はじめての調香 · 73
同じ CAS の下にある記録の3分の1は、別の香調タイプに分類されている
· 7 分
CAS 番号は「これは同じものだ」の保証として使われることが多い。天然材料ではそうならない。データベースで香調タイプを持つ記録は4,536個の CAS に分布し、そのうち357個の CAS には複数の記録がある。その357組のうち127組(35.6%)で、記録が別の香調タイプに分類されている。しかもランダムではない。ラベンダーは CAS 8000-28-0 を共有し、油は floral、アブソリュートとコンクリートは herbal。レモンは 8008-56-8 を共有し、17件のうち citrus でないのは「蒸留レモン油」の floral だけ。ラブダナムとシスタスは 8016-26-0 を共有し、ラブダナム・アブソリュートは amber、シスタス枝葉アブソリュートは woody。同じ植物、違う抽出法、1つの番号だ。
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フォーラムで2人が同じ材料の話をしているかを確かめるとき、いちばんよく出る助言は**「CAS 番号を突き合わせろ」**だ。
単一分子ならよく効く。天然材料では外れる。そして外れる割合は測れる。
まず測る
CAS も香調タイプ(odor_type)も持つ記録を全部引くと、4,536個の CAS に分布している。
そのうち同じ CAS に複数の記録があるのは357組。
その357組のうち、記録の香調タイプが互いに食い違っているのは127組——35.6%。
3分の1を超える。
食い違いはどう見えるか
サプライヤー総数で並べた上位から。
ラベンダー(CAS 8000-28-0、合計273社)
| 記録 | 香調タイプ | サプライヤー |
|---|---|---|
| ラベンダー油 | floral | 99 |
| ラベンダー油 フランス | floral | 55 |
| ラベンダー油 ブルガリア | floral | 50 |
| ラベンダー・アブソリュート フランス | herbal | 39 |
| ラベンダー・コンクリート | herbal | 10 |
油はフローラル型、アブソリュートとコンクリートはハーバル型だ。
レモン(CAS 8008-56-8、合計311社)
17件のうち16件は citrus で、例外は1件だけ。
| 記録 | 香調タイプ | サプライヤー |
|---|---|---|
| レモン油 | citrus | 74 |
| レモン油 蒸留 | floral | 24 |
| レモン油 イタリア | citrus | 47 |
「蒸留レモン油」がフローラル型に分類されていて、しかも24社ある。
ラブダナム/シスタス(CAS 8016-26-0、合計217社)
| 記録 | 香調タイプ | サプライヤー |
|---|---|---|
| ラブダナム・アブソリュート | amber | 58 |
| シスタス枝葉アブソリュート | woody | 51 |
| シスタス枝葉油 | woody | 49 |
| ラブダナム油 | amber | 18 |
| シスタス葉油 | balsamic | 3 |
1つの CAS の下に amber、woody、balsamic の3つの香調タイプがあり、しかも名前の植物名が2つある(ラブダナムとシスタスは同じ Cistus ladaniferus だ)。
同じ模様の他の組。
- ゼラニウム(8000-46-2):油は floral、アブソリュートは green、コンクリートは herbal
- バジル(8015-73-4):anisic と licorice が混ざり、アブソリュートは herbal
- オリス(8002-73-1):コンクリートとアブソリュートは floral、CO2 抽出は waxy、チンキは woody
- イランイラン/カナンガ(68606-83-7):花の油はすべて floral、カナンガ葉油は spicy
なぜこうなるのか
天然材料の CAS は「植物」に与えられていて、「製品」に与えられているのではない。
CAS 8000-28-0 の定義は「ラベンダー油、Lavandula angustifolia」といった記述で、この植物の抽出物を包括する。だが水蒸気蒸留した油、溶剤抽出したコンクリート、そこから洗い出したアブソリュートは、成分比がかなり違いうる。どの分子が入ってくるかを抽出法が決めるからだ。
- 水蒸気蒸留が運ぶのは揮発性の高いもの
- 溶剤抽出はワックスも色素も高沸点のものも一緒に運ぶ
- CO2 抽出はまた別の線だ
だから「同じ植物」は本当で、「同じもの」は本当ではない。
(1つの CAS の下に別の商品が並ぶ具体例は〈イランイラン油:4つの違う商品が1つの CAS を共有する〉で書いた。この記事はそれを全庫で測ったものだ。天然材料そのもののロット差は〈天然原料はどれだけばらつくか〉。)
これが実務にどう効くか
**1.CAS だけでは同じ材料の話をしているか確認できない。**抽出法も聞く——油、アブソリュート、コンクリート、チンキ、CO2。
**2.香調タイプで検索すると漏れる。**herbal で検索するとラベンダー油が漏れ、floral で検索するとラベンダー・アブソリュートが漏れる。同じ植物なのに。citrus で検索すると、24社ある蒸留レモン油が漏れる。
**3.抽出法を替えることは材料を替えることだ。**CAS が同じでも。ラベンダー油をラベンダー・アブソリュートに替えるのは「仕入先を替える」ではない。データベース自身が別の香調タイプに分けている。
**4.香調タイプ欄は編集者の判断だ。**35.6% の食い違いのうち、どれだけが実際の匂いの差で、どれだけが別々の時期の編集が別のラベルを付けた結果なのか、私には分けられない。どちらもありうるし、そのこと自体がこの欄の使える範囲を限っている。
実際にどうするか
- 材料を伝えるときは抽出法も一緒に伝える。「ラベンダー・アブソリュート(フランス)」のほうが「ラベンダー油 CAS 8000-28-0」よりずっと役に立つ。
- **検索で1つの香調タイプに頼らない。**同じ植物の製品が2つ3つの型に散っていることがある。
- **抽出法を替えたら評価し直す。**新しい材料として扱う。
- **合成の単一分子はこの問題を受けない。**1分子1 CAS なら、CAS の突き合わせは有効だ。
この記事が立証していないこと
- **これは欄の整合性の監査であって匂いの測定ではない。**測ったのはデータベースがどう分類しているかで、どれだけ匂いが違うかではない。
- **「35.6%」の分母は「同じ CAS に複数記録があり、いずれも香調タイプを持つ」357組だ。**香調タイプの無い記録は除外しており、条件を変えれば数は変わる。
- **食い違いは誤りを意味しない。**油とアブソリュートは実際に違う匂いでありうるし、その場合は別の香調タイプが正しい。
- **どの食い違いが実差で、どれが編集の不統一かは分けていない。**これがこの記事の最大の限界だ。
- どの組についても成分分析は調べていない。「抽出法がどの分子を通すかを決める」は一般的な化学の常識であって、これらの組についての私の測定ではない。
- 天然物に対する CAS の定義そのものが緩く、登録や使用の慣行も各社で違う。CAS の公式定義に1件ずつ当たってはいない。