原料図鑑 · 152
原料図鑑:Triplal —— 8時間のグリーンアルデヒドが、アミンをつなぐと268時間になる
· 10 分
CAS 68039-49-6、サプライヤー54社。データベースの正式名は 2,4-ivy carbaldehyde だが、調香師は triplal と書く。コーパスは3つの名前で呼んでおり、統合すると90件の処方、使用量の中央値は0.60%。強度ランク3で、10%以下での評価が推奨され、残香は8時間、蒸気圧は0.578 mmHg。典型的なトップノートのグリーンアルデヒドだ。面白いのは、データベースがこのアルデヒドの誘導体を2つ別に収めていることだ。メチルアントラニレートと縮合したシッフ塩基は268時間、エチルエステルとのものは400時間で蒸気圧0.000001。同じアルデヒドにアミンを1つつなぐと、残香が8時間から268時間になる。これがいわゆるプロフレグランスで、シッフ塩基は水のある環境でゆっくり加水分解して戻り、アルデヒドとアントラニレートの2つの匂いを放出する。保存欄には窒素下での保管と書かれ、保存期間は12か月しかない。
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要点だけ
- 名称:データベースの正式名は
2,4-ivy carbaldehyde、head_synonymはtriplal (IFF)、CAS 68039-49-6 - C9H14O、分子量138.21、サプライヤー54社
- 香調型 green。香調はグリーン、アルデヒディック、リーフ、コルテックス、タート、フローラル、ピール
- 強度は高(ランク3)。評価欄が「10%以下の溶液で嗅ぐことを推奨」と直接書いている
- 残香は 8時間、蒸気圧0.578 mmHg。トップノートである
- コーパスは3つの名前で呼び、統合すると 90件の処方、使用量の中央値 0.60%
- データベースはこのシッフ塩基を2つ収めている。268時間と 400時間
- 保管は窒素下、保存期間は12か月しかない
まず名前の話。この材料がまさにその例だから
前回、名称正規化のどの段階が効くかを測ったが、
triplal はあの表に載っていた。63回登場し、(IFF) という括弧ひとつに締め出されていた。
コーパスの3通りの表記。
| コーパスの表記 | 回数 |
|---|---|
triplal |
63 |
2,4-ivy carbaldehyde |
22 |
triplal (iff) |
5 |
**統合すると90件の処方になる。**データベースの name 欄は化学名、head_synonym 欄は triplal (IFF)。
括弧を剥げば前の2つは一致する。
(ついでに。コーパスには 3,5-ivy carbaldehyde(4回)と tricyclal(11回)もあるが、
それらは別の異性体で統合できない。cyclal c(20回)も別物である。)
かなり強いトップノートだ
| 欄 | 値 |
|---|---|
| 蒸気圧 @25 °C | 0.578 mmHg |
| 残香 | 8時間 |
| 強度ランク | 3(高) |
| 推奨評価濃度 | 10%以下 |
| 使用量の中央値(90件) | 0.60%(四分位 0.31–1.40%) |
0.60%という位置はかなり低い。私が測った全体の中央値は2.11%で、 強度ランク3の中央値は0.76%だった。同じランクの中でもさらに控えめに使われている。
odor_descriptions の記述は純品ではなく「10%のジプロピレングリコール溶液で」評価されたもので、
これが評価濃度の欄が本当にやっていることだ。
まずどれだけ薄めれば形がつかめるかを教えている。
評価者の記述にはこう書かれている。
グリーン、リーフ、フローラル、パワフル。
アミンを1つつなぐと8時間が268時間になる
この材料の本当に面白いところはここだ。データベースは同じアルデヒドの誘導体を2つ別に収めている。
| 記録 | 分子式 | 分子量 | 蒸気圧 @25 °C | 残香 | サプライヤー |
|---|---|---|---|---|---|
| #20883 triplal | C9H14O | 138.21 | 0.578 | 8 h | 54 |
| #20876 +メチルアントラニレートのシッフ塩基 | C17H21NO2 | 271.36 | (値なし) | 268 h | 9 |
| #40465 +エチルアントラニレートのシッフ塩基 | C18H25NO2 | 287.40 | 0.000001 | 400 h | 0 |
同じアルデヒドにアミンを1つつなぐと、残香が8時間から268時間になる。
化学的にはシッフ塩基だ。アルデヒドのカルボニルが一級アミンと縮合してイミンになり、水が1分子取れる。 重要なのはこの反応が可逆であることだ。水のある環境(皮膚、洗浄剤、ローション)では、 シッフ塩基がゆっくり加水分解してアルデヒドとアミンに戻り、分解しながら香りを放つ。
しかも放出されるのは2種類の匂いだ。グリーンアルデヒドと、アントラニレート (それ自体がグレープやネロリ様の香料である)。
2022年にこれを直接扱った論文が2本ある。Palágyi らは Beilstein J Org Chem で シクロデキストリン骨格のシッフ塩基プロフレグランスを合成して放出曲線を測り(PMID 36247979)、 Nicastro らは Int J Mol Sci で低分子ゲル中の匂い分子シッフ塩基の制御された加水分解を調べている(PMID 35328526)。
コーパスでも机上の話ではない。triplal の2本のほかに、こうしたものがある。
hydroxycitronellal / methyl anthranilate schiff's base(6件)schiff base (hydroxycitronellal/anthranilate)(2件)alpha-amyl cinnamaldehyde / methyl anthranilate schiff's base(1件)
ヒドロキシシトロネラールも同じ手を使っている。
ここで私自身の数字が持ちこたえない
triplal(0.578)からエチルエステルのシッフ塩基(0.000001)までは 5.76桁ある。 5.85倍で推すと、残香は8時間の2万6千倍、つまり20万時間になるはずだ。
登録値は400時間である。
これはデータが間違っているのではなく、私の関係式が持ちこたえない範囲まで外挿されたということだ。 あの5.85倍は12個のバケットで当てはめたもので、バケットの蒸気圧の中央値は約3桁しかまたいでいない。 **6桁近く外挿すれば、出てくるのは不条理な値になる。**しかも400はあの欄の天井でもあるので、 このレコードは2つの限界に同時にぶつかっている。
実務上の意味。シッフ塩基は確かにずっと長く残るが、8 → 268 → 400 の3つの数字で比を計算してはいけない。
保管:窒素下、12か月
storage 欄にはこう書かれている。
冷暗所の密閉容器で、熱と光を避けて保管。窒素下で保管すること。
「窒素下で保管」はこのデータベースでは珍しい。理由は単純で、これはアルデヒドだからだ。 アルデヒドは空気中でカルボン酸に酸化され、2,4-ivy carbaldehyde には環内二重結合もあるので、 酸化しやすい部位が2つ重なっている。
shelf_life も 12か月しかない。多くの材料は24か月と書かれている。
1本買ったなら、開封後は思っているより早く匂いが変わる。しかも変わった先は酸っぱい匂いだ。
何と一緒に現れるか
90件の処方で最もよく同席するもの。
| 材料 | 回数 | 材料 | 回数 | |
|---|---|---|---|---|
| hedione | 32 | benzyl acetate | 23 | |
| linalool | 31 | phenethyl alcohol | 23 | |
| dipg(溶剤) | 30 | citronellol | 20 | |
| dihydromyrcenol | 24 | gamma-undecalactone | 18 | |
| lilial | 24 | alpha-hexyl cinnamaldehyde | 17 |
Hedione、ジヒドロミルセノール、Lilial。これは現代のフレッシュフローラルの顔ぶれだ。 その中でこの材料が担うのは「摘みたて」のグリーンひとさじで、量は0.60%まで抑えられている。
この記事が示していないこと
- **どれの残香も実測していない。**8、268、400 はすべて欄の値であり、 400がバケットのラベルで測定値ではないことは前回書いたばかりだ。
- シッフ塩基の加水分解放出の機構は論文からの引用で、このデータベースからではない。 2022年の2本が扱っているのはシクロデキストリン骨格とゲル系であって、この2材料の直接測定ではない。
- **#40465 のサプライヤー数は0だ。**このデータベースがサプライヤー記録を持っていないという意味であって、 市場で買えないという意味ではない。同時に、欄の値が検査されにくいということでもある。
occurrence欄のnot found in natureは検証していない。notes欄はNone foundで、それはプレースホルダーだ。- **3つの名前の統合に
3,5-ivy carbaldehydeとtricyclalは含めていない。**別の異性体だからだ。cyclal cとこの材料の関係は確認していない。評価欄が言及しているが、評価者の比較対象にすぎないかもしれない。