データの読み方 · 12
ピラミッドには 28 のノート、ブランド自身は 6 つ。その香水に原料は何本入っているのか
· 12 分
初心者がノートの数を数え、これは全部本当に入っているのかと尋ねた。54 件の返信は二派に割れ、どちらも一次情報を開かなかった。ブランド自身の文言を照合し、重複を除いた 954 件の公開デモ処方を解析した。原料数の中央値は 17 本。重量順に並べると、中央値 10 本で 90% を占める。処方が長くなるほど、1% 未満の尾が長くなる。
r/DIYfragrance にノートのピラミッドが貼られ、投稿者は数え上げてから尋ねた。これは全部本当に配合されているのか、それとも何本かは宣伝文を書くために並んでいるだけなのか。
返信 54 件は二派に割れた。ノートは宣伝部の産物で処方とは関係がないという側と、現代の香水で数十本の原料は普通で、100 本を超える処方もあるという側。どちらの言い分にも根拠はある。どちらもその香水の一次ページを開いていない。
こちらで開いた。
先に結論
- 対象は Carthusia の Fiori di Capri(1948 年)。ブランド公式の文言が挙げるノートは 6 つ。Fragrantica のピラミッドは 28 を並べる。
- ブランドが筆頭に置くスズランは、その 28 の中にない。ブランドの書く oak(オーク)は、ピラミッドでは oakmoss(オークモス)に変わっている。樹皮に生える地衣類であって、木ではない。
- 公開デモ処方を 399 ページ取得し、重複を除いて 954 件を得た。1 処方あたりの原料数の中央値は 17 本。重量順に並べ替えると、中央値 10 本で 90% を占める。
読了の目安は 9 分ほど。
その香水を照合した
Fragrantica のページでは、ピラミッドのすぐ下に、どのノートを並べるかを会員の投票で決めるためのボタンが置かれている。その事実はページ上に書かれている。そこまでスクロールする人がいないだけだ。
ボタンの原文ラベルは Vote for ingredients。
同じページの少し上には、ブランド自身の一文が引かれている。スズランと野生カーネーションの花の精緻さに、アンバー、サンダルウッド、イランイラン、オークが重なる。Carthusia 公式の商品ページも同じ文を載せている。数えると 6 つ。
ピラミッドはトップ 10、ミドル 11、ベース 7 で合計 28。
一致するのは 4 つ。カーネーション、アンバー、サンダルウッド、イランイラン。一致しないのが 2 つ。スズランは丸ごと消えている。そしてオークはオークモスになった。オークモスは Evernia prunastri、湿った濃緑と土の匂いを持つ地衣類で、オークとは別物である。
議論の中でブランドの文言を貼った人は「ブランドは 5 つしか挙げていない」と書いた。1 つ数え落としている。この一語のずれこそ、一次ページを自分で開く理由になる。
原料 1 本が複数のノートに読まれる
ノート表と処方は別の文書で、しかも両方向でずれる。
下向きのずれ。原料 1 本が複数のノートを担える。天然精油はそれ自体が数百の分子の混合物で、ベルガモット油が 1 本あれば「ベルガモット」と「シトラス」の両方が文面に立つ。合成品も同じで、同一の材料が 10 分後と 4 時間後では別のノートとして記録されうる。
上向きのずれ。1 つのノートを立てるのに複数の原料が要ることが多い。スズランは蒸留できない。市場のミュゲはすべて組み上げたものだ。だからブランドがスズランを筆頭に置き、投票者がそれを選ばなかったという二つは同時に成り立つ。処方にはミュゲの構造があり、嗅いだ人はそれを別のものとして読んだ。
議論の中の一つの返信が最も簡潔だった。ノートは嗅ぎ取れるかもしれないもの、原料は調香師がそれを起こすために使ったもの。
公開処方 954 件の実際の姿
ノートの側に基準はない。処方の側には数えられる数字がある。
本サイトのデータベースは公開デモ処方へのリンクを 1,642 件持つ。400 ページを抽出して取得し、4,801 件の処方ブロックを解析した。
この 4,801 は偽の数字で、最初に一度間違えた。 同一の処方は、それが含む各原料のページすべてに現れる。つまり同じ文書を何度も数えていた。重複率は 79.4%。重複を除いて 991 件、原料 5 本未満を落として 954 件が残った。
| 954 件の処方 | 中央値 |
|---|---|
| 1 処方あたりの原料数 | 17 本 |
| 最大の 1 本が占める重量 | 25.0% |
| 上位 3 本の合計 | 55.0% |
| 上位 6 本の合計 | 77.5% |
| 重量の 90% に達するまでの本数 | 10 本 |
| 1% 未満で配合された原料の割合 | 15.1% |
第 10 百分位は 8 本、第 90 百分位は 30 本、最長の処方は 57 本。「数十本は普通」という主張はデータに耐える。この集合では 14% の処方が 28 本以上を使っている。
処方が長いほど尾も長い
長さで分けると形が見えてくる。
| 原料数 | 処方数 | 上位 6 本の割合 | 90% までの本数 | 1% 未満の割合 |
|---|---|---|---|---|
| 5–9 | 143 | 97.8% | 5 | 0.0% |
| 10–14 | 229 | 86.0% | 7 | 7.7% |
| 15–19 | 224 | 75.0% | 10 | 11.8% |
| 20–29 | 253 | 69.3% | 12 | 28.0% |
| 30–60 | 105 | 60.3% | 17 | 44.4% |
5 つの帯すべてで単調に動く。処方が長くなるほど上位 6 本の受け持ちは減り(97.8% から 60.3%)、1% 未満の尾は伸びる(0% から 44.4%)。
注目したいのは第 4 列の絶対数だ。原料が約 7 本から約 45 本に増えても、重量の 90% を担う本数は 5 本から 17 本にしか動かない。足された分の多くは、重量としては足されていない。
微量のものは働いているのか
働いている。働くことと、こちらが数え上げられることは別の問いになる。
議論の中の経験者の返信は具体的だった。シクラメンアルデヒドは通常 1% 未満、スミレ葉はほぼ確実に 1% 未満、パイナップル感を出すエステル類は 0.1% から効く。これは強度についての話で、重要度についての話ではない。
本サイトのデータベースには、供給元があり匂いの強度記録も持つ原料が 2,251 件ある。そのうち 248 件(11%)は「1% 以下の溶液で評価すること」と明記し、53 件は 0.1% 以下と書く。カラメルフラネオールの類は 0.01% と書く。この種の材料を 0.05% で入れると、重量表の上では誤差に見え、グラスの中では主役になる。
逆向きにも見ておく。954 件の処方で最小の 1 本が占める割合の中央値は 0.50% であって、0.001% ではない。装飾としか呼べない配合量は、この集合では多くない。
食品の研究にも同じ形がある
Dunkel らが 2014 年に Angewandte Chemie に発表したメタ分析は、220 を超える食品試料を扱う。各食品の匂いの特徴を決めているのは およそ 3 本から 40 本の鍵となる匂い物質であり、それらは 約 230 本のプールから引かれている。背景にある既知の食品揮発性成分は 約 10,000 本。著者はこのプールが約 400 個のヒト嗅覚受容体と共進化したと論じている。
1 万本の揮発性成分、230 本のプール、個々の食品では 3 本から 40 本。長い一覧と、実際に働く短い部分集合という形は、香水産業に固有のものではない。イチゴでも同じことが起きている。
処方の側も符合する。Cai らが 2024 年に Heliyon で自動処方生成を組んだとき、実務処方 210 件から組成情報を抽出し、参照ライブラリを 常用原料 344 本で構築した。数百本の常用盤に対して、カタログは 42,000 本ある。
初心者はノート表をどう使うか
三つある。
ピラミッドは地図として読み、成分表として読まない。 その瓶が何として嗅がれたいのかは分かる。何本の原料が入っているかは分からない。それを知りたければデモ処方を探すとよい。あちらにはグラム数がある。
数字が食い違ったら、ブランド自身の一文まで戻る。 6 対 28 という差は、誰かが嘘をついた証拠ではない。二つの一覧が別々の問いに答えている。片方は売りたい像であり、もう片方は大勢が嗅ぎ取ったと報告したものだ。
自分で処方するときは、6 本で 8 割を持たせる。 この集合の中央値の処方がその形になっている。まず骨格を立てる。微量の材料は縁を整えるためのもので、骨格には向かない。
この記事が立証していないこと
この処方ブロックの 74% は特許や出典の行を伴っている。 特許の実施例は市販処方ではない。簡略化されていることも、範囲を広く取るために実際より広く書かれていることもある。ここでの数字は「公開デモ処方がどんな形をしているか」の話で、店頭の瓶にそのまま押し広げられない。
原料行の 13.2% は予備希釈品で、「pomarose 10%」のように名称に百分率が入る。実際の有効成分は帳面より少ないので、「1% 未満」の比率は過小評価になる。
処方の 49% は DIPG や DPG などの希釈剤行を含む。 希釈剤行を除いて計算し直すと、上位 6 本の中央値は 77.5% から 78.0% に動く。結論は変わらない。
ノートと原料は一対一に対応しないので、この記事は「28 のノートの背後に原料が何本あるか」に答えていない。 それには Fiori di Capri の実際の処方が要り、それは公開されていない。ここで示せるのは、28 のうち少なくとも一部は投票で入ったものであり、ブランド自身の筆頭ノートはその一覧に入りさえしなかった、ということだ。
参考文献
A. Dunkel ほか, Nature's chemical signatures in human olfaction: a foodborne perspective for future biotechnology, Angewandte Chemie International Edition, 53(28), 7124–7143 (2014). PMID 24939725. doi:10.1002/anie.201309508
J. Cai ほか, A rapid approach based on empirical formulas and graph traversal algorithms to automatic generation of fragrance formulas, Heliyon, 10(24), e40873 (2024). PMID 39720048. doi:10.1016/j.heliyon.2024.e40873
Carthusia 公式商品ページ Fiori di Capri Eau de Parfum、2026-08-27 確認。
Fragrantica、Fiori di Capri by Carthusia、2026-08-27 確認。ピラミッドはトップ 10/ミドル 11/ベース 7。