原料図鑑 · 100
原料図鑑:isoambrettolide —— 供給元が二番目に多い大環状ラクトンで、備考欄はアルコール臭を抑えられると書いている
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CAS 28645-51-4、供給元 43 社で、データベースのムスク型材料では五番目に多い。同義語先頭は hexadec-9-en-1,16 lactone で、名前がそのままラクトンだと言っており、分子式 C16H28O2 とも符合する。強度ランク 3 が多いムスクの中で、この材料は強度欄が「中」、ランク 2、10% 以下での評価を推奨、残香 248 時間になっている。天然での存在の欄は「自然界では見つかっていない」で、名前がアンブレットシードを指しているにもかかわらずそうなっている。そして備考欄に、この庫では珍しい一文がある。アルコール臭を抑えるのに使える、と。
**要点:**名前が嘘をついていない数少ない -olide になる。同義語先頭がそのまま lactone と書いていて、分子式も符合する。注目すべきは強度欄で、ムスクとしては珍しい「中」になっている。
項目
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| CAS | 28645-51-4 |
| EINECS | 249-120-7 |
| 同義語先頭 | hexadec-9-en-1,16 lactone |
| 分子式 | C16H28O2、分子量 252.398 |
| データベース分類 | フレーバー・フレグランス成分 |
| 外観 | 無色から淡黄色の澄明な液体(推定) |
| 純度 | 95.00 〜 100.00 |
| 沸点 | 307〜308 °C @ 760 mmHg;185〜190 °C @ 16 mmHg |
| 引火点 | > 100 °C |
| logP | 5.50(推定) |
| 比重 | 0.949〜0.957 @ 20 °C |
| 水溶解度 | 0.5925 mg/L @ 25 °C(推定) |
| 香調タイプ | ムスク |
| 香調 | 甘い、ムスク、アンブレット、フルーティ、ワキシー、ファッティ |
| 強度 | 中。10% 以下での評価を推奨(ランク 2) |
| 残香 | 248 時間(100% 原液) |
| 保存期間 | 24 か月 |
| 天然での存在 | 自然界では見つかっていない |
| 供給元 | 43 社 |
| 規制 | JECFA 1991、FEMA 4145、FLAVIS 10.063 |
| 構造クラス | I |
| 化粧品用途 | 賦香剤 |
| 経口毒性 | ラット LD50 > 5000 mg/kg |
| 皮膚毒性 | ウサギ LD50 > 5000 mg/kg |
| GHS | H315 皮膚刺激;H319 強い眼刺激;H320 眼刺激 |
| 備考 | アルコールの前処理として、アルコール臭を抑えるのに使える。食品添加物としても使用 |
名前が嘘をついていない
-olide という接尾辞は多くの場合、化学構造を表していない。そのことは〈-olide で終わるものは何なのか〉で測った。両方向の的中率は 44% と 8% になる。
この材料は名前が合っている側に入る。
同義語先頭は hexadec-9-en-1,16 lactone。炭素 16、9 位に二重結合が一つ、1 位と 16 位のあいだでラクトン環を作る。分子式 C16H28O2 は酸素が二つ、不飽和度は 3(環一つ、C=O 一つ、C=C 一つ)で、完全に符合する。
比較すると、Galaxolide は酸素が一つ(エステルではありえない)、Helvetolide は酸素が三つ(エステルだが環状ではない)。この材料は調べる前から名前を信用できる。
強度欄が「中」
私が書いてきたムスクの多くは強度欄が「高い」でランク 3 になる。この材料は medium、ランク 2 で、10% 以下での評価を推奨している。
データベースのムスク型材料の中では少数派になる。
(弱いという意味ではない。残香 248 時間は長い方で、ただ空気中での圧の掛かり方がそこまで強くない、ということになる。この二つの違いはサリチル酸フェネチルの回で分けた。)
香りの記述欄にはメーカーの文章が引かれていて、「拡散性が並外れており、性格が非常に洗練されている」とある。拡散が良いことと強度が中であることは同時に成り立つ。
混ざりやすい二本
質問者が材料を並べたときに書いたのは ambrettolide だった。データベースには二件ある。
| CAS | 分子式 | 香調タイプ | 供給元 | |
|---|---|---|---|---|
| ambrettolide | 7779-50-2 | C16H28O2 | ソーピー | 13 社 |
| isoambrettolide | 28645-51-4 | C16H28O2 | ムスク | 43 社 |
同じ分子式、二つの CAS、二つの香調タイプ。供給元が三倍多いのはこちらになる。
フォーラムで ambrettolide の話が出るとき、どちらなのかはたいてい書かれていない。買う前に CAS を照合する。
「自然界では見つかっていない」
天然での存在の欄は not found in nature になっている。
ここは一度立ち止まる価値がある。名前がアンブレット(Abelmoschus moschatus)の種子を指していて、香調欄にも ambrette という語が入っているからだ。
名前は由来ではなく、模倣した対象から取られている。「iso」という接頭辞が、それが異性体版であることを言っている。
(これは天然原料の振れ幅とちょうど裏返しになる。合成品には産地の問題がない。天然側の数字は〈天然原料はどれだけ振れるのか〉に書いた。)
備考欄の一文
「アルコールの前処理として、アルコール臭を抑えるのに使える。」
百本近い材料を書いてきて、この文はこのレコードでしか見ていない。
指しているのは非常に具体的な実務上の問題になる。調合したばかりのアルコールベースの香水は最初の数秒がアルコール臭で、この材料はその区間を覆うために勧められている。
この用法を検証する手段は持っていない。言えるのは物性と矛盾しないことで、logP 5.50、水溶解度 0.5925 mg/L と親油性が高く、高濃度エタノールには溶け、そして自分自身が揮発しない(残香 248 時間)ので、アルコールと一緒に飛んでいかない。
どの受容体を通るか
Emter らは 2024 年に Chemical Senses で三つのヒトムスク受容体を扱った。分担の結論はこうなる。OR5A2 は多環ムスク、直鎖ムスク、そして大半の大環状ラクトンの鍵となる受容体であり、OR5AN1 は大環状ケトン(ムスコンなど)と一部のニトロムスクを主導する。
この材料は大環状ラクトンなので、OR5A2 の側に入る。
その受容体には P172L という置換があり、感度をおよそ 50 分の 1 にする。この変異のホモ接合体である被験者は、OR5A2 の選択的リガンドに対する官能的な検知閾値が 40 から 60 倍高くなる。
だからこの材料をとても薄いと感じる人がいて、その同じ人がムスコンは正常に嗅げる、ということが起こりうる。
(Shirasu らは 2014 年に Neuron で、より早くこの境界を見ている。ムスコンが活性化する糸球体は大環状ケトンに高度に特異的で、ニトロ基、多環構造、エステル結合を持つ合成ムスクは近接するが別の糸球体を活性化する。)
この記事が立証していないこと
- **私はこれを嗅いでいない。**全編がデータベースの項目と論文二本による。
- **「名前が合っている」は分子式と不飽和度が矛盾しないところまでしか検証していない。**環の確認には構造式が要り、見ていない。
- **「アルコール臭を抑える」という用法は一切検証していない。**備考欄の一文であり、物性と矛盾しないことを確認しただけになる。
- **強度欄の「中」はデータベースの判断。**その欄がどう決められたかの説明はない。
- 残香 248 時間は 100% 原液での測定で、10% 希釈で測った他のレコードとは比較できない。理由はローズオキサイドの回と同じになる。
- **二本の ambrettolide の香調タイプの違い(ソーピー対ムスク)が実際の差か記録の差かは判断できない。**評価者も年代も違いうる。
- Emter 2024 の受容体の分担は、彼らが選んだ 440 の商用香料集合の中で成り立つ。
- P172L の 40〜60 倍は「OR5A2 の選択的リガンド」に対するもので、この材料がその試験集合に入っていたかは読めていない。
- Shirasu 2014 の糸球体の実験はマウス。
- 水溶解度も logP も推定値になる。