原料図鑑 · 21
原料図鑑:β-ダマセノン — バラの中の微量の大物と、「閾値最低」の神話
· 8 分
CAS 23696-85-7、ローズケトン一族の看板。文献はこれを、あらゆる匂い物質の中で最も低いオルソネーザル・レトロネーザル検出閾値のひとつを持つとし、同時に多くの製品での感覚的寄与はなお不明瞭だと率直に認めています。2021年のピノ・ノワール実験は、効果がマトリックスに強く依存することも示しました。β-イオノンと同じカロテノイド分解の一族。96社、持続216時間、ppmで量る原料です。
バラの三点セット(ゲラニオール、シトロネロール、PEA)はバラの身体を組み上げます。本稿は別の役者の話です。ppm単位で量るほど微量なのに、花全体を生き返らせる類いの分子。
先に要点
- β-ダマセノンはローズケトン一族の看板で、文献はあらゆる匂い物質の中で最も低いオルソネーザル・レトロネーザル検出閾値のひとつを持つと記しています。高強度、持続216時間。処方の用量はppmで考えること。
- β-イオノンの親戚です。どちらもカロテノイドから切り出されたC₁₃分子。植物が色素を解体し、その破片が香りになります。
- ただし「閾値が最低」は「寄与が最大」を意味しません。同じ総説は多くの製品での感覚的寄与がなお不明瞭だと認め、ピノ・ノワールの実験も効果がマトリックス次第だと示しました。低閾値は入場券であって、主役の座ではありません。
基本記録
| CAS | 23696-85-7 |
| 分子式 | C₁₃H₁₈O |
| 分子量 | 190.28 |
| 香調 | ナチュラル、甘い、フルーティ、ローズ、プラム、グレープ、ラズベリー、糖、ウッディ、アーシー、グリーン |
| 香調分類 | floral |
| 強さ | 高(10%以下での評価を推奨) |
| 持続性 | 216時間(原液、ムエット上) |
| 比重 | 0.946–0.952(25 °C) |
| 引火点 | > 100 °C |
| 推奨保存 | 24か月以上(冷暗所、密封) |
| 収載名簿 | GRAS、JECFA、CoE、FEMA GRAS、IFRA |
香気語の並びを見てください。ローズ、プラム、グレープ、ラズベリー、糖、ウッディ、アーシー。1つの分子で食卓一式です。微量の大物は、だいたいこういう顔をしています。名前の「ダマセ」はダマスクローズ(Rosa damascena)から。この一族はバラの研究の中で最初に命名されました。
閾値は最低。それで?
2011年、Sefton らが Journal of Agricultural and Food Chemistry 誌に書いた長編総説は、この分子の両面を語っています。まず名声の出どころ:
ダマセノンは植物由来の匂い物質の中でも、加工食品と飲料に広く存在することで際立っており、Vitis vinifera から造られるワインでとりわけ一般的である。あらゆる匂い物質の中で最も低いオルソネーザル・レトロネーザル検出閾値のひとつを持つ。
そして誠実なもう半分:それにもかかわらず、多くの製品における実際の感覚的寄与はなお不明瞭である。 総説は出自も整理しています。植物のアポカロテノイドの酸触媒分解がダマセノンを生成し、これは一部の製品での由来を説明するがすべてではない。ワイン中では二酸化硫黄によって分解もされる。
「閾値が桁外れに低いから、すべてを支配している」はこの分子の最もよくある語られ方ですが、一次文献はそうは言っていません。閾値が低いとは、ごく微量でも検出できるという意味です。複雑な処方の中でどれだけ寄与するかは、実験しないと分からない別の問いです。
マトリックスが決める
2021年、Tomasino と Bolman はまさにその実験をしました。3種類のピノ・ノワールのワインマトリックスにβ-イオノンとβ-ダマセノンを濃度を変えて加え、三角試験で識別できるかを見たのです:
結果は、β-イオノンがピノ・ノワールの香りへの有意な寄与者であることを示した。評価者は低濃度・高濃度の両方を対照と識別できた。β-イオノンがどう香りに影響するかはワインマトリックスに依存し、モデルワインごとに変化する香気記述語が異なった(フローラル、赤いベリー、黒いベリー)。β-ダマセノンのピノ・ノワールの香りへの効果はより不明瞭で、その知覚はワインマトリックスの組成に強く影響されるようだった。
同じ舞台に立たせたら、閾値の伝説がより大きいダマセノンのほうが、効果はより不明瞭でした。調香への実用的な教訓はこうです:微量原料の効果は自分の処方の中で検証するもので、閾値表からは推せない。ppm級を加えて作品が良くなったかどうかは、鼻が決めます。データシートには決められません。
嗅ぐときは
- 高強度。データベースの推奨は10%以下での評価で、実務では私はまず1%を作り、そこから下げます。原液のムエットは濃縮ジャムにタバコを足した奇妙な何かで、薄めてはじめてローズとプラムになります。
- ローズのアコードでは仕上げの一筆です。三点セットで骨格を組んでから0.1%未満を足すと、花が急に果汁を持ちます。入れすぎると処方全体が砂糖漬けに。
- β-イオノンと一度並べて嗅ぐこと。同じカロテノイドの破片が、片やスミレへ、片やローズジャムへ歩いていきます。
- 216時間。微量でも最後まで残ります。処方を直すとき、まだ部屋にいることを忘れずに。
カタログ上の一族
| 品目 | 何であるか |
|---|---|
| beta-damascenone(96社) | 看板:ローズジャム、プラム、タバコの影 |
| delta-damascone(42社) | δ版。リンゴ寄りのフルーティで、より軽快 |
| (E)-beta-damascone(41社) | トランスβ-ダマスコン。ローズティー寄り |
| (E)-alpha-damascone(39社) | トランスα版。バラとリンゴの皮 |
| alpha-damascone(14社) | α異性体 |
| plum damascone (high alpha)(8社) | 商品名の混合物。プルーンへ寄る |
ダマスコンとダマセノンは二重結合ひとつの違いで、名前も値段も別物です。注文前に語尾をよく読むこと。この一族はヘキセノール一族より視力を試してきます。
法規
GRAS、JECFA、CoE、FEMA GRAS、IFRAに収載。これらの名簿は使用上限を示しません。ローズケトン一族にはIFRAの個別基準を持つメンバーがいます。肌用処方は現行IFRAスタンダードの該当品目と供給業者規格書を。
買うときは
- 最小包装を買うこと。ppm級の用量なら1 mLでも長く遊べます。まず1%希釈液を作り、そこからさらに薄めること。
- CAS 23696-85-7 と語尾の -enone を確認し、ひとつ安い段のダマスコン一族と取り違えないこと(ダマスコンが欲しいなら別ですが)。
- 最初の練習:バラ三点セットを1版、これを0.05%足した版をもう1版作って、ブラインドで比較。微量原料の検証の、いちばん安上がりな一課です。
→ データベースのβ-ダマセノン:全物性、供給業者一覧、推奨の組み合わせ。 → delta-damascone|(E)-beta-damascone|香調で検索:「ローズ プラム」で隣人を探せます。
参考文献
M. A. Sefton, G. K. Skouroumounis, G. M. Elsey & D. K. Taylor, Occurrence, sensory impact, formation, and fate of damascenone in grapes, wines, and other foods and beverages, Journal of Agricultural and Food Chemistry, 59(18), 9717–9746 (2011). PMID 21866982
E. Tomasino & S. Bolman, The Potential Effect of β-Ionone and β-Damascenone on Sensory Perception of Pinot Noir Wine Aroma, Molecules, 26(5), 1288 (2021). PMID 33673491