原料図鑑 · 153
原料図鑑:Aldehyde C-16 —— アルデヒドでもなく、炭素16でもなく、イチゴにも入っていない
· 9 分
CAS 77-83-8、サプライヤー63社。データベースの正式名は strawberry glycidate 1 (aldehyde C-16 (so-called)) で、head_synonym が本当の化学名エチルメチルフェニルグリシデートだ。C12H14O3、炭素12個のエポキシエステルであって、アルデヒドではない。occurrence 欄には not found in nature と書かれており、最も有名なイチゴ香料はイチゴに入っていない。保存欄は冷蔵を求めていて、これは全庫の11.8%しかない指示だ。保存期間は12か月で、多くの材料の24か月より短い。理由はおそらくあの三員環にある。1978年と1981年にこの材料専用の毒性研究が2本あり、どちらもタイトルで strawberry aldehyde と呼んでいる。コーパスでは35件の処方に現れ、使用量の中央値は1.43%。そのうち24件が aldehyde C-14 を同時に含み、2つは69%の割合で一緒に現れる。
読了目安 5 分。
要点だけ
- 名称:データベースの正式名
strawberry glycidate 1 (aldehyde C-16 (so-called))、head_synonymが化学名の ethyl methylphenylglycidate、CAS 77-83-8 - C12H14O3、分子量206.24、サプライヤー63社
- 香調型 fruity。香調は甘い、フルーティ、ストロベリー、フローラル、ハニー、ファッティ
- 強度は中(ランク2)、残香241時間
- アルデヒドではなく、炭素16でもなく、
occurrence欄はnot found in nature - 保存は冷蔵(全庫の11.8%しかない指示)、保存期間は 12か月
- コーパスでは 35件、使用量の中央値 1.43%。うち **24件(69%)**が aldehyde C-14 を同時に含む
3つの名前、3つの主張
この材料の名称欄そのものが小さな論考になっている。
name : strawberry glycidate 1 (aldehyde C-16 (so-called))
head_synonym : ethyl methylphenylglycidate
(so-called) はデータベース自身が付けたものだ。
前回C番号の対照表を作ったが、
C-6からC-12にはこの注記がなく、C-14、C-16、C-18 にだけ付いている。その3つだけが誤りだからだ。
何が誤りか。
| 名前が示唆すること | 実際 |
|---|---|
| アルデヒドである | グリシデート(エポキシエステル)である |
| 炭素16個 | 炭素12個(C12H14O3) |
| (イチゴアルデヒドと呼ばれる) | イチゴには入っていない |
3番目がいちばん面白い。occurrence 欄は1行しかない。not found in nature。
世界で最も有名なイチゴ香料は、イチゴに存在しない。
あの三員環が保存方法を決めている
storage 欄にはこう書かれている。
冷蔵し、密閉容器で保存すること。
保存指示のある1,232の材料のうち、冷蔵を求めているのは **145件(11.8%)**だけだ。
そして shelf_life は 12か月で、多くの材料は24か月と書かれている。
理由はおそらく構造にある。グリシデートの中心にあるのは三員環のエポキシドで、 三員環は角ひずみを抱えており、化学的に不安定なことで知られる官能基だ。 酸、水、熱のどれでも開環しやすい。
どの材料が冷蔵を指示されているかは以前測ったが、 あのときは酸類に偏っていた。この材料は別の機構だ。酸化ではなく、開環である。
実務上、買ったら優先して使い切る類のものであり、調香台のライトの下に置いてはいけない。
2本の論文のタイトルが両方とも誤った名前を使っている
1978年と1981年に、英国BIBRAの同じグループがこの材料の毒性研究を2本出している。
- Mason ら、短期毒性と純度の研究(PMID 711053)
- Dunnington ら、ラットにおける長期毒性研究(PMID 7327470)
どちらのタイトルにも ethyl methylphenylglycidate (strawberry aldehyde) と書かれている。
つまりあの誤った名前は香料商のカタログにとどまらず、査読を経た毒性文献に入り込んでいる。 これはこのデータベースの問題ではなく、業界全体の慣習である。
ついでに。structure_class は III だ。Cramer分類の第3級で、3段階のうち最も注意を要する級である
(この欄に値がある2,174の材料のうち、III級は335件で15.4%)。
それでもFEMA GRAS(2444)とJECFA(1577)を取得している。
分類が高いことは使えないという意味ではなく、評価に必要な資料が多いという意味だ。
ほとんど単独では現れない
35件の処方で最もよく同席するもの。
| 材料 | 回数 | 材料 | 回数 | |
|---|---|---|---|---|
| dipg(溶剤) | 24 | linalyl acetate | 10 | |
| benzyl acetate | 15 | raspberry ketone | 10 | |
| phenethyl alcohol | 13 | ethyl acetate | 9 | |
| gamma-undecalactone | 12 | ethyl acetoacetate | 9 | |
| aldehyde c-14 | 12 | ethyl butyrate | 9 |
gamma-undecalactone と aldehyde c-14 は同じ材料の2つの表記であり
(両方を同時に使う処方がないことは前回示した)、
この2行は足すべきものだ。35件のうち24件がC-14を含み、69%になる。
言い換えれば、イチゴを作るならC-16とC-14はほぼセットである。 C-16が「イチゴキャンディ」の甘いフルーティさを、C-14(ガンマウンデカラクトン)が 桃とクリームの丸い土台を与える。そこにラズベリーケトン(10回)といくつかのエチルエステルを足せば、 赤いベリーの標準的な骨格になる。
使用量の中央値は 1.43%、四分位は0.50%から6.25%、最高30%。 この四分位範囲は広い。修飾に使われることもあれば主役になることもある材料だ。
どんな匂いか
評価欄には3件ある。
甘く、フルーティで、イチゴ様。フローラルとハニーの底韻を伴う。
フルーティ、ストロベリー、パワフル。イチゴ香料での明白な用途のほかに、 さまざまなフローラル調でも有用である。
味の欄は 50 ppm で評価されている。甘い、ベリー、ストロベリー、フルーティ、tutti frutti、フローラル。
「tutti frutti」という語がよく当たっている。食べるイチゴではなく、イチゴ味のキャンディに似ている。 イチゴに入っていないのだから、それも当然だ。
この記事が示していないこと
- **C-16という数字の由来は依然としてわからない。**前回と同じく、引用できる一次資料が見つからない。
- **エポキシドの開環は私の推論だ。**データベースは冷蔵と12か月しか書いておらず、理由は書いていない。 三員環のひずみは一般論であって、この材料の実測ではない。
- **
not found in natureは検証していない。**引いているのは欄のほうだ。 - Cramer III級の説明は分類制度の一般論であって、この材料のリスク評価ではない。 実際の使用量制限はIFRAと各国の規制を見ること。
- **69%という数字は35件の処方から出したものだ。**標本が小さく、業界慣行と受け取ってはいけない。
- **2本の毒性論文は全文を読んでいない。**引いているのはタイトルと、それらが存在することそのものだ。 私が説明したいのは命名の慣習であって、毒性の結論ではない。