原料図鑑 · 30
原料図鑑:α-イロン — 根の中で何年も待って生まれる香り
· 8 分
CAS 79-69-6、オリスルート(ニオイイリス根茎)のスミレとおしろいの香りの主役。香りは収穫時にはまだありません:イロンは貯蔵中にトリテルペノイドのイリダールが酸化分解されて少しずつ生成し、研究は6か月から9年貯蔵した根茎を監視してきました。ウクライナ産オリス精油の分析では脂肪酸が大半を占め、α-イロンはわずか2.85%。それでもイロン含量が商業品質の判定基準です。29社、持続104時間。
たいていの原料の生産サイクルは月単位です。これは年単位:イリスの根茎を掘り、乾かし、あとは置いておく。ゆっくりした化学反応が香りを育てるのを待つのです。業界では伝統的におよそ3年寝かせると言われます(業界の通り相場)。文献が監視した範囲はもっと広く、6か月から9年まで待つ人がいます。
先に要点
- α-イロンはオリスルートのスミレとおしろいの香りの主役。香りは収穫時にはまだ揃っておらず、貯蔵中に前駆体がゆっくり酸化して生まれます。香水業でいちばん遅い原料のひとつ。
- 香りはβ-イオノンのおしろい系の従兄弟のようで、骨格も似ています。しかし出自はまったく別:イオノンはカロテノイドの開裂から、イロンはトリテルペノイドのイリダールの酸化分解から。似ていることは、同源を意味しません。
- 天然のオリスバターは脂肪酸が大半で、α-イロンは一桁%。それでもイロン含量が商業品質の判定基準です。合成単体がこの香調を身近にしました。29社で買えます。
基本記録
| CAS | 79-69-6 |
| 分子式 | C₁₄H₂₂O |
| 分子量 | 206.33 |
| 香調 | オリス、フローラル、ベリー、スミレ、ウッディ、パウダリー、甘い、ラズベリー |
| 香調分類 | floral |
| 強さ | 中(10%以下での評価を推奨) |
| 持続性 | 104時間(原液、ムエット上) |
| 比重 | 0.932–0.939(25 °C) |
| 引火点 | > 100 °C |
| 収載名簿 | GRAS、JECFA、CoE、FEMA GRAS、IFRA |
香気語をβ-イオノンの回と見比べると面白い:スミレ、ベリー、パウダリー、ウッディはほぼ共通で、イロンには「オリス」自身と、より重い化粧おしろいの気配が加わります。104時間は112時間の従兄弟と肩を並べるミドル〜ベースです。
待って育てる香り
2010年、Roger らは Phytochemical Analysis 誌でイロンの定量法を開発し、摘要の冒頭でこの原料の出自を語っています:
イリス根茎精油の香気はイロンに由来し、イロンは根茎の貯蔵中にイリダールの酸化分解によって生成する。(中略)両手法により6か月から9年間貯蔵された根茎中のイロン濃度を監視し、品質管理への有用性を示した。
イリダールはイリス属に特有のトリテルペノイド前駆体です。掘りたての根茎は土と草の匂いで、価値あるスミレのおしろい香はまだ形になっていません。酸素が何年もかけてイリダールをイロンへ解体していく。倉庫の時間が、処方の一部なのです。伝統的なオリスバターが高価な理由もここにあります。買っているのは根に加えて、何年分もの保管と待機。価格には時間のコストが入っている。これは業界の常識です。
オリス「バター」の正体
天然のオリス原料は orris butter(オリスバター)と呼ばれ、質感は本当にバターのようです。2018年、Mykhailenko はウクライナ産 Iris pallida の根茎精油を分析し、数字がその質感を説明しました:
根茎精油の主要成分はミリスチン酸(56%)、ラウリン酸(15.42%)、カプリン酸(14.50%)、**α-イロン(2.85%)**だった。(中略)α-イロンとγ-イロンの含量は、イリス精油の商業品質の最も重要な判定基準とされている。(中略)β-ダマセノンとスクアレンをイリス属植物で初めて同定した。
「精油」の半分以上が脂肪酸なら、室温では脂の塊になります。そして実際に値段を決めるイロンは一桁%。ガルバナムの回の授業が、ここではお金で復習されます。主成分は質感を、微量成分は身代を決める。名簿にはまたβ-ダマセノン。この旧友のカメオ出演リストは伸びる一方です。
似ていても同源とは限らない
α-イロン、イオノン、methyl iononeは名前と香りが重なりますが、化学的同一性と由来を字面から決められません。命名の罠は「香料名が人を迷わせる理由」へ移し、本稿にはオリス熟成の長い時間を主題として残します。
嗅ぐときは
- 中程度の強さで、10%評価で十分。単体はおしろいをはたいたスミレで、β-イオノンより柔らかく、ヘリオトロピンより冷たい。
- おしろいの三角形:α-イロンにβ-イオノンとヘリオトロピン。パウダリーの三つの温度が一度に揃います。
- オリス調の骨格はこれにβ-イオノンと少しのウッド。天然オリスバターは方向を単体で確かめてからのアップグレードで。
- 104時間のミドル〜ベース。処方を直すとき、まだムエットにいます。
カタログ上の一族
| 品目 | 何であるか |
|---|---|
| orris rhizome concrete butter, Iris pallida(40社) | 天然オリスバター:脂肪酸のバターの中にイロンが眠る |
| orris rhizome concrete butter, Iris germanica(39社) | もうひとつの主要種のバター |
| orris rhizome absolute, Iris pallida(30社) | アブソリュート:脂を減らし、香りを濃縮 |
| alpha-irone(29社) | 本体:合成単体。オリスへの手頃な入口 |
| orris hexanone(25社) | 商品名のオリス方向合成品 |
| orris absolute replacer(18社) | 代替ベース |
法規
GRAS、JECFA、CoE、FEMA GRAS、IFRAに収載。これらの名簿は使用上限を示しません。天然オリス製品はロットの種(pallida/germanica)と産地表示にも注意を。肌用処方は現行IFRAスタンダードと供給業者規格書を。
買うときは
- まず合成α-イロンから。小瓶1本でオリスの方向がつかめます。
- 天然オリスバターは予算が揃ってからのアップグレード。規格書のイロン含量の行こそ、あなたが支払う理由です。
- β-イオノンと一度並べて嗅ぐこと。「似ていることは同源を意味しない」は、鼻で学ぶのがいちばん速い。
→ データベースのα-イロン:全物性、供給業者一覧、推奨の組み合わせ。 → オリスバター(pallida)|オリスアブソリュート|香調で検索:「オリス パウダリー」で隣人を探せます。
参考文献
B. Roger, X. Fernandez, V. Jeannot & J. Chahboun, An alternative method for irones quantification in iris rhizomes using headspace solid-phase microextraction, Phytochemical Analysis, 21(5), 483–488 (2010). PMID 20931625
O. Mykhailenko, Composition of Volatile Oil of Iris pallida Lam. from Ukraine, Turkish Journal of Pharmaceutical Sciences, 15(1), 85–90 (2018). PMID 32454644