原料図鑑 · 158
原料図鑑:ロンギフォレン —— 純化合物なのに、5つの欄が同時に使えない
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CAS 475-20-7、サプライヤー16社、C15H24。単一化合物なので屈折率も比重も旋光度も定数に少しの余裕を足したものであるはずだ。実際には屈折率が1.42000から1.60000で、幅は全庫中央値の30倍。比重は0.93000から1.11000、旋光度は+14から+54の40度幅。3つとも丸い端点である。融点欄は156.20 °Cだが、外観欄はこれを液体だと言い、しかもその温度は36 mmHgでの沸点150から151 °Cより高い。純度欄は95.00から100.00で、これは全庫の既定テンプレート値だ。そして自身の構造異性体である (−)-isolongifolene はサプライヤー11社しかないのに規格は30倍きつい。954件の処方コーパスでの出現は0回。しかし本物の材料ではある。テレピン油由来のセスキテルペンで、2019年にRIFMが安全評価を出し、2025年にはその生合成経路を真菌に組み込んで蚊を誘引・殺傷する研究が出ている。
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要点だけ
- 名称:longifolene、CAS 475-20-7、C15H24、分子量204.36、サプライヤー16社
- 香調型 woody。香調は甘い、ウッディ、ローズ、メディシナル、モミの針葉
- 強度は中(ランク2)、残香24時間、蒸気圧0.031 mmHg
- 単一化合物でありながら、5つの欄が同時に使えない
- 954件の処方コーパスでの出現は 0回
- しかし本物の材料である。テレピン油由来のセスキテルペンで、2019年にRIFMが安全評価を出している
5つの欄
全庫の規格範囲の幅を走査したばかりだが、 この材料はそこで出てきた最も極端な1件だ。順に見る。
| 欄 | 登録値 | 問題 |
|---|---|---|
| 屈折率 | 1.42000 to 1.60000 |
幅0.18。全庫中央値は0.0060で30倍、しかも両端が丸い |
| 比重 | 0.93000 to 1.11000 |
幅0.18。中央値は0.0080、両端も丸い |
| 旋光度 | +14.00 to +54.00 |
幅40度。中央値は10度 |
| 融点 | 156.20 °C. @ 0.00 mm Hg |
これは液体だ(外観欄)。しかもこの温度は36 mmHgでの沸点より高い |
| 純度 | 95.00 to 100.00 |
全庫の既定テンプレート値 |
**純化合物の屈折率は1つの定数であるはずだ。**1.42から1.60という区間は真値を含んでいるが、 同時に有機化学の半分を含んでいる。
融点の欄が最も面白い。私がやってきた2つの検査を同時に発火させるからだ。
- 液体に50 °C以上の融点はありえない。 外観欄は「無色から黄色の澄明な油状液体」と書いている
- **融点156.2 °Cが沸点欄の150–151 °C @ 36 mmHgより高い。**156 °Cで融ける固体が150 °Cで沸騰することはない
さらに @ 0.00 mm Hg という圧力の注記自体に意味がない。融点は圧力にほとんど依存せず、0 mmHgは真空である。
自身の異性体の規格は30倍きつい
同じ分子式のセスキテルペンを並べる。
| 材料 | サプライヤー | 屈折率 | 幅 | 比重 |
|---|---|---|---|---|
| beta-caryophyllene | 61 | 1.498 – 1.504 | 0.006 | 0.899 – 0.908 |
| valencene | 44 | 1.498 – 1.510 | 0.012 | 0.910 – 0.922 |
| alpha-cedrene | 19 | 1.500 – 1.503 | 0.003 | 0.926 – 0.937 |
| alpha-humulene | 16 | 1.499 – 1.505 | 0.006 | 0.889 – 0.895 |
| (−)-isolongifolene | 11 | 1.495 – 1.501 | 0.006 | 0.926 – 0.932 |
| longifolene | 16 | 1.420 – 1.600 | 0.180 | 0.930 – 1.110 |
(−)-isolongifolene はその構造異性体で、サプライヤーは5社少ないのに規格は30倍きつい。
そして正常なセスキテルペンの屈折率はすべて 1.495から1.510 に集まっている。 longifolene の真値もほぼ確実にそこにあり、比重の下限0.930も alpha-cedrene の0.926–0.937と符合する。
使える情報は存在する。ただしそれは自身の欄ではなく、隣人の欄にある。
これは何なのか
欄を離れて見れば、由緒のある材料だ。
セスキテルペンであり、マツ属のテレピン油、とくにインド産のものに多く含まれる。
occurrence 欄には長い天然産出源のリストがある。
| 産出源 | 含量 |
|---|---|
| キャロットシード油 | 1.24% |
| ヒノキ葉油 | 0.72% |
| ヒノキ根油 | 0.64% |
| レバノンシダー油 | 0.50% |
| スターアニス、アーティチョーク、トウモロコシ根、ヒノキ、ゼラニウム…… | 記載なし |
**分布は広く、含量はどれも高くない。**名前とCASとRIFM評価を持ちながらサプライヤーが16社しかない理由がここにある。 他人の油の成分であって、他人が買う材料ではないのだ。
香調欄は甘い、ウッディ、ローズ、メディシナル、モミの針葉と書いている。 その「モミの針葉」は、シダーやヒノキに含まれることと整合している。
コーパスでの出現は0回
954件の処方で longifolene は 0回。isolongifolene も0回だ。
対照として、同じ組の beta-caryophyllene はコーパスに現れ、alpha-cedrene も現れる。
記録されているが使われていない材料である。
(前回「マイナーな記録は点検されていない」という仮説を検証して成り立たなかった。 サプライヤー数と規格幅の相関はわずか−0.055だ。だから欄がひどいのは使われていないからだとは言えない。 alpha-humulene も16社で、規格はまったく正常である。)
しかし学界はずっと使っている
- 2019年、RIFMがこの材料の完全な香料成分安全評価を出した(PMID 31542430)。 サプライヤー16社の材料が、主流材料と同等の評価を受けている
- 2025年、その生合成経路を Metarhizium 属の真菌に組み込み、 真菌自身に longifolene を生産させて蚊を誘引し殺す研究が出た(PMID 41136733、Nat Microbiol)
2本目は特筆に値する。調香の世界でほとんど使われていないこのセスキテルペンが、蚊の誘引物質だということだ。 しかもやり方は、もともと昆虫に感染する真菌に遺伝子を組み込み、餌と殺し手を同じものにするというものである。
ある材料の香水における地位と、他分野における地位は無関係だ。
この記事が示していないこと
- **longifolene の正しい屈折率も比重も調べていない。**同族の材料と不一致であること、 規格の形が測定値らしくないことを示しただけだ。
- 「真値は1.495から1.510にあるはず」は隣人から推したものであって、調べたものではない。
- **融点の欄を誤りと判定した根拠は外観欄と沸点欄だ。**外観欄自体が誤っていればこの論証は崩れる。
外観欄には
(est)が付いている。 - 0回はこの954件のコーパスでの結果であって、業界の使用率ではない。
- **RIFM評価も蚊の論文も全文は読んでいない。**引いているのはタイトルと、それらが存在することだ。
- **蚊の論文は調香とは無関係だ。**書いたのは1つのことを示すためである。 この材料は他所では真剣に研究されており、ただ処方の中にいないというだけだ。