原料図鑑 · 180
原料図鑑:レモングラス油 —— 一つの名前の下に二つの種があり、「西インドレモングラス」は西インド諸島から来ていない
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CAS 8007-02-1、サプライヤー88社。この記録の正式名欄は一つの名前ではなく二つある。cymbopogon citratus dc and cymbopogon flexuosus oil。備考欄はその理由を一段落かけて説明する。レモングラス油は明確に異なる二つのオガルカヤ属の種から作られ、一方は東インド原生の C. flexuosus、もう一方が C. citratus で、カタログ自身が後者は「いくらか紛らわしい西インドレモングラスという名前を与えられた」と書いている。西インド諸島から来たのではなく、世界中に移植されただけだ。さらに面白いことに、同じ段落の最後の TSCA 定義は二つの種のうち一方しか書いていない。2021年のエジプトの論文は同じ圃場の四季を測り、採油率は冬の0.15%から春の0.46%、GC-MS が春夏秋冬でそれぞれ61、25、50、63成分を同定した。同じ草で成分数が2.5倍違う。もう一つデータベースの細部を。CAS 5392-40-5 の下には二件あり、一件はシトラール本体(135社、残香12時間)、もう一件は脱テルペンのリツエアクベバ油(3社、残香24時間)である。
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長い話を短く
- 名称:lemongrass oil、CAS 8007-02-1、サプライヤー88社
- 正式名欄には二つの学名:
cymbopogon citratus dc and cymbopogon flexuosus oil - 香調型 citrus。香気:フレッシュ、甘い、レモン、草、グリーン、ボアドローズ、トマトの葉、フローラル、シトラス
- 残香92時間、引火点 > 91.67 °C、保存期間24か月、比重0.887〜0.899
- 法規欄は FEMA GRAS のみ
- 備考欄自身が「西インドレモングラス」をいくらか紛らわしい名前だと書いている
一つの名前、二つの種
多くの天然油の正式名欄には学名が一つ入る。この記録に入っているのはこうだ。
cymbopogon citratus dc and cymbopogon flexuosus oil
二つの種が and でつながれている。備考欄はその理由を一段落かけて説明する。
レモングラス油は、明確に異なる二つのオガルカヤ属(Cymbopogon)の種から作られる。 一方は東インドに原生し、そこで野生に育ち、現在はインド西部の比較的限られた地域で 栽培されている。この植物は Cymbopogon flexuosus で、栽培株だけが水蒸気蒸留に回される。 もう一方の Cymbopogon citratus はセイロンと東インドの一部が原産と思われるが、 現在は栽培下でしか見られない。C. flexuosus と違い、citratus は世界中に広く分布しており、 いくらか紛らわしい「西インドレモングラス」という名前を与えられている。
**「西インドレモングラス」は西インド諸島から来ていない。**東洋の草が、 カリブ海一帯へ移植されたことでその名を得た。カタログの書き手はこれを明示する必要を感じ、 「somewhat confusing」という語を使っている。
備考欄はさらに現在の産地を並べる。アフリカ、コンゴ、アンゴラ、赤道アフリカ、マダガスカル、 コモロ諸島、中央アメリカ、西インド諸島、ハイチ、ジャマイカ、南アメリカ、そしてフォルモサ、 インドシナ、インドネシア、マラヤ。植民地時代の作物地図になっている。
そして同じ段落の最後の行は TSCA の定義、cymbopogon citratus, gramineae。
二つの種があると一段落かけて説明したあと、正式な定義には一方しか書かれていない。
CAS 8007-02-1 の下にはデータベース上で三件ある。レモングラス油(88社)、 グアテマラ産(21社)、中国産(9社)。産地は分けられ、種は分けられていない。
同じ圃場、四つの季節、成分数は2.5倍違う
2021年、カイロ大学の Madi らがエジプトで栽培した C. citratus を測り、 四季それぞれに収穫した精油を比較している(PMID 31960718)。
採油率:生葉の水蒸気蒸留による収率は 0.15%から0.46%(w/w)で、 春に最も高く、冬に最も低い。三倍の開きになる。
成分数:GC-MS は春・夏・秋・冬の試料でそれぞれ 61、25、50、63成分を同定した。同じ種、同じ圃場で、 夏の試料の成分数は冬の40%しかない。
組成:すべての試料で含酸素モノテルペンが優勢で、**73.22%から89.32%**を占めた。 シトラール含量は秋と夏の試料で最も高かった。
著者はアセチルコリンエステラーゼ阻害活性も測っており、冬の油が中程度 (IC50 2.86 ± 0.17 mg/mL、対照のフィゾスチグミンは0.012 mg/mL)、 他の試料は相対的により弱かった(IC50 2.86〜5.40 mg/mL)。
買う側にとっての意味は直接的だ。**「レモングラス油」という語は種も季節も指定しておらず、 そのどちらもが組成を動かす。**そのロットの答えは COA にある。
脱テルペンのあと、カタログはそれをシトラールと見なす
データベースの CAS 5392-40-5 の下には二件の記録がある。
| 記録 | サプライヤー | 香調型 | 香気 | 残香 |
|---|---|---|---|---|
| シトラール | 135 | citrus | シャープ、レモン、甘い、フレッシュ、ジューシー | 12時間 |
| litsea cubeba oil terpeneless(脱テルペン) | 3 | citrus | 甘い、レモン、シトラス | 24時間 |
天然油からテルペン類を除いたものが、純化合物の CAS の下に置かれている。 カタログの判断は、残ったものはもうシトラールだ、ということになる。
ただし二件の残香欄は違う。12時間と24時間。同じ CAS に二つの数字がある。 同じ CAS、違う香調型で測ったのと同じパターンだ。
油は主成分よりずっと長く残る
シトラール一族の残香を並べる。
| 材料 | サプライヤー | 残香(時間) | 保存期間 |
|---|---|---|---|
| シトラール | 135 | 12 | 24か月 |
| リツエアクベバ油 | 71 | 44 | 12か月 |
| レモングラス油 | 88 | 92 | 24か月 |
| グアテマラ産レモングラス油 | 21 | 99 | (空) |
シトラール単体は12時間、それを主成分とするレモングラス油は92時間で、八倍近い差になる。
天然油の他の成分が揮発を引き止めるのは予想できる。ただし保存期間の欄のほうは跳ねる。 リツエアクベバ油は12か月しかなく、レモングラス油は24か月、シトラール本体も24か月になる。 ジンジャールート油の記事で触れたとおり シトラールは酸化すると感作性を持ち、 EU が具名表示を求める26種のアレルゲンの一つでもある。 このリスクを考えると、24か月は未開封の話であって開栓後の話ではない。
買い方と保管
サプライヤー88社、入手は容易。訊くことは他より多い。
- **種を訊く。**C. flexuosus(東インド)と C. citratus(西インド)は別の草で、 CAS は同じになる。指定するなら学名を書く。
- **収穫季を訊く。**上の論文が成分数も採油率も季節で動くと測っている。
- **シトラール含量を訊く。**処方内での役割がそこにあり、アレルゲン表示の要否も決まる。
- **保存期間24か月は未開封の話。**シトラールは酸化で感作性を持つ。 開栓したら小分けし、日付を書き、遮光冷蔵する。
- 引火点 > 91.67 °C は天然油としては高いほうで、輸送も保管も柑橘果皮油より緩い。
- 比重0.887〜0.899は受け取ってから自分で確認できる欄になる。旋光度欄はこの記録では空だ。
→ データベースのレモングラス油:物性一式、88社の供給元、推奨ブレンド。
この記事が立証していないこと
- 「西インドレモングラスは西インド諸島から来ていない」は備考欄自身の記述で、 その名称の由来を文献まで追ってはいない。
- **備考欄の産地リストには年が書かれていない。**フォルモサやベルギー領コンゴといった地名は、 かなり古い出典を指している。
- エジプトの論文は単一の産地・単一の年の季節比較であって、世界のレモングラス油の悉皆調査ではない。 成分数25から63の差は各回の分析条件にも左右されうるが、抄録はその点を分けていない。
- 脱テルペンのリツエアクベバ油がシトラールの CAS の下にある件は事実の記述にとどめ、 その分類の是非は判断していない。
- 「油は主成分より長く残る」を他成分が揮発を引き止めるためと帰しているが、それは通説であり、 これらの残香値は別々の供給元の試香紙記録であって同一の実験群ではない。