まで下がること(それだけ強い)、引火点が25 °Cしかないこと(それだけ燃えやすい。室温で届く温度なので、火気から離し、夏の車内には置かないこと)。持続欄の「未満」も珍しく、出典データは4時間さえ持たないと明記しています。
いちばん安上がりなエステル化学の授業
エステルはフルーティの世界の骨格で、その生成式は付箋に書けるほど簡単です:アルコール+酸→エステル+水。酢酸イソアミルはイソアミルアルコール(カタログの#1903)と酢酸の産物です。
面白いのは組み合わせの側です。同じアルコールで酸だけ替えると果物が替わり、同じ酢酸でアルコールだけ替えるとまた別の果物の棚になる。当社カタログには isoamyl で始まる供給品目が一列並んでいます(下の一族表)。2、3本買って並べて嗅げば、「同じ接頭辞、違う果物」はどんな教科書より速く身につきます。
香水以外の二つの履歴
酢酸イソアミルはミツバチ刺針警報の活性成分の一つであり、小麦ビールのバナナ香を作る酵母産物でもあります。生物学的文脈は「植物、酵母、ミツバチは同じ香気分子を何に使うのか」へ移し、本稿はエステル化学と四時間未満のトップノートへ戻ります。
嗅ぐときは
- 1%以下での評価はデータベースの明記。私は0.5%と2%を作って比べます。低いほうは熟したバナナ、高いほうから溶剤感が出はじめる。「バナナ」と「バナナ油」を隔てるのは用量ひとつです。
- 持続4時間未満、生きるのは開幕だけ。果物を長持ちさせたいなら、バトンはγ-デカラクトンたちラクトンへ。
- フルーティの初手セット:これが「熟」を、青葉アルコールが「青」を、ラクトンが「果肉」を受け持つ。3本で呼吸する果物が組めます。
- 引火点25 °C。作業中は熱源から離し、静電気の溜まる容器への小分けは避けること。
カタログ上の一族
| 品目 | 何であるか |
|---|---|
| isoamyl acetate(93社) | 本体:バナナ |
| isoamyl butyrate(87社) | 酪酸に替えると、洋梨と熟果へ |
| isoamyl alcohol(72社) | 母体のアルコール。フーゼル油の、発酵の気配 |
| isoamyl isovalerate(67社) | イソ吉草酸版。リンゴと干し草 |
| isoamyl propionate(54社) | プロピオン酸版。アプリコットとパイナップル方向 |
| isoamyl salicylate(49社) | サリチル酸版。果物から最も遠く、フローラルグリーンに |
ひとつのアルコールの6つの人生。最後のサリチル酸エステルが教えてくれます:十分大きな酸に替えれば、「果物」という身分ごと替わってしまう。
法規
GRAS、JECFA、CoE、FEMA GRAS、IFRAに収載。これらの名簿は使用上限を示しません。エステル類は法規的に単純な部類です。肌用処方は現行IFRAスタンダードと供給業者規格書を。
買うときは
- 小瓶ひとつで十分。用量は0コンマ数%の世界なので、10 mLが長く持ちます。
- ついでに isoamyl butyrate か ethyl butyrate を1本足して、「酸を替えると果物が替わる」を一度並べて嗅ぐこと。
- 届いたらまず引火点表示を確認し、熱源から離して保管。本シリーズで最も燃えやすい原料です。
→ データベースの酢酸イソアミル:全物性、供給業者一覧、推奨の組み合わせ。 → isoamyl butyrate|ethyl butyrate|香調で検索:「バナナ フルーティ」で隣人を探せます。
参考文献
R. Boch, D. A. Shearer & B. C. Stone, Identification of isoamyl acetate as an active component in the sting pheromone of the honey bee, Nature, 195, 1018–1020 (1962). PMID 13870346
K. J. Verstrepen, S. D. M. Van Laere, B. M. P. Vanderhaegen, G. Derdelinckx, J.-P. Dufour, I. S. Pretorius, J. Winderickx, J. M. Thevelein & F. R. Delvaux, Expression levels of the yeast alcohol acetyltransferase genes ATF1, Lg-ATF1, and ATF2 control the formation of a broad range of volatile esters, Applied and Environmental Microbiology, 69(9), 5228–5237 (2003). PMID 12957907